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しおりを挟む昼間は暖かくても、夜はぐっと冷え込む。ソルは気を遣って上着をもう一枚用意してくれた。羽織りながら、ため息をつく。何度めかのため息。気分が沈んでいるアンを気遣って、ソルはハーブティーを用意してくれた。
ベットに入る気にはなれず、窓から外を眺める。お行儀が悪いのを承知で、立ったままカップを口につける。程よく冷ましてくれていて、香りの良さに気分が落ち着く。ただ、それは一瞬のことで、またため息をつく。
テオがやって来るのが怖かった。指摘でもされたらと思うと、アンは恥ずかしさよりも情けなさが勝ってしまう。
テレンスとは一度も褥を共にしたことが無かった。
初夜でさえ、テレンスは自室に引っ込んでしまった。先々代に無理やり決められた縁組に反抗したのもあったし、テレンス自身、最初からアンを毛嫌いしていた。
この体は男を知らず今日まで来てしまった。王妃としての役目を果たせていたら、今頃は一人や二人、子を授かっていて、こんなことにはなっていなかったかもしれない。
二夫にまみえて、今夜、もしかしたら自分は女になるのかもしれない。怖いのにかすかな期待もあって、なんだか不思議な気持ちだった。
先に寝るようにという言いつけに従ってベットに潜り込み目を閉じてみる。昨日よりは慣れた褥。アンはうとうとしだして、夢の中に落ちていった。
ベットが深く沈んで、目を覚ます。テオがこちらを覗き込んでいた。目があうと、彼は身を引いた。
「すまん。起こしたか」
ひっそりとした声だった。彼は手燭を消して、ベットに入り込む。アンは隅によった。
「…お疲れのご様子。お休みください」
「ああ」
テオはアンの体を引き寄せた。体を強張らせるアンの気持ちなど知らず、彼は背中から抱きしめて、ぴったりとくっついた。腹に腕が回され、下手に動けない。アンは一気に緊張し、心臓が早鐘を打っていた。
テオの息を吐く音。深く息を吐いて、それから静かな呼吸音になる。寝息だと気づいたのはしばらくしてからだ。相当疲れていたのだろう。こんな態勢で寝れるのだろうか。ぐるぐる考えて、その日は眠れなかった。
朝方、テオがむくりと起き出した。アンは顔を向けた。見ると彼はあぐらをかいて、うなだれるように額に手を当てていた。
「お加減が悪いのですか?」
アンの問いにテオが顔をあげる。細めた目から、笑っているように見えた。
「ずっと同じ体勢で寝てたから、首をひねった」
「医師を呼びましょうか?」
「これぐらいで?」
「陛下はこの国を統べるお方でごさいますから」
テオはくつくつと笑い出した。そんなにおかしなことを言ったつもりは無いのだが。アンも起き上がって、テオと視線を同じくした。
「ずっと固い寝台で寝てたからな。こんな、柔なベットは慣れない」
「でしたら…替えますか?陛下の好みのものに」
「そのうち慣れるさ。アン、二人きりなんだ。名で呼んでくれ」
テオに促され、名を呼ぶ。テオは優しく微笑んだ。
「君は処女か?」
突然の問いに、アンは口をつぐんだ。
「重要なことだ。教えてくれ」
気遣うような優しい声音。アンは観念して小さく頷く。
「…テレンス様は、私とは褥を共にしたくないとおっしゃられて…そのまま」
「相当、嫌われていたようだな」
「そのようです」
貧弱、醜女。顔を見せるなと会うたびに言われて、最初は傷ついたが、次第に何とも思わなくなった。
両手を握られる。逃げないでくれと囁かれて、口が合わさる。昨日と同じように舌が入ってきて絡まる。全く慣れないアンは、本能的に逃げようとしてしまった。テオはその分、距離をつめた。
水音が響き渡る。聞いたことのない音。二人で出しているのだと思うと、恥ずかしくなる。
やがて離れる。解放されて、まともに息が出来なかったアンは、深く息を吸って吐いた。
「ベットはこれでいい」
テオはアンの頬を撫でながら言う。
「あんまり固いと体を痛めてしまうかもしれない」
それはおそらく、これからの行為に対して言っているのだと思った。
「あの…テオ様…」
テオは額に口づけした。
「ここまでな。今日は大使との謁見がある。わざわざ体調を悪くするような真似をする意味がない」
「体調…悪くなるんですか?」
「聞いていないのか?」
アンは無知を恥じた。輿入れ前、母からはただ殿方に任せておけばいいとしか言われていなかった。
「…破瓜、聞いたことあるか?」
「はか?」
テオは黙ってしまった。アンはますます恐縮する。
「すみません…私、ごめんなさい」
「気にするな。ただ、男からは説明しづらい。かと言ってアンが今更、侍女から教えてもらうのも気が引けるだろう。その時が来たら話すから、心配しなくていい」
テオはベットを下りる。モーニングティーを貰ってくるという。一人残されて、アンは心細かった。
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