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三章(ココット視点)
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しおりを挟むアビア国の使者との謁見に遅れてきたココットをジョンは叱咤した。
「遅い!俺を待たせるな!」
「陛下、話を──」
「言い訳なら聞かん!使者はもう来ているのだぞ!」
ココットは先のあらましを一刻も早くジョンに告げたかった。エレオノールは危険だ。こんな女をのさばらせておいたら、ココットだけでなくジョンにも危害が及ぶ。
だが今はアビア国の使者が優先されてしまう。エレオノールはそこも見透かしていたのだろう。なんて姑息な女だ。
エレオノールは女官として、本来ならココットのすぐ近くに控えるべきだった。あんな危険な女を近くにおけない。ココットは侍女達と同列の後方に並ばせていた。使者が通る中央の両側に、出迎えの廷臣たちが立ち並ぶ。そのはるか後方、扉に近い位置に佇むエレオノールは、王座からは程遠く、まず誰の目にも留まらない。まだ時間はある。
今しかチャンスは無かった。遠ざけているうちに、エレオノールの真実を話してしまわないと。
陛下、とかけた声は、入室を告げる触れの声に遮られる。扉が開きアビア国の使者が姿を見せる。
言えなかった。ココットは機を伺うしかない。ここは我慢だ。
アビア国の使者は、四十代の中年の男だった。小太りで、ゆったりとした服を着ている。足取りも遅く、象のようだ。
もどかしいほど時間をかけて定位置に跪いた使者は、よくある口上を述べた。
「ジョン国王陛下におかれましては、ご機嫌麗しゅうございます」
「ああ。ご苦労であった」
ジョンは王座に座ったまま、これもよくある返答をした。
「アデカ国王からの贈り物は受け取った。良い馬だった。早速狩りに使ってみたが、よく躾けられていた」
「今回の為にアデカ王自らが手懐けられました。砂漠にも負けぬ強い馬です。陛下のお言葉を伝えましたら、我が王も喜ばれるでしょう」
狩りに使ったと聞いて、ココットは笑いたくなった。ジョンは馬に乗るのが下手で、慣れた馬でないとまともに走ることもできない。側近たちにも知られているのに、つまらない見栄を張ったものだ。
「紹介しよう。ココット王妃だ」
と言って、ジョンは隣に座るココットを親指で指した。およそ公式の場で王妃にするような態度では無かったが、ココットは耐えて笑顔を作った。
「遠路はるばるようこそ。アビアの使者よ」
わざわざ立ち上がって膝を折ったのに、アビアの使者からの反応は薄かった。
「…はぁ…、おそれ、いります」
薄いというよりも、おかしかった。妙な違和感にココットは眉をひそめる。
「なんなのですかその態度は。私が王妃と知っての事ですか」
少し不快感を滲ませて伝えたのに、使者の反応はやはり薄く、戸惑っているように見えた。
──どういうことなの?
理由が分からないままに、使者はココットを差し置いて、あろう事か背を向けた。
使者のあるまじき無礼に、ココットは思わず扇を振る。
「なんたる侮辱!陛下、かの者は私だけでなく、陛下を愚弄しております!」
ココットの訴えに、ジョンは王座に座ったまま、静かに眉をひそめている。
どきりとした。こんなに冷たい顔を、ココットは見たことがなかった。
「…へいか?」
「なるほどな。よく調べている」
ジョンは一人で合点がいって、納得している。ココットはますます訳が分からなかった。
「ココット。アビアの使者をよく見ていろ。誰の下へ行くのかをな」
「陛下…?」
使者は、扉へと戻っていく。扉近くに立ち並ぶ侍女たち。その中にはエレオノールがいる。
エレオノール?
まさか。
使者は、エレオノールの前に膝をつくと、胸に手を当て頭を垂れた。周囲がざわめく中、エレオノールだけが顔色一つ変えずに、使者を見据えている。
「はじめまして。王妃殿下。アビア国の使者として参りました」
王妃殿下。はっきり聞こえた。あの使者は、ココットではなくエレオノールを王妃だとして挨拶したのだ。
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