万年ネタ切れ作家、勇利愛華の邪推録

さいだー

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身勝手な予告状11

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「こんにちは!勇利先輩!」

 やってくるなり天屯猛男たかみちたけおは、場の空気が明るくなる爽やかな挨拶を繰り出してきた。

 体育会系の圧に気圧されながらもなんとか挨拶を返す。

「こんにちは」

「……えっと、こちらの方は?」

 天屯猛男は私の横に立つ汐音の方に視線を向けながら言った。


「奏汐音。あなたの先輩よ」

「たかみち君よろしくねっ!」

 そう言いながら汐音は天屯に右手を差し出す。コミュ力の高い彼女らしい行動に思わず苦笑いをしてしまった。

「よろしくっす!天屯猛男って言います!」

 天屯も負けじと汐音の右腕握り返すと、はげしくハンドシェイクをした。
 汐音も負けじと左手も添えて。

「えっと、佐渡先輩にこちらに来るように言われたんすけど、自分になんか用すか?」

 若者特有の敬語のような敬語じゃない言語で天屯は説明を求めてきた。

 どうやら全て話しをして送り込んできた訳では無いみたいね。

 私はおしりの下に敷かれていた『経済新聞』を手に取ると、天屯の眼前に突き付け言った。

とアナタどういった関係なのかしら?」

 天屯は汐音と握手していた手を離し、『経済新聞』を受け取ると満面の笑顔で答えた。


「ああ、佐渡先輩に聞いたんですか。自分の家は『経済新聞』の販売店やってるっす」

「販売店……。それはつまり、『経済新聞』の配達をしているって事?」

「そうっす。この辺り周辺はうちのテリトリーっすね」

 得意げにそう答える天屯。意外な展開に頭がついていかないけど、なんとか確認しなければならない事を絞り出す。

「……あなたのおうち意外で買う方法はあるのかしら?」

「コンビニでは買えるっすよ。まあ、コンビニに卸してんのもうちなんですけどね」


「なるほどね」

 そうなると、この辺りの経済新聞は一度天屯の実家である販売店を通っている事になる。

 つまり、うまく聞き出す事ができれば腰高に出入りができて、なおかつ、経済新聞を手に入れる事ができた人物を特定できる事になる。

「天屯君は配達をしたりもするのかしら?」


「しますよ。手伝いで」

 そうなれば話しは早い。怪しまれないように聞き出せば良いだけだ。
 どう切り出すべきか考えていると、今まで静観していた汐音が唐突に口を挟んだ。

「えっとさ天屯君。腰高の関係者で、経済新聞取ってたりする人っているのかな?」

 止めようと思ってももう遅かった。


「……なんでそんな事聞くんすか?」

 天屯も不審感を抱いたのだろう、眉根を寄せて汐音を見ていた。


 天屯の立場に立って考えたら、唐突に個人情報に繋がるような事を聞きだそうとしてきたら、私だって警戒する。 
 後で汐音の事はしっかり叱らないといけないわね。

 ……とりあえず、汐音への罰は後で考えるとしてこの場をうまくやり過ごす言い訳を考える必要がある。

 どうすれば天屯は納得してくれるだろう……?

「ほら、あれよ、私、実は作家をしているのだけどね、取材ってやつなの。そう、これは取材なの!」

 いつもの私と比べたら明らかにテンションが高い。自分で言っていてかなり違和感の感じる言い訳になってしまった。 
 なにがこれは取材なの!よ言ってて恥ずかしくなる。  

 きっと、顔面は羞恥心で紅潮してしまっているだろうけど、幸か不幸か砂浜を照らす夕焼けが隠してくれているはずだ。多分。

「取材……っすか」

 天屯は少し考え込むような態度を見せる。
 かなり不信感を与えてしまったのかもしれない。


「それはいいっすね。なんかかっこいいッス!」

「じゃあ、……教えて貰える……かな?」

「……」

 天屯は下を向いてワナワナと前身を震わせる、親指を空に向けてつきたて、顔をあげると元気よく答えたのだ。


「もちのロンッス!」


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