【完】前世で種を疑われて処刑されたので、今世では全力で回避します。

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対峙


 数日後、家令から客人の知らせを受けて応接間に赴く。

 名を聞いたが知らない名前だった。
 誰だろうと思い返しながら部屋に入ると、まさかの皇太子殿下だった。長椅子に座ってたが、エリザベスの姿を見て立ち上がった。

 なんで──?どうして…?

 エリザベスは扉の入口で立ち止まる。家令が客人の元へ、と声をかけてくるが、そんなことには構っていられなかった。

 何故こんなにすぐ会ってしまうのか、呪われている。

 お嬢様、と何度目かの呼びかけでエリザベスはしぶしぶ近づく。裾を広げ礼を取った。

「これは、お久しぶりでございます」
「母君の見舞いで来た」
「名乗ってもおりませんでしたのに、よくご存知でしたね」

 殿下は眉一つ動かさず、後ろに控えていた従者に視線を送った。
 エリザベスも家令に合図する。従者はうやうやしく見舞いの品を家令に渡した。本来ならエリザベス本人が受け取るべきなのだろうが、どうしてもそんな気になれなかった。

「馬車の紋章を見ればどこの家の者くらいかは分かる」

 と殿下は言った。馬車は帰宅する時にしか使わなかった。ということは、その時にどこからか盗み見していたのだ。

「母さまの見舞いでしたら、呼んできます」
「必要無い。お前に用があってきた」

 椅子を指差す。座れということらしい。客人に指示されながらも、エリザベスは従った。

「何歳だ?」
「…質問の意図が分かりません。この屋敷に辿り着いたなら、私のことも既にお調べてしょう」
「お前、本当に子どもか?随分と大人びているな」
「ませてますの」
 と、虚勢を張ってみる。
「自分でいうかそれ」

 くつくつと笑い出す。
 黙っていれば王子らしい爽やかな顔立ちなのに、笑い方は悪役のそれなのは昔からのようだ。

「エリザベス」

 彼は自然に名を紡いだ。実に傲慢な言い方だった。

「その黒髪も、青の瞳も実に好ましい。──私の妻になれ」

 血の気が引く。倒れてしまいそうになる。そんなことをしている場合じゃない。エリザベスは服を握りしめた。

「──お断りします」
「俺の身分を知っているだろう」
。私の母はやっと回復したばかり。なのにそれをダシに、ここにやって来て、婚姻話を当事者だけでしてしまおうなどと…不躾なお方ですこと。…スチュアート、お帰りです。お見送りして」

 は、と家令が皇太子を見やる。殿下はまだ笑みを浮かべていた。膝を叩いて立ち上がる。エリザベスも見送りのために一応、立ち上がった。

「遠路はるばる母のために見舞い品を届けてくださりありがとうございました。二度とお会いすることも無いでしょう。お元気で」
「…ははっ、私が望めばいつでも会えるぞ」
「無理をお通しになるのなら、その時は、命を断つ覚悟です」

 エリザベスの発言に、さすがの殿下も本気だと気づいたようだ。笑うのを止めて、探るようにじっと顔を見てくる。何故そこまで拒否されるのか、理解できないのだろう。

 この人と一緒になったらまた処刑される。そうなるくらいなら、自分から幕引きしたほうが、何倍もマシだ。

 スチュアート、と家令に帰ってもらうように告げる。家令の声がけに殿下はゆっくりと部屋を出ていったが、最後までエリザベスに不審な目を向け続けていた。
 
 一人きりとなって息をつく。胸は早鐘を打っていた。時を遡って半年でこの有り様。

 何か、前よりも恐ろしい目に遭ってしまいそうな…。
 嫌な予感がする。逃げ切れるだろうか。落ち着けようと胸を押さえた。

 不安とは裏腹に数年は静かに暮らした。あの一件以来、殿下が訪れることは無かった。


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