47 / 63
犯人
しおりを挟むアーサーとエリザベスの元に、王太后となったマルガレーテが訪ねてきた。
「これは母上。どうされた」
王太后の傍にはローズマリーが付き添っていた。足を悪くしたという王太后の為に、腕を取って支えていた。
ここは私室で、もう直ぐ乳母がセシルを連れてくる事になっていた。王宮では子供は乳母が育てる慣習だ。それでも、出来るだけアーサーはセシルと共に過ごせるように配慮してくれた。
エリザベスはそっと自分の女官に耳打ちをした。セシルと乳母がやって来たら隣の部屋で待機するように。女官は礼を取り知らせるために部屋を出ていった。
「いやね」王太后が言う。「随分警戒されてるのね」
「母上の過去の行いを鑑みた結果です」
「言っておきますけど、先王の毒殺は私ではありませんよ」
「そうでしたか。初耳です」
暗に、王太后が犯人だろうと告げる。王太后は持っていた扇子を投げつけた。
「何故私が自分の夫を殺さねばならないのですか!」
「自分の息子に毒を盛っておいてよく言う」
「動機がありません!」
「知るか。自分の胸に聞いて、俺にも教えてくれよ」
投げやりになってアーサーはネクタイを外す。エリザベスはネクタイを受け取った。
何の毒かは、調べが続いていたが、未だに特定されていない。
エリザベスは以前のやり取りを思い出していた。
『──おそらく犯人は母上では無い』
『それは…どうして?』
『毒の取り扱いは難しい。確実に殺そうとするなら慣れた毒を使うはず。母が俺に使ってきた毒ではなかった』
『では、誰が怪しいと?』
『前の時と現在、両方で生きていた人物だ。セシルは除外。レオンも生きていたが、当時は外遊していて不在だったから除外。母上も先の理由で除外。となると残っているのは──』
「ローズマリー嬢」
アーサーの声で、エリザベスは我に返る。
「母上の女官も嫌になってきたろう。いつ殺されるか分からんしな。母上に仕えるのをやめたらどうだ」
話を振られたローズマリーは、にこやかな笑みを崩さない。
「叔母上様は私を大事にしてくださいます。どこまでもお仕えするつもりです」
「いつまでも未婚では向こうにいる両親も気を揉んでいるだろう。相手を探してやろう」
「まぁ陛下、優しいのですね。でも私は、誰とも結婚するつもりはございません」
アーサーは鼻で笑う。
「私の愛人になるかと言ったら?」
思いがけない言葉にエリザベスがアーサーを見る。アーサーは澄ました顔でローズマリーを見ている。ローズマリーの表情は変わらない。
「ご冗談を。陛下には可愛らしい王妃さまがいらっしゃるではありませんか」
「お前は役に立つ。宮廷の華と言われているそうじゃないか」
「王妃さまを差し置いて、出過ぎた真似をいたしました」
「自覚があるなら自重しろ。王宮の支持を得て何を企んでいる」
答えようとするローズマリーを王太后が止める。
「何を勘違いしているの?」
王太后は冷たく言った。
「何を自重しろと言うの。企みなど何もありません。そこにただ立っているだけの王妃の力不足でしょうが」
視線はエリザベスに向けられている。
王太后はこう言いたいのだ。王宮の主としての役目を果たせていないと。ローズマリーの方が向いていると。
「そうは見えないから、こうして話をしているんだ」
「あなた方が戴冠式でダッカン国に行っている間、王宮のホステスを務めたのは、他でもないローズですよ。感謝こそされ、非難される言われは無いです」
「そうして見事、王宮での実権を握ったと」
「ああ言えばこう言う!もういいです。可愛い孫にも会わせてくれないんだもの。私はお払い箱ね」
王太后は嘆くように頭を振る。そのまま踵を返していった。
扉が閉まって、エリザベスはホッと胸を撫で下ろした。
「やはりあれくらいの揺さぶりでは、ローズマリーさんは尻尾を出しませんね」
「愛人にする気は無いぞ」
「知ってます」
「の割には随分動揺してたじゃないか」
「びっくりしただけです。もういいですから」
アーサーは使用人にセシルを連れてくるように言った。直ぐに隣から乳母に抱えられたセシルがやって来て、アーサーは抱き上げた。
「まーま」
「ぱーぱと言いなさい」
「まーま」
セシルは気まぐれだ。言葉を喋るようにはなっていたものの、喋らないときは喋らない。気がついたらどこまでも走ってしまうから、掴まえるのが大変だった。
「何にしろ、母上にくっついてる時点で、我々もローズマリーには手を出せない。何か決定的な証拠を見つけないと」
「この国の実権を握ろうと考えているのでしょうか。でも、いくら王太后さまが後ろ盾となっても、女性一人では国を治められません」
「俺と瓜二つだが、グレア人だしな。目的が分からないな」
いろいろと話をしても、全ては憶測だった。ローズマリーが犯人という証拠は一つもない。他にも黒幕がいるのかもしれないが、とにかく王太后とローズマリーの力を削ぐのに注力しなければならない。
アーサーが声を上げる。セシルに耳を思いっきり引っ張られて悶えていた。エリザベスは考えるのを止めて、二人に近寄った。
98
あなたにおすすめの小説
虐げられてる私のざまあ記録、ご覧になりますか?
リオール
恋愛
両親に虐げられ
姉に虐げられ
妹に虐げられ
そして婚約者にも虐げられ
公爵家が次女、ミレナは何をされてもいつも微笑んでいた。
虐げられてるのに、ひたすら耐えて笑みを絶やさない。
それをいいことに、彼女に近しい者は彼女を虐げ続けていた。
けれど彼らは知らない、誰も知らない。
彼女の笑顔の裏に隠された、彼女が抱える闇を──
そして今日も、彼女はひっそりと。
ざまあするのです。
そんな彼女の虐げざまあ記録……お読みになりますか?
=====
シリアスダークかと思わせて、そうではありません。虐げシーンはダークですが、ざまあシーンは……まあハチャメチャです。軽いのから重いのまで、スッキリ(?)ざまあ。
細かいことはあまり気にせずお読み下さい。
多分ハッピーエンド。
多分主人公だけはハッピーエンド。
あとは……
王命って何ですか? 虐げられ才女は理不尽な我慢をやめることにした
まるまる⭐️
恋愛
【第18回恋愛小説大賞において優秀賞を頂戴致しました。応援頂いた読者の皆様に心よりの感謝を申し上げます。本当にありがとうございました】
その日、貴族裁判所前には多くの貴族達が傍聴券を求め、所狭しと行列を作っていた。
貴族達にとって注目すべき裁判が開かれるからだ。
現国王の妹王女の嫁ぎ先である建国以来の名門侯爵家が、新興貴族である伯爵家から訴えを起こされたこの裁判。
人々の関心を集めないはずがない。
裁判の冒頭、証言台に立った伯爵家長女は涙ながらに訴えた。
「私には婚約者がいました…。
彼を愛していました。でも、私とその方の婚約は破棄され、私は意に沿わぬ男性の元へと嫁ぎ、侯爵夫人となったのです。
そう…。誰も覆す事の出来ない王命と言う理不尽な制度によって…。
ですが、理不尽な制度には理不尽な扱いが待っていました…」
裁判開始早々、王命を理不尽だと公衆の面前で公言した彼女。裁判での証言でなければ不敬罪に問われても可笑しくはない発言だ。
だが、彼女はそんな事は全て承知の上であえてこの言葉を発した。
彼女はこれより少し前、嫁ぎ先の侯爵家から彼女の有責で離縁されている。原因は彼女の不貞行為だ。彼女はそれを否定し、この裁判に於いて自身の無実を証明しようとしているのだ。
次々に積み重ねられていく証言に次第に追い込まれていく侯爵家。明らかになっていく真実を傍聴席の貴族達は息を飲んで見守る。
裁判の最後、彼女は傍聴席に向かって訴えかけた。
「王命って何ですか?」と。
✳︎不定期更新、設定ゆるゆるです。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?
こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。
「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」
そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。
【毒を検知しました】
「え?」
私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。
※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです
お父様、お母様、わたくしが妖精姫だとお忘れですか?
サイコちゃん
恋愛
リジューレ伯爵家のリリウムは養女を理由に家を追い出されることになった。姉リリウムの婚約者は妹ロサへ譲り、家督もロサが継ぐらしい。
「お父様も、お母様も、わたくしが妖精姫だとすっかりお忘れなのですね? 今まで莫大な幸運を与えてきたことに気づいていなかったのですね? それなら、もういいです。わたくしはわたくしで自由に生きますから」
リリウムは家を出て、新たな人生を歩む。一方、リジューレ伯爵家は幸運を失い、急速に傾いていった。
【完結】キズモノになった私と婚約破棄ですか?別に構いませんがあなたが大丈夫ですか?
なか
恋愛
「キズモノのお前とは婚約破棄する」
顔にできた顔の傷も治らぬうちに第二王子のアルベルト様にそう宣告される
大きな傷跡は残るだろう
キズモノのとなった私はもう要らないようだ
そして彼が持ち出した条件は婚約破棄しても身体を寄越せと下卑た笑いで告げるのだ
そんな彼を殴りつけたのはとある人物だった
このキズの謎を知ったとき
アルベルト王子は永遠に後悔する事となる
永遠の後悔と
永遠の愛が生まれた日の物語
妹に傷物と言いふらされ、父に勘当された伯爵令嬢は男子寮の寮母となる~そしたら上位貴族のイケメンに囲まれた!?~
サイコちゃん
恋愛
伯爵令嬢ヴィオレットは魔女の剣によって下腹部に傷を受けた。すると妹ルージュが“姉は子供を産めない体になった”と嘘を言いふらす。その所為でヴィオレットは婚約者から婚約破棄され、父からは娼館行きを言い渡される。あまりの仕打ちに父と妹の秘密を暴露すると、彼女は勘当されてしまう。そしてヴィオレットは母から託された古い屋敷へ行くのだが、そこで出会った美貌の双子からここを男子寮とするように頼まれる。寮母となったヴィオレットが上位貴族の令息達と暮らしていると、ルージュが現れてこう言った。「私のために家柄の良い美青年を集めて下さいましたのね、お姉様?」しかし令息達が性悪妹を歓迎するはずがなかった――
婚約破棄は別にいいですけど、優秀な姉と無能な妹なんて噂、本気で信じてるんですか?
リオール
恋愛
侯爵家の執務を汗水流してこなしていた私──バルバラ。
だがある日突然、婚約者に婚約破棄を告げられ、父に次期当主は姉だと宣言され。出て行けと言われるのだった。
世間では姉が優秀、妹は駄目だと思われてるようですが、だから何?
せいぜい束の間の贅沢を楽しめばいいです。
貴方達が遊んでる間に、私は──侯爵家、乗っ取らせていただきます!
=====
いつもの勢いで書いた小説です。
前作とは逆に妹が主人公。優秀では無いけど努力する人。
妹、頑張ります!
※全41話完結。短編としておきながら読みの甘さが露呈…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる