万年ネタ切れ作家、勇利愛華の邪推録

さいだー

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夜の海岸に現れる龍の謎2

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 奏ちゃんの置いていった紙に手を伸ばし手に取ろうとすると、なんと!紙が二枚に分かれた。


「えっ、あれ……分裂した!?」

 愛華は一つため息のように吐息を吐き出すと、もう一枚の方の紙に手を伸ばした。

「そんなわけないでしょ。汐音が二枚置いていっただけ。私達にそれぞれ一枚づつ用意してくれたのでしょう。お互い集中して読みましょう」


「お、おう」

 どうせ愛華がしっかり理解してくれるはずだから、ざっと目を通した。

 内容はこうだ。由比ヶ浜付近に五頭龍ごずりゅうと見られる飛翔体ひしょうたいが夜に目撃された。

 大きさなどは不明。由比ヶ浜から陸地の方へ消えていった。

 伝承でんしょうにある龍なのではないか、なにかの前触れなのではないかと心配している。

 だから、念の為、飛翔体の正体をあばいてほしい。と。

 丁寧にふりがなを振ってくれているのは、国語が苦手な自分にはとてもありがたい。


     
 ある程度読み終えた所で顔をあげ、愛華の方へ視線を向けると、かなり微妙な顔をしていた。

 なんというか、まるで給食で楽しみにしていたカレーの入った容器を目の前でぶちまけられてしまったような顔だ。

「どうかしたのか?」

「どうかしたのかって、これと龍がどう関係あるって言うのよ?」

 愛華の言っている意味が全くわからなかった。
 五頭龍が目撃され、その正体を探ってほしい。
 龍しか関係していないと思うんだけど。

 アホな俺にはわからない高度な的な何かがあったのだろうか?

「関係しかなくね?ごずりゅう?の正体を探るんだろ?とりあえず由比ヶ浜に張り込みかな」

 愛華と二人で夜の由比ヶ浜。それはもはやデートみたいなものじゃないか。
 仕事をしながら愛華とデートをできるなんて……ちょっとワクワクしてきたぜ。

「はあ?あなた何を言っているの……ってまさか」

 奥二重の切れ長の目を細めて、愛華は呆れたような口調で俺を諌めた後、急に目を見開くと、俺から紙をひったくった。

「な、なんだよ!?」

 サラサラっと概要を流し見をした後、愛華はテーブルの上に紙をそっと置くと、両手で頭を抱えた。

「はあ、汐音にしてやられたわ」

「やられた?」

「こっちの紙を見てみなさい」

 愛華が最初に見ていた方の紙を見てみると、俺が見た紙とは全く違う内容が書かれていた。


『由比ヶ浜近くに在住の方からの依頼
 以前はピンクの花を咲かせていたあじさいが今年から急に青い花を付けるようになった。
 青い花もキレイで悪くはないのだが、以前のようなピンクの花を咲かせる為にはどうしたら良いのか調べて教えて欲しい』

 と書かれていた。
 下の方には依頼人の連絡先、住所、名前。そして『愛ちゃん宜しく』と横にハートマークが描かれていた。

「ん?奏ちゃん間違えたのかな?俺達にお願いしようとしてたのは龍の正体を探る事だけだよな?」


「それはないわね。汐音がそんな事を間違えるはずがない。それに、私によろしくって書いてあるでしょ」

「そっかぁ。まあ仕事だし文句は言えないよな。それにしても忙しくなるな。二つも同時に案件を抱えなきゃならないなんてさ」

 昼も夜も愛華と居られるというのは悪くないな。いやむしろ嬉しいまである。
 ありがとう奏ちゃん!

「それはパス。私、大学もあるし、プロットも仕上げなきゃならないの。……そうね、汐音からの指名だし、こっちのあじさいの方は私が引き受けるわ」

「えっ、だったら俺は?」

「立花君は一人で五頭龍の正体を探ってちょうだい」

「いやいや、俺もあじさいの方手伝うよ」

「……」

 愛華は何も答えずに、黙って俺を睨みつけてきた。

「……わかりました」

 俺に拒否権はない。そう。これは惚れたものの弱みなのだ。
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