アレハタレドキ [彼は誰時]

えだまめ

文字の大きさ
76 / 89
餼羊編

ep15 戦闘開始

しおりを挟む

こうして自分と東真は ゾンビ捜索 を開始した
自分は木刀と腰に付けた大型ナイフを装備しており
東真は拳銃を手にしつつ木刀をベルトで括っている


(普段通りの駆除になると考えていたから
装備は対多数を想定してないモノだ…用心しよう)


改めて装備品を確認した上で自身に言い聞かせる
正直、河嶋の刀を取りに戻るべきか迷っていた
しかし時間の問題もありやめることにした


「やっぱりなかなか見つからないね、ゾンビ 」


そう東真が辺りをキョロキョロと見回しながら言う
右手にある拳銃の銃口を下にしつつ警戒している
かなり銃の扱いになれてきた印象を受けるなか


「…………そうだね 」


そう自分は返したあと20分ほど歩いていくと
遠目に見えていた あの山 は目前にまで迫っていた
ボロボロの看板には 狼鳴山 と書いてある
自分は木刀を握る右手に力を込めつつ


「東真…気を引き締めて行こうね  」


「あぁ……わかってる」


東真の脚が微かに震えているのが横目にわかる
しかし流石にここまで来て引き返す訳にはいかない
重なり合うように生い茂った木々に囲まれるなか
人がギリギリ3人並べるほどの小道を歩いていく
木漏れ日に照らされるなか登っていくと


「誠士郎………アレ」


「そうだよね………コレは確定かな、周り見た?」 


「っっ……!?!?」


自分に促され周りを見た途端に東真は絶句した
彼が指さした先には血痕のようなものが付着している
厳密にいうと赤黒い色ではなく暗い緑色だった  
そして狭い木々の間には獣道が無数に出来ていた
まるでように


(今まで見落としてきただけで……
入口から確認できたんだろうな、コレら………… )


おそらく目がこの環境に慣れてきたためだろう
または危険地帯に足を踏み入れたことを実感して
五感が普段より鋭くなっているのだろうか
自分は地面にこびり付いた緑色の液体を蔑みながら


「血痕かと思ったけど、ゾンビの体液だね……」


「うん、今まで見落としてたのか不思議なくらいだ
獣道のくせに…足跡がなんてな」 


「木の破片も沢山落ちてる…剥がされたらしいね
これは…………」


これはいよいよ真実味を帯びてきたね、と
周りを見回しながら自分はそう言うつもりだったが
なんとなく気まぐれで背後を確認した際



シュッッ………!!



空気を切るような鋭い音と共に
何かがコチラに向かって物凄い速度で飛んできていた
偶然ソレを目視できた自分は


「東真ッ……! 伏せろッッ…………!! 」


「えっ……!?」 


側に居る東真へそう叫ぶと同時に
自分は右手に握る木刀を全力で振り下ろした



バギャッ…………!!



なんとか見切れたようで
飛んできた飛来物を地面へ叩き落とした


カランカランッ………


音をたててソレが転がるなか自分は辺りを警戒する
奇襲された方向を特に注意しつつ身構えるなか


「誠士郎…敵襲か………??  」


東真は立ち上がりながら不安そうにそう聞く
しかし敵は一向に姿を現さない


「うん……敵はゲリラ戦を望んでいるらしいね 」


そう言いつつ先程叩き落した ソレ に目線を移すと
ソレは刃渡り1mもない 綺麗な小刀 だった


(東真を狙って投げたのか………… )


その小刀を左手で拾いつつ
自分と東真は互いの背を預けるように立ち警戒する


「東真……大丈夫? 」


「な、なんとか………… 」


東真の声が震えていることは明白だった
最悪の場合は彼の拳銃に頼ることになるが
彼は恐怖で動けなくなってるのではないだろうか
自分は一度深呼吸したあとに


「………東真は全力で走って下山したのち
安全な所まで移動してくれ、追手は食い止める 」 


「もう……逃げたくないんだ 
それにこの捜索の提案者は俺だ、やり遂げるよ」


「…………わかった
このまま互いに背を向けあう形で移動しよう 」


そう言って再び進もうとした時に東真は悲鳴を挙げる
喉がはち切れそうなほど大声で絶叫していた



「うぁわわぁあッッー!!…………
誠士郎ッッ……!! 誰か来てるッ…!!」



自分は振り向きざまに 小刀 を捨て彼を押し飛ばし
ベルトに付けた大型ナイフを抜いて奴へと斬りかかる



ガキィッ…………!!



ナイフの刃と奴の持っている刀がぶつかり合った
その衝突で重い金属音が辺りに鳴り響く
奴は迷彩柄のマントを羽織っているが
仮面を付けているため素顔まではわからない 
鍔迫り合いによりナイフと刀がギリギリと擦れあう
拮抗する状況のなかで自分は奴を睨みながら


「お前…誰だよ………ここで何をしている?…… 」


「名乗ル名ハ 無イ……教エル事モ 無イ」


そう応えた瞬間に奴は後ろへ大きく跳んだ
ナイフに掛かっていた圧が消えたことにより
体勢を崩ししそうになりながらも自分は距離を詰める
しかし跳んだ奴が着地した瞬間に 



パァアンッ………!!



左から銃声が聞こえて視線を移すと
東真が銃口から煙の出ている銃を奴に向けていた


「グッ………… 」


苦痛の声を挙げながら奴は前かがみになった
奴は片膝を地面に付けつつ腹部を押さえている


「助かったよ東真、すぐに2発目の準備を……
周りの警戒も怠らないように」


「わかってる…」


自分は彼に伝え足元の小刀を拾って奴に近づいた
奴が持つ刀の間合いの外まで近づき小刀を向け


「コレはお前のか?…… 」


「…………………… 」


奴は無言のまま何も答えなかった
その沈黙が答えだと思いつつ期待せずに質問を続ける


「………ゾンビは気配を消せるのか? 
先程も小刀を投げずに近接による不意打ちをしたら
確実に先手を打つこともできたのでは?…… 」


「ソレデハ… 面白クハナイナ………」


「面白いも何も……お前ら怪物にとって
人間なんてつまらないものではないのか?…… 」


黙秘を続けると考えていただけに
奴が質問に答えたことに驚きつつさらに聞いてみる


「貴様ラハ貴様ラガ 
想像シテイル以上二 注目サレテイル… 」


「どう言うことだ…………? 」


奴は次々によくわからないことを言い出している
謎が謎を呼ぶなかで自分はそう聞くと


「我ガ主ノ ダン様 二ヨッテ……
貴様ラノ 動キ ハ監視サレテイル 」


「弾…?悪いけど知らないな………… 」


「劍様 ヲ殺シタノハ 貴様ラ ダロウ?
ソノ 仇トシテ 弾様ハ 女 ヲ殺シテ 
スペードノ5  ヲ死骸ニ飾ラレタ………………」


確かに奴はそう述べた
そしてパズルのピースが続々とハマっていくように
奴の言葉が指す意味を理解し鳥肌が立った
河嶋との死闘の際に乱入してきたソンビは劍で……


(河島の妹を殺したのはコイツらの長である弾……
ゾンビの統率を図っているのも…コイツかッ……!)


どんな手を使ってでも
ゾンビ達の統制を阻止しなければならない
奴らに集団で動かれたら生存率は劇的に下がるからだ
従来バラけていたからこそ人間は戦えていたのだ


「おい………弾の居場所を教えろッ……!! 」


「……………………」


気づいた時には感情が爆発し怒鳴っていた
付近で沈黙する東真を文字通り置き去りにして
独り自分は明らかに焦っていた 


(弾という奴らのボスは極めて驚異だ……
ゾンビの統率を図っていることは勿論、
高い知能と権力を有していることも証明している…)


冷静さは確かに欠いていたが
弾に忠誠を誓う奴が我々に協力的になるわけがないと
それぐらい初めから理解していたので自分は



「……劍を殺したのは……俺だッ………!! 」



本当は河島が奴を殺したのだが利用させてもらう
コレは奴に向けての挑発である


(お前が大好きな弾の仲間を殺したのは自分だ……
敢えてそう伝えることで揺さぶってやる…… )


実際問題、劍の殺害に自分は関わっていたのだ
漸く少し揺らいだのか奴は立ち上がり


「ナラ………マズハ 生キ残レ………… 」


そう奴は言いながら右手で仮面を外し捨てた
仮面の下から劍のようなグロい怪物の顔面が現れる…
そう考えていた自分はただただ息を飲んだ



「は…?人……?それも……女性?………」



東真が呟くようにありのままを述べていた 
黒く長い髪に大きな目、丸顔に青ざめた頬…………
そして赤黒いヒビのような痣が目元から伸びていた
固まる自分達の前で奴は何かを咥えて



「ピィィイイイイイーーッッ…………!! 」



奴が咥えてソレは笛だったようで
鼓膜に突き刺さる鋭い音が山中に響き渡った
両耳を手で押さえながら耐えつつ


「お前……何をして…………!?」


奴が笛吹きを終えたあとに
自分はそう聞こうとしたが奴は付近の木に飛び乗り
軽々と木から木へ飛び移るように去っていった


「クソ…奴に治癒の時間を与え過ぎたのか…………」


それに奴に逃げる胆力があるとは考えていなかった
手にしていた奴の小刀を投げるか考えていると


「誠士郎…!奴に構ってる暇はないッ…! 」


「………?」


奴の後ろ姿が見えなくなるなか
何かに怯えるように東真が自分の名を呼んだ
真っ青な顔をした彼に疑問を抱いた自分は


「どうしたの?……… 東真…………? 」


「地面が…地面が微かに揺れてる……………」


言われてみると確かに揺れている気がする
揺れは段々と酷くなり木々を左右に揺さぶり始めた
自分達を取り巻く木の葉が擦れ合い音を立てる
東真が何かを言おうとした瞬間に



ズドドドドドドッ……………!!!



山中を何者かが駆け巡るような爆音が耳を貫いた
何となく山の頂上から鳴り響いている気がする
まるで山が我々に激怒しているようだった


(この音…こっちに近づいて来ている……………? )


頂上から何かが物凄い速度で降りて来ている
今のうちに何か対応をすべきなのだろうが 
しかし自分達に時間は残されていないようだった


「まじかよッ…………!! 」


「誠士郎ッ………… アレって………!?」


東真が指差していた山の中腹からは
ゾンビの大軍が物凄い速度で山を降って来ていた
弾によって


「俺の予測は当たっていたのか…………
全然嬉しく無ぇし…あの濁流に飲まれると死ぬ……
どうすれば………………」


「………奴らの居場所を暴けたことは良かった
今すぐ東真は木に登ってくれ、急げッッ……!! 」 


「わかった…木の上から援護する…………
でもアレに呑み込まれたら死ぬぞ…誠士郎ッ!! 」


既にゾンビ達との距離が20mを切っているなかで
自分はポケットナイフを取り出しソレを開く
東真が木に登り拳銃を構えているのを確認したあと



「ゾンビ共…これが開戦の合図だッッ………!! 」



自分は物凄い勢いで降っている奴らへ
厳密にはへと目掛けてナイフを投げた



グジュッッ………!!



狙い通り顔面にナイフが刺さり奴は転倒した
そして転んだ奴の後ろを走っていたゾンビも転び
さらに後ろに続くゾンビ達が次々に巻き込まれる



狙い通りにできたようだ



大勢のゾンビ達は体液を噴き散らしながら
雪崩のように転がり落ち木々との衝突を繰り返す
まさに地獄のような景色だった


「東真………! 」


自分は名前を呼び東真に木刀を投げる
小刀を手にしているため両手がふさがっているのだ


「!?…わっ……ちょっ…………!! 」


東真は戸惑いつつもソレをしっかりと掴む
ソレを見届けながら左手がフリーになった自分は
近くの木へと走って近寄り全力で飛び乗る



ズジャァア……… ! グジャッッ……… !!



生々しい音と共にゾンビ達の雪崩は木々にブチ当たる
運良くドミノをすり抜けた奴もいるだろうが
初期のゾンビ達の勢いは完全に消滅することができ
倒れたゾンビ達が辺りに散乱する状況へと移った
動くなら今しかないようだ


(コイツらは弾が集めた主力のゾンビだろうか?…
しかし、生きている奴と死んでいる奴の区別が 
全くわからないな…コレ…………  ) 


勢いよく地面を転がった際に
地面で削られ四肢の何処かしらを失っている奴や
顔面が消し飛び痙攣している奴などが多数確認できた


「………………ここで徹底的に潰してやる……」



そう言いつつある程度状況を整理した自分は
大型ナイフを抜いて乗っていた木から飛び降りる


ジャガッッ………!!


落下していく勢いを利用してナイフを振り下ろし
真下で痙攣していたゾンビの首を切断する
ひと呼吸置いたあとに構えつつ



「来いよ…………
生きてる奴も死んでる奴も全員殺してやるッ……
そして俺たちが生き残るんだッッ………!!」



この叫びを合図に対大軍ゾンビ戦が始まった


~ ep15完 ~

しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

悪役令嬢の慟哭

浜柔
ファンタジー
 前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。  だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。 ※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。 ※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。 「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。 「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

公爵令嬢アナスタシアの華麗なる鉄槌

招杜羅147
ファンタジー
「婚約は破棄だ!」 毒殺容疑の冤罪で、婚約者の手によって投獄された公爵令嬢・アナスタシア。 彼女は獄中死し、それによって3年前に巻き戻る。 そして…。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...