【完】王妃の座を愛人に奪われたので娼婦になって出直します

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二章(ジョン視点)

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 待ち望んだ報告に、ジョンは人払いをした。

「亡くなられた先王と関係がありましたのは、エレオノール様の母君のようです」
「母…実母のほうか」

 エレオノールの実母は、王族の血を引いている。とはいえ何代も前に別れた傍流で、ほとんど他人だ。

「母君は先王の愛人だったようです」

 父が何人も愛人を囲っていたのは知っている。母も愛人を持っていたし、たいして珍しくない話だ。

「たいそう母君を愛していたらしく、病で亡くなられた時はお心を痛められたとか。エレオノール様はその母君に瓜二つだそうです」
「…まさか」
「先代は、エレオノール様に関係を迫っていたようです」

 一気に頭に血が上る。立ち上がったジョンの剣幕に気圧されて、トマが一歩引く。

「迫っていたとは?」

 かろうじて残っていた理性で続きを促す。

「早く言え」
「で、では手短に。先王は、エレオノール様に自分の子を孕ませて、あわよくば次期国王にさせるつもりだったそうです」
「次期国王だと…!俺がいるだろうが!」
「先王は陛下を嫌っておいででしたから」
「そんなことは知っている!よりによってエレオノールにだと!?ぶさけた真似を…!」
「幸いと言えるかは分かりませんが、陛下とエレオノール様は初夜を済ませておりませんでした。ですので先王も手を出せなかったようです」

 そんな言葉が慰めにはならない。ジョンは机を叩いた。
 
「くそ!」
「あともう一つ。ご報告が」
「なんだ言ってみろ!」
「ココット王妃ですが、エレオノール様を事あるごとに嫌がらせをしておりました」
「それくらいなんだ!父の暴挙の方がはるかに問題だろう」
「先代とエレオノール様の関係を探っていく内に手に入れた情報です。エレオノール様に対する仕打ちを知ったら、陛下はもっとお怒りになるかと」

 トマがそれほど進言するのは珍しかった。父に対する怒りは収まらないが、どうせ聞くなら一度に聞いてしまったほうが良い。ジョンは椅子に座り直した。

「そんなに酷いことをしていたのか」
「女官を買収し、エレオノール様の動向を逐一探らせ、少しでも陛下に会いそうになると妨害して会わせないようにしていたそうです。使用人たちも同様に懐柔され、召し替えのドレスや宝石などの装飾品はココット王妃に優先的に渡るようにし、エレオノール様には着古したドレスや二流の宝石を回していました」
「そんな分かりやすいことが何故許されていた。それこそ父が気づきそうなものだが」
「先王は晩年は目が悪く、エレオノール様もあまり装飾品を身に着けないお方でしたので。自分の身を狙っている先王にエレオノール様は訴えられませんし、ココット王妃が台頭していましたので、誰も手を差し伸べる者はおりませんでした」

 そういえば、初夜の日を思い出す。あの日、ココットに誘われるまま酒を飲み、眠ってしまった。今思えば、あの時、それ以前からココットの策略に引っかかってしまっていたのかもしれない。

「父が死んで、エレオノールがココットを罷免しろと言ってきた。宮廷費を着服していると」

 しかしココットを糾弾する所か、エレオノールを非難し王妃の座から引きずり降ろした。
 
「エレオノールは父の遺言書を持っていた。俺との婚姻を無効に出来ないという内容だった」
「それはどうなされたのですか」
「教皇の至上命令書と共に破り捨てた」

 あんなに酷い仕打ちを周囲から受け、娼婦に身を落としながらも、自分を慕っているとほのめかしたエレオノール。顔が好みだと恥ずかしそうに笑った顔が、どこか寂しそうだったのは見間違いでは無かった。

 父が死んで王妃となった時に、最高の地位と覆せない遺言書があれば、やり直せると思ったのかもしれない。
 もしジョンが激昂せずにもう少し落ち着いて話をし続けていたら、娼婦となってから聞いた告白を、あの時してくれていたかもしれない。
 お慕いしておりましたと先に言ってくれていたら、ジョンの隣には今もエレオノールがいたかもしれない。

「俺が悪かったんだな。三年の間にいくらでも話をする機会はあった。そうしなかった俺のせいだ」
「しかしエレオノール様からも歩み寄るべきでした」
「無理だろうさ。伯爵の娘だぞ。身分が違いすぎて本音でなど話せるわけがなかった」

 小さな娘が、あらゆる攻撃に晒されているのを全く知らずに一方的に追い出してしまった。気づいてやるべきだった。

「トマ、教皇に使者を送る。書くものと紙を持って来い」
「教皇へ、ですか」
「それと馬車の用意をしろ」
「これからココット王妃が主催する演奏会の予定ですが」
「放っておけ。ああ、出かける前に宰相と話がしたい。連れてこい」

 矢継ぎ早の命令に、さすがのトマも焦りの顔を見せた。まずはどれからと慌てる侍従に、早くしろと叱咤した。

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