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毒酒
しおりを挟む国王陛下の崩御に伴い、盛大な葬儀が営まれた。それに伴いアーサーが王に、エリザベスは王妃となった。即位式はアーサーの指示で簡素に行われ、戴冠式も身内だけで吉日を選んで後日、執り行うことになった。全てがあっという間で、矢のように慌ただしく過ぎ去っていった。
前国王は急死だった。毒殺だった。ワインに毒が入っていたという。検分した医師から話を聞いていたアーサーは、直ぐにそのワインを持ってくるように言った。
運ばれてきたワインのラベルを確認し、蓋を開ける。その匂いを嗅ぐと、グラスにワインを注ぎ、何と飲み始めた。
「アーサー!!」
エリザベスはグラスを払おうと手を伸ばす。だが間に合わなかった。
「アーサー!吐いて!吐いて!」
エリザベスは力の限り彼の背中を叩く。アーサーは直ぐにグラスに口に含んだワインを戻した。口を拭って、うなだれるように、ワインに目を落としている。
「アーサー…」
「──ははっ」
肩を震わせたかと思えば、アーサーは顔を上げて笑い出した。この状況にそぐわない快活な笑い方だった。
狂ったような姿に、エリザベスと同席する医師も、どう対応すればいいものか、言葉をかけあぐねた。
アーサーはひとしきり笑い終えると、大きく息を吐いた。
「──リズ」
「は、はい」
「これだ。探していたが、向こうからやって来た」
アーサーが何を言っているのか分からなかった。また彼がワインのボトルを手に取ったので、エリザベスはまた飲みやしないかとひやひやした。
「間違いない。この味だ」
「…どういう…?」
「俺を殺した毒だ」
「え…?」
「このワインに毒を入れた奴が、俺を殺した犯人だ」
殺した。まさか、前の時にアーサーの死因となった毒入りワイン。それが、今まさにここにあるなんて。
「セシルじゃなかったんだ。あの子が、そんな大それたこと出来るわけがない」
噛みしめるように、自分に言い聞かせるようにアーサーは静かに言った。
医師は水の入ったグラスをアーサーに手渡した。
「直ぐにゆすいでください。少量でも体内に入ればお体に障ります」
「これの毒の種類を直ぐに特定しろ。大抵は知ってるが、これは知らない味だ。おそらくはこの大陸に自生している毒ではないだろう」
「は。しかし、大陸のものでないとすると、私の手に負えません」
「私のツテを使う。毒を小分けにしてくれ。毒の保管を任せる。私以外に決して触らせるな」
アーサーがいつまでも口をゆすがないので、エリザベスが促す。それでようやくグラスに口をつけた。
医師を下がらせる。
二人きりになった部屋で、アーサーはエリザベスの両手を握る。
「──リズ、こんなに早く王位が転がり込むとは思わなかった。君とセシル。出来れば王宮に置きたくないんだが」
「アーサー…陛下、私たちが王宮に不在というわけにはまいりません。セシルは私が守ります。どうか、真相を解明してください。それが貴方のためにも、先王の弔いにもなります」
自分の父親が毒殺されたというのに、アーサーは涙も、悲しむ素振りも見せない。王になったとことで、たとえ二人きりだとしても、見せられなくなったのだろう。
アーサーの代わりに、毒殺された先王。きっとアーサーは自分を責めている。エリザベスはそっと身を寄せた。
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