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存命編
ep17 磔刑と怪物
しおりを挟む刑罰の進歩は長き人類の歴史と深く関わっている
イエスが受けたことでも有名な十字架刑…
あまり知られていないが死因は窒息死だという
はりつけ状態では
重力により身体は下へ引っ張られてしまう
しかし呼吸するには
肺の横隔膜を伸縮させる為に
身体を上へと持っていかなければならないのだ
身体を上へ持っていく為に
手足に力を入れるが刺してある釘によって
激痛が走るのは当然で
その痛みに耐えながら必死に四肢に力を入れる
しかし体力に限界が来てしまい
身体を持っていくことが不可能になるのだ
やがて呼吸困難となり
激痛のなかジワジワと苦しみながら死んでいく
長ければ3日間生きながらえると言われている
ソレは<生きながらえる>とは言わないだろう
寧ろ死んでいってるのだから…………
(なんなんだよ… アレはっ……… )
十字架に括りつけられた人をよく見ると
両手には大きな釘と両足には
紐状のものが巻き付けられていた
(ここに居ては… 絶対ダメだ、、 )
俺のビビリセンサーがここに来て
警報を鳴らしている…
「あの人生きているのか、、?? 」
俺は疑問が声になって漏れ出ていた
気になるから少し近くことにした
コツコツコツ…
敏感になっているせいか足音が響いて聞こえる
怖い気持ちを押し殺して進む…
手がガラスに届く距離で俺は足を止めた
「男性………だよな? 」
ガラスに顔が付く寸前まで近づけて
十字架に縛られた者を覗き込んだ
俺は異様なほど辺りが静かなことを恨んでいた
既にアリシアからの逃亡なんて頭に無かった
そんな時に……
「う…うぅっ………… 」
ガラス越しに映っている男が目を覚ました
やはりかなり弱っているようで虫の息だった
俺は内心焦ったがそのまま突っ立っていた
彼と目が合ったその瞬間……
「嫌"っ"……嫌だぁ"あ"あ"あ"っ………!! 」
それは心からの恐怖と拒絶なのだろう
死にかけの人のものとは思えない程の悲鳴に
焦る俺はモタついてしまう
「も"う 拷問 はや"め"て"く"れ"ぇ"っ"……!! 」
酷く掠れた声で叫ぶ彼は
大きな釘が刺さった四肢を無理矢理動かして
両腕から血が吹き出していた
「ま、待てよっ……
俺は拷問なんてしないっ……!
俺は外から来たんだ…
ここの人とは関係ないんだよっっ!」
俺はガラスを叩きながらそう叫ぶが
男は顔を真っ赤にして叫び続けている
「嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だっ……
嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だっ………!! 」
その一点張りで俺の話を聞こうとしない
文字通り埓があかないのだ
「こうなったら…強行手段しか………」
冷静さを保ちつつ俺はそう呟いて
少し後ろに下がり思いっきり前へ駆け出して
バリッ!……バリバリンッッ………!!
ガラスを蹴破り叫んでいる男の方へ駆け寄る
ソレを見た男はより大きな叫び声を上げて暴れた
「落ち着けっ…!話を聞けよっ……!! 」
目の前で怒鳴った
我ながらこんな声出たんだと少し驚いていると
辺りが静かになり男は黙って震えていた
「これ… 今から外すから、、」
俺はそう言って男の右腕に刺さっている
大きな釘に両手をかけて力を入れた
ズッシャッ!!…
その釘を抜いた
釘が刺さっていた所から血が吹き出てしまう
その血液はガラスを真っ赤に染め上げた
「ぐっ…ぐがっっ………!! 」
彼の悲痛な声が漏れる
その後俺は左腕に刺さっていたもう一本も抜く
何故か罪悪感まで感じ気持ち悪かった
「でもやっぱり痛い……よな?」
と聞くと彼はそれに応じるように
頷いてくれた
「あとは脚の縄をどうするかだよな
何か…刃物があれば……… 」
俺はそう呟きながら辺りを探っていると
背後から………
「に…逃げて………… 」
彼の弱った細い声が聞こえた
別に何かが迫ってきてるわけでもない
俺はその言葉の意図を聞いた
「え……? なんで…?? 」
「いいからっ…! 早くっ…!! 」
そう今度は強く言われた…
理由を話さない彼にイラついた俺は
「理由もなしにそんな事言われても……
そんな事できるかよっ………!! 」
そう怒鳴ってガラスの破片を掴んで
彼の足を拘束している縄の切断を試みる
「理由なら…すぐにわかる……
いいから逃げてくれっ…!! 」
掠れた声で彼は警告するが
ソレを無視してガラスの破片を刃物のように扱い
縄を切断しようとしていると……
ボコッ……ボコ"ボコ"ボコ"ッ…………!!
頭上で気持ちの悪い音がした
水中で何かが弾けたような不快で鈍い音だった
そして………
「逃ゲテクレ… 頼ム、、 」
今までの彼とは似ても似つかない低い声…
その声を聞き背筋が凍りついた
(このような声…どこかで、、 )
そうしてやっと俺は
目線を彼の足元から上へ上げると
「う、嘘だろ、、 」
右膝が異様に大きく鋭利になっていて
身体中が硬そうな皮膚に覆われた
血で赤く染まった 怪物 に彼が変化したのだ
「あっ…っ…… 」
俺はあまりの衝撃で怖じ気付いて動けなかった
そのまま膝立ちのままでいると
「逃"ゲテ"ク"レ"ッッ………! 」
ドガッ………!!
次の瞬間に身体は彼に強く押されて
ガラスまで弾き飛ばされた
そこでやっと俺の思考は動きだす…………
(ぐっ………逃げないとっ!!… )
走って突き破ったガラスを抜け
扉を思いっきり引っ張り図書室へ飛び出した
~ ep17完 ~
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