ファンタジーなんてどーでもいいっ!!

鷲野ユキ

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神とは。いやそんなことよりとにかく世界征服!勇者が邪魔だ!

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どうやら勇者たちは、この私――魔王の後を追うのを中断して、今は神を探しているらしい。

現実世界からこの世界に落とされた私は、つつがなくこの世界を掌中に収めるために魔王として地道に活動をしていた。だがしかし、現実世界からおそらく違法チートを行ったプレイヤ―=勇者と接近した際に、思わぬ出来事が発生しかけたのだ。

すなわち、バグ。

イレギュラーな出来事同士がぶつかると、予測もつかないさらなる混乱が生じることがある。
それはかつての私が従事していた職業でも同じことで、散々というほどろくでもない目に多々遭ってきた。
ましてこの世界はあくまでもデータ上の世界のはずだ。私がかつてプレイしていたゲームの世界。
そんな危うい枠組みの世界の中で、大きなバグなど発生してしまったら。

最悪はこの世界の消失だ。

いかに私が魔王とて、そんなことなど望んではいない。あくまでもこの世界のすべてを手に入れて、私の住みよい世界を作ること。そしてこの世界で、あの苦しい現実世界のことなど全く忘れて、穏やかに、平和に暮らすこと。
そんなささやかな願いが私の望みだ。だから私は永遠に勇者と出会ってはいけない。違法プログラミングされたデータと、本来ありえないはずの私のデータがぶつかってみろ。出会えば最後、この世界は終了してしまうだろう。

そんな折、愛鷹・告死天使の報告を受け、勇者が自分を目指すのを一時的にやめたと聞いた。
聞けば神に用があって探しているとのこと。今更何の用があるというのだろうか。まあなんだっていい、とにかく私と出くわすのが一番危ないのだ。
胸を撫で下ろすと同時に、神について思いを馳せる。

神。どんな設定でこの世界に君臨していたのか。
魔王についてはよく覚えている。神と人間を打ち滅ぼして、魔物の住みよい世界を作る。そんなごくありきたりの、わかりやすい設定であったはずだ。なら神は?
そこで私の思考が止まる。なるほど勇者も混乱するはず。確かにこの世界、神の存在についてあまり言及がされていない。なにせ魔王である私が気にも留めなかったほどだ。しかし王道RPGで神が出ないとはあり得るのだろうか。やれイシュタルだの、ヴァルキリーだの、そういうかっこいい海外の神々にあこがれる国民性なのではなかったか、我々は。

しかし神の役を与えられたデータは確かに存在するはずだった。なにせ勇者を生み出したのは神だ。ゲームのプロローグ、ホントに初めの方すぎて即スタートボタンでスキップされる映像の中に、チラリとその名だけが刻まれていたはず。光のエフェクトでごまかされて、イラストのついていない神の存在。実像の認識できない存在だけのデータ。

なんだ、それこそが本来の神ではないか。久しぶりに現実世界のことを思いだし、私は納得する。
本来神とはそういう概念だけの存在のはずだ。一部の宗教では偶像崇拝を禁止するほど、概念という存在に捕らわれているものだ。となれば、勇者は見つけようのないものを探しに行く羽目になったと見える。これならばしばらくの間、のんびりと世界征服を推し進められそうだ。

そう私はほくそ笑むと、告死天使に引き続き勇者らの監視を続けさせ、配下に指示を与える。
そうだな、勇者が実存しない神を探してこの大陸を去ったら、この病に侵され混乱する地を攻略してやろうか。
勇者一行の本拠地でもあるこの大陸。物語の始まりの地を奪ってやれば、チートごときではどうにもならないという現実を認識してくれるかもしれない。おとなしく一般プレイヤーになってくれさえすれば勇者など恐れるに足りない。戦いを挑まれても、力で押し返すのみ。勇者が私に勝てぬ限り、この世界は終わらない。このゲームは未クリアのまま、永遠に時を刻むことが出来る。

そうだ、永遠だ。

現実世界の肉体を持たない私は、データとして永遠に存在し続けることが出来るはずだ。
まるで神のように、現実世界では実像の認識できない存在だけのデータとして。
だがそれは生きていると言えるのだろうか。ふと私の頭の中をそんな考えがよぎる。

いや、そんなことはどうでもいいのだ。現実世界のことなどは。

とにかくこの世界に、私はしかと存在する。確かに存在している。実像もある。神のような概念などではなく、確かに存在するのだ。
虚構を支配することだって容易だろう。すなわち私が神にとって代わることも。

そうだ、この世界をすべて思うままに動かせれば、私はもはや魔王ではなく神だ。
すべてのものが、恐怖からではなく畏敬の念を持ってひれ伏す神。
そのためにもやはり、勇者の存在を消さなければいろいろと都合が悪い。だが私が直接手を下すことも出来ない。バグったら終わりだからな。
さて、どうすれば直接手を下さず、あの異様に強いチート野郎を葬ることが出来るだろうか。
私は、思案に沈むことにした。
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