アレハタレドキ [彼は誰時]

えだまめ

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存命編

ep25 みざりーわーるど

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右肩の痛みに耐えられずに目を細めてしまう
大斧は鎖骨を砕きパックリと皮膚を裂いていた
血液が噴水のように飛び散っている



「ッッぐあ"あ"あ"あ"ああッ…!!  」



あまり直視したくないが
右腕が付け根から千切れ落ちそうになっている 
吐き気、目眩に続き既に視界がボヤケていた 


「動かないでッ…………!」


アリシアはすぐに両手で右肩を圧迫し止血を図る
しかしそう簡単には止まらなかった


「くそッ……奴が来てしまうッ………」


どんどん荒くなっていく呼吸を抑えながら
瓦礫の山に突き刺さっている大斧を見つめ直す
やはり……奴の獲物で間違いなかった


(アイツ………ずっと俺を追ってきてたのか……
そう仕込んだのは俺だけど……  )



ビリビリビリビリィッ……!!



側で布が避けた音がした
アリシアが服の袖山辺りを千切っているのだ
その布地を傷口辺りに添えて縛った


「ぐがッ…………!! 」


俺は思わず声を上げてしまう
しかし彼女には伝えないといけないことがある
アリシアはまだ知らないのだあの怪物を……


「アリシア………奴が…くそッ……………」


永遠に続く立ちくらみのようなものに襲われ
呂律さえ思うように回らない自身が情けなく思う
しかしアリシアは察してくれたのか


「…………奴って誰?… 」

 
俺が藤村と別行動するきっかけになった奴…
大斧使いの化け物について簡潔に説明し


・奴に追われていること
・奴の愛用の武器のこの 大斧 のこと
・奴が非常に凶暴なこと


所々言葉が詰まったり支離滅裂になったが
なんとかアリシアに伝えると


「奴はこの武器を投げてきた…
だから奴とは一定以上の距離があるわ……… 」


彼女は聞き取りやすくゆっくりと話す
少し黙ったあとに続けて


「貴方は致命傷を負っている…
だから私達の生まれ育った施設まで
奴から逃げる事は…ほぼ不可能だわ………」


いつもより増して感情を押し殺しながら断言する
今俺が走ったら大量出血で死んでしまうだろう
そもそも走れるかさえもわからないのだ
ならすべきことは目に見えている



「なら……俺を置いていけ…… 」



この常にビビり腰の俺が誰かを逃がすために
映画とかでよくあるシーンを再現するとは
本当にこの世界はわからない…………


「 イヤ 」


アリシアは即答した
フレーズの余韻を感じさせないほどの速さで…


「状況を…理解してくれ……………」


「なら私が倒すわ…
以前のように私の中で眠る怪物の力を使う… 」


「無理なんだよ…アリシア……… 」


その言葉でアリシアは黙り込んでしまった
視界がボヤけるなか


「どういう意味…? 」


これ以上時間を無駄にしたくなかった俺は
彼女を無視して立ち上がり歩き出した
生まれたての小鹿のように全身が震えている
初めて立った幼児のようにフラフラと歩きだす


(奴はすぐ大斧を拾いにくる…
今は一刻も早く距離を取るべきだ、、)


俺の行動の意図を理解したのか 
アリシアが肩を貸してくれた 
そしてなるべく早くココから離れ脇道に入る


「カミダさん……
余裕があるならさっきの理由を教えて… 」


「アリシアはあの戦いの後に暴走したんだよ…
それで暴走を抑制する薬を打った
君の仲間であるラシルと同じように……」


「 、、、!? 」


視界がボヤけてよく見えなくても
彼女の反応は容易く予想できた
ラシルという仲間のことは既に手帳で把握済みだ
そして次はあの牙男から得た情報だ



「君の暴走を止めるために
 G-killer という薬を使ったのだけど……
副作用で今はその圧倒的な力が使えないんだ 」



アリシアはただ絶句した
あの男が正しいのなら俺は嘘を言ってないし
説得力に欠けているはずがないのだ
アリシアは


「なら……距離を取らないと………
ただでさえ…貴方は…………致命傷をッ…… 」


「いや…俺が囮になる…
奴の狙いは俺の命なんだよ………… 」


仮にこのまま俺と逃げれたとしても
奴は必ず俺の血痕を辿って追いかけてくる
あの死神からは逃げれないのだ


「また…私に独りになれって言うの………? 」


そう呟かれたその言葉は涙ぐんでいた
クールな彼女が初めて見せたその人間らしい感情は 
俺に残された数少ない時間を彼女の為に使う………
そう強く決心させたのだった


「俺は…もう助からない………
アリシアが致命傷って言っただろ?…
それに………… 」


視界が悪くてもわかってしまう
右肩からの出血で上半身が完全に染まっている
赤色の絵の具を水で広げたパレットの様に……


「だからって………… 」


何かアリシアが言おうとした瞬間に



バギャアッ…………!!



路地裏をなんとか進んでいると
後方の一軒家の壁が吹き飛び奴が姿を現した



「遂ニ… 見ツケタ………
殺ス…殺ス殺ス、、殺スッ…… !!
潰シテヤルッ………!! 」



怒り狂った熊のように雄叫びをあげる
獲物の大斧は既に回収済みのようで
逆手で掴みながら引きずってきたようだ


(なんとか……アリシアだけでもッッ……)


血液を失いすぎたのか俺の思考は停止していた
全身が寒く身体の震えが止まらない
奥歯がカチカチと鳴っている


「痛みには耐えてッ…!! 」


そう叫ばれたあと視界が急にグラつく
気づけば俺はアリシアに背負われていた
もの凄い速さで奴から遠ざかっていく…………


「置いていけとかふざけないでッ……!!」


息を上がるなかアリシアが叫ぶ
背後で奴の怒鳴り声が聞こえたが気にならなかった


(また……アリシアに迷惑かけてしまったのか………)


そう思いつつも少し安心したその時に
急に身体が地面へと沈んでいく感覚に襲われた



ズジャアッッ…………



俺を背負ったままアリシアは倒れてしまったのだ
結果的に俺も顔面を地面に打ち付けてしまう
そして吐血してしまい身体の限界を悟った


「 ぐッ…どうしてッッ…… …………?
…身"体"が言うことを聞いてくれないッッ…
どうすればッ…… 」


彼女は巻き込まれ散々な目にあってきたのだ
そろそろ報われたっていいじゃないか………
いい加減俺は覚悟を決めて息を吸った



「アリシア… そのまま逃"げろッ…!
全速力で逃"げろ"ッ"ッ"………!! 」



口腔のなかが血液の臭いと味で充満している
振り絞って叫ぶと同時に奴が居る方へ歩き出した
痛みが何だと言うのだ恐怖が何だと言うのだ
彼女の運命や試練に比べたら可愛いものじゃないか


「嫌"ッッ… 待って…………!! 」


アリシアの悲痛な叫びに涙を堪えたまま
俺は振り返ってボヤケた彼女の顔を見つめた
これが最後になるのだ……


「色々と楽しかった… アリシア………
ありがとうな………!! 」


そして奴へと向き直って走り出す
余力を全部使った文字通りの全力疾走だ



「アリシアッ……!
俺の分まで生"き"ろ"ぉ"お"お"お"ッ…………!!」



全力で奴に駆け寄る俺の足音と
背後で走って遠ざかっていく彼女の足音……
重なり響く足音を聞きながら俺は後悔していた


(ごめんな…アリシア………
覚悟は決めていたのに一瞬だけ……………)



またアリシアと生きたいと願う俺が居たよ
やっぱり捨てきれないのさ…俺は………



でもね……?
君が俺を忘れないでいてくれるなら…………



「がぁ"あ"あ"あ"あッッ………!!! 」



俺は決死の覚悟で奴に向かって走った
両腕を振るごとに痛みが増していく……………


(でもそんなの知"る"か"よ"ッ"…………!!
最"後"ぐら"い"抗'っ"て"や"ッッ…………………… )



バギャアッ…………!!



地面と水平に振られた奴の大斧が俺の両膝を砕く
脚が千切れた俺は仰向けに倒れてしまった
奴の姿が腕を伸ばせば届く距離にあった


「がッ…ががッッ……………  」


もうそれぐらいしか言えなかった
感覚が麻痺しているのか痛みさえも感じない


「逃ゲ惑ウシカ 能ガナイ鼠ヨ……………
最後ニ 何カ言ウ事ハ アルカ?……… 」


「がッ… ぐぅッッ………… 」


どんなに息を吸おうが上手く声が出せない
しかし最期に…最期にコレを言ってやるんだ………



「誠"士"ろ"ッ"……
岩見 誠士郎が必ずお前を殺す"ッ…!
あいつはお前より強い"んだよッ……!! 」



(ごめんな… 岩見………
最後にとんでもねーことを言っちまった……
本当に…ごめんな………
そして俺の手帳をお前に…………………………… )





ドグジャッ………… !!



大斧が真上から振り下ろされるを最後に
視界が暗くなっていった


~ ep25完 ~

    
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