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二章
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しおりを挟むレイフが伴侶を放棄したせいで、食堂でアネモネと朝食を取る羽目になった。アネモネは緊張していたが、行儀はしっかりしていて、そつなく食事をこなしている。
食事を終えて、アネモネに庭を案内する。レイフの姿を探すが見当たらない。庭師に聞こうとして、そう言えば夜は部屋の番をさせていたのを思い出す。となると今はぐっすり部屋で寝ているはず。自ら命じておいて忘れるとは、うっかりにも程がある。
「なにかお探しですか?」
アネモネにも聞かれる始末だ。アーネストが愛想よく笑いかけると、アネモネは照れて下を向いた。うーん。乙女のごとき反応。庇護欲をかき立てられる容姿。完璧だ。
危うく心を奪われそうになり、我に帰る。危ない危ない。オスカーの術中にはまってしまう所だった。
「見頃を迎えた薔薇があったのだが見当たらなくてな」
「それでしたら、私の部屋に飾ってあります。アーネスト様が自ら切りそろえたと伺っておりましたが」
はて、と、首を捻っておきながら、これまたハッと思い出す。昨日、怒りのままに切り落とした薔薇のことか。
「お陰で昨夜は薔薇の香りに包まれながら眠ることができました。アーネスト様の心遣いに感謝します」
アーネストは何もしていない。したとすればレイフしかいない。あやつめ、色恋に疎いと思っていたのに、変な所で気が回る。
「ふざけおって…」
「アーネスト様?」
「いや、なら場所を変えよう」
庭のあずま屋で、紅茶と菓子を嗜む。一番近い焼き菓子を手に取ったアネモネは、目を輝かせた。花の形で可愛らしいですねと言って、美味しそうに頬張った。
「そなた、陛下の侍従だったそうだな。陛下はどんな人物だ」
アネモネはキョトンとした。
「陛下ですか…」
「弟ではあるが、異母弟だからな。まともに話したことが無かったゆえ、何も知らぬのだ」
「私が陛下を語るなどおこがましいことです」
「好きなものはなんであろうか」
「あの、何故そのようなことを?」
「少しでも陛下の好みを知って媚を売ろうかと思ってな」
冗談めいて笑ってみせると、アネモネは困ったように笑い返した。
オスカーに関する情報がなんにでも手に入ればと思ったが、侍従の忠誠心は厚い。アーネストの侍従だったイエローも魔法陣を刻まれなければ、決して裏切ったりはしなかっただろう。
無理強いした所で、喋ってくれると思えない。アーネストは潔く諦めた。
「そなたは?そなたの好きなものはなんだ」
「私ですか…特には」
「そんなわけなかろう。趣味はないのか」
「趣味…と言えるかは分かりませんが、服を作ります」
「ほう」
「陛下が人形遊びを好まれますので、服を作っておりました」
恥ずかしそうに話すアネモネに、アーネストが大げさに反応する。
「すごいな!服を作れるのか!」
「難しいものは作れませんが」
「謙遜するな。もしやその服もそなたが作ったのか?」
今日のアネモネは白いワンピースを着ている。男だが小さく、女のような容姿なのでよく似合っている。
「ええ、はい」
「裾のビーズの刺繍もそなたが?」
「全て私が作りました」
「すごいな!」
細々とした刺繍は全身に及んでいる。ビーズの色が半透明で、明るさに反射して七色に光る。七色は控えめなので品よく見える。一見、質素に見えるが非常に凝った作りだ。
「刺繍のデザインも考えたのか?」
「昔から、模様を考えるのが得意でした」
「よく出来ておる。均等に見えて、均等ではない。裾のたわみを考慮した優雅なデザインだ」
ぽっとアネモネの顔が赤く染まる。よく恥じらう若者だ。
「他のデザインもあれば見たいのだが」
「ここにはありませんが、書いてお見せできます」
「そうか。では早速用意させよう」
控えていたリタに紙とペンを持ってきてもらう。アネモネが書いてみせた文様にアーネストは舌を巻いた。
幾何学の模様だった。線が規則的に交差し、円形に繋がる。
「美しい。まるで術式だな」
「あ、ありがとうございます」
「これは本当に術式として転用出来そうだ。そなた魔力はあるのか?」
「ございますが、魔力量は少ないので、たいしたことは出来ません」
自身のブレスレットにアネモネが触れる。
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