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二章(ジョン視点)
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しおりを挟む王宮に戻ったジョンを待ち構えていたのは、ココットだった。
「お帰りなさいませ。昨夜はどちらに?」
「知り合いの屋敷だ」
ジョンが王宮を出て外泊することは滅多にない。ココットが勘ぐるのは当然で、だからと言ってエレオノールに会っていたとは知られるわけにはいかない。
「知り合いの屋敷ですか。どこの者です」
「今度アデカ王の使者が来るだろう。商人に王の気に入る品物を見繕ってもらっていた」
ココットはまるっきり信じていない。ココットの性格は心得ている。だから喜ばせ方も簡単だ。
「──というのは建前でな」
「建前?」
訝しむココットに、小さな小箱を見せる。中を開けてみせると、ココットは盛大に驚いていた。
「ま、まぁ…!うそ…これは!」
「お前が欲しがっていたドメーヌだ」
ドメーヌ。赤黒い妖しい光を放つこの宝石は、一生に一度目にするかしないかの希少な宝石で、ジョンも実際に目にするのは初めてだった。
ココットは昔からこの宝石を求めていて、ほうぼうに行方を捜させていた。
「早く見せたくてな。俺の馬車なら手続きもなしに関所を抜けられる。だからわざわざ取りに行っていた」
「まぁ…陛下。わたしのために」
もちろん嘘だ。父の財産にこれが入っていて、最近相続したばかりだった。この石は宝石箱に乱雑に入れられており、目録にも記載が無かった。ドメーヌなのかは不明だ。
だが誰もが見たことのない宝石なら、本物なのかも分かるまい。現にココットは引っかかって喜んでいる。
「嬉しゅうございます!一生の宝にしますわ」
ココットはジョンに飛びつかんばかりに抱きついて、吸い付くようなキスをした。口づけを交わし、寝台へなだれ込む。渡したばかりの宝石が枕元に落ちて、まるで血のように光る。
ココットの服を脱がし、肌に触れる。瞬間、手を離す。
「──陛下?」
「…ちがう」
「え?」
「あ、いや。なんでもない」
全く違う肌の質感に、ジョンは思わず手を離してしまった。夢うつつで感じた柔肌は、吸い付くような手触りで、なめらかで、いつまでも触れていたくなるほど心地よかった。
だがこの肌は違う。柔らかいが弾力は無く、ざらついて、まるで豚の皮膚のようだ。
どちらも年はそんなに変わらないのに、こんなにも違うものなのか。愕然としながら、ジョンは出来るだけ直に触れないよう、服の上からココットを支えた。
その日から、ジョンはココットに触れられなくなった。触れても触れられても嫌悪してしまって、しかも触れた手は赤くなって腫れ上がった。
最初はこれが精神的なものだと気づかず、医師にかぶれ止めの塗り薬を処方してもらっていた。ココットに触れた時だけかぶれるのに気づいてからは、ジョンは常に手袋をするようになった。そしたらあっさりと腫れが引いた。
ココットはジョンの謎のかぶれの原因に気づいていない。過度の接触をしないように別々の部屋で眠るようになってからは、これまでは毎日会っていたのに丸一日会わない日が続くようになっていた。
昼間に会っても社交的なやり取りだけで終わる。ココットはもっと話したそうだが、ジョンがあれこれと理由をつけて早々に終わらせていた。
それよりもジョンはエレオノールが気がかりだった。エレオノールからしたらなんてことの無い一夜限りの客のつもりだったのだろう。一夜の再会と知るのはジョンだけ。あんなにも笑顔を見せて、しかも自分を慕っていたと明かしてくれた。ジョンだけが真実を知っていて、あの夜を引きずっていてる。
あれからもう何日も過ぎた。今日もエレオノールは名も知らない男たちの相手をしているのだろう。そう思うと居ても立ってもいられなくなりそうになる。今すぐにでもエレオノールを助けてやりたくなる。
侍従のトマからの報告はまだ無い。王族関係を洗っているのだ。いくら有能な部下でも時間はかかる。
いっそ報告を待たずにエレオノールを迎えに行ってしまおうか。柔肌の感触も薄れてきていた。どんな結果であろうともう一度、あの肌に触れて、あの笑顔を見たかった。
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