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シフィエス2
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マリエスに誘われるままに、シフィエス、僕の順番で奥の部屋に入ると、ところせましと前世の科学授業の実験で使った事があるような、ないような得体のしれない器材がならんでいた。
この部屋に入ることを許されたのはこれが初めてだったから少しワクワクしている。
マリエスは笑顔を浮かべたまま、お使いの成果の入った袋をシフィエスに手渡す。シフィエスはうむとひとつ返事をしてから受けとった。
「それでは、これから先輩に頼まれた薬を精製する作業を始めようと思います」
薬の精製。それはどのようにして行われる物なのだろうか?
並んでいる不思議器材の数々、この国でも随一の腕を持つと言われている魔術師。
魔法そのものに興味がない僕でも期待せずにはいられない。
「シフィエスさん。どんな魔法を使うんですか?それとも上位の魔術を使うんですか?」
僕の質問を受けたシフィエスは途端に表情を崩し、クスクスと笑い、続けてこう言った。
「ロウエ。期待にそえない形で申し訳ないのですが、薬の精製には魔術も魔法も使わないんですよ」
そんな事も知らなかったの?とマリエスはケタケタと笑っていた。
そんな反応に僕は少しムッとしながらもう一度質問した。
「だったらどうやるんですか?」
質問をした後、シフィエスとマリエスを交互に見ていたところ、シフィエスが部屋の隅を指差した。
つられてそちらを見ると、でかい金属製の鍋が魔道具で火にかけられている。
「マリエスには魔道具に魔力の供給をしていただきました。その魔力を使いドリミー草をコトコトと煮込む────。一時間も煮込めば……眠り薬の完成です」
……煮込むだけって、そんなのうちでも作れるじゃないか。
「それだけなら母さんが自分でやればいいのに」
「これはロウエのお母さん。先輩の優しさなんです。本当に感謝しています」
「優しさ……ですか?」
どうも腑に落ちない。自分でできることを人にやって貰うなんてそれは果たして優しさなのか?
ただ怠慢なだけのように感じるのは僕だけだろうか?
「この村で私は、治癒魔術師のような事をさせて頂いてはいますが、本来なら私のような者はこの村には必要はありません。
先輩の慈悲で置いて貰っているだけなのです。
先輩がこの村に居なければ、マリエスも私も住む場所すらままならなかったでしょうね」
「はぁ……」
シフィエスの言っている事を、僕は正しく理解する事はできない。母さんの怠慢がどうしてシフィエス達の居場所にまで繋がっていくのか。
「いずれ、ロウエにもわかる日が来ます」
なぜかマリエスも得意気に胸を張っているが、マリエスには意味がわかるのだろうか?────後でこっそりと教えて貰おう。
「────では、マリエス。そろそろ聖水にドリミー草を投入していただけますか?」
「はい。先生!わかりました」
マリエスはシフィエスから再びドリミー草の束を受けとると、鍋の中に一気に投入した……!
が、当然、投入しただけで何が起こるという事もなくなくグツグツと煮たっていた聖水がドリミー草に熱を奪われ、音を立てなくなったくらいだった。
「……」
「……」
「……」
しばしの沈黙が続いた後、隣の部屋で話していた事を思いだして僕はシフィエスの方に向き直る。
「シフィエスさん。そういえばさっき剣術がどうのって言っていましたよね?なんの話だったんですか?」
「────ああ。そうでしたね。
いつもロウエは、そこらじゅうで熱心に棒っきれを振り回していますよね?もしかしたら興味があるのではないか、と思いまして」
シフィエスの言う通り、僕はいつも木剣を振り込み、鍛練をしている。
父さんに頼み込んで木を加工してもらった、この世に1本しか存在しないであろう大切な木剣。
それを棒っきれと形容されるのは心外だけど、剣術が軽視されるこの世の中においては、仕方のない事かと一人納得するため、頷いてから続けた。
「一応木剣なんですけどね。ははは」
「名前までつけていらしたのですか……それは申しわけありません。これからは棒っきれ改め、ボッケンと呼ぶことにします」
なにやら勘違いをしているようだが訂正する気にもならなかった。
もはや、この世界の人々は木剣という物を認識すらしていないと言う事をしらしめられたからか。
もしかしたら元よりこの世界には木剣が存在していなかった可能性すらある。
シフィエスは仕切り直すようにひとつ咳払いをしてから言葉を続けた。
「さて、ロウエ。剣術について興味はありますか?」
「はい。……興味はあります」
「『興味はあります』ですか」
僕が言い淀んだ事に少し思うことがあったのか、シフィエスが僕の言葉をそのまま繰り返す。
剣術に興味はある。バリバリある。
しかし、事あるごとに魔法の勉強をさせようとしてくるシフィエスの言葉を真に受けられる程僕は素直ではない。
「まあ、いいです。
近々、私と先輩の共通の師匠であるサギカ様がこの町にやってくる事になっているのです」
「はい」
頷いてシフィエスに話の続きを促す。
「サギカ様は、次代の賢人候補に上がる程有能な魔術師であり、現七賢者、趣味で剣術の研究もなさっているんです」
「つまり、その人が剣術を教えてくれるって事ですか?」
「その人ではありません!サギカ様です!」
普段は語気を強めたりしないシフィエスの様子に驚いた。横でおとなしく話を聞いていたマリエスの肩もピクリと跳ねる。
「……その、サギカ様が僕に剣術を教えてくれるって事ですか?」
「そのような感じです」
「そのような?ですか。ずいぶんと曖昧な言い回しですね」
「教授して頂けるかどうかはロウエ。あなた次第です」
「僕次第とは、どういう意味でしょう?」
「それは────」
そこで言葉を詰まらせたシフィエスの視線が虚空で揺れる。
「『それは』なんですか?」
何がおかしいのか、右手を口元に寄せるとフフフと笑い、シフィエスは続けて
「それは、お楽しみという事にしておきましょう。
────お薬の方も完成したようですし」
シフィエスの視線は、部屋の隅で火にくべられている金属製の鍋に向けられていた。
この部屋に入ることを許されたのはこれが初めてだったから少しワクワクしている。
マリエスは笑顔を浮かべたまま、お使いの成果の入った袋をシフィエスに手渡す。シフィエスはうむとひとつ返事をしてから受けとった。
「それでは、これから先輩に頼まれた薬を精製する作業を始めようと思います」
薬の精製。それはどのようにして行われる物なのだろうか?
並んでいる不思議器材の数々、この国でも随一の腕を持つと言われている魔術師。
魔法そのものに興味がない僕でも期待せずにはいられない。
「シフィエスさん。どんな魔法を使うんですか?それとも上位の魔術を使うんですか?」
僕の質問を受けたシフィエスは途端に表情を崩し、クスクスと笑い、続けてこう言った。
「ロウエ。期待にそえない形で申し訳ないのですが、薬の精製には魔術も魔法も使わないんですよ」
そんな事も知らなかったの?とマリエスはケタケタと笑っていた。
そんな反応に僕は少しムッとしながらもう一度質問した。
「だったらどうやるんですか?」
質問をした後、シフィエスとマリエスを交互に見ていたところ、シフィエスが部屋の隅を指差した。
つられてそちらを見ると、でかい金属製の鍋が魔道具で火にかけられている。
「マリエスには魔道具に魔力の供給をしていただきました。その魔力を使いドリミー草をコトコトと煮込む────。一時間も煮込めば……眠り薬の完成です」
……煮込むだけって、そんなのうちでも作れるじゃないか。
「それだけなら母さんが自分でやればいいのに」
「これはロウエのお母さん。先輩の優しさなんです。本当に感謝しています」
「優しさ……ですか?」
どうも腑に落ちない。自分でできることを人にやって貰うなんてそれは果たして優しさなのか?
ただ怠慢なだけのように感じるのは僕だけだろうか?
「この村で私は、治癒魔術師のような事をさせて頂いてはいますが、本来なら私のような者はこの村には必要はありません。
先輩の慈悲で置いて貰っているだけなのです。
先輩がこの村に居なければ、マリエスも私も住む場所すらままならなかったでしょうね」
「はぁ……」
シフィエスの言っている事を、僕は正しく理解する事はできない。母さんの怠慢がどうしてシフィエス達の居場所にまで繋がっていくのか。
「いずれ、ロウエにもわかる日が来ます」
なぜかマリエスも得意気に胸を張っているが、マリエスには意味がわかるのだろうか?────後でこっそりと教えて貰おう。
「────では、マリエス。そろそろ聖水にドリミー草を投入していただけますか?」
「はい。先生!わかりました」
マリエスはシフィエスから再びドリミー草の束を受けとると、鍋の中に一気に投入した……!
が、当然、投入しただけで何が起こるという事もなくなくグツグツと煮たっていた聖水がドリミー草に熱を奪われ、音を立てなくなったくらいだった。
「……」
「……」
「……」
しばしの沈黙が続いた後、隣の部屋で話していた事を思いだして僕はシフィエスの方に向き直る。
「シフィエスさん。そういえばさっき剣術がどうのって言っていましたよね?なんの話だったんですか?」
「────ああ。そうでしたね。
いつもロウエは、そこらじゅうで熱心に棒っきれを振り回していますよね?もしかしたら興味があるのではないか、と思いまして」
シフィエスの言う通り、僕はいつも木剣を振り込み、鍛練をしている。
父さんに頼み込んで木を加工してもらった、この世に1本しか存在しないであろう大切な木剣。
それを棒っきれと形容されるのは心外だけど、剣術が軽視されるこの世の中においては、仕方のない事かと一人納得するため、頷いてから続けた。
「一応木剣なんですけどね。ははは」
「名前までつけていらしたのですか……それは申しわけありません。これからは棒っきれ改め、ボッケンと呼ぶことにします」
なにやら勘違いをしているようだが訂正する気にもならなかった。
もはや、この世界の人々は木剣という物を認識すらしていないと言う事をしらしめられたからか。
もしかしたら元よりこの世界には木剣が存在していなかった可能性すらある。
シフィエスは仕切り直すようにひとつ咳払いをしてから言葉を続けた。
「さて、ロウエ。剣術について興味はありますか?」
「はい。……興味はあります」
「『興味はあります』ですか」
僕が言い淀んだ事に少し思うことがあったのか、シフィエスが僕の言葉をそのまま繰り返す。
剣術に興味はある。バリバリある。
しかし、事あるごとに魔法の勉強をさせようとしてくるシフィエスの言葉を真に受けられる程僕は素直ではない。
「まあ、いいです。
近々、私と先輩の共通の師匠であるサギカ様がこの町にやってくる事になっているのです」
「はい」
頷いてシフィエスに話の続きを促す。
「サギカ様は、次代の賢人候補に上がる程有能な魔術師であり、現七賢者、趣味で剣術の研究もなさっているんです」
「つまり、その人が剣術を教えてくれるって事ですか?」
「その人ではありません!サギカ様です!」
普段は語気を強めたりしないシフィエスの様子に驚いた。横でおとなしく話を聞いていたマリエスの肩もピクリと跳ねる。
「……その、サギカ様が僕に剣術を教えてくれるって事ですか?」
「そのような感じです」
「そのような?ですか。ずいぶんと曖昧な言い回しですね」
「教授して頂けるかどうかはロウエ。あなた次第です」
「僕次第とは、どういう意味でしょう?」
「それは────」
そこで言葉を詰まらせたシフィエスの視線が虚空で揺れる。
「『それは』なんですか?」
何がおかしいのか、右手を口元に寄せるとフフフと笑い、シフィエスは続けて
「それは、お楽しみという事にしておきましょう。
────お薬の方も完成したようですし」
シフィエスの視線は、部屋の隅で火にくべられている金属製の鍋に向けられていた。
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