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prologue:積まれた書籍とタバコケース
そして夜は明け
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翌明朝。いつも通りの暗い朝に、シドは所々にガタが来ているものの、頑丈そうなアルミのケースを手にルーザの店を訪れた。昨日の事件を忘れさせないかのように、全身が筋肉痛になっていた。旅立つ準備をしていたこともあり、ほとんど眠る時間は無く、時折だらしなく大口を開けて欠伸をしている。
店の中の様子を探ることはできないので、誰かが起きてしまわないように店先でルーザを待つことにした。シドはすぐに手持無沙汰になり、ルーザに渡されたメモを取り出した。昨日は目を滑らせただけだったので、しっかりと確認をする。
「・・・・・・世界地図なんか見たことはないが、この最後のメモは王都シリウスだよな? 騎士団に注意するように言ったくせに、騎士団のお膝元に向かえってのは矛盾してるんじゃないか?」
独り言おが思わず口をついて出ていたが、その考えはすぐに撤回した。ルーザの先見にはこれまで幾度も助けられていたからだ。加えて、ルーザは意味の無い事を言わないという確かな信頼があった。
「2番目は分かんねぇな。ただ、最初の地図は・・・・・・『世界樹』と縮尺は分からないが、馬鹿みたいにデカい城か?」
「それは、グリーズ城ーー世界の調停者グリーズ家が治める城さね。ほれ、出ておいで」
扉の開閉音は仕事をしていないのか、いつの間にか隣から声がしてシドは「うおっ」 と声を出して驚いていた。ルーザは背中に隠れているネオンにそう言って、身体をひねってネオンの背中に手をそえて前に出した。水浴びができたようで、髪の毛がサラサラと揺れ、その動きに合わせて聖石の光を受けたキューティクルが波打つ。前髪が頬まで伸びているので、表情は全く読めないが、明らかに警戒心が伺えた。
「着替えさせてもらえたみたいだな。あの襤褸切れで旅は出来ないもんな」
ネオンはルーザにもらったワンピースを着ていた。すそはひざ下まで伸びていて、擦り傷を自然と隠している。小さな真っ白の足に履かれた底のフラットなホワイト寄りのベージュのパンプスには、濃い茶色の大きなリボンがあしらわれていた。
「あたしは、この子の髪色ならベイクドブルーの服が良かったんだけど、この子黒しか選ばないし、もっと可愛いデザインもあるのにフード付きのワンピースしか着てくれないんだよ」
「いや、あんたの趣味は知らねえけどな。大変だったなネオン、ババアの相手は疲れるだろ?」
「・・・・・・」
聞こえているのか聞こえていないのか、ネオンはルーザに前に出された時のまま固まっていた。ルーザは軽く小さく息を吐いて、ネオンの頬を優しく撫でる。
「あんた可愛い顔してるんだから、いつまでも髪の毛で顔を隠すんじゃないよ?」
その声は優しく温かいゆったりとした声だった。続けてルーザはネオンに言う。
「昨日のスープは絶品だっただろう?いつか必ずまた私に会いに来て、一緒にあのスープを飲むんだよ。いいね?」
ルーザは最後に、髪の毛の上からネオンの額にキスをした。
「さ、あんたと一緒に行くシドだよ。気難しい餓鬼だが、仲良くやりな」
「おいおい、30後半の男を餓鬼扱いは止せ」
「年齢を指して言ってるんじゃないよ、あんただから餓鬼なのさ」
「あー、はいはい。
不安もあるだろうが、君のことは必ず守るよ。よろしくネオン、シドだ」
そう言って差し出した手を、髪の毛の奥から見つめているのか、ネオンは握り返さずにじっとしていた。そして、ふいに顔を見上げて、小さな声で言う。
「・・・・・・シド」
「ああ」
名前を呼ぶとまたネオンは俯き加減になって微動だにしなくなった。前途多難な様相を呈しているものの、少なくともシドを嫌がる素振りは見られない。
「さて、長居もできんし、さっそく出発しようかネオン。
えっと、まずはそのグリーズ城とやらが在る街を目指せば良いんだよな?」
「そう、あんた達の旅の初めの目的地は全ての植物の生まれた地=森の都リンクタウン。そこにいるアジェットという男を訪ねな。職人は偏屈で変わり者だが腕は保証するよ」
旅の目的地を確認したシドが、ネオンを連れて立ち去ろうとした時、ふいに扉が開いてシドを引き留める声が小さく響いた。
「待って!」
「おや、シルビー起きていたのかい」
「これ、その・・・・・・あなた医学の知識があるから、旅に役立つと思うから、だからその」
何故かシルビーはシドの顔を見ようとせず、紙袋を両手で差し出している。どうやらシルビーは、初めて大人に真剣に頼られた経験から、シドのことを気に入り応急手当に使える医療用具を用意していたようだ。ルーザは顔を真っ赤にして、口をぎゅっとつぐんでいるシルビーの顔を見て嬉しそうにしていた。
「助かるよ、ありがとうな。それから、アレックスのこと後少し頼むな、シルビー」
シドがそう言って、優しく頭に手を置くと、シルビーは身体をびくっと震わせた。両肩を強張らせて、真っすぐ下に伸ばしていた腕は少しだけ震えている。
「あなたはネオンちゃんを護るっていう、ルーザしゃまの依頼遂行に集中なさい!他のことを心配してられるのかしら?」
「ははは、そうだな。じゃあ、行こうネオン」
シドがネオンの手を取る。シルビーはシドにだけは決して見えない様にしながら、今にも零れ落ちそうな涙を必死で堪えて、2人が去っていくのを見届けた。そして、2人の背中が見えなくなると、ルーザの胸に顔をうずめる。ルーザも何も言わないで、シルビーの頭を優しく撫でていた。
店の中の様子を探ることはできないので、誰かが起きてしまわないように店先でルーザを待つことにした。シドはすぐに手持無沙汰になり、ルーザに渡されたメモを取り出した。昨日は目を滑らせただけだったので、しっかりと確認をする。
「・・・・・・世界地図なんか見たことはないが、この最後のメモは王都シリウスだよな? 騎士団に注意するように言ったくせに、騎士団のお膝元に向かえってのは矛盾してるんじゃないか?」
独り言おが思わず口をついて出ていたが、その考えはすぐに撤回した。ルーザの先見にはこれまで幾度も助けられていたからだ。加えて、ルーザは意味の無い事を言わないという確かな信頼があった。
「2番目は分かんねぇな。ただ、最初の地図は・・・・・・『世界樹』と縮尺は分からないが、馬鹿みたいにデカい城か?」
「それは、グリーズ城ーー世界の調停者グリーズ家が治める城さね。ほれ、出ておいで」
扉の開閉音は仕事をしていないのか、いつの間にか隣から声がしてシドは「うおっ」 と声を出して驚いていた。ルーザは背中に隠れているネオンにそう言って、身体をひねってネオンの背中に手をそえて前に出した。水浴びができたようで、髪の毛がサラサラと揺れ、その動きに合わせて聖石の光を受けたキューティクルが波打つ。前髪が頬まで伸びているので、表情は全く読めないが、明らかに警戒心が伺えた。
「着替えさせてもらえたみたいだな。あの襤褸切れで旅は出来ないもんな」
ネオンはルーザにもらったワンピースを着ていた。すそはひざ下まで伸びていて、擦り傷を自然と隠している。小さな真っ白の足に履かれた底のフラットなホワイト寄りのベージュのパンプスには、濃い茶色の大きなリボンがあしらわれていた。
「あたしは、この子の髪色ならベイクドブルーの服が良かったんだけど、この子黒しか選ばないし、もっと可愛いデザインもあるのにフード付きのワンピースしか着てくれないんだよ」
「いや、あんたの趣味は知らねえけどな。大変だったなネオン、ババアの相手は疲れるだろ?」
「・・・・・・」
聞こえているのか聞こえていないのか、ネオンはルーザに前に出された時のまま固まっていた。ルーザは軽く小さく息を吐いて、ネオンの頬を優しく撫でる。
「あんた可愛い顔してるんだから、いつまでも髪の毛で顔を隠すんじゃないよ?」
その声は優しく温かいゆったりとした声だった。続けてルーザはネオンに言う。
「昨日のスープは絶品だっただろう?いつか必ずまた私に会いに来て、一緒にあのスープを飲むんだよ。いいね?」
ルーザは最後に、髪の毛の上からネオンの額にキスをした。
「さ、あんたと一緒に行くシドだよ。気難しい餓鬼だが、仲良くやりな」
「おいおい、30後半の男を餓鬼扱いは止せ」
「年齢を指して言ってるんじゃないよ、あんただから餓鬼なのさ」
「あー、はいはい。
不安もあるだろうが、君のことは必ず守るよ。よろしくネオン、シドだ」
そう言って差し出した手を、髪の毛の奥から見つめているのか、ネオンは握り返さずにじっとしていた。そして、ふいに顔を見上げて、小さな声で言う。
「・・・・・・シド」
「ああ」
名前を呼ぶとまたネオンは俯き加減になって微動だにしなくなった。前途多難な様相を呈しているものの、少なくともシドを嫌がる素振りは見られない。
「さて、長居もできんし、さっそく出発しようかネオン。
えっと、まずはそのグリーズ城とやらが在る街を目指せば良いんだよな?」
「そう、あんた達の旅の初めの目的地は全ての植物の生まれた地=森の都リンクタウン。そこにいるアジェットという男を訪ねな。職人は偏屈で変わり者だが腕は保証するよ」
旅の目的地を確認したシドが、ネオンを連れて立ち去ろうとした時、ふいに扉が開いてシドを引き留める声が小さく響いた。
「待って!」
「おや、シルビー起きていたのかい」
「これ、その・・・・・・あなた医学の知識があるから、旅に役立つと思うから、だからその」
何故かシルビーはシドの顔を見ようとせず、紙袋を両手で差し出している。どうやらシルビーは、初めて大人に真剣に頼られた経験から、シドのことを気に入り応急手当に使える医療用具を用意していたようだ。ルーザは顔を真っ赤にして、口をぎゅっとつぐんでいるシルビーの顔を見て嬉しそうにしていた。
「助かるよ、ありがとうな。それから、アレックスのこと後少し頼むな、シルビー」
シドがそう言って、優しく頭に手を置くと、シルビーは身体をびくっと震わせた。両肩を強張らせて、真っすぐ下に伸ばしていた腕は少しだけ震えている。
「あなたはネオンちゃんを護るっていう、ルーザしゃまの依頼遂行に集中なさい!他のことを心配してられるのかしら?」
「ははは、そうだな。じゃあ、行こうネオン」
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