【完】愛人に王妃の座を奪い取られました。

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新たな災い②

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 バン、と、けたたましい音がする。扉を乱暴に開けて入ってきたのは、エイドスだった。

 エイドスは軍人故か、いつも軍服を着ていた。もちろん帯刀もしている。
 その光景を目の当たりにしたエイドスは、腰のサーベル、ではなく、銃を取り出した。

「俺の方が早い。無駄死にしたくないなら、離れろ」

 銃口を向けられて、オリアーナは狼狽うろたえる。その内にもエイドスは距離を詰め、オリアーナから短刀を奪い取り、逆に喉元に突きつけた。オリアーナの顔が恐怖に満ちたものになる。

「ひっ……」
「ソフィアはナセル国の者だ。我が国に対する反逆行為と見なし、断罪する」

 今にもオリアーナが殺されそうになる。ソフィアは声を上げた。

「お待ち下さい!彼女は、現国王の姉君であらせられます」
「どうりで」エイドスは笑う。「愚かなのは血故か。まともな王族はいないのか」
「どうかその手をお放しください。王宮で血を流すわけにはいきません」
「属国となった以上、王族も王宮も関係ない。ナセルに刃向かう時点で、首切りだ。──なぁ?分かってて刃を向けたんだろ?」

 言葉を向けられたオリアーナは、怯えながらも気丈にエイドスを睨みつける。

「私を殺すなら殺しなさい。私は、王太后様の名代として本日、王宮に伺いましたの。私が死ねば、王太后様が黙っていませんよ」
「興味深いな。死にかけのババアに何ができるのか教えてくれ」

 オリアーナは唇を噛みながら、喉元で笑う。

「王太后様は、現教皇様の娘よ。王太后様が教皇様に訴えれば、ナセルなど直ぐに退けてくださるわ!」

 エイドスも同じように喉の奥で笑う。

「知らないようだから教えてやる。ナセルとクインツでは信仰の神が異なるからな。ソフィアを改宗させた。お前が頼りにしている教皇様の管轄外ってわけだ。教皇が口出し出来るものならやらせてみたらどうだ?王太后が赤っ恥をかくだろうがな」

 ナセル正教はナセル国だけの宗教だが、教皇を頂点とするディアナ教はクインツ国を初め周辺諸国が信仰している。王族であれば、教皇の許しが無いと結婚出来ない。もちろん異教との結婚など論外だ。

 ナセル正教と、ディアナ教は昔から犬猿の仲だ。過去には宗教戦争も起きたという。だがナセル国の勝利で終わった今、教皇が新たな戦争のきっかけを作り出せるほどの無茶をするとは思えなかった。

 何と言っても教皇には軍隊がない。周辺諸国に命じて軍を派遣する。信仰では絶大な権力を持っていても、武力となると途端に力を失う。脆弱な面もあった。

 エイドスは、くつくつと笑い続ける。

「それにな、クインツ国が属国になるとなったら教皇の奴、真っ先に手紙を寄越して来やがったぞ。どうかディアナ信仰を禁止しないでくれとな」
「うそ…」と、オリアーナ。
「さぁどうする。このまま俺に殺されて死に損するか、こうべを垂れて無様に謝罪して生き延びるか。選ばせてやるよ」

 オリアーナは呆然として座り込む。項垂れて、肩を揺らした。

 刃を下ろしたエイドスは、ソフィアに顔を向ける。

「怪我は?」
「え?…いえ、大丈夫です」
「あるのか無いのかを言え」
「ありません…」

 ソフィアはそっと首元に手を当てた。冷たい感触はあったが、切られてはいなかった。

 エイドスは大声で衛兵を呼んだ。軍人なだけに威圧感のある声で、身がすくみそうになる。オリアーナはあからさまに怯えて、ひたすらに背を丸めていた。



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