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餼羊編
ep18 弾の術中
しおりを挟む「また会ったな少年よ、元気にしていたか? 」
背後から低い男の声が聞こえ振り向くと
黒いハットを浅く被りサングラスを掛けた男が立っている
30代ほどに見える彼も兵士と同じ戦闘服を着ていた
先程の号令も彼が掛けたのだろう
「えっと…貴方が…………… 」
自分は対応に困るなか考え続ける
どうやら感動の再開らしいが当然身に覚えはない
それもそのはずだった用があるのは
「お久しぶりです………
あの時は本当に助かりました 」
自分の側に立っている東真が頭を下げる
近くでその一部始終を見ながら東真に問うことにした
「東真………この方は? 」
「あぁ……言ってなかったっけ?…
誠士郎達と会う前に俺を助けてくれた人だよ 」
ソレを聞いて自分は少し安心する
確かにコンビニで立て篭もっていた時の話を聞いていた
しかしこの男に抱いてしまう違和感、これは何だろうか
「えっと…聞いたような聞いてないような……」
「まぁ無理もないよ、そういえば…
誠士郎に渡した大型ナイフの持ち主だよ 」
彼にそう言われて大型ナイフに視線を落とす
確かにコレは東真から渡されたものだ
すると男もソレに思う所があったようで
「そのサバイバルナイフは私が作ったものだ
気に入ってもらえて嬉しいよ」
「…………良く切れます 」
「君、かなり戦闘慣れしてるようだな……
ゾンビを刺殺する際に迷いがない、良い腕だ」
男は無駄な抑揚を付けずに淡々と話す
その出立ちと雰囲気から漸く違和感の正体に気づいた
(取引をしたメアリーの付き添い人と似ている…のか)
あの男も淡々とした口調で話し続けていた
厳密には情を最小限に抑えているような接し方というのか
"データとノウハウ"を生み出す対象と認識しているような
接してて良い印象は持てない相手だった
いっそのこと聞いてみようと思い至った自分は
「……………貴方は何者ですか? 」
「私は牙持ちの男だ 」
男はそう答えたあと口を開き我々に牙を見せつける
小説などでよくある吸血鬼のように鋭い犬歯が
口のなかからギラリと姿を覗かせていた
「ッ…………!? 」
明らかに警戒レベルが引き上げられた瞬間だった
ソレを見た途端に自分は反射的に身構えてしまう
左手に持つ小刀を彼に向け、右手でナイフの柄を掴む
突然のことに東真は側でただ硬直していた
しかし男には余裕があるようで
「試してすまなかったな、コレは生まれつきだ
まぁこんな世界だ…別に珍しくはないだろう? 」
「…………そうですね、失礼しました」
彼に向けていた小刀の刃を地面へ下げたあと一礼する
男は奥でゾンビ達を掃討している兵士らを指して
「 東真は知っていると思うが私の主な活動は
生存者を拾って兵士にしていることだ」
「なるほどあの兵士達はそういうことですか……
唐突ですが…傀儡者研究の従事者でしたか? …」
相槌を打った後に自分がそう聞くと
彼は少し驚いた様子を見せたあとに平然と
「関節的には……という所だな 」
「…なんにせよ……お助け頂きありがとうございました」
自分はそう言って深々と頭を下げる
その様子を見た東真もつられて頭を下げていた
自分達が頭を上げると彼は淡々と続ける
「私に借りができたと思っているなら
落ち着いたあとに不知火造船所へ来たまえ」
「何か………あるのですか? 」
「来て自らがソレを確かめたらどうだ?…
生存者同士も協力すべきだと私は考える 」
「………… わかりました 」
生存者同士も協力すべきという言葉から
ゾンビの統率を図る者の出現を彼は既に知っており
兵士達を動員してこの山を攻めさせたという事になる
何か猜疑心が芽生え警戒を解けないなか自分は
「東真……なるべく早く学校に戻ろう 」
「あぁ、、 」
東真は何か不安を抱いているような口調で応える
しかし実は自分も胸騒ぎがしているのだ
自分達はもう一度男に頭を下げ、足早に下山した
こうして狼鳴山戦が終わり学校へ走って帰還する途中
「誠士郎…これ弾による罠だったりしないか?」
「………実はそうではと思ったんだ…自分も 」
お互い考えていたことは概ね一致していた
ゾンビの長である弾は恐らく2つの計画を立てている
①狼鳴山に大軍のゾンビを集結させること
②劍を殺した者を探し出すこと
目的は障壁となるであろう劍殺害者を殺すことで
指針はゾンビ共を統率し蹂躙すること辺りだろうか
「笛を吹いて大軍を呼び寄せたあの仮面女……
誠士郎に"お前らは監視されている"って言ってたな」
「そうだね………」
「やはり俺らの駆除範囲外に仲間を集めてたのか…
なかなか小細工が好きみたいだな……」
「ソレに女を殺して、トランプを置いたって……」
「……………………」
自分は沈黙してしまう
河嶋の家での惨劇を見ている東真の前で
"劍を殺したのは俺だ"と叫んでしまったのは悪手だった
あの場所にはゾンビ/河嶋/彼の妹の死体があり
河嶋との死闘中に乱入してきたそのゾンビこそが……
(劍だからだ…………… )
自分は嫌な方向へ転がっていた思考を敢えて止める
彼に聞かれた所で言い訳などどうとでもなるのだ
とりあえずは弾の狙いを分析することにした
自分は走りながら頭の中で記憶を引き出す
「あの仮面女にゾンビ集めは任せていたのか…?」
「……やっぱりアイツ人間だったよな?誠士郎」
どうやら思考が独り言として漏れていたらしく
余計なことに触れてしまったと後悔したが
物は考えようで河嶋の話から逸らす良い機会だ
走り続け少し息が上がってくるなか自分は
「言いたいことは伝わるけど…
ここで議論してても仮面女の正体はわからないよ
時間の無駄だと思う」
「まぁ…そうだよな………」
監視されていたのが本当なら
弾は集めたゾンビ大軍に自分達を潰させようとした
しかし自分達に奇襲され計画は挫かれた
(いや…………この解釈は都合が良すぎるッ……!)
助けてくれた兵団の長と話している頃から
自分と東真は何か違和感を抱いている
今回のソレは懸念とみるべきなのだろうか
「あ………………………」
「どうした?………」
気にかけてくれた東真を無視する形にはなったが
違和感の正体に気づいたのだ
仮に我々が成功させた居場所特定も奇襲も
全て弾が書いたシナリオ通りの話なら………………
「敢えてゾンビの大軍に我々の意識を集中させて
我々の注意を逸らすことを狙っていたとしたら…」
「誠士郎………??」
「今頃…弾自身は何処で何をしている…?
最悪の場合…奴は既に自分達の学校へと…………… 」
さらに厳密に述べると
山に隠された大軍の存在に気づかれたら弾自身が動く
気づかれないのならそのまま大軍で攻める
現時点でも二重の策を強いられている可能性がある
もしかしたらもっと何重もの計画しており
確実に我々を殺しに来ているかもしれないのだ
常に最悪の事態を想定して動くのが妥当なら
自分がすることはただ1つだけだ
「東真…このまま二手に分かれよう…
弾による追手が来るかもしれない…………」
「ッ……!? 正直まだ状況が読めてないけど……
その様子だと説明する時間もない感じだな」
「一言で言うなら……
自分達がゾンビ共に奇襲をかけ一掃したことは
奴が狙った状況なのかもしれないってこと……」
「えっ……? 奴って弾だよな………
あのゾンビ達は囮の可能性があるってこと?」
「うん……仮面女が笛を吹いたの覚えてる?」
「………勿論覚えているよ
忘れたくても忘れられないほど音量ヤバかったし…」
「あの合図はゾンビ達を呼び寄せるだけではなく…
弾への合図も兼ねているとしたら?」
「俺らが死闘を繰り広げる前には既に弾は…………
クソッ…… おかしいと思ったんだッ…!」
「だいたいッ…ゾンビの大軍が大事なら…………
そのボスである弾も山に留まって守るだろッッ……
まるで最初から捨て駒みたいに奴らを……」
「東真、自分は急いで学校へと向かう………
今から二手に別れて行動しよう」
「わかった…無茶して死ぬなよッ………! 」
「無茶ぐらいしないと…どの道死ぬ気がする……
まずはやれることを確実にやろう」
そう言い残して自分は進んだ
自分の読みでは弾はさらに追っ手を向かわせるだろう
東真は奴らの足止めをし自分はいち早く学校へ戻る
ソレが一番の策だと考えた
この時の決断が間違っていたのだろうか
それとも…仲間を喪うことは既に決定していたのか
何度考えても答えはわからなかった
~ ep18完 ~
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