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1964.9.25 九段下 2
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「見間違えるはずがない、俺が調べて指定した場所だ。それに、念のため付近の柱も調べたんだ。どれも無傷だった。あれじゃあ、あれは『草加次郎がやった』んだと言うことができないじゃないか」
計画では、先にモノレールを爆破し、その後それを行ったのは『草加次郎』だと、世に知らしめてやるはずだった。
「後出しジャンケンじゃあそりゃあ誰も信じないだろうよ。柱が崩れていようが崩れていまいが、地震で壊れただけのものを自分が壊したって騒いでいる馬鹿が現れたと皆思うだけさ」
「なんだと。お前だってこの計画に賛同しただろう」
「俺が協力しているのは、あくまでも爆弾の用意だけだ。爆弾の性能さえ調べられれば俺は満足だ。それ以外のことなんて俺の知ったことないね。けれどあんたがへまをして、俺との関係がバレるのが一番困るんだ。もっとうまく動いてくれないと」
ミスを認めるどころか、青野はむしろ自分のことを責めてくる。正志はひどく不快な気分で酒を飲み干した。
「後からなんてちんたらしてないで、さっさと脅迫状でもなんでも送ってやればいいじゃないか。金を寄越せ、さもなくばオリンピックを爆破させるとでもよ。そうだ警察署にでも爆弾を送りつけてやればいい。そうしたらやつらさすがに慌てるぜ」
「警察だと?けれど、またもみ消されたらどうするんだ」
「そりゃあ国民の皆様に、わざわざ自分の城が爆破されただなんて口が裂けてもやつらは言わないだろうさ。けれど、草加次郎が本気だってことくらいは感じるだろう」
「けれどそれで金を用意してくれるのか?」
「してくれるさ。大事な大事なオリンピックを中止させるわけにはいかない。渋々アンタの言うとおりにしてくれるさ。なんなら警察署の次にテレビ局でも爆破したらどうだ?いよいよやつらは国民の皆様とオリンピックを守る為に金を用意せざるをえなくなる」
「そんなうまくいくものなのか?」
「いくとも。混乱と恐怖を使えば世の中は大抵うまくいくんだ。あっという間に日本中が『草加次郎』に怯えることになる。いや、その正体は草加次郎じゃあなくて、大切な孤児院を守る為に金が必要な、正義のヒーローらしいけどな」
意味ありげに青野が正志を見た。その視線に、思わず正志はたじろいだ。
「なぜそれを知っている?」
「あんた、俺のことをただの爆弾オタクだと見くびらないで欲しいね。俺みたいな頭の良い人間には、アンタみたいな薄っぺらい人間の過去を暴くことなんて朝飯前なんだよ。なあ、神崎さん」
そう返されて、正志はとんでもないやつとつるんでしまったぞと後悔を覚え始めていた。こいつはいったいどうやって俺のことを調べたのだろう。俺のどこまでを知っているのだろう。そう思ったら、酔いも覚め、背筋が冷たくなっていくのを感じた。
「けれどそんなお涙ちょうだいじゃあ、人は動かせないのがこの現実だ。確かに慈悲や同情を狙って金を恵んでもらうよりは、みんなの大切なオリンピックを脅して金をせしめたほうが効率的だ。アンタも意外と賢いじゃないか。さすがは故・神崎将軍のご子息だ」
「……やめろ、俺はそいつとは関係ない」
「関係ないならなぜ神崎の名を出した?」そう言って、青野がバクダンをひとくち口に含み、まずいその酒をさも美酒かのように味わい飲み込んだ。
「ふん、まあいい。今肝心なのはアンタの過去じゃなくて、これからどうするかだ。よし、時間もあまりない。とにかく脅さなきゃなにも始まらないんだ。一つ、脅迫状でも書こうじゃないか。そうだな、せっかくオリンピックを脅すんだ、なるたけ会場に近い警察署に送ってやろう」
とまるで蕎麦を注文するかのように気軽に青野が言い出すので、正志は面喰ってしまった。本当に食えない男だ。
計画では、先にモノレールを爆破し、その後それを行ったのは『草加次郎』だと、世に知らしめてやるはずだった。
「後出しジャンケンじゃあそりゃあ誰も信じないだろうよ。柱が崩れていようが崩れていまいが、地震で壊れただけのものを自分が壊したって騒いでいる馬鹿が現れたと皆思うだけさ」
「なんだと。お前だってこの計画に賛同しただろう」
「俺が協力しているのは、あくまでも爆弾の用意だけだ。爆弾の性能さえ調べられれば俺は満足だ。それ以外のことなんて俺の知ったことないね。けれどあんたがへまをして、俺との関係がバレるのが一番困るんだ。もっとうまく動いてくれないと」
ミスを認めるどころか、青野はむしろ自分のことを責めてくる。正志はひどく不快な気分で酒を飲み干した。
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「警察だと?けれど、またもみ消されたらどうするんだ」
「そりゃあ国民の皆様に、わざわざ自分の城が爆破されただなんて口が裂けてもやつらは言わないだろうさ。けれど、草加次郎が本気だってことくらいは感じるだろう」
「けれどそれで金を用意してくれるのか?」
「してくれるさ。大事な大事なオリンピックを中止させるわけにはいかない。渋々アンタの言うとおりにしてくれるさ。なんなら警察署の次にテレビ局でも爆破したらどうだ?いよいよやつらは国民の皆様とオリンピックを守る為に金を用意せざるをえなくなる」
「そんなうまくいくものなのか?」
「いくとも。混乱と恐怖を使えば世の中は大抵うまくいくんだ。あっという間に日本中が『草加次郎』に怯えることになる。いや、その正体は草加次郎じゃあなくて、大切な孤児院を守る為に金が必要な、正義のヒーローらしいけどな」
意味ありげに青野が正志を見た。その視線に、思わず正志はたじろいだ。
「なぜそれを知っている?」
「あんた、俺のことをただの爆弾オタクだと見くびらないで欲しいね。俺みたいな頭の良い人間には、アンタみたいな薄っぺらい人間の過去を暴くことなんて朝飯前なんだよ。なあ、神崎さん」
そう返されて、正志はとんでもないやつとつるんでしまったぞと後悔を覚え始めていた。こいつはいったいどうやって俺のことを調べたのだろう。俺のどこまでを知っているのだろう。そう思ったら、酔いも覚め、背筋が冷たくなっていくのを感じた。
「けれどそんなお涙ちょうだいじゃあ、人は動かせないのがこの現実だ。確かに慈悲や同情を狙って金を恵んでもらうよりは、みんなの大切なオリンピックを脅して金をせしめたほうが効率的だ。アンタも意外と賢いじゃないか。さすがは故・神崎将軍のご子息だ」
「……やめろ、俺はそいつとは関係ない」
「関係ないならなぜ神崎の名を出した?」そう言って、青野がバクダンをひとくち口に含み、まずいその酒をさも美酒かのように味わい飲み込んだ。
「ふん、まあいい。今肝心なのはアンタの過去じゃなくて、これからどうするかだ。よし、時間もあまりない。とにかく脅さなきゃなにも始まらないんだ。一つ、脅迫状でも書こうじゃないか。そうだな、せっかくオリンピックを脅すんだ、なるたけ会場に近い警察署に送ってやろう」
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