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21・魅惑のアロマは、人を虜にする
しおりを挟むリュースの魔力は、普通の人族の五倍はある。召喚勇者だったアレクと比べても遜色ないほどで(まぁ、アレクは剣戦士特化ですし)、その魔力の多さが瞳の紅色を濃くしているらしい。なるほど。こんな部分が魔族呼びされるゆえんかな。今までは、生活魔法と薬草栽培や薬作りにしか使わなかった魔力を、今度は私の指導の元で魔法使いとして使う修行をした。
私が魔法を使う場合の基本は、ほとんどがイマジネーションだ。無詠唱でスキル名だけで発動できるのは、過去の魔女の叡智と記憶だけれど、その威力を生み出しているのはイメージ。他の魔法使いや魔術師は、呪文や方陣に込められた文言だけで発動展開している。文言が『マッチ一本分の火』と書いてあれば、それだけしか威力を発揮しない。でも、私の場合は同じスキル名の魔法で、『たき火の火』をイメージして放てば、そのイメージ通りの炎が飛んで行く。ただし、そのスキル名に込められる魔力の上限が決まっているので、それ以上の威力にするには上位魔法を覚えなくっちゃならない。
この世界の魔法使いたちは、スキルに魔力上限があることや、その上限内で文言を変えて威力マシマシできるって知識がないんだ。同じ呪文や方陣を、ずっと伝えているだけだから。
なので、私はリュースにそれを重点的に教え込んだ。マッチやライターなんて物の無い世界だから、イメージにはこの世界にある物を伝えた。火で例えるなら、竈の火・たき火・山火事・火山…。それが上手く行った所で、今度は属性確認をして、得意な属性の下位魔法を徹底的に訓練させた。生まれつき持っていた水と火の他に、その方法で風と土が属性として生えた。
ところで、件の収納庫はなんとギフトだった。これが時空属性加護のギフトだったりスキルの時空属性だったりしたなら、上位スキルを覚えさせて、自身で転移したり、亜空間倉庫を作ったりできたのにー。
それでだ。たくさん覚えた魔法を、修行では攻撃に使っていたリュースは、日常では主に植物栽培とコーヒー焙煎に使ってばかりいまして。一緒に狩りに行こうと誘っても、つめ―たい目でチラ見して「狩りはアズがやってくれるって約束だよね?」と背を向ける。…ルードが誘えば行く癖にっ!
そんな日々の中で出た、コーヒー豆販売の話し。
「そんじゃ、ドミさんの店に売り込みに行きましょ」
「行こうって、僕も行くの?」
「もちろん!コーヒーはリューの担当だしね。で、営業にはこれを」
アルセリアのスーミルへ行くことに不安顔のリュースに、魔晶石のイヤーカフを渡した。
「これは…」
「【偽装】の魔道具よ。目も髪も好きな色に変えられるわよ。私以上のLvの人しか見破れないし」
偽装や擬態は精神防御魔法の一種(結界は全防御魔法)で、属性は光だ。この光と闇と時空属性は修行しても取得は無理。ギフトか生まれつきスキル持ちの人にしかない。そして、下位スキル持ちなら市井で暮らしているけれど、上位スキル持ちは宗教関係者か最高権力者お抱えになっている。そんな人たちに出会わない限りは、そうは簡単にバレないのさ。
受け取ったカフを戸惑いながら耳につけ、洗面所へ飛んで行った。少しの間を過ごし、戻って来たリュースは、小麦色の髪に琥珀色の目をした、極ありふれた兄ちゃんになっていた。
「なーんか、普通すぎ~~~」
「普通がいいの!」
「ええ~~~!私なんか、最近じゃ地色の黒い髪で通してるよ?目は榛色だけど」
「なら…これ」
髪がコーヒー色に…。さらに地味じゃないかっ。
「コーヒーの商談の時はそれにして、遊びに行く時はもっと派手にしよーねぇ」
「遊びには行きません!」
「マジメかーーーーっ!!若者なら、もっと弾けろ!!」
「弾け過ぎて、アレクやアズみたいな大人になりたくない!!」
――――――ぷっ。
……負けました。
そんなマジメ君のリュースだけれど、その夜は自室でこっそり色々変身を試していたのには、気づいていた。年頃の男の子だね~。魔族と貶されるその眼を嫌っている訳じゃないだろうけど、やはり厭なめにあった時には恨んだろうし、色が変えられればと何度も思っただろう。それが実現したんだ。それも自分の魔力が尽きない限り、魔道具は術を継続してくれるから安心だろう。
翌朝、私たちは売り込みに行く用意をし、【空間門】を潜った。今回、ルードはアレクと樹海の反対側へ探索する約束をしていたとかで、朝からおでかけ。いつの間に、そこまで仲良くなったんだ。命のやり取りをして固まった、男同士の友情とか言うなよ!キモチワルイから!あそこまでやられたら、私なら七代祟る自信がある!
おっと、話が逸れた。そんな訳で、今回はリュースと二人でお出かけです。
リュースの手には、庭で咲かせた花束。お祖父さんのお墓参りも兼ねての、スーミル行きだ。
以前のままの小屋をそっと出て、人目が付かないように小屋の裏にあるお墓に花を添え手を組むリュースの、祈る姿を後ろで黙って眺めていた。お祖父さんとの長い語らいを終えて、満足げに微笑んだ彼の肩を叩いて、村から外れた小道を通って街道へと出た。
スーミルへ向かって歩きながら、簡単な打ち合わせと買い物の計画を立てる。もうね、牡蠣醤とフォマージ無しでは生きていられない人達ばかりなり。ルードに至っては、自分用のフォマージを買って来いと、餞別の大型魔石をいくつか持たされた。
楽しく徒歩でスーミルの門を通り過ぎると、傍らのリュースが足を止めて少し緊張気味に都の大通りを眺めていた。感慨深げに見回しながら、私の先導でミドさんのお店へ向かった。ところが、ミドさんはフォルゲン商会本店に居るとかで、リュースの案内でそちらへお邪魔した。
「こんにちは!お久ぶりです」
「おおっ、あなたは!魔導士のアズさん!」
「覚えていて下さって、ありがとうございます」
「いえいえ、印象深いお人でしたから。おほっほっ」
太鼓腹のドミさんは、あの明るい笑顔で私たちを出迎えてくれた。応接の間に通され、お茶をご馳走になる。
「今回も観光に?」
「いえ、今回は私の弟子のリュースと共に、フォルゲン商会へ売り込みに伺った次第です」
私の紹介で、緊張しきったリュースが胸に片手を置いてぎこちなく頭を下げた。
「ほう―――北の魔導士様が。で、一体何を?」
先ほどまでの人の好さそうなオジサンの形は消えて、唇は微笑んでいるが細い眼に鋭さが加わった。
「まずは、お茶のカップと沸かしたての湯をポットごとと空の茶用ポットを持って来てくださいますか?」
「……飲み物…新しいお茶でしょうかな?」
呟きながら立ち上ってドアを開け、廊下の奥へと声をかける。すぐに飛んで来た従業員にお湯とカップを頼んで、また元の席へと戻って来た。
「各国に支店を持つ大商人のドミさんのことですから…噂くらいはお耳にしているかもと」
私はリュースに合図を出して、広いテーブルの上に挽いたコーヒー粉とドリッパー一式を出してもらった。その時点で、すでに良い香りがする。
強い商売人の顔が、興味津々に変わった。香ばしい良い香りと珍しい器機。どれをとっても商人なら無下にはできないだろう。それは、リュースが受け取ったポットからドリッパーにお湯を回し入れ始めた瞬間に、全てが決定した。
部屋中に漂うアロマが、ドミさんを魅了した瞬間だった。
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