1964年の魔法使い

鷲野ユキ

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1964.10.1 遠野邸 1

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「菅野さんの目が醒めたようです!」
 と、息を切って部屋に駆け込んだのはメグだった。ダラダラと二度寝の余韻に浸っていた真理亜は、その声に弾かれたようにベッドから跳ね上がった。
「本当?」
「ええ。すっかり元気になられたみたい。でも、起きてすぐに『お腹が空いた』ですもの。あんなに細いのに、あんなに食べるなんて」
「ほんと、太らなくて羨ましいわ」
「本当に思います」
 どうやらメグのプロポーションは、日々の努力の賜物らしい。深く頷いてメグが続けた。
「これまでのいきさつと、これからの対策をお伝えしました。しばらくは、真理亜さんと距離を置いてくださいと」
「それで、その、菅野さんは?」
「そりゃあ残念そうにしてましたよ。愛するお嬢様としばらく会えないんですからね」
「そんな、愛するだなんて」
 思わず頬を赤らめて、真理亜は枕に顔を押し付けた。海に落ちてからというもの、真理亜はお屋敷で軟禁状態だ。とはいえ結構な広さのある敷地内を走ったり、メグに料理を教わったり、なにより単位を落とすわけにはいかないので勉強をしたりとそれなりに忙しく過ごしていたが、気になるのは菅野の安否だった。
栄養を摂って休んでいれば治るだなんて言ってたけれど、ただの過労とはわけが違うのだ。翌日になっても目を覚まさない菅野のことを心配していた真理亜は、ようやく胸を下すことが出来たのだった。
「とりあえずお嬢様が無事だったことと、新たな脅迫状が届いたこと、それで菅野さんをこれ以上巻き込まないために、お嬢様と距離を置いてほしい旨をお伝えしてあります。お嬢様が無事だって知って、本当に安心しているようでした」
「そう、それはよかったわ」
「退院しても大丈夫だろうとお医者様のお墨付きを頂いたので、ご自宅まで送ろうとしたのですが、どうにも車は嫌だからと……」
「電車で帰ったのね?」
「ええ。付き添いましょうかと申し出たのですが、大丈夫ですと返されてしまいました」
「まあ、菅野さんらしいわ」
 真理亜はベッドに腰掛けると、足をブラブラとしながら言った。「あと二週間ちょっとの辛抱よ。それまでに、私が犯人をとっちめてやるんだから」
「まったく、無茶は順次郎様と私が許しませんよ」
 二人が笑い合うと、真理亜のお腹の虫がキュウと鳴いた。
「あらやだ、菅野さんの話を聞いたら、お腹が空いちゃったわ」
「じゃあ、お昼ご飯にしましょう。今日は菅野さんの快気祝いです!腕によりをかけて、うんとご馳走を作りますね」
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