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社交界へ
十五の歳に社交界デビューを果たした。
前のときの記憶を振り返る。ガチガチに緊張して、ダンスの相手の足を何度も踏んでしまった。今思い出しても恥ずかしい。
でも二度目の今回はつつがなく夜会に参加出来た。当たり障りのない会話を楽しんで、ダンスも上手に踊れた。
踊り疲れたので、二階のバルコニーで休憩しようと階段を登る。すると後ろから小走りでやって来た少女たちが、エリザベスの脇を通り際、ドレスの裾を踏んでいった。
「きゃっ…!」
後ろに倒れそうになるのを、何とかこらえる。エリザベスの悲鳴を聞いて二人の少女は振り返った。
「あ…ごめんあそばせ」
「わざとではありませんのよ」
少女たちの顔に見覚えがあった。療養所でスープをぶち撒けてしまった、あの少女たちだった。あれから五年経っても、子供のように走り回る癖は抜けていないらしい。
少女たちはエリザベスを値踏みするように見ると、二人揃って丁寧なお辞儀をしだした。
「これは…申し訳ございませんでした」
「どうか、お許しください」
エリザベスは二人が余りにも仰々しい態度に目を丸くした。それからハッとする。
もしかして、私のこと気づいていない…?
向こうが気づかないのは仕方のないことだった。あの時は確かに、使用人と思われても仕方のない格好をしていた。
今はしっかりちゃんとしたドレスを着ている。エリザベスはスカート部分をそっと撫でた。
今回の夜会の女主人は倹約家で、木綿のドレスを着ている。エリザベスもそれにならって木綿のドレスにした。結い上げた黒髪の髪留め、ネックレス、耳飾りなどは東洋の翡翠を使っている。父が母のためにと、取り寄せた特に質の高いものだったが、今回の落ち着いた青のドレスには、これが似合うと母が譲ってくれた。
見た目は地味だが、見る人が見れば高価な物だと気づくだろう。
それに入場するときに紹介を受けている。エリザベスが伯爵令嬢だと知っているから、改まった態度を取ったのだろう。
二人は交互に自己紹介をしだした。彼女たちは共に子爵の娘だという。エリザベスは、あれ、と思った。
殿下は二人を下女だと言っていたけれど…。
それから思い直す。確かに殿下の立場から見たら、子爵の娘など下女なのだろう。実に傲慢な殿下らしい発言だと改めて思った。
にしても、とエリザベスは二人の姿をさりげなく観察する。
二人ともシルク生地に、それぞれ黄色とピンクのドレスを着ていた。ふんだんにリボンがあしらわれ、スカート部分は膨らんでいた。装飾もパールやらエメラルドやらごっちゃになって統一感がない。
若いのだから、これくらい派手にしても良かったのかもしれない。そんなに質も良くないものを使っているし、自分の年齢にはその方が合っていたのかもしれない。
かといって、あまり分別のない装いはしたくないものだ。二人にわざわざ指摘して不興を買う理由もなかった。
ささいなことがきっかけとなり、二人とエリザベスは一つのバルコニーで談笑した。夜には庭にも明かりが灯される。その明かりを見下ろしながら、エリザベスは二人の自慢話を聞いた。
「私たち、実は殿下の療養に同行したこともありましてよ」
「それはもう殿下は私たちを頼りにされて、名誉なことでしたわ」
口々にエリザベスに療養の事を明かしてくる。実際には療養途中で追い出されたことを知っていたが、エリザベスは二人の話を静かに聞いた。王族と繋がりがあることをチラつかせて、自分とお近づきになりたいという魂胆が見え見えだった。
「殿下は何のご病気だったのですか?」
と、聞いてみる。
「あ…えっと…」
「い、言えませんの。ほほ」
取り繕うような笑みに、エリザベスは聞かされていないのだと気づいた。
気にはなったが、もう五年は前の出来事。今さら知ったところでどうということはない。
殿下とはあれから何も無かった。思いがけない求婚に冷や汗をかいたが、向こうはとっくに忘れているだろう。エリザベスも出来ることなら忘れたかった。
エリザベスは二人に微笑んだ。
「お二人の話、とっても面白いわ。今日、始めて夜会に参加したものですから緊張していたの。お二人のお陰で大分やわらぎました。ありがとうございます」
礼を言うと、二人も嬉しそうに微笑み返した。
「まぁそんなこと言ってくださるの?嬉しいわ」
「私たち、良い友達になれそうね」
笑みを深くする。本当は五年前のことがあるから友達になどなりたくないが、例え気に入らない相手でも表向きは仲良くしておく。社交界はそういう所だ。どこでエリザベスの縁が舞い込んでくるか分からない。
──早くお相手を見つけて、婚約までこぎつけておかないとね。
婚約さえしておけば後は十八になるのを待つだけ。そうすればエリザベスは、因縁から完全に断ち切れたことになる。
殿下でなければ誰でもいい。出来れば優しい人がいいが、選り好みはよそう。
──エリザベスがバルコニーから去った後、二人は直ぐに話をしだした。
「ねぇ見ましたエリザベスさんの服」
「あのくすんだ耳飾りもね。イアハート伯爵家の大事な一人娘なのに、あんなみすぼらしい姿、貧乏なのかしら」
「そんなはずないわ。隣国での外交官を務めた伯爵様なのよ?きっと母親が不慣れなのね。だから娘もあんな格好なのよ」
くすくすと笑い合う。見当違いな密やかな声は、夜風に消えていった。
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