【完】王妃の座を愛人に奪われたので娼婦になって出直します

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三章(ココット視点)

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 ココットは刺客を送った。殺すのは直ぐに出来る。だが殺した後に万が一ジョンのもとにエレオノールが殺されたと知らせが入ってしまったら、徹底的に調べさせるだろう。それは避けたい。
 刺客といっても病気を持った刺客だ。エレオノールに相手をさせて移してしまえば、あとは自滅する。病死ならジョンは納得するだろうし、もし生き残ったとしても、目もあてられない姿となる。これでいい。ココットは次の知らせを待った。


 刺客を見張っていた者から報告が来た。

 ──エマに病気を移すことに成功した。

 ココットは良い知らせに頷いた。


 何日かして、報告が来た。

 ──病が進行し、ほとんど寝たきり状態となっている。

 ココットは安堵した。こうなれば助かる見込みはない。次の知らせを待った。


 最後の報告は、直ぐにやって来た。

「死にました」

 ココットは歓喜した。これほどまでに上手くいくとは。これでジョンがエレオノールの噂を聞いたとしても、死んでいるのだから何の問題もない。小躍りしたくなるのを抑えて、ココットは尋ねた。

「どんな最期だった?」
「全身に水ぶくれが広がり、息が止まる前に、川に捨てられていました」
「あっはっは!そりゃ傑作だ!王妃にもなった女が最期はドブ川に捨てられるとは!」

 笑いが止まらない。あの女を思い出すたび、この面白さがついて回る。なんて最高の気分を与えてくれたんだ。ココットは今度こそ小躍りした。

「よく報告した。褒美をやろう。病を移した男にも持っていってやれ」

 報告した男は礼を言ったあと、うやうやしく顔を上げた。

「病を移した男、クズリーは死にました」
「あら、なんで?」
「クズリーはただの病気持ちの素人でしたから。万が一、他に知られるわけにはいきませんから。川に放り込んでおきました」

 なるほど、下手人を殺せば証拠は上がらない。うまいやり方だ。

「ああそりゃ残念だったね。ならクズリーとやらの分も、お前が受け取っておくれ」
「ありがたき幸せ」
「なにかあれば次も頼むよ。あんたやり手だね。名前は?」
「名乗るほどの者ではありません」
「アタシは貧民窟の生まれだよ。アタシだって下の下の者さ」

 ほほほ、と上品めかして笑ってやると、男は膝をついた。

「──ジョースターでございます。王妃殿下」
「覚えておくよ。お下がり」

 男はにこやかな笑みを浮かべ、深く頭を下げた。


 一つの懸念材料が払拭されると、これほどまでに心が晴れるものなのか。あとは世継ぎを産むだけ。それはそんなに難しくないと思っていた。

 なのにジョンが全く来なくなった。会いに行っても、今は仕事中だとか狩りの最中で不在だとか、そんなことばかりで全く会わなくなった。

 もしや新しい女を見つけたのかと思えばそうでもない。他の者に調べさせても女の気配は無いという。

 政は宰相に任せきりだし、ジョンには遊ぶ時間が有り余るほどある。その時間がココットに使われていない。これはどういうことだ。何をしている。どれだけ調べさせても、一向に変な事は出てこない。ただ一人で音楽でも狩りでもしてしまうのだ。

 少し前までは、共に王立歌劇場で「プリマヴェーラ」を観たというのに。それが遠い記憶のように思えた。

 避けられている。こんな事は一度だって無かった。ココットは無理矢理にでもジョンに問い詰める決意で私室に乗り込むも、不在だった。

 離宮に留まっているらしい。狩りに興じているとか。信じられるわけがなかった。

 ならば離宮に向かうまで。ココットは馬車に乗り込んだ。


 離宮にたどり着く。降り立ったココットを、ジョンが出迎えた。

「やぁココット、どうした急に」

 ジョンは普通だった。何の後ろめたさも感じない態度で、ココットは逆に面食らってしまった。

「陛下のお顔を見たくなって」
「なんだ可愛い奴だな」
「陛下が悪いんですのよ。私に黙っていなくなるんですもの」
「はは、すまなかった」

 豪快に背中を叩かれる。こんなに明るい人だっただろうか…?しかしココットの目に映るジョンは上機嫌で、向けられている感情には嘘偽りが無いように見えた。

「どうしておりましたの?何故この時期に離宮などに滞在しておりますの?」
「ああ、実はお前の為に用意していたものがあってな」

 ココットの為に用意していたもの?芽生えていた不安が一気に氷解する。最近会えていなかったのも、ココットの為だとするならば、こんなに嬉しいことはない。

「まぁ、そうでしたの」
「お前に見せてやりたいが、まだ完成していなくてな。もう少し待ってくれないか」
「そういうことでしたら、いくらでも待ちますわ」
「悪いな。アビアの使者が一週間後に来る。それまでには完成させるつもりだ」

 一週間。それくらい待てる。ココットは大きく頷いた。

「一週間ですわね?」
「ああ一週間だ」

 その言葉を信じた。疑う理由は無かった。


 そして一週間後、ココットはジョンの帰りを心待ちにしていた。ジョンが用意しているという贈り物。それが何なのか、待ち望んでいたこの七日間がこれほど長く感じたことはない。
 アビア国の使者に間に合わせると言っていたのだから、それなりの代物だろう。どれほどの素晴らしい品物を贈ってくれるのか、ココットはそればかり考えていた。

 アビアの使者が到着した知らせと、ジョンが到着した知らせは、ほぼ同時だった。ココットは真っ先にジョンに会いに行った。

 しかしそこで待ち受けていたのは、信じられないものだった。

 ジョンが差し出す手を取って馬車を降り立った人物、それは──

「──エレオノール…?」

 
 死んだと思っていた女が、不敵に笑って立っていた。

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