【完】王妃の座を愛人に奪われたので娼婦になって出直します

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三章(ココット視点)

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「私が王妃よ!」

 ココットが叫ぶ。こんな屈辱は無かった。ココットは王妃の座についている。対するエレオノールは、はるか遠くの侍女の待機する場所に立っている。どちらが王妃かなど一目瞭然だ。

 ココットはジョンを振り返った。なによりも、ジョンがこれを容認している事実が、ココットを恐慌させる。

「陛下!どういうことですの!私は王妃ですよ!」
「誰かこの者を捕らえよ」
「え!?どうして!?…いや!離せ!」

 控えていた兵士がココットを拘束する。壇上から引きずり降ろされ、無理矢理跪かされる。

「離せ!王妃だぞ私は!」

 兵士たちは微動だにしない。まるではじめからこうなる事が分かっていたかのように。


 その隣を、使者にエスコートされエレオノールが歩いてゆく。こちらを見もせず、優雅にエレオノールは使者と談笑していた。

「エレオノール!アンタ…!」
「王妃に無礼であるぞ!」

 兵士たちに頭を押さえつけられ、床に顔がめり込む。

「ぐっ…!」

 信じられなかった。ついさっきまで、あそこに立っていたのに、こんなのは嘘だ!

「──よく私だと気づきましたね」

 エレオノールが使者に言う。

「もちろん気づきますよ。品格が違います」
「まぁ、それだけでお気づきになりましたの?」
「正直に申しますと違います。あの者は王妃と言う割に粗悪な宝石を身に着けていました。私の国では、宝石は何よりも大事です。あのようなどす黒い宝石は使用人でも身につけません」

 ココットはドメーヌの首飾りをつけていた。他ならぬジョンが贈ってくれた、特別な宝石だ。

「何言ってんだい!これはドメーヌだよ!世界中探したって見つからない希少な宝石だ!」

 使者は笑う。

「それが?それはドメーヌではありませんよ」
「なっ…!」
「ドメーヌはそのように汚い色をしていません。本物を見たことがありますが、夜でも光り輝いておりました」

 これは、ジョンがわざわざ…。
 偽物だったのだ。わざとなのか。偽物をつかまされたのか。

「対するエレオノール王妃様は、宝石も無く身なりも質素でしたが、侍女と共に立っておられる中でも、他とは違うオーラを放っておられました。そのようなお方は滅多におられません。それこそ我がアビア国の王妃様のような方でもない限り」

 まぁ、とエレオノールは口元を扇子で隠す。

「アビア国の尊い王妃様と比較していただけるなんで、光栄です」
「比べるような無粋な真似をお許しください」
「誤解なさらないで。嬉しいのですよ」

 使者が胸に手を当てる。エレオノールも軽く膝を折って礼を返した。

「エレオノール」ジョンが呼ぶ。「こちらへ」

 エレオノールが壇上に上がる。エレオノールの手を取ったジョンは、満面の笑みだ。エレオノールも笑顔だ。二人は笑顔で見つめ合った後、配下たちを見下ろした。

「誰か、ココットから王妃の紋章ブローチを取ってこい」

 ココットの胸には王妃の証である紋章ブローチがついている。これを取られたら、もう終わりだ。かつてエレオノールから奪い取った紋章ブローチ。それがたった半年で奪い返されるなんて。

 抵抗むなしく、兵士がココットの胸から紋章ブローチを外していった。渡されたブローチをジョンが掲げると、ざわついていた周囲がまばらに拍手をおくった。突然のことで皆も混乱しているのだ。

「──ココットの王妃の称号を剥奪し、もう一度エレオノールを王妃として迎える!」
「陛下、お待ちください」

 エレオノールの言葉に、ジョンが拳を下ろす。エレオノールは微笑んだ。

「まずは状況の整理をすべきかと。一方的に私が王妃になってしまっては、皆が納得しないでしょう」
「それもそうだな」

 ジョンは侍従のトマから書状を受け取った。それを開いて見せる。

「これは、教皇の至上命令書だ。エレオノールと俺の婚姻を保証するもので、離婚は出来ない。よって、エレオノールは俺の妻であり続け、ココットとの婚姻は最初から無効だった」

 次に、と今度は宰相を壇上へ呼んだ。

「ココットが長年、宮廷費を横領していた事実は、宰相が証拠を集め、もはや見過ごせない額にまで達している。これは王妃になる以前からの不正であり、国家の基盤を揺るがしかねない致命的損失だ。また、ココットはエレオノールが宮廷を離れている間に刺客を送っている。これは王族に対する立派な大逆。よって、ココット・パール及びそれに加担した者、全員残らず処刑とする」

 処刑!?ココットは飛び上がるほど驚いた。確かに梅毒を移そうと男を差し向けた。だが失敗に終わった。あの時はエレオノールは貴族ですらなかった。今になって離婚したのは無効だと言われても、こんなのは暴挙だ。
 
「陛下!陛下!間違っておられます!エレオノールは、陛下を誑かしているのです!」

 ココットの叫びは最早聞こえていない。なぜなら、兵士たちに引きずられ、謁見の間からつまみ出されようとしている。ここを出たら、ココットの嘆願は届かない。本当に処刑されてしまう。ココットはジョンの姿が見えなくなる寸前まで、ジョンの名を呼び続けた。

「エレオノールはこの国に災いを及ぼしている!あの女は悪女だ!あの女がこの国を滅ぼす!陛下…!ジョン…!どうしてアタシの声が聞こえないんだ!」

──それが、ココット・パール。最後の言葉だった。

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