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餼羊編
ep20 あなたと2人
しおりを挟むリータ/アリシアside
セイシロウさんが弾に負けてしまった
その一部始終を側で見ていた私は
「セイシロウさん………??」
地面に身体を打ち付けた際に彼は気絶したのだろうか
電池が切れた玩具のように動く気配が全くない
渦巻いていた怒りより消失感が上回った瞬間だった
「リータ逃"げッ………ぐぁあッッ……!!」
倒れているガクトさんが吐血しながら私に促すが
その意図を見抜いた弾に蹴り飛ばされた
「オイ……………… 」
奴が私に声をかける
憎悪が籠もったその威圧的な声は私を萎縮させた
セイシロウさんが駆けつける前までとは違って
既に私は奴のことを恐怖していた、身体が震えている
「ソノ者ニ 2日間待ツト 伝エロ
2日間待ッタ後ニ コイツヲ殺ストナ…………」
そう続けながら奴は担いでいるミクさんに目線を移し
狂気と横暴さに満ちた気味の悪い声で
「コイツハ 生贄ノ羊 ダ 」
「………………………」
「今貴様ガ 抵抗シタラ コノ場ノ全員 ヲ殺ス…
ダカラ貴様ハ 黙ッテ従エ………」
まずはコイツから殺してやると言わんばかりに
太く大きな手でミクさんの首を締める素振りを見せる
脅迫を突きつけられた私は目を閉じて考える
(傀銀を生成して奴に抗ってみたところで
ミクさんが殺されたら………… )
運良くミクさんを救えたとして
側で倒れているガクトさん達が殺されてしまったら
全員が生き残る道は断たれてしまう
(現時点では辛うじて皆は生きている…
無理だ…今私の選択で誰を犠牲にするかなんて…
選べないよ……… )
今奴と戦ったら確実に誰かを失ってしまう
最悪の場合は全員を失う
(……………………… )
ミクさんの奪還を優先し
セイシロウさん達を見殺しにするのか
(………………………)
奴の脅迫を受け入れる事でセイシロウさん達を守り
ミクさんを見捨ててしまうのか
「………………私はッ」
精神的に耐えられなくなったのだろう
身体から力が抜けていくなか視界が暗闇に染まった
~~~~~~~~~
「弱いわ…リータ 」
電気を消した真っ暗な部屋に私は立ち尽くしていると
私を待っていたかのように彼女は言葉を発した
ソレは私と同じ声のはずなのに似ても似つかない
冷淡で無慈悲な口調は容赦なく私の心に突き刺さる
「ア……リシアさん…? 」
「メアリーと戦った数週間前から
私の精神は私とあなたで分割されているわ
身体の主導権は貴女が握ってるみたいね 」
「リータである私は… 居なくなるのですか? 」
「わからない………でも 」
アリシアさんと話していると希望が見える気がした
絶望的な展開を前に屈服してしまった私は
圧倒的な力を有す彼女に縋りたかったのだろうか
アリシアさんは一旦間を空けて
「貧弱な貴女と違って私は強い………
奴を殺し必ずミクさんを助けることができるわ
貴女が弱さは見てて不快」
「……………なぜアリシアさんは
ミクさんを知っているのですか?……」
「精神は分割されていても
元々は私の身体だから記憶は共有されている………
そんな所かしら」
「アリシアさんがそう仰るのは………
弾からカミダさんを救えなかったからですか?」
「…………………そうね」
言葉のみを見ると何の変哲もない短い言葉だが
彼女のその返答には確かな怒りが燃え盛っている
これ以上は触れてくるなと警鐘を鳴らすように
アリシアさんは線引きをした印象を受ける
「アリシアさん……… 」
最初から答えは1つしか残されていなかったのだ
そう悟った私は暗闇へ向かって静かに呟く
そして彼女の反応を待たないまま
「1つお願いしてもいいですか?………」
私は彼女にそう伝えた
私に弾という存在が横暴に見えていたように
彼女からすると私がそう映っていたのかもしれない
(身体の主導権は握っている癖に
面倒事と対峙した時だけその主導権を返してくる…
確かに私がやっていることは横暴でしかない )
しかしここで引き退がるわけにはいかない
アリシアさんは強さを持って己の存在理由を示した
張り合うために私が示すのは"意地"だろうか
~ ep20完 ~
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