【完】王妃の座を愛人に奪われたので娼婦になって出直します

112

文字の大きさ
32 / 50
二章(ジョン視点)

14

しおりを挟む

 王宮に戻ったジョンを待ち構えていたのは、ココットだった。

「お帰りなさいませ。昨夜はどちらに?」
「知り合いの屋敷だ」

 ジョンが王宮を出て外泊することは滅多にない。ココットが勘ぐるのは当然で、だからと言ってエレオノールに会っていたとは知られるわけにはいかない。

「知り合いの屋敷ですか。どこの者です」
「今度アデカ王の使者が来るだろう。商人に王の気に入る品物を見繕ってもらっていた」

 ココットはまるっきり信じていない。ココットの性格は心得ている。だから喜ばせ方も簡単だ。

「──というのは建前でな」
「建前?」

 訝しむココットに、小さな小箱を見せる。中を開けてみせると、ココットは盛大に驚いていた。

「ま、まぁ…!うそ…これは!」
「お前が欲しがっていたドメーヌだ」

 ドメーヌ。赤黒い妖しい光を放つこの宝石は、一生に一度目にするかしないかの希少な宝石で、ジョンも実際に目にするのは初めてだった。
 ココットは昔からこの宝石を求めていて、ほうぼうに行方を捜させていた。

「早く見せたくてな。俺の馬車なら手続きもなしに関所を抜けられる。だからわざわざ取りに行っていた」
「まぁ…陛下。わたしのために」

 もちろん嘘だ。父の財産にこれが入っていて、最近相続したばかりだった。この石は宝石箱に乱雑に入れられており、目録にも記載が無かった。ドメーヌなのかは不明だ。

 だが誰もが見たことのない宝石なら、本物なのかも分かるまい。現にココットは引っかかって喜んでいる。

「嬉しゅうございます!一生の宝にしますわ」

 ココットはジョンに飛びつかんばかりに抱きついて、吸い付くようなキスをした。口づけを交わし、寝台へなだれ込む。渡したばかりの宝石が枕元に落ちて、まるで血のように光る。

 ココットの服を脱がし、肌に触れる。瞬間、手を離す。

「──陛下?」
「…ちがう」
「え?」
「あ、いや。なんでもない」

 全く違う肌の質感に、ジョンは思わず手を離してしまった。夢うつつで感じた柔肌は、吸い付くような手触りで、なめらかで、いつまでも触れていたくなるほど心地よかった。
 だがこの肌は違う。柔らかいが弾力は無く、ざらついて、まるで豚の皮膚のようだ。
 どちらも年はそんなに変わらないのに、こんなにも違うものなのか。愕然としながら、ジョンは出来るだけ直に触れないよう、服の上からココットを支えた。


 その日から、ジョンはココットに触れられなくなった。触れても触れられても嫌悪してしまって、しかも触れた手は赤くなって腫れ上がった。
 最初はこれが精神的なものだと気づかず、医師にかぶれ止めの塗り薬を処方してもらっていた。ココットに触れた時だけかぶれるのに気づいてからは、ジョンは常に手袋をするようになった。そしたらあっさりと腫れが引いた。

 ココットはジョンの謎のかぶれの原因に気づいていない。過度の接触をしないように別々の部屋で眠るようになってからは、これまでは毎日会っていたのに丸一日会わない日が続くようになっていた。

 昼間に会っても社交的なやり取りだけで終わる。ココットはもっと話したそうだが、ジョンがあれこれと理由をつけて早々に終わらせていた。

 それよりもジョンはエレオノールが気がかりだった。エレオノールからしたらなんてことの無い一夜限りの客のつもりだったのだろう。一夜の再会と知るのはジョンだけ。あんなにも笑顔を見せて、しかも自分を慕っていたと明かしてくれた。ジョンだけが真実を知っていて、あの夜を引きずっていてる。

 あれからもう何日も過ぎた。今日もエレオノールは名も知らない男たちの相手をしているのだろう。そう思うと居ても立ってもいられなくなりそうになる。今すぐにでもエレオノールを助けてやりたくなる。

 侍従のトマからの報告はまだ無い。王族関係を洗っているのだ。いくら有能な部下でも時間はかかる。

 いっそ報告を待たずにエレオノールを迎えに行ってしまおうか。柔肌の感触も薄れてきていた。どんな結果であろうともう一度、あの肌に触れて、あの笑顔を見たかった。

しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

幼馴染最優先の婚約者に愛想が尽きたので、笑って家出しました ― 笑顔で去っただけなのに、なぜ泣いているのですか

ラムネ
恋愛
侯爵令嬢リオナは、婚約者アルベルトが「幼馴染が可哀想だから」と約束を破り続ける日々に耐えていた。領地再建の帳簿も契約も、実はリオナが陰で支えていたのに、彼は「君は強いから」と当然のように扱う。決定的な侮辱の夜、リオナは怒らず泣かず、完璧な笑顔で婚約指輪だけを返して屋敷を去った――引継ぎは、何一つ残さずに。 翌日から止まる交易、崩れる資金繰り、露出する不正。追いすがるアルベルトを置き去りに、リオナは王立監査院の臨時任官で辺境へ。冷徹と噂される監察騎士レオンハルトと共に、数字と契約で不正を断ち、交易路を再生していく。 笑顔で去っただけなのに、泣くのは捨てた側だった。

白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

私を裏切った夫が、後悔しているようですが知りません

藤原遊
恋愛
政略結婚として、公爵家に嫁いだ私は 愛のない夫婦関係を「仕事」だと思い、正妻の役目を果たしてきた。 夫が愛人を持つことも、 その子を屋敷に迎え入れることも、黙って受け入れてきた。 けれど―― 跡取りを、正妻の子ではなく愛人の子にする。 その言葉を、人前で軽く口にした瞬間。 私は悟ったのだ。 この家では、息子を守れないと。 元々、実家との間には 「嫡子以外の子は実家の跡取りにする」という取り決めがあった。 ならば話は簡単だ。 役目を終えた私は、離縁を選ぶ。 息子と共に、この家を去るだけ。 後悔しているようですが―― もう、私の知るところではありません。

「君は完璧だから、放っておいても大丈夫」と笑った夫。~王宮から私が去ったあと「愛していた」と泣きついても、もう手遅れです~

水上
恋愛
「君は完璧だから、放っておいても大丈夫だ」 夫である王太子はそう笑い、泣き真似が得意な見習い令嬢ばかりを優先した。 王太子妃セシリアは、怒り狂うこともなく、静かに心を閉ざす。 「左様でございますか」 彼女は夫への期待というノイズを遮断し、離縁の準備を始めた。

【完結】亡くなった人を愛する貴方を、愛し続ける事はできませんでした

凛蓮月@騎士の夫〜発売中です
恋愛
【おかげさまで完全完結致しました。閲覧頂きありがとうございます】 いつか見た、貴方と婚約者の仲睦まじい姿。 婚約者を失い悲しみにくれている貴方と新たに婚約をした私。 貴方は私を愛する事は無いと言ったけれど、私は貴方をお慕いしておりました。 例え貴方が今でも、亡くなった婚約者の女性を愛していても。 私は貴方が生きてさえいれば それで良いと思っていたのです──。 【早速のホトラン入りありがとうございます!】 ※作者の脳内異世界のお話です。 ※小説家になろうにも同時掲載しています。 ※諸事情により感想欄は閉じています。詳しくは近況ボードをご覧下さい。(追記12/31〜1/2迄受付る事に致しました)

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

結婚初夜、「何故彼女が死んでお前が生きているんだ」と夫に言われました

ましゅぺちーの
恋愛
侯爵令嬢のアリサは婚約者だった王太子テオドールと結婚した。 ちょうどその半年前、アリサの腹違いの妹のシアは不慮の事故で帰らぬ人となっていた。 王太子が婚約者の妹のシアを愛していたのは周知の事実だった。 そんな彼は、結婚初夜、アリサに冷たく言い放った。 「何故彼女が死んでお前が生きているんだ」と。

「君は大丈夫だろ?」と可哀想な元恋人を選択した夫。~今さら復縁を迫っても、愛は既に錆び付いています~

水上
恋愛
夫と白い結婚をして、傾いた領地を努力と苦労の末に立て直した伯爵令嬢ヴィクトリア。 夫との関係も良好……、のように見えていた。 だが夫は「君は強いから」と、めそめそ泣く元恋人を優先し、ヴィクトリアの献身を踏みにじった。 その瞬間、彼女の恋心は錆び付き始めた。 「私が去ったら、この領地は終わりですが?」 愛想を尽かした彼女は、完璧な微笑みの裏で淡々と離縁の準備を始める。 これは、有能な妻が去り、無能な夫が泥沼に沈むまでを描く、冷徹な断罪劇。

処理中です...