45 / 90
44・汚物に手を突っ込むのは、覚悟がいる
しおりを挟むどうにか整理が終わったのは、真夜中だった。
こんな時、PCがあればなーと思ってしまうのは地球育ちの研究員をやってたせい―――ーいや、現代地球人だったからだな。
この世界には、統一された年代を表す方法がなく、国ごとに固有の年暦が使われている。それだけに国別を取っ払っての整理には、とにかく年代を合わせるのがネックになった。微妙に被る記述を見つけ出してそこへ纏める、なんてことを手作業でやってると…物が物だけに、何度も途中で奇声を発して紙の山へ突っ込んで撒き散らしたくなった。そこをぐっと堪えて、自身を鼓舞して続けた。
「今度はまとめだなぁ…今夜はもう寝よう!」
ごりごり気力体力を削られる仕事には慣れていると思っていたけれど、これは慣れたらアカン奴だった。気づけば、使い慣れない脳がショートして、すでに脱落していたアレクが転がって高いびきだった。それに毛皮をかけてやり、その日は誰も文句なく就寝した。
翌日は、午前中にリュースが配達に出かけ、私はリリアの服の調達と部屋の相談に終始した。
カーバンクルのお爺ちゃんと話したんだが、二人には開いている客間に入ってもらおうかと思っていたら、今のリリアは四角くく狭い部屋へ入ると恐怖が蘇るようだと伝えられた。居間の様に広くて扉で仕切られてなく、絶えず誰かの行き来がある空間ならば安心できるらしく、扉を閉めた二人きりの空間は受け付けないらしい。
それならばと、ソファセットを部屋の隅に移し、空いた場所へ高さの低い大き目のベッドを置いてみた。 そこに大小さまざまなクッションと毛皮の掛物を置き、お爺ちゃんに移動してもらった。その後ろを弱々しいながらもテトテト歩いてついて来て、ぽふりとベッドにダイブして、その心地よい柔らかさに嬉しそうな微笑みを見て安堵した。
「リリアとお爺ちゃんは、今夜からここで寝てね?」
「はーい」
手を上げて返事をする幼女に悶えた。その様子にお爺ちゃんも目を細めている。
「じゃ、その前にリリアはお風呂と着替えをしよう」
「…おふろ?」
「うん。体と髪の毛を洗って綺麗にしようね」
「…ぬしさまも?」
「そうじゃな…儂も一緒に入ろうかのぅ」
このジジィっ子めっ。かわええ!
バスルームに連れて行って、身体を洗ってやりながら聞いた話しでは、小さい頃にいた侍女に盥の中で洗ってもらった記憶が朧にあるが、それ以降はカーバンクルを見に来た魔術師らしい者が【清浄】を掛けて行くだけで、お風呂自体初めて見たそうだ。
湯船に恐る恐る手を入れ、それがお湯だと知って驚き、お爺ちゃんが入って誘うとようやく入ってくれた。拙い話し方で、途切れ途切れに地下での話をし出したリリアに、私は黙って笑顔を向けて頷くだけだった。
ほこほこに暖まり綺麗になったリリアとお爺ちゃんに魔法で温風を掛けて乾かし、用意しておいた子供用の下着と服を着せた。持っていた男児用服を錬金でサイズダウンし、少しだけだぶついたが動きやすい上下にした。
午後からは、帰って来たリュースにお願いして庭や畑に連れ出して外を満喫させ、昼寝に入らせた。
私は一人でツリーハウスに戻り、儀式の様にペンを片手に最初の紙の束を手に取った。
よし!腹は括った。覚悟は決まった。では、参る!
始まりは、旧パレスト王国時代の戦争手記だった。城勤めの文官がまとめた私文らしく、日誌のような物だった。
敵の軍勢が首都に入り込んで市街戦が始まり絶体絶命になったその時、城の奥の祈りの間で数人の王専魔術師が第二王子と共に召喚術を使った。現れたのは奇妙な服装をした青年で、開口一言「任せろ」だった。そこから圧倒的な蹂躙が始まり、王都に攻め込んでいた敵軍はあっという間に返り討ち。その勢いで残った兵達を率いて押しに押し、最上級魔法を連発して敵を駆逐し、敵国領土を奪い取ったらしい。
その頃、異界からの召喚は各国暗黙の合意で禁忌となっていたが、敵が王族を立て続けに呪殺し、無抵抗の平民を虐殺しながら王都に攻め入ったことで、第二王子は禁忌を破って召喚を命じた。現れた青年は、自らを神の代弁者・聖人であると称し、第二王子を戴冠させ王国の復興を買って出た。その際、女神ファルシェを崇めよとお触れを出し、大聖堂の建設を指示。聖人である本人は、民衆を癒すために辺境から順に巡幸を始めた。昼は病人やけが人を癒し、夜は徘徊する盗賊や敵兵が落ちぶれて夜盗になった罪人を狩り、怪しい者は片っ端から捕らえて牢獄に押し込めた。
この辺りで、別の文官と魔術師の書いた報告書が何枚も重なった。
国家魔術師が聖人の教えに従い、何らかの術を開発・実験。それが別の人物を異界から呼ぶための召喚陣らしく、何度か召喚しては失敗し、呼ばれた物を処分している。それが人かモノかは書かれていない。
ある日、聖人が巡幸のおりに奇妙な人族を捕えて来た。目は赤く魔力が国家魔術師を凌ぐ量を持つ異質者で、聖人の命令で同じ資質を持つ者を国中から集め、人里離れた場所に集落を構えさせた。蔑まれていた者達は、穏やかな生活環境を与えてくれた聖人に感謝し、暮らし始めた。
監視下に置いた集落で、目立つ魔力量を持つ者を聖人の従者と言う名目で王城へ連れ帰り、遅々として進まなかった召喚術の実験に使った。成功したことで、魔力量の差が原因だと結果が出る。
ある年、他国の使者との会見で聖人は魔女の存在を知る。西で起きた長雨による災害に手を貸し、天候すら自由に操る術者であると聞き及び、身分を隠して会いに行くが居場所が分からず会えずに終わる。そこから執拗に魔女の情報集めを始める。魔女の出現国へ使者をやり、仔細を語らせて報告させる。使者だけじゃなく密偵を放ち、魔女の行方を探らせたりしている。
聖人は魔女狩りを計画する。
召喚した勇者の強さを確かめるため。そして、捕らえた魔女の魔力を奪うため。
4
あなたにおすすめの小説
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
聖女の紋章 転生?少女は女神の加護と前世の知識で無双する わたしは聖女ではありません。公爵令嬢です!
幸之丞
ファンタジー
2023/11/22~11/23 女性向けホットランキング1位
2023/11/24 10:00 ファンタジーランキング1位 ありがとうございます。
「うわ~ 私を捨てないでー!」
声を出して私を捨てようとする父さんに叫ぼうとしました・・・
でも私は意識がはっきりしているけれど、体はまだ、生れて1週間くらいしか経っていないので
「ばぶ ばぶうう ばぶ だああ」
くらいにしか聞こえていないのね?
と思っていたけど ササッと 捨てられてしまいました~
誰か拾って~
私は、陽菜。数ヶ月前まで、日本で女子高生をしていました。
将来の為に良い大学に入学しようと塾にいっています。
塾の帰り道、車の事故に巻き込まれて、気づいてみたら何故か新しいお母さんのお腹の中。隣には姉妹もいる。そう双子なの。
私達が生まれたその後、私は魔力が少ないから、伯爵の娘として恥ずかしいとかで、捨てられた・・・
↑ここ冒頭
けれども、公爵家に拾われた。ああ 良かった・・・
そしてこれから私は捨てられないように、前世の記憶を使って知識チートで家族のため、公爵領にする人のために領地を豊かにします。
「この子ちょっとおかしいこと言ってるぞ」 と言われても、必殺 「女神様のお告げです。昨夜夢にでてきました」で大丈夫。
だって私には、愛と豊穣の女神様に愛されている証、聖女の紋章があるのです。
この物語は、魔法と剣の世界で主人公のエルーシアは魔法チートと知識チートで領地を豊かにするためにスライムや古竜と仲良くなって、お力をちょっと借りたりもします。
果たして、エルーシアは捨てられた本当の理由を知ることが出来るのか?
さあ! 物語が始まります。
お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~
みつまめ つぼみ
ファンタジー
17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。
記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。
そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。
「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」
恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!
失われた力を身に宿す元聖女は、それでも気楽に過ごしたい~いえ、Sランク冒険者とかは結構です!~
紅月シン
ファンタジー
聖女として異世界に召喚された狭霧聖菜は、聖女としての勤めを果たし終え、満ち足りた中でその生涯を終えようとしていた。
いや嘘だ。
本当は不満でいっぱいだった。
食事と入浴と睡眠を除いた全ての時間で人を癒し続けなくちゃならないとかどんなブラックだと思っていた。
だがそんな不満を漏らすことなく死に至り、そのことを神が不憫にでも思ったのか、聖菜は辺境伯家の末娘セーナとして二度目の人生を送ることになった。
しかし次こそは気楽に生きたいと願ったはずなのに、ある日セーナは前世の記憶と共にその身には聖女としての癒しの力が流れていることを知ってしまう。
そしてその時点で、セーナの人生は決定付けられた。
二度とあんな目はご免だと、気楽に生きるため、家を出て冒険者になることを決意したのだ。
だが彼女は知らなかった。
三百年の時が過ぎた現代では、既に癒しの力というものは失われてしまっていたということを。
知らぬままに力をばら撒く少女は、その願いとは裏腹に、様々な騒動を引き起こし、解決していくことになるのであった。
※完結しました。
※小説家になろう様にも投稿しています
「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます
七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。
「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」
そう言われて、ミュゼは城を追い出された。
しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。
そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……
強制力がなくなった世界に残されたものは
りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った
令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達
世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか
その世界を狂わせたものは
召喚失敗!?いや、私聖女みたいなんですけど・・・まぁいっか。
SaToo
ファンタジー
聖女を召喚しておいてお前は聖女じゃないって、それはなくない?
その魔道具、私の力量りきれてないよ?まぁ聖女じゃないっていうならそれでもいいけど。
ってなんで地下牢に閉じ込められてるんだろ…。
せっかく異世界に来たんだから、世界中を旅したいよ。
こんなところさっさと抜け出して、旅に出ますか。
義妹の嫌がらせで、子持ち男性と結婚する羽目になりました。義理の娘に嫌われることも覚悟していましたが、本当の家族を手に入れることができました。
石河 翠
ファンタジー
義母と義妹の嫌がらせにより、子持ち男性の元に嫁ぐことになった主人公。夫になる男性は、前妻が残した一人娘を可愛がっており、新しい子どもはいらないのだという。
実家を出ても、自分は家族を持つことなどできない。そう思っていた主人公だが、娘思いの男性と素直になれないわがままな義理の娘に好感を持ち、少しずつ距離を縮めていく。
そんなある日、死んだはずの前妻が屋敷に現れ、主人公を追い出そうとしてきた。前妻いわく、血の繋がった母親の方が、継母よりも価値があるのだという。主人公が言葉に詰まったその時……。
血の繋がらない母と娘が家族になるまでのお話。
この作品は、小説家になろうおよびエブリスタにも投稿しております。
扉絵は、管澤捻さまに描いていただきました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる