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シフィエス
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「ただいま帰りました!」
マリエスは家に帰るなり扉を勢いよく開けると、大声でシフィエスに挨拶をしたが……
「って……あれ先生?」
『おかえり』と言う挨拶が返ってくる事も無ければ、当然シフィエスの姿もない。
シフィエスはマリエスのストーキングをしていたのだから、当然僕達より先に帰っているはずがない。
それは当たり前の事なのだけど、それを知るよしもないマリエスは不思議そうに首を傾げていた。
「今日はお休みだって言っていたのに」
「誰かに頼まれて急な仕事にでも行ってるんじゃない?」
シフィエスが仕事になんて行っているはずはない。何度も言うが、マリエスのストーキングをしていたのだから。
それなのに僕が、シフィエスを庇ったのは、武士の情けみたいなものだ。
まったく……七歳の子供に気を遣わせるなんてどんな大人だよ。
「うん。そうかもしれないわね。先生忙しいし!」
シフィエスが忙しい?それは無いだろう。マリエスにお使いを頼む度にこの調子だ。
その都度僕もこんなかんじに付き合わせられて、迷惑を被っている訳だ。
なんてやり取りをしていたら、背後の扉が、某名作ゲームの洋館の扉が開く時に鳴らすような軋んだ音を立てて、開いた後、見慣れた顔が入ってきた。
腰まであるサラサラの黒いロングヘアーが目を引く人物。
だが、それ以上に前髪に付着した一枚の枯れ葉が目立っている。おそらく茂みに隠れている時にでも付いてしまったのだろう。
「あら。マリエス帰っていたのね?ロウエもいらっしゃい」
「白々しいですね」
言いながら近づいて枯れ葉の存在を知らせてやろうとすると爪先で足を踏まれた。
「シフィエスさん痛いです」
「意地の悪いことを言うからではないですか?ロウエ」
どちらが意地が悪いのか。……とりあえず僕は枯れ葉の存在を教えてあげない事にした。
「先生。お帰りなさい!」
マリエスは言いながら走り寄ると、腕で包み込むようにして持っていた、袋の中身を開いて見せ、続けて言った。
「見てください!こんなに取れたんです!」
シフィエスは袋の中身をしげしげと覗き見てからマリエスの頭上へと手を伸ばし、髪がくしゃくしゃになるくらいの強さ撫でてから微笑んだ。
「エライです!さすが私のマリエス」
「先生、そんなにされたら痛いです」
「僕も行ったんですけどね」
「そうでしたね。ロウエもエライ!」
マリエスから離れた手は、次に僕の脳天を襲う。
わしゃわしゃと乱暴に一通りなで回すと、飽きたのかマリエスの方へ向き直り
「お使いの道中、悪い者に遭遇する事はありませんでしたか?」
「大丈夫でした!ロウエが一緒に来てくれたから」
またまた白々しい質問をするシフィエスを見て、聞こえない程度の声量で言ってやった。
「何より恐ろしい、超級の魔術師が背後で目を光らせてるんだから、何も起こるはずがないでしょうよ」
僕の足を軽く踏んでいたシフィエスの足に、先程より力が込められた。この人、地獄耳だ。
「……シフィエスさん。痛いんですけど」
「これは失礼しました。小さいからよく見えませんでしたので」
自分だってそんなに大きい方じゃ無いくせに。
「何か言いました?」
さらに足に力が込められて思わず足を引っ込めた。口に出さなかったのに、まさかこの人……心を読んだ?
「では、マリエス。早速だけど精製をしようと思うの。準備をお願いできますか?」
「はい!わかりました!」
返事をするや否や、マリエスは笑顔を浮かべ、奥の研究室へ大急ぎで走っていった。
結果、僕とシフィエスの二人がこの部屋に残された訳だけど、なんとも気まずい。
さっさとおいとまさせて貰おうと、『僕はこれで失礼します』と声を掛け、シフィエスの横を通り過ぎようとした時呼び止めるようにシフィエスは口を開いた。
「さて、ロウエ。村人Aは何か不審な事は言っていませんでしたか?」
村人A?……ああ村長さんの事か。
どんな会話をしたか思い出す。
「……いえ。特には。僕とマリエスを気遣う言葉をかけていただいたくらいですかね」
「そうですか。……それならいいのですが」
「すべての人を疑いすぎです。
それに村人Aじゃなくて村長さんですから」
「果たしてそれはそうでしょうか?
ああいった一見、人畜無害そうに見える人物が一番疑わしいものなのです。
今はまだわからないかもしれませんが、ロウエももう少し大きくなればわかりますよ」
シフィエスはたしか二十二歳だった。
僕の前世の年齢と現世の年齢を合わせれば同い年だ。
それなのに今の僕と彼女では考え方や見識に大きな違いがあるように思えた。
どのような違いであるのか、今の僕ではそれを推し量る手段はない。
だけど、なんとなく人生経験の差であることは理解ができた。
彼女は二十二年間、どんな経験をしてきたのだろう?
その若さでこの国の階級制度の最上位に食い込める程の魔術を極めた猛者。
きっと、僕なんかじゃ一生かかっても理解が及ばない存在なのだ。
「ロウエは賢いです。どうでしょう?魔法を習うつもりはありませんか?」
「魔法ですか……以前も答えましたけど、魔法を習うつもりはありません。
体を動かしていることが一番の幸せなんです。魔法で楽をするつもりはないですね」
今まで幾度となく繰り返されてきたやり取りだが、この日は少し違った。いつもなら『そうですか……それならしかたありませんね』と返ってくる所なのだが、
「そうですか。でも、もし本格的な剣術も学べるとしたら、どうでしょうか?」
「剣術、ですか。それはどういった?」
シフィエスが僕の質問に答えようと口を開いた瞬間だ。慌てた様子で戻ってきたマリエスが、僕とシフィエスの会話に割って入ってきた。
もちろんマリエスにはそんなつもりはないんだろうが。
「先生!準備が完了しました!」
「はい。マリエス。でしたらさっそく精製を始めましょう」
「それだったら、僕は帰りますね」
気になる話の途中ではあったが、仕事を邪魔する程の事でもない。また次回、やって来た時に話の続きをすれば良い。
「帰るのは構いません。
でも、薬をちゃんと持って帰ってくれないと困ります。
それに、まだ先程の話も終わってないではありませんか」
マリエスは家に帰るなり扉を勢いよく開けると、大声でシフィエスに挨拶をしたが……
「って……あれ先生?」
『おかえり』と言う挨拶が返ってくる事も無ければ、当然シフィエスの姿もない。
シフィエスはマリエスのストーキングをしていたのだから、当然僕達より先に帰っているはずがない。
それは当たり前の事なのだけど、それを知るよしもないマリエスは不思議そうに首を傾げていた。
「今日はお休みだって言っていたのに」
「誰かに頼まれて急な仕事にでも行ってるんじゃない?」
シフィエスが仕事になんて行っているはずはない。何度も言うが、マリエスのストーキングをしていたのだから。
それなのに僕が、シフィエスを庇ったのは、武士の情けみたいなものだ。
まったく……七歳の子供に気を遣わせるなんてどんな大人だよ。
「うん。そうかもしれないわね。先生忙しいし!」
シフィエスが忙しい?それは無いだろう。マリエスにお使いを頼む度にこの調子だ。
その都度僕もこんなかんじに付き合わせられて、迷惑を被っている訳だ。
なんてやり取りをしていたら、背後の扉が、某名作ゲームの洋館の扉が開く時に鳴らすような軋んだ音を立てて、開いた後、見慣れた顔が入ってきた。
腰まであるサラサラの黒いロングヘアーが目を引く人物。
だが、それ以上に前髪に付着した一枚の枯れ葉が目立っている。おそらく茂みに隠れている時にでも付いてしまったのだろう。
「あら。マリエス帰っていたのね?ロウエもいらっしゃい」
「白々しいですね」
言いながら近づいて枯れ葉の存在を知らせてやろうとすると爪先で足を踏まれた。
「シフィエスさん痛いです」
「意地の悪いことを言うからではないですか?ロウエ」
どちらが意地が悪いのか。……とりあえず僕は枯れ葉の存在を教えてあげない事にした。
「先生。お帰りなさい!」
マリエスは言いながら走り寄ると、腕で包み込むようにして持っていた、袋の中身を開いて見せ、続けて言った。
「見てください!こんなに取れたんです!」
シフィエスは袋の中身をしげしげと覗き見てからマリエスの頭上へと手を伸ばし、髪がくしゃくしゃになるくらいの強さ撫でてから微笑んだ。
「エライです!さすが私のマリエス」
「先生、そんなにされたら痛いです」
「僕も行ったんですけどね」
「そうでしたね。ロウエもエライ!」
マリエスから離れた手は、次に僕の脳天を襲う。
わしゃわしゃと乱暴に一通りなで回すと、飽きたのかマリエスの方へ向き直り
「お使いの道中、悪い者に遭遇する事はありませんでしたか?」
「大丈夫でした!ロウエが一緒に来てくれたから」
またまた白々しい質問をするシフィエスを見て、聞こえない程度の声量で言ってやった。
「何より恐ろしい、超級の魔術師が背後で目を光らせてるんだから、何も起こるはずがないでしょうよ」
僕の足を軽く踏んでいたシフィエスの足に、先程より力が込められた。この人、地獄耳だ。
「……シフィエスさん。痛いんですけど」
「これは失礼しました。小さいからよく見えませんでしたので」
自分だってそんなに大きい方じゃ無いくせに。
「何か言いました?」
さらに足に力が込められて思わず足を引っ込めた。口に出さなかったのに、まさかこの人……心を読んだ?
「では、マリエス。早速だけど精製をしようと思うの。準備をお願いできますか?」
「はい!わかりました!」
返事をするや否や、マリエスは笑顔を浮かべ、奥の研究室へ大急ぎで走っていった。
結果、僕とシフィエスの二人がこの部屋に残された訳だけど、なんとも気まずい。
さっさとおいとまさせて貰おうと、『僕はこれで失礼します』と声を掛け、シフィエスの横を通り過ぎようとした時呼び止めるようにシフィエスは口を開いた。
「さて、ロウエ。村人Aは何か不審な事は言っていませんでしたか?」
村人A?……ああ村長さんの事か。
どんな会話をしたか思い出す。
「……いえ。特には。僕とマリエスを気遣う言葉をかけていただいたくらいですかね」
「そうですか。……それならいいのですが」
「すべての人を疑いすぎです。
それに村人Aじゃなくて村長さんですから」
「果たしてそれはそうでしょうか?
ああいった一見、人畜無害そうに見える人物が一番疑わしいものなのです。
今はまだわからないかもしれませんが、ロウエももう少し大きくなればわかりますよ」
シフィエスはたしか二十二歳だった。
僕の前世の年齢と現世の年齢を合わせれば同い年だ。
それなのに今の僕と彼女では考え方や見識に大きな違いがあるように思えた。
どのような違いであるのか、今の僕ではそれを推し量る手段はない。
だけど、なんとなく人生経験の差であることは理解ができた。
彼女は二十二年間、どんな経験をしてきたのだろう?
その若さでこの国の階級制度の最上位に食い込める程の魔術を極めた猛者。
きっと、僕なんかじゃ一生かかっても理解が及ばない存在なのだ。
「ロウエは賢いです。どうでしょう?魔法を習うつもりはありませんか?」
「魔法ですか……以前も答えましたけど、魔法を習うつもりはありません。
体を動かしていることが一番の幸せなんです。魔法で楽をするつもりはないですね」
今まで幾度となく繰り返されてきたやり取りだが、この日は少し違った。いつもなら『そうですか……それならしかたありませんね』と返ってくる所なのだが、
「そうですか。でも、もし本格的な剣術も学べるとしたら、どうでしょうか?」
「剣術、ですか。それはどういった?」
シフィエスが僕の質問に答えようと口を開いた瞬間だ。慌てた様子で戻ってきたマリエスが、僕とシフィエスの会話に割って入ってきた。
もちろんマリエスにはそんなつもりはないんだろうが。
「先生!準備が完了しました!」
「はい。マリエス。でしたらさっそく精製を始めましょう」
「それだったら、僕は帰りますね」
気になる話の途中ではあったが、仕事を邪魔する程の事でもない。また次回、やって来た時に話の続きをすれば良い。
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