厨二病魔法学級~タンスの魔術師~

小鉢 龍(こばち りゅう)

文字の大きさ
2 / 3
厨二病魔法学級開講

2-A 18番 高嶺 静哉①

しおりを挟む
「うわ、また高嶺が学年1位じゃん」

「えー、トップ10の総合得点も意味わかんないけど、2位にも15点差……五教科で489点て何?」

「おれのほとんど2倍なんだけどウケる」

「これで1年の時と2年の時の中間・期末試験1位を総なめか……あーあ、天才様は違うねぇ」

旭川中の中間・期末試験では学年トップ10人の名前と総合得点が張り出される。

これは恒例のイベントではあるものの、PTAの面子によってはプライバシーの侵害だと反対意見が出ることもあった。

しかし、こうして努力を形にして張り出すことで成績優秀者が自信を持ち、他の生徒への激をとばすことにもなり学業に集中出来るように導くことを目的に行っている。

高嶺 静哉(たかみね せいや)は心を動かさない。自分の位置を知りたいという理由1点のみで、この恒例イベントの告示を確認するが、1位だから喜んだりすることはない。

今も、多くの生徒が張り出された模造紙の前に群がる中で、1目確認した高嶺はもうすでに自分の教室で1時間目の授業の用意をしていた。

「はっ。学年1位様は余裕だねー。まるで、自分が1位なのは当たり前だとでも言いたげだ」

教室の後ろの方で数人の少しガラの悪い生徒が、わざと高嶺に聞こえるように喋り続ける。

「誰かと連むわけでもねぇし、自分みたいな高尚な人間がこんな場所にいることが不思議で堪らねぇとでもおもってるのかね?」

「なんかマジ、面白みないんだよね高嶺って。わたし絶対付き合えねぇわ」

高嶺は自分のことを特別な存在などと感じたことはなかった。

学業の成績が良いのは授業を真面目に受け、予習や復習もしているから当然なこと。だからと言って、努力してないクラスメイトや、勉強が不得意なクラスメイトを馬鹿にしたりもしない。

あくまでも、自分の行っている努力が想定の範囲内で形になっているだけのことだからだ。

陰口や妬みというものにも心を動かさない。これは、学業と努力の話よりももっと単純な理由で、ただ単に「そう思う人もいるのか」としか感じないからだった。

だから、そうした言葉で悲しくなったりしないし、ましてや言い返したり、他の手段でやり返そうとも考えない。

「……なんで、皆はこんなことで一喜一憂できるんだろうか?」

何かのテレビで「感情の欠落」についてやっていたことを思い出した。しかし、いくら学業が良くてもそれは中学レベルに過ぎないし、ましてやそのテレビの解説者は精神科医と臨床心理士という専門家だった。

専門用語や今まで読んだ教科書の参考文庫や、たまに目を通す小説の中でも使われていない表現ばかりで理解出来ずにすぐにチャンネルを変えた。

ただ、そのワンフレーズでチャンネルを回す手が一瞬止まり、チャンネルを回すまでの数分で断片的なワードが心に刺さったことをよく覚えていた。

その時から、それまで漠然と自分の中で芽生えていた疑問にラベルが貼られた。もやもやとした黒く蠢くは、「感情の欠落」という複雑ではあるものの、ぼんやりと輪郭をなぞる事ができる焦燥感と似た感情に成ったのだった。

予鈴が校舎に響きわたるも、話に花が咲いた生徒たちのほとんどはあの模造紙の前から動こうとしない。

数分して、各教師がやって来ると散り散りに自分達の教室へと向かっていく。

「ほれー、いつまでも廊下で喋ってんじゃないよ。チャイムに間に合わなかったやつもれなく内申書の評価落とすぞー」

「ちょっ!八木先生それはオーボーでしょ!」

「うわー、オーボー教師だー!」

「ええい、黙らっしゃい。それにお前ら他クラスじゃねぇか本当に早く戻れよ!」

「はーい!」

廊下にそんなやり取りが響いていた。

八木は数学教師で、高嶺達2年A組の担任だ。旭川中の教師陣の中では割と年齢が低く、養護教諭の里見に次ぐ若さで生徒からも慕われている。

「ふいー、いい天気だなぁ」

教壇に着くと、八木は窓から外を眺めて大きな声でそう言った。2年の教室は3階。

学校の塀をなぞるように植えられた桜の木は、卒業式前後に満開を迎える。今はもうほとんどの花が散っていて、代わりに黄緑の若葉が芽吹き始めていた。

八木の大きく見開いた目に、澄んだ青空が写りこんだ様な気がして高嶺は無意識に自分も窓の外を見ていた。

ほどなくして始業のベルが鳴った。

「よし、全員座ってるな。さすがオレの生徒だ」

八木は照れるとこもなく、そう言ってニカッと笑った。年齢よりもはるかに幼く見える笑顔。

「お、そだ。言い忘れてたわ。高嶺、浜辺、学年1位と8位おめでとう」

「えっへー、頑張ったでしょ私!」

浜辺は嬉しそうにそう言って笑ったていた。

「みんな頑張ってたと思うぞ。な?」

「な?」ともう一度目が合って、高嶺は視線を教科書に落とした。

高嶺は心を動かさない。喜びに心が跳ねることもない。怒りで目の前が真っ白になることもない。哀しみで胸が痛くなることも、楽しくて腹を抱えることも、まだ経験したことがない。

そんな自分を冷静に自覚していながらも、そんな自分に対してすらも高嶺の心は動かないのだった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

いまさら謝罪など

あかね
ファンタジー
殿下。謝罪したところでもう遅いのです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

追放された味噌カス第7王子の異種族たちと,のんびり辺境地開発

ハーフのクロエ
ファンタジー
 アテナ王国の末っ子の第7王子に産まれたルーファスは魔力が0で無能者と言われ、大陸の妖精族や亜人やモンスターの多い大陸から離れた無人島に追放される。だが前世は万能スキル持ちで魔王を倒し英雄と呼ばれていたのを隠し生まれ変わってスローライフを送る為に無能者を装っていたのだ。そんなルーファスはスローライフを送るつもりが、無人島には人間族以外の種族の独自に進化した先住民がおり、周りの人たちが勝手に動いて気が付けば豊かで平和な強国を起こしていく物語です。

あべこべな世界

廣瀬純七
ファンタジー
男女の立場が入れ替わったあべこべな世界で想像を越える不思議な日常を体験した健太の話

この聖水、泥の味がする ~まずいと追放された俺の作るポーションが、実は神々も欲しがる奇跡の霊薬だった件~

夏見ナイ
ファンタジー
「泥水神官」と蔑まれる下級神官ルーク。彼が作る聖水はなぜか茶色く濁り、ひどい泥の味がした。そのせいで無能扱いされ、ある日、無実の罪で神殿から追放されてしまう。 全てを失い流れ着いた辺境の村で、彼は自らの聖水が持つ真の力に気づく。それは浄化ではなく、あらゆる傷や病、呪いすら癒す奇跡の【創生】の力だった! ルークは小さなポーション屋を開き、まずいけどすごい聖水で村人たちを救っていく。その噂は広まり、呪われた女騎士やエルフの薬師など、訳ありな仲間たちが次々と集結。辺境の村はいつしか「癒しの郷」へと発展していく。 一方、ルークを追放した王都では聖女が謎の病に倒れ……。 落ちこぼれ神官の、痛快な逆転スローライフ、ここに開幕!

処理中です...