万年ネタ切れ作家、勇利愛華の邪推録

さいだー

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身勝手な予告状10

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 そんな……まさか……犯人は佐渡晃だったと言う事!?

 腰高に出入りをしていて、経済新聞を所持している。

 条件には当てはまる。……けど、脳内にある佐渡晃のイメージはあんな脅迫状を作り、投函するような人物ではない。

 唖然とする汐音と私を不思議そうに見ている佐渡晃。

 仮に佐渡晃が犯人だったとして、こんな態度でいられるだろうか?

 完璧超人の佐渡晃なら、とぼける演技もこなせるのかもしれないけど、私の目には演技をしているようには見えなかった。

 でも、念には念を入れてしっかり確認すべきだと思った。

「佐渡先輩。これは経済新聞……ですよね」

 佐渡晃が犯人でないなら、脅迫状に使われた切り抜き。経済新聞が使われた事は知らないはず。

「ああ。社会勉強の為に父から読むように言われているんだ」

 それっぽい答えを返してくるが、その真意は佐渡晃本人にしかわからない。

 たしか、佐渡晃の父親は会社を経営しているんだったかしら。

 将来会社を継ぐともなれば、もっともらしい返答にも感じるけれど……


「先輩。実は今回の脅迫状にけ━━━━」

 佐渡晃が知らない真実を告げようとする汐音の口を慌てて塞ぐ。

 おそらく汐音は脅迫状に経済新聞が使われていた事を告げようとしたのだけど、現状、彼には教えるべきではない。と私は判断した。

 一容疑者の可能性のある相手。安易に情報は与えるものではない。


「脅迫状がどうしたんだい?」

「いえ、なんでもないわよね」

 汐音に睨めつけるような視線を送ると、何かに怯えるように首肯を繰り返し、肯定をする汐音。


「えっと、汐音とさっきまで話していたんですけど、脅迫状に使われた新聞の銘柄って特定可能だと思いますか?」


「銘柄を特定ね……」

 少し考えるように水平線の彼方に視線を向ける佐渡晃。
 少ししてこちらに向き直りゆっくりと口を開いた。

「つまり、君達は脅迫状に使われているのは新聞の銘柄を経済新聞だ、と特定して、僕の事を疑っている訳だね?」

 さすがの洞察力と言うべきか、隠そうとしていた事を、試そうとしていた事を言い当てられて思わず心臓が跳ねる。

 やっぱり私は、佐渡晃の事が苦手だ。

「違うかい?」

 何も答えない私と汐音にそうだろと訴えかけるように、キレイな二重を細めて続けて言った。


 もはやカマをかけるのは不可能だろう。
 ここで否定したとして、良い結果が得られるとは思えなかった。


「……そうです」

「随分と正直だね。犯人を目の前にしているかもしれないのに」

 薄っすら微笑みながら随分と余裕のある感じ。

「まずこれだけは言っておかないといけないだろうね。犯人を僕じゃないよ。そんな事をする動機もない。時間の無駄だ。そんな事をする暇があるなら僕はトレーニングをするよ」

 それだけ言うと、佐渡晃は立ち上がり、右腕を左腕で抱え込みストレッチを始めた。
 黙って見ていると、その反対の腕も。そしてアキレス腱を伸ばし、その場でぴょんぴょんと何度か飛び跳ねて見せた。


「僕は彼等の練習に付き合わなければならないからもう行くよ。もし、新たに発覚した場合には、また相談に乗るよ」

「ちょっと待ってください。まだ話しは終わっていませんよ」

 今にも走り出しそうな佐渡晃を引き止めにかかるけど、佐渡晃は微笑を浮かべながら答える。

「犯人かもしれない相手に相談をするなんておかしな話しだろう?もし僕が犯人だったなら、おかしな方向に話を誘導しようとするかもしれない。危害を加えるかもしれない」

 まさにその通り、ぐうの音も出ない。何も言い返せなかった。

 黙って汐音と二人、佐渡晃が走り去っていくのを見送る事しか出来なかった。

 階段を駆け降り、砂浜を駆けていく後ろ姿は高校在校時と何も変わらないな。

 不意に佐渡晃は立ち止まるとこちらに振り声を返り張り上げるようして言った。

「そうだ。経済新聞の購読者について聞きたいのなら天屯君に聞くと良い。何か知っているかもしれない。こっちに来るように声をかけておくよ」

 そう言い残し、佐渡晃はサッカー部の集団の中心へ駆けていった。

 天屯猛男。たしか、この前佐渡晃とカフェの前で遭遇した時、帰り道で遭遇した一年生の子だったけ……

「たかみち君って誰?」

 状況を知らない汐音がそう聞いてきたのだけど、私が答える前に、天屯猛男がこちらに向かって走ってくるのが見えた。

「あの子よ」
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