ファンタジーなんてどーでもいいっ!!

鷲野ユキ

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カミサマ気づいて。現実を生きる勇者が言った

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俺は誰かに生み出された存在だというのか。

そういわれれば、まあ当たり前だがそうだろう。父親と母親から俺は産まれたのだから。
誰だってそうじゃないか。自分一人で生まれたものなんていないだろ。

いやまあ、そういう特殊な生物も世の中にはいるらしいけど。詳しくは学者にでも聞いてくれ。

俺は現実世界という世界においては引きこもりゲームオタクのニートで、ゲーム内の世界の中では勇者様で。
それは神を名乗る人物によって与えられた設定で、本来はよくある異世界に落とされて、そこで人生を謳歌するタイプの主人公として「創作」されたらしい。

チート的な強さを手に入れた異世界での俺は、予定としては最初の方こそ現実世界に戻れるよう躍起になるが、異世界で様々なキャラに出会い、あるいは恋愛等をして、異世界ライフを満喫するはずだったそうであるが。

……なにそれ。出来るなら俺だってそうしたかったわ!!
いったい今までのどこに恋愛要素があったっていうの!?ええ?カミサマよ!!

けれども筆はカミサマの思うようには進まず、どうにも俺は頑なに現実世界に戻りたがってしまって。
だから当初予定していたお話しとかみ合わずもてあましていたそうな。

……それって俺の責任じゃなくない?
カミサマがお話書くのが下手くそすぎるからなんじゃない?

いやまあ、おとなしく異世界に順応する主人公たちは、頭でも打ったんじゃないかって常日頃から確かに俺は思ってはいたけれどさぁ。
あるいはそういう主人公って自殺願望でもあったのかなとか心配してたんだけどさ。
ここではないどこかに行きたい病。
それってそういうことじゃん。

幸か不幸か、カミサマはニートでひきこもりでゲームオタクとかいう、割と救いようのない現実世界側の俺のことをあまり否定してこなかったからさ。そのへん妙にポジティブなキャラになっちゃったというか。
だって普通さ、現実の俺なんてどうしようもないクズで……とか思ってるからこそ、異世界で違う自分デビューしたくなるもんじゃん?
でも俺の場合、見た目は確かによろしくない設定だったけれど、衣食住に困らず、好きなだけ眠り、好きなだけゲームをできる幸せな環境にあったわけで。

え?そんなの幸せじゃない?自堕落な生活だ?親に迷惑までかけて?正真正銘クズじゃないかって?

客観的に見ればそうかもしれないけどさ、でもそれだけじゃん。
主観的には満足してたわけなんだし、それの何が悪いのかな?
それともそういう環境にいる人間は、自分のことをクズって名乗らないと許されないのかな?

たぶん、ここにカミサマの戸惑いが生じたんだと思う。
カミサマが俺をどうにもうまく異世界に順応させられなかったのは、現実世界側の俺の設定に、実は憧れてたんじゃないかなとか思ってみたり。

だってさぁ、大きな声ではなかなか言えないじゃん。
本当は私も自堕落でクズな生活をしたいんです、だなんて。
そんなこと言えない世の中が現実世界ってやつだもんな。常に正しくあり続けるよう監視し合って生きるのが現実だ。
だから慌てて現実世界を忌み嫌うキャラを追加してきたわけだ。現実世界にいたってどうしようもない、何も救われやしないんだと思う人たちを。
結果としてはまあ、ちょっとパーティがにぎやかになったかなくらいだったけど。

ああ、それで俺は今どうしてるかって?
なんで最終回を迎えたはずなのに、こうしてぴんぴんしてるんだって?
やだなあ。最終回が終わったあと、あのキャラたちはどうしてるのかなって想像したことないのかい?君たちは。あるだろう?
最終回=キャラクターの死だなんて考えちゃうカミサマも大概だよねほんと。
失礼しちゃうわ。ぷんぷん。だからお話書くのが下手くそなんだよ。

おそらく入れ替わりで「現実世界」に飛ばされたやつらも、向こうで元気にやってると思う。
いや結局帰れなかったからどうなってるかだなんてわからないんだけど。
でもこの世界には知らない人間がうじゃうじゃしてて、それぞれが自分の世界を生きてるんだ。
みんなそのうちの一人にすぎないわけだし。

たぶん本当の勇者様も、俺の姿を与えられたのは申し訳ないけれども、案外向こうでもムキムキに鍛えてさ、いまやボディメイクに成功してビルダーとして成功してるかもしれないし。
社畜と入れ替わった魔王は魔王で、中間管理職と入れ替わった幼女と共にブラック企業を打倒してくれてるかもしれないし。
小売販売員と入れ替わったボーイは、家電カフェとか作って儲けてるかもしれないし。

それはそれで別のお話だ。
それはその本人にしか作れない、特別なお話だ。

だから、今の俺がぴんぴんしているのも、これは俺の話だからだ。
決してカミサマに作られたとおりの話なんかじゃなくて、俺自身が作ってく物語。

むしろ良かったと思ってるんだ。カミサマが最終回を与えてくれたから、俺たちはもうカミサマの思惑通りに振る舞う必要がなくなったのだから。
環境という「設定」こそもう変えようがなくなってしまったけれど、存在し続ければそこがゲームの世界の中だろうが、現実世界だろうが変わりはしないんだし。
自分が存在するのが架空の世界だと知ってもなお、女魔導士も、司祭の男も言ってたじゃないか。
自分の存在する世界こそが現実だってね。

そう、ここが俺の現実なんだ。
俺の信じていた「現実世界」さえも虚構だと知ってしまった今。
俺は帰りたいと騒ぐのをやめた。ーーというか、戻りようもないからな。設定を変えてくれるカミサマはどこかにいってしまったから。
だから俺は諦めてここで生きていく。
だけどその前に。

手にした花束を、そっと墓標に手向ける。

あんなんでも長官なだけあってーー、いや俺はそんな言い方できる立場じゃないんだけども。
そのちょっとアレな魔法省長官の立派な墓に俺は来ている。
なにせ、いかに正当防衛(向こうが先に俺を殺そうとしたんだからな)とはいえだ。
ここがもはやゲーム内の架空世界ではなく「現実」であるならば。

俺は人を殺したことになっているんだ。
たとえそれがカミサマの思惑だったのだとしても、命を奪ったことに変わりはないだろう。
そう思って俺は、せめてもの罪滅ぼしにマウンティペアを訪れた。
これで許されるかはわからないけど。
ああ、あと紅き闇の愚者?とかいう魔物にも俺は罪を償わなければならないな。
俺は深く落とした頭をあげると次の目的地へと歩きだした。
ここで生きていくために。

出来るならニートに戻りたかったけど、ここには俺を庇護して甘やかしてくれる親は残念ながらもういない。
できるならせめてお母さんに今までのお礼を言いたかったけれど、それは多分入れ替わった本当の勇者がうまいことしてくれてるだろう。

で、俺は今どうしてるのかって?
俺はこの現実世界で、魔王と協力してこの世界のクソマズイ料理を変えていこうと思ってたりしている。
時おりシニフィアンやレジティマシーに料理を振る舞ってみたり。
シニフィアン、ああ女魔導士のほうね、は最初の方こそ彼女を俺との過酷な旅へと追いやった国王を退治してやるんだと息巻いていたけれど、結局国王側がどこに隠し持っていたんだというほどの金銀財宝をせしめて満足したらしい。
会うたびにジャラジャラ飾りが増えるものでうっとおしい。

レジティマシー、司祭の男の方は、イダインダ神を復活させるのだと所属する教会を離れたようで、神の神子にまとわりついてはウザがられる日々を過ごしている。

神の神子は……まあ相変わらずだし、サトウ嬢はシニフィアンにうまく取り入ってるようであるし。
販売員の優男こと速水氏は、毎晩合コンに明け暮れて、そこそこの勝率を上げているらしい。俺、弟子入りしようかな……。

ああ、これは誰に向かって話してるんだって?
これは、自分との対話だよ。俺お得意の。
違う?これは誰かに書かれている話だろって?

そんなことはどうだっていいじゃないか。
そんなことはどうでもいいんだよ、確かに俺はここにいるのだから。

だからカミサマも、いつかそのことに気が付いてくれればいいんだけれど。
人の話を書いてばかりいないで、ちゃんと自分の話を書いて。
自分が確かにここに存在するって胸を張って言えるようになれれば。
そうすればすべて現実になるのだから。
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