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餼羊編
ep19 激昂
しおりを挟むリータ/アリシアside
「その人を返して 」
倒れているガクトさんの無事を再確認し
私は黒い山のような奴の背中に言葉を投げかけると
ミクさんを担いだ弾はゆっくりと振り向いて
「貴様… 気配ガナイ…オ前デ二人目ダ 」
「そんなことは聞いてない……………… 」
私の言葉を無視して奴は意味不明な事を述べている
何処までも横暴な奴へ吐き捨てるように布告する
「…なら…………力づくで取り返す」
声に殺気が籠り鼓動が速くなっていくのがわかる
身体が焼けるようにだんだんと熱くなっていった
(アリシアさんは…カミダさんを救えなかった…
彼女と一心同体である私がやり遂げなければならない
ミクさんは絶対に殺させないッ……! )
ガクトさんに私も怪物だと気づかれても構わない
今の私に恐れることなどなかった
ビキィ… ビキビキビキッ…………!!
デニムで隠れた右脚を軸に傀銀を生成する
奴の持つ大斧の形状は把握し戦い方も既に見た
戦闘に対する気迫も十分過ぎるほどだ
「来イッッ…! 小娘ェエッッ!!」
「何かを失うのはもう… 嫌だッ…………!! 」
正面から雄叫びを挙げる奴に張り合うように
私がそう叫んで勝負を挑もうとした瞬間、事態は動く
バギャア"ッ……!!
保健室の入口を跨ぐように構えていた奴の背後に
人影が現れて奴の後頭部へ木刀を振り下ろしたのだ
「グゴァッッ………!?」
奇襲による一撃は重く鋭いものだったようで
喰らった奴は前かがみになりながらグラついている
しかし踏み留まり転倒は避けながら
「何ダァ……貴様ァアッッ……!!」
叫びながら振り向きざまに太い右腕を振りかぶる
体重を乗せた鋭く速い振りかぶりだった
バギィッ……!!
しかし空振りに終わり右腕は壁にめり込んだ
ここからの角度では奴の巨体で隠れてよく見えないが
恐らく避けるか受け流して軌道を逸したのだろう
重々しい衝撃音だけが室内に響くなかで
痺れを切らしたのか奴は大斧を垂直に振り下ろす
ドメシャッ………!!
入口を出てすぐの廊下の床を大斧が吹き飛ばす
その衝撃で地面が揺れ粉々になった木材が宙を舞う
しかしその一撃も回避していたらしく
「美九に……気安く触れるな………… 」
静かな声が聞こえた途端に
ドギャアッ…………!!
「グガァ"ッ………!!」
彼は隙を突いて奴の胸部を木刀で薙ぎ払う
そう声を上げて奴は私のほうへ大きく仰け反った
(奴を圧倒しているッ………! )
彼は床に衝撃が走るタイミングを読んで
あらかじめ軽く飛び地面の揺れと付き合わないことで
奴の大斧がめり込んでる隙を突いて一撃を入れた
ビキ…ピキピキィ………………
その華麗な立ち回りを前にした私は傀銀を抑えこみ
「セイシロウさん…………」
祈り縋るように彼の名前を呼んでいた
~~~~~~~~~
誠士郎side
最初は冷静でいれたのに
今の自分を取り巻く感情は怒りのみだった
周りを見回しリータと楽斗の生存を何度も確認する
「皆… 遅れてごめん………… 」
今日の朝までは
保健室は綺麗で扉も床もきちんとあったし
3人ともこの室内で明るく過ごしてたのに………
全部、コイツのせいで……………
「漸く追いついた…随分と好き勝手やってくれたな…
貴様ッ……殺してやるッ…!! 」
奴の前で声を荒げつつ木刀を堂々と構える
何故美九を攫おうとしているのか不明瞭だったが
(奴は右手しか使えないッ…
左手は美九を担ぐのに使っているからだ…………)
ソレを上手く突いて戦ってやる
攫おうとしているのはまだ彼女が生きている証拠だ
生きているからこそ利用価値があるはず
「グッ… 貴様ガ 岩見カ………… 」
「漸く会えたな…クソ野郎ッ………
お前が弾であることは既に知っているッッ…! 」
湧き上がる殺意を抑えながら
自分ははそう言ってあるものを奴の足元へ投げた
「ナンダ…? ソレハ…………… 」
「お前が置いていったトランプだよ
スペードのマークは死を表すんだろう? …
お前が殺した少女の仇を取りに来た 」
所々血液が塗り固まっており黒いそのトランプは
河島の妹の遺体の側に飾るように置いてあったもので
まるで自身の仕業だと象徴するかのようだった
足元に投げられたソレを奴は見つめたまま
「ソウカ… 」
たったのその一言だけ呟き沈黙した
想定していた反応とは180度違う反応をしている
(何か…嫌な予感がする……………)
先のほどとはうって変わるほどに場は静寂している
しかし自分のなかで静かに怒りは渦巻いている
油断せずに木刀を構え来たるべき時を待った
すると奴は鼓膜を痛めるほどの大声で
「ヤハリッ………ヤハリヤハリ"ィ"ッ"ッ"…!
貴"様ガ劍ヲ"殺シタンダナァアッッ……!! 」
奴は咆哮をあげるように叫んで美九を捨てる
片手でゴミを投げるようなその仕草に限界がきた
ドシャッ……
美九が床に打ち付けられる音が響く
コイツには地獄が天国に見えてくるほどの苦痛を
この手で与えてやると誓った
「糞野郎がッ……… 」
俺は吐き捨てるようにそう言って木刀を構える
奴も今度は両手で大斧を掴んでこちらへと迫った
「潰"レロッ……!! 」
間合いに入った瞬間に奴は大斧を垂直に振り下ろす
今度は両腕で振っているため多少速くはなったが
バギャアッ……!!
「その振り下ろしは先程も見た 」
自分はソレを左斜め前に大きく飛んで回避した後
勢いを保ったまま奴の懐へ滑り込むように接近する
ドゴァッッ……!!
右手の木刀を地面と水平に思いっきり振りきった
ガラ空きだった奴の左脇腹に鋭い打撃が入る
この戦闘で一番の手応えを感じるなかで
「グウ"ォオッ…………!」
奴が悲鳴を挙げて身体が後ろへ下がり距離を取る
ソレを読んでいた自分はさらに距離を詰めて
ビシュッ…… !!
素早く左手で大型ナイフを取り出し突きを放つ
首を狙ったが僅かに届かず奴の胸部を掠めた
(お前の大斧による一撃自体は驚異だが
隙きは生じるし何より密着されると何もできない……
さらに機動力は低いため常に後手にまわるッ……!)
自分は木刀を握る右手にミシミシと力を込めながら
奴に接近し再度攻撃を叩き込もうした瞬間
奴は左手を大斧から離し何かを投げた
シュッ…グジュ………… !!
接近するなか違和感が生じた腹部へ目線を下げると
ナイフが刺さってありジワジワと赤く染まっていく
攻めに偏りすぎていたと後悔するなかで
「ぐッ…… ぁあ"ッッ……!! 」
痺れるような痛みに悲痛の声が漏れ出てしまう
弾は一方的に押されたフリをしてたらしい
奴の仲間である劍も投げナイフを扱っていたと
この時に思い出したが既に遅かった
(このまま……負けてたまるかよッ!!… )
右足に力を入れて前に進もうとするが
麻酔が効いているかのように脚の感覚が消えている
自分の脚とは思えないほどに全然動かないのだ
「なッ………… !? 」
力が入らないまま身体はバランスを崩していく
視界がぐるんと回転し視界には地面が迫っている
バタンッ……
そのまま自分は倒れてしまい顔面を打ち付ける
その際に左手と左足は微かに動くことを確認できた
「ソノ ナイフニハ 神経毒ガ塗ッテアル
短時間ダガ 身体ト脳ノ通信ヲ 絶タレルノダ」
奴は倒れている自分や楽斗には目もくれずに
側で気絶し伸びている美九を担ぎあげる
(美九が攫われてしまう前に……
左手で…なんとか大型ナイフをッ……!)
痙攣する左手に無理やり力を込めてナイフを掴んだ
うつ伏せの状態で左手の肘と左脚の膝を曲げる
そこから地面を押すように飛び跳ねて起き上がり
「ふざッ…けるなよッッ………!! 」
そう叫ぶと共に先程の勢いと
身体を傾けることで生じる体重の偏りを利用して
左足を軸に片足で奴の背中へと突撃する
「あッッあ"あ"あ"ッッッ………!! 」
コチラへと振り向いている奴の前で倒れ込み
左手で高く掲げたナイフに全体重を乗せて振った
ドグジャアッッ…!!
繰り出したナイフの刃は奴の左腕に食い込んで止まる
渾身の一撃は奴に堂々と止められてしまった
奴の身体にもたれかかるように脱力していた自分に
「餓鬼ガッッ…… 」
ドゴァッ……!!
丸太のような左脚が腹部に入り蹴り飛ばされた
身体は転がり続け壁に打ち付けたところで止まる
口からはブクブクと血液が溢れ出ていた
徐々に視界が定まらなくなるなかで
「まだ…勝"負は付いていないッ……!! 」
僅かに動く左手で壁をつたりながら立ち上がる
そして比較的動く左脚で一歩踏み込んで
大型ナイフを奴に向かって投げた
グジュッ……… !!
「グッ………コノ餓鬼"メ"ッ"………!! 」
目に命中し視覚を奪ったのを確認し
片足で前進し俺は木刀を拾い上げて走ろうとするが
「………………!? 」
もう一度自分は体勢を崩し倒れてしまう
視界には奴ではなく破壊された床が映っていた
とうとう左脚にも麻痺が巡ってきてしまったようだ
これまでの右脚同様に力を入れてもびくともしない
(身体に…力が入らないッ…………! )
唯一僅かに動く左手を頼りに状況の打破を狙うなか
奴は眼に刺さっていた大型ナイフを抜いて捨てた
そしてゆっくりとコチラへと近づいてきている
(……この状況はッ…………… )
ギシギシと床が軋む音が聞こえてくるなか
必死に藻掻こうとしている自分に
ドゴァッ…!!
奴は再度自分の腹部を思いっきり蹴飛ばした
耐えるはずもなく身体は数十cm後ろの壁に衝突する
そして吸い込まれるように身体を床に打ち付けた
ビキィッ…………!
激痛と同時に肋骨が折れた音が微かに聞こえた
血の味がする口からの呼吸が荒くなり目眩がしている
視界は歪み自分の指の本数さえわからないほどだ
(リータ…ごめん…美九…ごめ………… )
こうして自分は弾に敗れ気絶してしまった
~ ep19完 ~
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