万年ネタ切れ作家、勇利愛華の邪推録

さいだー

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身勝手な予告状4

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 講義も昼過ぎからだし、と少し遅めに設定していたアラームより先に、スマホが着信音を鳴らした。

 当然、まだ眠についていた私は着信音で目を覚ましたのだけど、画面を見る気にはなれなかった。

 きっと担当編集からの催促の電話に違いない。
 そう思った私は、着信に気がつないふりをして、再度目を閉じた。

 タンッタンッタンッタンタタタタン、タンタンタンタンタン━━━━━

 いつもならすぐに鳴り止むはずの着信音はいつまで待っても鳴り止まない。

 担当編集もついに業を煮やしたのか……

 やはり先にプロットに手を付けないとダメかも……と考えながら、スマホに手を伸ばす。

「えっ……汐音?」

 電話を掛けてきていたのは予想外の人物、奏汐音だった。


 昨日相談された事を思い出しつつ、画面に標示された応答をタップして、スマホを耳に当てると、興奮気味な声で汐音はまくしたてるように言った。


「あー、やっと出てくれた。愛ちゃん!大変な事になったの!今すぐに出てこれる!?出てこれるよね!先にカフェで待ってるからすぐに来て!」

 そして、私の返答は聞かずにすぐに通話を終了させた。



「はー、汐音はこれだから……」

 汐音は昔からいつもこうだ。身勝手で、一方的で、押し付けがましくて……杉浦君も苦労してるんだろうな。

 上体を起こして姿見を覗き込むと、髪が爆発していた。

 少し時間かかるかもとメッセージを送って、スマホの電源を落としてベットの上に放り投げてからお風呂場へと向かった。



 汐音から連絡を受けてから一時間後、私はカフェに到着した。

 那奈の引きつった笑顔で迎え入れられると、いつもの席へ通された。

 いつもの私の席の隣の席には肩をいからせた汐音が座っていた。

 後ろ姿からして、威圧感を放っているけど、これが那奈の笑顔が引きつっていた理由か。

 私はあえてこう声を掛けながら席に座る。

「考えうるべき最速で到着したわよ。むしろ褒めて欲しいくらいね」

 睨め付けるような視線が私を襲うけど、可愛らしい顔つきの汐音では迫力にかける。

 いつも大人の担当編集に詰められている私からしてみれば取るに足らない。

「本当に大変な事になっているのに、緊張感が足りてないよ!」

 開幕、汐音は私を叱責してきたのだけれど、何のことかわからない私はクエスチョンマークが頭上に浮かぶ。

「送った写真!まさか見てくれてないの!?」

 スマホの電源を切っていた事を思い出して、スマホを鞄から取り出そうとして、ベットの上に置きっぱなしにしてきてしまった事に気がついた。


「ごめん。スマホ忘れた」


 汐音はムーと口をすぼませて不満をあらわにするも、スマホを操作して、私に差し出してきた。

 画面に標示されているのは、昨日渡された三枚のノートの切れ端のような写真。

 文言は少し変わっているようだ。

 撮り方があまり良くないようで、文章が読みづらいけど、なんとか読み解いてみる。

「タダチニチュウシセヨ!サモナクバトウジツバクハスル」


 たどたどしく発音した後、脳内で変換を試みる。

『直ちに中止せよ!さもなくば当日爆破する』

 思わず声が漏れる。

「ば、爆破!?」

 昨日の今日であまりに話が飛躍しすぎている。

「ちょ、ちょっと声が大きいよ」

 汐音が慌てて私の口を防ぐ。

 まだ混み合ってはいない店内の視線を一心に浴びてしまうが、振り返り、頭を下げて謝罪をしてから汐音の方に向き直る。

 周りには聞こえないように声のトーンを抑えて話す。

「これってもう、私達の手に負える問題じゃないんじゃない?今すぐにでも、警察に伝えないと」

 爆破の規模がどんな物かわからないが、死傷者が出てしまうかもしれない。

 爆破というのは犯人のブラフかもしれないけれど、既にイタズラの域は脱してしまっているのだ。

 ブラフだったとしても、このままこの脅迫状を隠し通したとして、里奈にとっても私にとってもメリットが一切感じられない。

 むしろデメリットしかない。

 汐音のスマホを操作して、ただちに警察に通報しようとすると、汐音にスマホを取り上げられた。

「待って!腰高祭まではまだ、一週間と二日ある。タイムリミットまでに私達で犯人を見つければいいのよ!」


「汐音。私達、もう子供じゃないのよ?」

 成人年齢が引き下げられた今、十九才は立派な大人なのだ。まだ成人式は迎えてはいないけれど、高校生の頃のような無茶はできない。

 行動にはそれなりに責任が伴うのだ。

「でもそれじゃあ、里奈ちゃんがかわいそうだよ。お父さんに晴れの舞台を見せられるのは今回が最後のチャンスかもしれないのに……」

「また二年後があるじゃない」

「それは私達の理屈。もし今回中止になったら、次は無いかもしれない。次回開催したとしても、また同じ事が起こるかもしれない」

 それはそうかもしれないけれど、大人になりなさい。そう言おうと口を開こうとするも、子供の頃から全く変わらない、真っ直ぐな瞳が私を見つめていた。

「……はあ。わかったわよ。少しだけよ」

 こうなってしまった汐音には何を言っても無駄なのだ。

 項垂れる私とは対照的に、やる気に満ちた瞳で汐音は大きく頷くのだった。
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