【完】三度目の死に戻りで、アーネスト・ストレリッツは生き残りを図る

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二章

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 イエローがやって来たのは三日後だった。こちらの要求した日にちゃんと来訪してくれたので、アーネストはこの男を見直した。

 イエローの首には包帯が巻かれていた。何となく動きも体をかばっているように歩いているように見える。

「お前、どこか怪我をしたのか?首のはどうした」

 恥じるようにイエローは首に手を当てた。聞かない方がいいのかと思ってそのままにしておく。

 客間で前と同じように座らせて、アーネストはリタが持ってきてくれた紅茶を勧めた。

「あの、レイフ殿はおられないのでしょうか?」
「お?」

 どういう風の吹き回しだ。前はあんなに邪険にしていたのに。

「レイフなら庭の剪定をさせておる。呼ぶか?」
「ぜひ。アーネスト様と共にお話したいことがあります」

 レイフも呼んで、アーネストの隣に座らせる。レイフが現れるなりイエローは立ち上がって、胸に手を当て一礼した。

「レイフ殿、ご無礼いたしました」
「なに?なんなのだ?」

 なぜイエローがレイフに謝っているのか皆目検討がつかなかった。説明を求めると、レイフが答えた。

「実はボーテ様と一戦交えまして」
「は?」
「私が勝ちました」
「はぁ?」

 知らぬ間にそんな大事を起こされて、今の今まで黙っていただと?しかも悪びれもせずに言ってけしからん。

「なぜ私に言わなんだ!それに戦うのは止めろと言っただろう!」
「申し訳ございません」
「ばか者!怪我は?イエローを相手したのだ。手傷を負ったであろう」

 上から下までレイフを見る。庭仕事をして少々汚れているが、見える範囲では無傷のようだ。いつもの涼しい顔に、うっすら汗が滲んでいる。

「擦り傷程度です。三日前ですからもう治りました」
「本当か?」

 本当です、とレイフは額の汗を拭った。

「もうよろしいでしょうか。猪が迷い込んでいて捕まえたいのですが」

 だから汚れていたのか。

「イエローがそなたの同席を望んでおる。猪は後にせよ」

 はい、と返事する。レイフは汚れを気にして座らず、従者のようにアーネストの後ろに立った。

 気を取り直してイエローに向き合う。

「さて、この前の護衛の話だが」
「アーネスト様は私が裏切ったのを知っておられたのですね」

 話を遮られたアーネストは、嫌な顔一つせずに、そうだ、と答えた。

「裏切った理由までは知らんがな」

 イエローは悔いるように目を伏せた。

「理由は、話せません。私は陛下との密約により口止めされています。術をかけられ、話せないようになっています」

 襟を開けたイエローの首下には、小さな円陣が刻み込まれていた。自らに刻まれた魔法を消すには、皮膚を削り取るしかない。

「ついては陛下の命には従う強制力も二重にかけられています。私に全てを明かさないでください。私を通して、陛下に全て筒抜けになります」

 強制力を働かせる魔法陣など、軽々と展開出来るものではない。アーネストが持つ『魅了』など比にならない高度な技術だ。

「オスカーが施したのか」
「陛下は私たちが思っていた以上に、魔術に長けております。お気をつけください」
「私もこの通り」ブレスレットを見せる。「魔力を封じられている。これを外すのはオスカー本人でなければ無理であるし、力を奪われた私は、赤子よりも使い物にならん。もはや、お前をわざわざ遣わす意味も無いのだがな」

 アーネストの従者を務めあげた後、イエローには近衛兵長の座が約束されていた。誰もが羨む兵士の花形だ。見た目だけでなく、臨機応変に対応できる柔軟さも求められる。その実力がイエローには備わっていた。
 イエローは軍属だ。アーネストがイエローを従者に選んだ訳ではなく、軍の推薦によって選ばれた精鋭。例えアーネストが失脚したとしても、イエローは軍に帰属するだけだ。出世には多少響くだろうが、それでもイエローならやがて近衛兵長となっていただろう。

 それがオスカーにより、王族でなくなるアーネストの護衛に成り果てるとは。完全に出世の道は絶たれ、しかもオスカーに命を握られている。悲惨だ。

「私を遣わしたのは、それだけアーネスト様が疑われているからです。巻き返されるのを恐れておられるのです」
「であれば私にその可能性が潰えてこそ、お前も解放されるのだな」
「私のことはどうでもよいのです。どうでもよいのですが…」

 イエローはレイフに顔を向けた。

「まさかレイフ殿が、私を倒してしまう実力を持っているとは思いませんでした。これは陛下に報告せねばなりません」
「警戒されるなそれは」
「しかもレイフ殿は、魔力を無効にする戦い方をしました」
「レイフ、そなた、そんな能力を持っていたのか」

 てっきり魔力など持っていないと思っていたのだが。

「魔力はありません」
「そんなわけなかろう。でなければどうやって無力にするのだ」
「本当です。私が持っている剣は抗魔力が施されておりますので、それで魔力を切りました。それだけです」

 軍属であれば、誰もが抗魔力の剣が支給される。しかしそれで完全に魔力を無効化はできない。
 レイフに更に問うが、いまいち要領を得ない返しばかりされる。アーネストは脱線した話を戻した。

「とにかく、警戒されるのは必定だというわけか」
「なにか対策を講じませんと」
「いや、それでよい。警戒させろ」

 イエローは不審な顔をした。

「無駄に警戒させておけばいい。私は王になる気など全く無いのだからな」

 だが、と足を組む。

「オスカーに伝えておけ。もしも今後、隣国と戦争になるような馬鹿な真似をしようものなら、私が出てくるかもしれんぞとな」
「アーネスト様!それは危険です!今直ぐ撤回してください」
「撤回しない。よいか。亡くなられた先王陛下は、周辺諸国と友好関係を築き、また争い事の仲介を惜しまなかった。それがダジュール王国の五十年の平和をもたらした。私も父のようにそうありたいと思っていた。オスカーに王座を奪われても争わないのは、オスカーがそうあってくれると信じているからだ」

 レイフを呼び寄せ、隣に座らせる。手を取りブレスレットに触れさせる。その様を見せられたイエローは苦しげに口元を隠した。

「偶然とはいえ、私の伴侶はこのブレスレットの効力を無効化させる可能性を秘めているわけだ」
「無理です。こんな難しい術式まで対応しておりません」
「可能性と言ったんだ。そういう可能性があると思わせておけば、こちらの要求も通ると思わんか」
「何の後ろ盾も無い私と無力なアーネスト様では、取り引きにもならずに消されるのが関の山かと」

 冷静に痛い所をついてくるな。睨むが、レイフはどこ吹く風だ。

「とにかく良き王であってくれと伝えてくれ。戦を起こさず、不作に備えて、疫病には冷静に対応してくれれば、私がその座を降りたかいがあるというものだと」

 レイフが作成した凶事が全て無くなれば、間違いなくオスカーは賢君として尊ばれるだろう。

 これが、繰り返しを終える選択になるのだろうか。それは死ぬ時まで分からない。が、少なくともこの選択が間違っているとは思えなかった。


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