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夜の海岸に現れる龍の謎1
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SideT
「どうしたんだよ。そんな驚いた顔してよ」
俺の差し出した右手に愛華は手を重ねない。
口をワナワナとさせて、目は見開き、まるで死人との予期せぬ再開をしてしまったようなリアクションだ。
俺は生きてるっつーの。まったくよ。翔と言い、奏ちゃんと言い同じ反応を見せるのはなんでだよ。
そういや母ちゃんは泣いてたし、父ちゃんには殴られたっけ。
愛華はしばらく驚いたような表情をした後、少しづつ表情を強張らせていく。
「そりゃ驚いた顔の一つや二つするわよ!まったく、半年以上連絡も寄こさないで、死んだんじゃないかと思ってたんだから!」
そう言うや愛華はプイと顔をそむけてしまった。
俺だっていろいろ大変だったんだぜ?わかってくれよ。でもまあ、愛華のこういうめんどくさい所も好きなんだけど。
「いろいろあったんだよ。北海道で熊に襲われて荷物無くしたり。森で遭難したり、文無しで、知らない人の世話になったりよ。語るも涙、聞くも涙の大冒険譚」
「だからって連絡寄こさないのはどうかしてるわよ」
「スマホも荷物と一緒に失くしちゃってよ。番号なんて親のすら覚えてないし。まあ許してくれよ」
「って事だからさ愛ちゃんも許してあげてよ」
折れる気配を見せない愛華との仲裁に、奏ちゃんが乗り出してくれた。
さすが気遣いのできる翔の彼女だぜ。助かる。
「……」
愛華も奏ちゃんに説得されたことで思う所があるようで、こちらに目を向ける事はなかったけれど、唇を尖らせて少し不貞腐れたような態度を取った。
だけど次の瞬間には大きく息を吐き出すと、俺のお腹に向けて右ストレートを放った。
ボゴッ!!
不意打ちだったからゴブっと息が漏れる。
良いところに入ったせいで足から崩れ落ちて、愛華を見上げるような形になる。
まるでゴミクズでも見るような視線で俺を見下ろす愛華。
まるで悪役令嬢が下民を見るような冷めた視線だ。
「それでチャラにしてあげるわ。……次いなくなったら絶対に許さないから」
表情と言っていることが一致していないような気もするけど、呼吸困難に陥っている俺には突っ込む余裕はなかった。
「許してもらえて良かったね。愛ちゃんも素直じゃないんだから」
「別に、私はそんな……」
再度プイと顔を背けると、テーブルに置かれていた紅茶に手を伸ばし一気に煽った。
「ケホケホ」
気管にでも入ってしまったのだろう。愛華ははげしく噎せる。
腹を抑えてうずくまる男に、激しく蒸せる女の子。それを満面の笑みで見ている奏ちゃん。
周りからはどんなふうに見えているのだろう。
テーブル席の方に視線を向けると、一斉に視線を逸らされた。
カウンター内の七瀬ちゃんの方を見ても苦笑いを浮かべるだけだ。
なんか懐かしいな。こういう感じ。
本当に帰って来れたんだという事を実感しながらゆっくりと呼吸を整えていると、奏ちゃんが唐突に不穏な事を言った。
「ここに依頼内容が書いてある紙、置いておくから、二人で目を通しておいてね。まさか伝説上の龍が現れるなんてね。じゃあ後はよろしくっ!」
龍?伝説?あー、なんかうっすらとばあちゃんから江の島の伝承みたいな昔話を聞いた事があるような気がするな。
詳しくは覚えてないけど。
「ちょ、ケホケホ、汐音、ケホケホ、まち、ケホケホ、待ちなさい」
噎せる愛華とうずくまる俺を残して、早足で奏ちゃんは去っていった。
奏ちゃんも相変わらずだな。きっと翔も苦労しているんだろうな。
ようやく呼吸の整った愛華が、うずくまる俺に右手を差し出した。
「いつまでそうしているつもり?早く立ちなさい」
右手を掴んで立ち上がる。
「サンキュ」
「今回だけよ」
「えっ、何が?」
「今回だけ、あなたの協力者になってあげるって言っているの」
「それって……」
奏ちゃんが置いていった、紙に書かれている依頼に協力してくれるって事なのか?
「あー、もう!みなまで言わせないで。さっさと概要を確認するわよ。まったく汐音にしてやられたわ」
「お、おう」
愛華に促されるままに、奏ちゃんが座っていた席に座ると、横に愛華が座る。
「あっ、那奈先輩。横に座った人にとびっきり苦いブラックコーヒーをお願いします」
「どうしたんだよ。そんな驚いた顔してよ」
俺の差し出した右手に愛華は手を重ねない。
口をワナワナとさせて、目は見開き、まるで死人との予期せぬ再開をしてしまったようなリアクションだ。
俺は生きてるっつーの。まったくよ。翔と言い、奏ちゃんと言い同じ反応を見せるのはなんでだよ。
そういや母ちゃんは泣いてたし、父ちゃんには殴られたっけ。
愛華はしばらく驚いたような表情をした後、少しづつ表情を強張らせていく。
「そりゃ驚いた顔の一つや二つするわよ!まったく、半年以上連絡も寄こさないで、死んだんじゃないかと思ってたんだから!」
そう言うや愛華はプイと顔をそむけてしまった。
俺だっていろいろ大変だったんだぜ?わかってくれよ。でもまあ、愛華のこういうめんどくさい所も好きなんだけど。
「いろいろあったんだよ。北海道で熊に襲われて荷物無くしたり。森で遭難したり、文無しで、知らない人の世話になったりよ。語るも涙、聞くも涙の大冒険譚」
「だからって連絡寄こさないのはどうかしてるわよ」
「スマホも荷物と一緒に失くしちゃってよ。番号なんて親のすら覚えてないし。まあ許してくれよ」
「って事だからさ愛ちゃんも許してあげてよ」
折れる気配を見せない愛華との仲裁に、奏ちゃんが乗り出してくれた。
さすが気遣いのできる翔の彼女だぜ。助かる。
「……」
愛華も奏ちゃんに説得されたことで思う所があるようで、こちらに目を向ける事はなかったけれど、唇を尖らせて少し不貞腐れたような態度を取った。
だけど次の瞬間には大きく息を吐き出すと、俺のお腹に向けて右ストレートを放った。
ボゴッ!!
不意打ちだったからゴブっと息が漏れる。
良いところに入ったせいで足から崩れ落ちて、愛華を見上げるような形になる。
まるでゴミクズでも見るような視線で俺を見下ろす愛華。
まるで悪役令嬢が下民を見るような冷めた視線だ。
「それでチャラにしてあげるわ。……次いなくなったら絶対に許さないから」
表情と言っていることが一致していないような気もするけど、呼吸困難に陥っている俺には突っ込む余裕はなかった。
「許してもらえて良かったね。愛ちゃんも素直じゃないんだから」
「別に、私はそんな……」
再度プイと顔を背けると、テーブルに置かれていた紅茶に手を伸ばし一気に煽った。
「ケホケホ」
気管にでも入ってしまったのだろう。愛華ははげしく噎せる。
腹を抑えてうずくまる男に、激しく蒸せる女の子。それを満面の笑みで見ている奏ちゃん。
周りからはどんなふうに見えているのだろう。
テーブル席の方に視線を向けると、一斉に視線を逸らされた。
カウンター内の七瀬ちゃんの方を見ても苦笑いを浮かべるだけだ。
なんか懐かしいな。こういう感じ。
本当に帰って来れたんだという事を実感しながらゆっくりと呼吸を整えていると、奏ちゃんが唐突に不穏な事を言った。
「ここに依頼内容が書いてある紙、置いておくから、二人で目を通しておいてね。まさか伝説上の龍が現れるなんてね。じゃあ後はよろしくっ!」
龍?伝説?あー、なんかうっすらとばあちゃんから江の島の伝承みたいな昔話を聞いた事があるような気がするな。
詳しくは覚えてないけど。
「ちょ、ケホケホ、汐音、ケホケホ、まち、ケホケホ、待ちなさい」
噎せる愛華とうずくまる俺を残して、早足で奏ちゃんは去っていった。
奏ちゃんも相変わらずだな。きっと翔も苦労しているんだろうな。
ようやく呼吸の整った愛華が、うずくまる俺に右手を差し出した。
「いつまでそうしているつもり?早く立ちなさい」
右手を掴んで立ち上がる。
「サンキュ」
「今回だけよ」
「えっ、何が?」
「今回だけ、あなたの協力者になってあげるって言っているの」
「それって……」
奏ちゃんが置いていった、紙に書かれている依頼に協力してくれるって事なのか?
「あー、もう!みなまで言わせないで。さっさと概要を確認するわよ。まったく汐音にしてやられたわ」
「お、おう」
愛華に促されるままに、奏ちゃんが座っていた席に座ると、横に愛華が座る。
「あっ、那奈先輩。横に座った人にとびっきり苦いブラックコーヒーをお願いします」
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