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餼羊編
ep28 虎視眈々と女帝は殺戮す
しおりを挟む「………………………」
湧き上がる感情や言葉は存在しない
私は無言のまま頭が潰れた弾の死体を見つめている
既に外は暗くなってきているようだった
(やるべき事は終えた…あとは………………)
入口へ向かい礼拝堂を後にしようとしたその時に
微かに空いていたドアの隙間からソレは見えた
教会を徹底的に包囲するように
何十体ものゾンビがアスファルトの上で蠢いていた
ソレは人混みならぬ"ゾンビ混み"であった
渋滞し圧迫されるなかで踏み潰されている者など
戦略おろか指揮系統さえもそこには存在していない
唯一あるのは"数による暴力"のみだった
「何処までもくだらないことをするわ………」
恐らくセイシロウ達を殺すために展開されたのだが
私が現れ彼らを逃したことで不発に終わったのだろう
この場にゾンビ渋滞を作り上げた"指揮官"が居るはず
弾に続いて私は奴を狙うことにした
バタンッッ………!!
ドアに添えていた両手に力を込めて押し飛ばす
物凄い勢いでドアが開くなか私は飛び出した
そのまま眼前に迫る階段を跨ぐように全力で跳んだ
「全員…… 殺すわッッ……… 」
有象無象に湧いているゾンビ共へと落下していく
近接射程に迫った瞬間に私は右脚で薙ぎ払った
ドゴァバッッ………!!
膝から足首に掛けて一枚の刃を模した傀銀を生成し
地面と水平に振られた脚は3体程ゾンビの首を飛ばす
皮肉にも弾が用いる斧から発想を得たものだった
(まだ不意打ちは終わらせないッ……… )
斧のような右脚での蹴りを放ったその反動で
宙を舞っている私の軌道は逸れて着地点がズレる
そのまま滑り込むように着地していくなかで
私は身体を捻りながら右腕を全力で突きだした
ズドギャアッッ……!!
刃物で縫いぐるみを貫くように
私の右ストレートは正面のゾンビを貫き押し飛ばす
そのゾンビが群れと衝突し雪崩が起きている
建物や壁とゾンビ共の肉壁に擦り潰される奴もいた
スペースができた前方へと駆け寄ると
ガギャアッッ……!!
突然視界に現れた刀を傀銀を纏った左腕で受ける
私が前進するタイミングを見計らって
奴は上空から落下し両手で刀を振り降ろしたようだ
左腕で受けて固定した奴の刀狙いで右脚を繰り出す
バギィンッッ……!!
ムチのように撓る蹴りが刀に入ったが
読まれていたのか軌道が逸らされ受け流される
さらに私の蹴りで生じた衝撃を利用するかのように
流れるような動作で奴は地面を転がり距離を取った
(…………どうなのだろうか…… )
数m先で起き上がり刀を素早く構える奴を睨み考える
先程の一連で奴が見せた立ち回りは
"ただ私の蹴りを喰らい蹴飛ばされた"とも取れるが
"蹴りを受け流しつつ合理的に距離を取った"とも取れる
現に武器破壊は失敗し奴は私の間合いから抜け出した
「オ前…何者ダ……少年共ヲ 逃シタノカ?」
ゾンビ共の包囲のなか刀を構えつつ奴は問う
声を聞き奴が標的にしていた指揮官だと理解した
セイシロウから奴の情報がリータに流れていたからだ
小柄で低い声に仮面と刀、奴で間違いないようだ
「どうでもいい……
弾に続いて貴様もリータも…私が消すわ………」
「何ダト…貴様……弾様ヲッッ……………」
ゆっくり、ゆっくりと主の死に動揺する奴へ歩み寄る
私と奴を繋ぐ一直線の道からゾンビが消えたその瞬間
ドギャアッッ………!!
足裏に生成した傀銀で地面を抉りながら跳んだ
その衝撃音さえも置き去りにするがまま
動きを目で追えずに棒立ちしている奴へと急接近し
速さ重視で右ストレートを繰り出す
ドバギィッッ……!!
感覚的に危機を察知したのか奴は
取っていた下段の構えから刀を雑に振り上げるが
既にストレートを喰らった手首は折れ曲がっており
無意識に刀を宙へと手放してしまう
「ナァッ………!?!?」
ここでようやく奴の脳は処理を終えたようだ
瞬く間に距離を詰められていた現実と
気づけばねじ曲がっていた手首に奴は驚愕している
辺りに奴の無様な声が響くなか
(実力の差を教えてあげる……………)
そのまま左へと体勢を崩していく奴を目前に
私は左脚で深く踏み込んで右脚を振り上げた
ドバガッッ……!!
奴の顔面へ右足のハイキックを繰り出すが
狙った顳顬には届かず奴の仮面を砕く
すると割れた仮面の下から笛を咥えた女性が現れ
ピィイイイイイイッッーー!!
倒れ地面に背中を打ち付けるなか奴は吹き続けた
鋭い笛の音は鼓膜に突き刺さり私の行動を制限する
そして奴が狙っていたのはココからだった
ズドドドドォオッッッ……!!!
有象無象に周りで蠢いていたゾンビ共が
獲物に襲いかかる獣のように一斉に私へと押し寄せる
厳密に述べると笛を吹いた奴に集っていた
(身動きがッ……取れないッッ………!! )
短時間で一気に視界はゾンビで埋め尽くされた
外敵を殺す際に蜜蜂達が連携して作る蜂球のように
ゾンビ共は私の身体に絡みついてくる
ビギギィッッ………!
その全方位からの濁流に圧迫されるなかで
唯一可動した左手を高く掲げて傀銀の剣を生成する
ゾンビに密着され踏み込めないなかソレを振り下ろし
ジャガッッ……!
右腕を圧迫していた奴の首を跳ねる
そのまま剣の間合いに居る奴らに斬りかかった際に
突然左側面に居たゾンビが数体コチラへと倒れ込み
身体の左側と密着している肉壁がさらに圧縮され
ベギベキベギィッッ…!!
「ガッッ………ハァ"ッ………!」
圧縮によりゾンビの肉壁は左脚を容赦なくすり潰す
この渋滞を脱出する機会を作るために
私は苦痛の声を上げつつ両手で剣を構えた
(奴らの首から頭までなら同じ軌道で大体狙える……
高い奴は首、低い奴は頭をッ……! )
波に飲まれたように体勢が常に揺らぐなか
左脇構えから腕力のみを頼りに全力で一閃した
ドバジャアッッ……!!
身体を軸に前方240度半径1m内の奴らを薙ぎ払う
10体ほどのゾンビの首や頭から体液が吹き出している
噴水のような奴らの身体を強引に押し飛ばし
ドグジャアッッ……!!
右手でもう一度剣を振り下ろし奴らを屠る
ボロボロと奴らの首が落下していくのを横目に
(動くなら今ッッ………!! )
前方で積み上がったゾンビ達の死体の山に飛び乗り
折られた左脚を庇うように右脚のみで跳んだ
ジャアゴォッッ……!
教会から遠ざかるように身体は宙へと跳ねた
跳ぶ際に足裏の傀銀を通して死体の感触が伝わるなか
見下ろすとゾンビの渋滞が地を埋め尽くしていた
右脚で着地して転がり左脚に衝撃が走るのを避ける
(………指揮官を見失ってしまった…… )
片手で剣を構えつつ起き上がり
先程まで私自身が埋もれていた渋滞を見据える
数を確認すると少なくとも50体は未だにいるようだ
「二度同じ手は喰らわない…
今からは貴様らが仲良く地を這うだけよ」
~~~~~~~~~~
誠士郎side
何者かに助けられて教会を後にした自分達は
そのまま駆け足で美九達を追いかけていた
昼の負傷により存分に身体が動かせずもどかしいなか
楽斗は辺りを見回しつつ口を開き
「周りに……ゾンビ達は確認できないな 」
その呟きに自分は黙って頷く
連戦により体力の限界が近いため好都合だったが
戦闘をせずただ走るとなるとつい長考してしまう
ソレは楽斗とも同じようで
「誠…俺らを逃してくれた…あの色白の……………」
「………………… 」
内容は当然、先程の少女のことだ
住宅街を駆け抜けるなか自分達は考え続けるが
潜思しては息が上がって正気になるの繰り返しで
正直、答えに辿り着けそうにはなかった
「…… まぁまずは美九達の安否だよな」
今の自分ではお手上げなことを察してくれたのか
楽斗は会話の路線変更を行ってくれた
そうだね、と一言彼に返したあと続けて自分は
「……そろそろ東真達に追いつくと思う……」
「お、その通りなら助かるぜッ…!」
「体力がかなり消耗してきている……
だから合流後の移動速度は落とそうと思う
その代わり警戒に徹底して油断なく帰還しよう」
非常時に備えて体力消費はなるべく抑えるべきだ
ソレが1つ目の理由だが、また別として
駆け足は音を立ててしまうためゾンビの注意が集まる
仮に奴らに囲まれでもしたら全滅もあり得るだろう
「負傷で楽斗は特に無理をしているだろうから
ゾンビと遭遇したら 援護 に徹底して欲しい
自分が 戦局 を切り開いてみせるッ…… 」
そう自分が伝えた時に
パァアンッ………!!
前方から銃声が鳴り響いた
次の瞬間に困惑しつつも楽斗が反射的に
「は?……東真が 発砲 したのかッ……!? 」
「………とりあえず急ごうッ……!! 」
自分のその発言を発端として
危機感を抱いた我々はさらに移動速度を上げる
たった1発の銃声でも背筋が凍るような感触を抱いた
(とてつもなく……嫌な予感がする……… )
その理由として東真は既に
ゾンビが銃声に敏感である事を知っているのである
しかしその彼が撃ったということは
どうしても使わざるを得ない状況に陥ってしまったと
最悪のシナリオを暗示しているのではと考えてしまう
しかし神はソレさえも覆してくるのだ
あろうことか東真が向けた銃口の先には
ゾンビ共ではなく他でもない美九がいたのだから
~ ep28完 ~
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