万年ネタ切れ作家、勇利愛華の邪推録

さいだー

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身勝手な予告状5

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 私達でなんとかする。そうと決まればやることは一つ。
 作戦会議だ。

 やる気に満ち溢れた汐音と二人、いつもとは違うテーブル席に移動させて貰った。

 日の当たる、窓ガラス越しに海がよく見渡せる最高の席だ。


「まず、何からやる!?」

 汐音はやる気には満ちているけど何も案は持ち合わせていないらしい。

 私は少し苛立ちを覚えながらも白紙の広告裏をペン先でトントンと叩いた。


 慌てて出てきたものだから、スマホもノートパソコンも持ち合わせていない。苦肉の策で手書きで作戦会議を開くことになったのだ。

 この広告もペンも那奈から拝借したものだ。

「まずは、どんな状況で脅迫状が投函されていたのか、時間を特定することから始めましょうか。里奈ちゃんからは聞いてない?」

 この前【スギウラ】で聞いたような気もするけれど、これはより正しい情報を精査するためだ。

「ちょっと待って。里奈ちゃんに聞いてみる」

 そう言って汐音はスマホを取り出す。

 ふと壁に掛けられたおしゃれな時計に目をやると、現時刻は十時十分。時計の針がもっとも美しく見えると言われている時間だ。

「今、授業中じゃないの?」

「大丈夫だって。バレなきゃいいのいいの。で、何を聞けばいいの?」

「はー、まったくこの子は」

 汐音は悪びれる様子はまったく見せずに、ポチポチとスマホを操作する。

「で、何を聞くの?」

 もうこの際仕方がない。汐音を止める術を知らない私も悪いのだ。何かあれば里奈には後でしっかり謝ろう。

「そうね……まずは脅迫状を見つけた時間帯かな」

「見つけた時間ね……うん。送った。っともう既読付いたよ」

 しばらく画面とにらめっこをしていた汐音が顔をあげる。

「今日のも含めて四回とも朝だって。登校してすぐポストを覗きに行くのが日課なんだって」

「なるほど」

 汐音から聞いた情報を広告裏に記していく。

 発見は朝と。うん……?ここで私は気がついた。発見されたのが朝というだけで、投函された時間がわからなければ意味がないという事に。

「ちょっと待って。里奈ちゃんは帰る前にもポストを確認はしているの?」


「帰る前?ちょっと聞いてみるね」

 質問の意図は良くわからないようだけど、汐音は躊躇なくメッセージを送る。

 程なくして里奈から送られてきたメッセージには、朝登校してすぐ、休み時間、帰る前、必ず三回は確認していると返信されてきた。

 つまり、犯行が可能な時間は、里奈が帰宅してから、完全下校時刻までの間と六時に門が開いてから里奈が登校するまでの間と言う事になる。

「かなり犯行時刻は絞れるわね」

 というかその時間だけ張り込んでれば良いのでは?
 と思ったけど口に出すのはやめた。

 でないと今日からでも、来るともわからない犯人を待ち伏せさせられる羽目になるような気がしたからだ。

 一応、事件には付き合ってあげてはいるけど、そこまで暇ではないのだ。


「おー、さすが作家さん!凄いね」

 なんて称賛の拍手をしてきたのだけれど、なんだかバカにされたような気がした。

「……バカにしてる?」

「ん?してないよ」

 すっとぼけている感じでもない。汐音は本当に心からそう思ってくれていたようだ。だけどなんかモヤモヤとする。

「他に聞くことある?」

 現状で、他に里奈に確認を取らなければならない事はあるだろうか?

「犯人に心当たりはあるかどうか聞いて貰える?」

「うん」

 汐音が質問を送ると、間髪入れずに返信が返ってくる。

「まったく無いって」

「そう」

 それもそうか。だから私達に相談してきているわけで、犯人がわかっているのなら他に対処法もあるものね。

 他に聞いておくべき事は……

「今のところは大丈夫。また何か気になった事があったら聞かせてもらうかもって伝えておいて」


「わかった」

 ポチポチとスマホを操作する汐音を尻目に、広告裏に向かい合う。

 犯人像についての情報を整理しよう。

 ノートの切れ端を使うというガサツさとあいをなす、筆跡を残さないように新聞紙を切り抜いて文章を作るという狡猾さ。

 切り抜いた文字を一枚一枚ノリで貼り付ける繊細さ。

 三つの事柄を統合して考えると、ノートの切れ端はわざと雑にちぎってガサツな人物がやったのだと誤認させようとしている節があるような気がする。

 そう広告裏に記した。

 だけど、あくまでこれは推理ではなく私の勘。とてもではないけど推理なんて呼べるような代物ではない。

 腰高祭に何らかの恨みを持つガサツな男子生徒を偽装した、几帳面な女子生徒の仕業。そんな気がした。

 腰高祭に恨みを持つ人物となると、二年生は除外される。

 なにせ二年に一度しか開催されない腰高祭は二年生は未経験。恨みを持つ理由がない。
 となると、一年生も除外か……

 受験を控えている三年生は出し物をしないし……無理に中止させる意味もない。なんて以前も考えた事を思い返していると、私の頭の中の点と点が一本の線で繋がった。

 ━━━━となると、教師!?まさか教師の犯行!?

 それはまずいわ。このまま特定して突き出してしまったら職を失うことになるわよ!?



「ちょっと、愛ちゃん!全部声に出てるよ!」

 肩をガッチリ掴まれ、現実世界に引き戻された私は、周囲の人達の怪訝な視線を一身に受けていた。

 ああ恥ずかしい。いっその事このまま消えてしまいたい……
 またやってしまった。邪推する私の悪い癖……

「ちょっとお手洗い行ってくるわ……」

「う、うん」

 視線に耐えきれなくなった私は、席を立ち、店の一番奥の扉へと向かった。

 その途中、あるものが目に入った。複数の銘柄の新聞紙の置かれたラックだ。

「たくさん揃えているのね」

「新聞を読みに来るお客様もいるんですよ」

 私の独り言に反応をしてくれたのは、カウンターの中で皿を洗う那奈だった。

「あーたしかに、カウンターで新聞読んでる方いらっしゃいますよね」

 それに「はい」と頷いた那奈を横目にトイレへと急いだ。

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