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現実世界でついに魔王は勇者と対面する。だがそんなことよりも……
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あの悪夢のような場所から抜け出してから。
私は、私が成り変わった人間を心配する母親の不安をよそに、再びあの場所に姿を現すことなくこの場所に留まっている。
かつて魔王であった私が「悪夢のような」などと表現するのはおかしいのかもしれない。
だがそれほどに、私には恐ろしい場所であったのだ。
強大な力も奪われ、自由さえも奪われて。
ひたすらに生きるため、賃金を得るための業務に従事させられる。
いかに異なる世界とはいえ、この現実世界とやらで生き抜いていく人間の力強さに恐れを抱いたのも確かだ。
そのなかで、力を奪われた私は生きていくことが出来るのだろうか。
出来るならばかつての世界に戻りたい。
強大な力を思うまま振るい、多くの物を従え、人間どもを蹂躙していたかつての私のいるあの世界へ。
だが調べれば調べるほどに、その望みは薄くなっていく。
そもそもがだ。
そもそも、私のいた世界が架空の世界なのだ、などと言われてしまったら。
我々はファンタジー世界の住人で、この現実世界の人間が生み出した架空の存在なのだ、と言われてしまったら。
私はこれからどうやって存在していけばいいのだ?
そんな私の不安などわかるはずもないのだろう。
私の成り変わった人間の母親は、親切なようでいて確実に私の苦しむことを言ってくる。
「会社にはいかなくていいのかい?会社の人がお前のことを心配しているんじゃないか?」
「魔王だなんて馬鹿なこと言っていないで、優しい昔のお前に戻っておくれ」
「あんなになりたがってた仕事に就けたんだから、もうちょっと頑張ってみたらどうだい?」
私にはわからぬ。
これは人間の言う親切なのか。それとも押しつけなのか。
理解してもらえるとは思わないが、私はかつてのあなたの息子ではないのだ。
私だって戻れるのならば戻りたい。あなたのいう優しい息子に戻してあげたい。
だがおそらく。私と入れ替わり、今や架空の世界で魔王をやっているこの母親の息子はだ。
現実世界に戻ることを望んでいないだろう。
仮にチャンスがあったとしても、私がかつての座に戻ることはほぼ不可能なのだ。
その中で。
私はどうやって生きていけばいいというのか。
……ああだめだ、死のう。
魔王であったころに思ってもみなかったことを、今や人間に成り下がった今となっては常に思うようになってしまった。
そんなことを思いながら、しかし実行する勇気もなくダラダラと生き延びていたある日に。
『ええい魔王め!打ち滅ぼしてくれるわ!』
どす黒い二人の男の声が我が家に響いた。
「な、なんですかあなたたち!ケーサツ呼びますよ!?」
なぜ私が魔王であることをこの世界の人間が知っているのだろう。
もはや怪しい二人組を確認する気力もなく、困っている母親を助けてやる親身さも湧かず。
ただただベッドで横になる私のもとに、母親の制止を振り切っていた人間がやってきた。
「……どちらさまですか?」
一人はブクブクに太った、それとはいえ何かしら強い意志を秘めていそうな男。
ああ、この国のスモウトリという戦士に似ているかもしれないな。
もう一人は、これはまったくもって訳が分からん。
ひょろっとした背格好に無精ひげ。だというのにピンクのフリフリのワンピースを着ている、中年にさしかかろうかと言うくらいの男。
これならば警察に通報されても構わないだろう。
だがこの変態二人組が私のことを知っているとは。どういうことか?
「魔王よ、どうしてしまったのだ。すべてはお前の罠ではなかったのか?」
二人組のうち、太ったほうが悲しげに私に向かって話しかけてくる。
「わたしに呪いをかけたのはまおうじゃなかったの?」
もう一人の、確かに呪われているとしか思えない男の方が、甘えた幼女のような声で話しかけてくる。
その声を聞きながら、生理的嫌悪感で吐きそうになる胃を必死に落ち着かせながら私は考える。
もしや。
「お前らも、あの世界からこの現実世界に落とされたのか?」
と。
「あの世界?何を言っている、ここはお前の生み出した魔界ではないのか?」
まだ話の通じそうな男の方が私の問いに返答する。
この話し方、そして意志の強そうな瞳。もしや。
「お前は、勇者か?」
「そうだが、お前こそどうしたのだ魔王よ。かつての強大な力はどこにやったのだ?」
これで私は納得がいった。
どうやら、架空の世界から勇者と魔王が現実世界に落とされてしまったらしい。
……もう一人は何者だ?
だがそれと同時に私はさらに悲しくもなってくる。
魔王と勇者。主役の二人がいなくなっても別に。
あの世界は代わりの人間によって回っているのだ、ということに。
私は、私が成り変わった人間を心配する母親の不安をよそに、再びあの場所に姿を現すことなくこの場所に留まっている。
かつて魔王であった私が「悪夢のような」などと表現するのはおかしいのかもしれない。
だがそれほどに、私には恐ろしい場所であったのだ。
強大な力も奪われ、自由さえも奪われて。
ひたすらに生きるため、賃金を得るための業務に従事させられる。
いかに異なる世界とはいえ、この現実世界とやらで生き抜いていく人間の力強さに恐れを抱いたのも確かだ。
そのなかで、力を奪われた私は生きていくことが出来るのだろうか。
出来るならばかつての世界に戻りたい。
強大な力を思うまま振るい、多くの物を従え、人間どもを蹂躙していたかつての私のいるあの世界へ。
だが調べれば調べるほどに、その望みは薄くなっていく。
そもそもがだ。
そもそも、私のいた世界が架空の世界なのだ、などと言われてしまったら。
我々はファンタジー世界の住人で、この現実世界の人間が生み出した架空の存在なのだ、と言われてしまったら。
私はこれからどうやって存在していけばいいのだ?
そんな私の不安などわかるはずもないのだろう。
私の成り変わった人間の母親は、親切なようでいて確実に私の苦しむことを言ってくる。
「会社にはいかなくていいのかい?会社の人がお前のことを心配しているんじゃないか?」
「魔王だなんて馬鹿なこと言っていないで、優しい昔のお前に戻っておくれ」
「あんなになりたがってた仕事に就けたんだから、もうちょっと頑張ってみたらどうだい?」
私にはわからぬ。
これは人間の言う親切なのか。それとも押しつけなのか。
理解してもらえるとは思わないが、私はかつてのあなたの息子ではないのだ。
私だって戻れるのならば戻りたい。あなたのいう優しい息子に戻してあげたい。
だがおそらく。私と入れ替わり、今や架空の世界で魔王をやっているこの母親の息子はだ。
現実世界に戻ることを望んでいないだろう。
仮にチャンスがあったとしても、私がかつての座に戻ることはほぼ不可能なのだ。
その中で。
私はどうやって生きていけばいいというのか。
……ああだめだ、死のう。
魔王であったころに思ってもみなかったことを、今や人間に成り下がった今となっては常に思うようになってしまった。
そんなことを思いながら、しかし実行する勇気もなくダラダラと生き延びていたある日に。
『ええい魔王め!打ち滅ぼしてくれるわ!』
どす黒い二人の男の声が我が家に響いた。
「な、なんですかあなたたち!ケーサツ呼びますよ!?」
なぜ私が魔王であることをこの世界の人間が知っているのだろう。
もはや怪しい二人組を確認する気力もなく、困っている母親を助けてやる親身さも湧かず。
ただただベッドで横になる私のもとに、母親の制止を振り切っていた人間がやってきた。
「……どちらさまですか?」
一人はブクブクに太った、それとはいえ何かしら強い意志を秘めていそうな男。
ああ、この国のスモウトリという戦士に似ているかもしれないな。
もう一人は、これはまったくもって訳が分からん。
ひょろっとした背格好に無精ひげ。だというのにピンクのフリフリのワンピースを着ている、中年にさしかかろうかと言うくらいの男。
これならば警察に通報されても構わないだろう。
だがこの変態二人組が私のことを知っているとは。どういうことか?
「魔王よ、どうしてしまったのだ。すべてはお前の罠ではなかったのか?」
二人組のうち、太ったほうが悲しげに私に向かって話しかけてくる。
「わたしに呪いをかけたのはまおうじゃなかったの?」
もう一人の、確かに呪われているとしか思えない男の方が、甘えた幼女のような声で話しかけてくる。
その声を聞きながら、生理的嫌悪感で吐きそうになる胃を必死に落ち着かせながら私は考える。
もしや。
「お前らも、あの世界からこの現実世界に落とされたのか?」
と。
「あの世界?何を言っている、ここはお前の生み出した魔界ではないのか?」
まだ話の通じそうな男の方が私の問いに返答する。
この話し方、そして意志の強そうな瞳。もしや。
「お前は、勇者か?」
「そうだが、お前こそどうしたのだ魔王よ。かつての強大な力はどこにやったのだ?」
これで私は納得がいった。
どうやら、架空の世界から勇者と魔王が現実世界に落とされてしまったらしい。
……もう一人は何者だ?
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あの世界は代わりの人間によって回っているのだ、ということに。
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