『まて』をやめました【完結】

かみい

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『まて』をやめました 47











大ホールからは、軽やかなテンポのワルツが流れてくる。
王宮庭園は、大ホールからバルコニーを通って出ることができる。そのため、庭園に面した窓は大きく開け放たれ、楽団が奏でる音楽が外にも響き渡る。
それをBGMに庭園で銘々過ごす人々。
夜だというのに、大ホールと変わらぬ明るさの庭園。
木々は背丈よりも低く、人が歩くタイルも広く取られている。
いくつかある噴水広場には、ベンチが置かれ人々が寛いでいた。

「っ、クラウディア、ごめん!」

見惚れるほどの美しいエドワード様のスマートなエスコートで手を引かれ、庭園の見渡せるバルコニーに落ち着くと前置きなくエドワード様はいきなり謝罪をしてきた。
手を握られたまま、サラサラとした綺麗な青い髪が垂れて頭を下げられた。
久しぶりに見るサラサラの髪はやっぱり絹糸の様で崩れる前には天使の環ができて素敵だと思ったけど、美しき唇から出た言葉が頭で理解できた瞬間、間抜けな顔で固まってしまった

はい?!

脈絡くもなく謝罪だけ。
それも、意を決したような切羽詰まった声。

何?何なの?
いきなりどうした?

目の前でいきなり謝られても、憶えのないこと。
10年分の『まて』をと言うのなら、今このタイミングでの謝罪はどう考えてもおかしい。

もしかして・・・

エドワード様にこの1年で誰か、心に思う女性ができたとか?

手紙では、何も触れていなかったけど・・・そういえば、さっき連れ出すときに『手紙には書けないこと』を話そうと言っていたわよね。
って、それ別れ話
それ別れ話なの?!
嘘でしょ・・・
でも、そうね・・・

そうなってもおかしくないのよね・・・

元よりこの婚約を解消するには我が家に保管してある、署名済みの書類を提出する必要があるものね・・・
1年前にエドワード様の気持ちを確認して、そのうえで意地悪にも『まて』をさせていたのは私だもの。
好かれているからと傲慢な考えで、3年会うことが叶わない他国に行き連絡方法は手紙だけ。
それも途切れたらお仕舞いよ、なんて見栄を切って実際はこれよね。
普通の人なら、いくら好きだからといっても、こんな状況じゃ別れたくなるわよね──────
別れを思うと、じんわりと目頭が熱く涙が滲みそうになる。

「去年の誕生日に、を贈ってしまって本当に、ごめん!!!」

胸の中が悲しみでいっぱいになり、思わず唇に歯を立てて涙をこらえていた時にその声が届いた。

ん?
去年の誕生日?
贈った?
って・・・
ああ、あれか!

未だに頭を下げたままで、こちらを見ようとしないエドワード様。
私の一人百面相は見られていなかったみたい、よね?

良かった、また私の早勝手な勘違い妄想に取り憑かれるところだった。
嫌な音を立てていた胸の鼓動が急激に落ち着く。

「あぁ、あのことね・・・」

他に好きな人ができたのではない、安堵感からずいぶんと空気が抜けたような緊張感のない声が出た。
人に頭を下げさせているこの場に相応しくない間抜けな声だ。

「・・・怒ってない?のかな?」

私の緊張感のない声に、恐る恐る顔を上げるエドワード様。その顔は、私の顔色を伺うよう。
少し強張り緊張しているのが伝わる。それは未だに離してくれていない、繋いだままの手のひらからもわかる。

「あの、去年の誕生日って、もう1年近くのことになりますよね?」

この国に来て国王の交代がありバタバタあわただしさの中、私は16歳の誕生日を迎えた。
家族と退位したお爺様とこちらの国の、仲の良い外交官一家の皆様と一緒に祝ってもらった。
そんな中、届いたエドワード様からの誕生日の贈り物。

「そう、だね・・・」

「私がまだそのことに怒っていると?」

「・・・・・・」

そっと手を外され、上げた顔が反らされ消沈した表情をしている。
ふ~ん。
思っているわけですね。
あれから何通の手紙のやりとりをしていたと思っているのか。
確かにあの時は、私を含めてみんなが憤慨していた。
私も本気で、エドワード様のことを見限ろうかと思ったくらいだ。

綺麗にラッピングされた箱を開けてあったものは、枯れた花。

枯れた花でも、ドライフラワーとかではなく状態不良で萎れて見るも無惨な枯れてしまった花。
なんでも、届く数日前に聖女のいるときにしか咲かない“聖女の花”が咲いたという。
聖女の力が届く範囲の土地の浄化と結界が正常になされた証拠で咲くものらしい。
この花が咲けば、暫くは魔獣などに脅かされることはない。
国の領土すべてに聖女の力が行き渡り、安寧な世になったということ。
花は、余程のことがない限りは聖女の存命中は枯れることなく咲き続ける。

がっ!それはネモフィラ国内での話。

レティシア様の聖女の力が及んでいないハイドランジア国では枯れてしまうらしい──────ということをエドワード様は知らなかったという。
その手紙と詫びの品はすぐ翌日に届いた。
エドワード様からは、とにかく枯れて届くことに考えが至らず調べもせずに送りつけてすまなかったと、潔すぎるくらいの自らの責を謝罪する弁解のない手紙だった。
レティシア様からは、お祝いの言葉とは別の手紙で“聖女の花”が咲いたのは先代聖女様が亡くなって以来の事で取り扱いを確認することなく私の誕生日に間に合う様にと花を送ってしまったらしい。
花を分けてほしいといわれて、許可し数本いそいそと持って帰ったが、まさか国外にいる私のところに送るとは思っていなかったらしい。・・・と書かれてあり、どうか許してあげてとあった。

確かにその花が誕生日の当日にまともに届けば私は、狂喜乱舞で喜んだでしょうね。
だって大好きで敬愛している、レティシア様に由来する花ですもの。私が喜ぶだろうと思ってその花をプレゼントに選択したのなら、大正解!!!
キチンとした花が届いていたならば、好感度爆上げ!
私の事、ちゃんと分かってるじゃん!
私ってちゃんと愛されている!!!って大興奮で思ったよ、きっと・・・
でも、実際は確認不足の勇み足での大失敗。

花は、王宮の聖女の離宮の庭園一面に咲いているらしい。
それまで植えられていた植物はどこに行ったというような状態で一面、少し青みかかった真っ白でダリアのような花弁の大輪でありながらその中心花弁は薔薇のようだった。
因みに聖女は、各国におり“聖女の花”もその国で少し違うらしい。今いる、ハイドランジア国には老年の聖女様からまだ3歳の見習い聖女様まで5人いらっしゃる。
会ったことはないけどね
後から、お詫びの品と一緒にその“聖女の花”が一輪添えられてあった。聖女の力が及ばない国外に持ち出す場合は、聖女が自ら手折り開いた花弁に口づけ祝福を付与すればいいのだという。
その祝福の付与された“聖女の花”は、幸運を呼ぶとも言われている。
あの萎れて枯れた花は、何だったのかわからないような状態だったからまさかあれがそんな珍しい花だったなんて驚いた。
そのことはエドワード様へのお手紙に記したし、最初は嫌がらせかと思ったけどその後の潔すぎる手紙に絆された。
ただし、こんなことはもう許さないとも書いたな・・・
うん、それかな?
そのせいかな?

「・・・私って、そんなに執念深く見えますか?」

確かに次あったら許さないとは書いたけど、それだって一つのことにまっしぐらで周りの確認を怠るその性格を治してくださいねって意味で書いたんだけどなぁ・・・
真意が伝わっていないで、いつまでも人の失敗をネチネチ根に持つ女に思われていたなんてショックだわ。
どちらかというと、その真面目な性格は嫌いじゃない。でも、真面目のは、ちょっとなぁ・・・。もう少し融通が利く人になってほしい。

「違う!そういうことじゃな!!!
俺が、俺がそのことに、・・・あの、捕らわれてどうしていいのか・・・」

そんな意味じゃないと強く否定しておきながら、どうした?
男なら、もっとシャンと言いなさいよ。
もう、シュンとまた項垂れて何がいいたのか?

「過ぎたことは仕方がないです。
そんなことを言うのなら、この10年間貴方からの誕生日の贈り物の方が問題ですよ?」

そう、この『まて』の10年間の誕生日の贈り物は王家御用達の有名パティシエの新作スイーツの詰合せが届いていた。
婚約者の誕生日だというのに、身に着けるアクセサリーでもなく私の趣味嗜好に沿われたものでもなく親戚の女の子にそれも子供への贈り物の定番のお菓子ときたもんだ。
ええそりゃね、あの話し合いの後ですよ?
期待していましたよ。
まさか去年と同じで菓子なんてことはないよね。でも、準備期間が短いから私の趣味を調べるのは難しいよね?婚約者への贈り物の定番の、自分の髪や瞳の色を使ったアクセサリーなんてもらったら嬉しいなぁ。
せめてその色のリボンでも・・・ってワクワクしていましたとも。
だから落胆は大きかったし、それでも私を喜ばせようという気持ちは感じて嬉しかったからそのことは水に流した。
流したことを、逆流させるんじゃない!!!というのが今の私の気持ち。

「まったく、過去のことはもういいです。
それで、私の誕生日が近いですけど?どうしましたか?」

半ばやけくその様に、少し棘のある言い方になってしまったのは許してほしい。折角、異国の地で久しぶりに見た、麗々しいご尊顔。
だというのに、二人っきりになり堪能できるようになってから情けない顔で俯くばかり。
ちょっと、顔が第一にいいところにあげられるんだから、もっと惜しみなく笑顔を見せなさいよ!ってはしたなく思ってしまった・・・・・・だって、やっぱり顔がいいんだもの。

「っ!はっ、そうだ誕生日、その、もう失敗は許されないと思うと、その、これも君の趣味に合うのかどうか・・・あの・・・・」

って思えば、ほらまたもごもご言ってあげた顔を下に向ける。
身長の高いエドワード様が俯いても、サラサラとした髪が見えるだけ。確かに髪も綺麗なんだけどね。
私は、ずっと好きで居続けた貴方の顔が見たいのよ。

「早いけど、誕生日おめでとう。
傍にいられないけど・・・、俺のことを思ってつけてくれると嬉しい。」

徐に、差し出された小箱。
顔を真っ赤にして、緊張に強ばらせながら真っ直ぐ見つめる黒曜石の瞳。
両手の中に収まるそれは、ずっしり重い。
誕生日の話題を振られたが、まさかプレゼントを直接貰えるとは思って見なかった。わからないと言っていたから、てっきり『何がいい?』なんて話なのかと思っていた。
男のくせにもだもだしていて、いいところは顔だけかと思えば情けないのに押さえるところは押さえている。
なんなの、そのギャップ。
美しい顔を赤らめて少女のように恥ずかしがっているようにも、緊張の面持ちの強張った顔は男らしいキリッとしている。
本当に・・・



超絶、レア萌顔



できるだけ澄ました態度で接していたのに、頬が熱くなるを止められない。
ほんのちょっぴり気持ちが漏れそうだけど・・・、大丈夫まだ昔ほどダダ漏れ状態ではない。
駄々洩れだったら、地面に転がりながら悶えまくっているだろう。
そんな醜態、記憶が戻って淑女教育を思いだしている私にはできない。
否、してはいけない。
元より、外面で淑やかな令嬢を装っていたのだからこれ以上のイメチェンはよろしくない。
よろしくない・・・

一生懸命、令嬢的理性を総動員して作ったすまし顔で耐えた。
開けていいか聞いて開いた中には、髪飾りがあった。
柔らかい色合いのゴールドで透かし模様に彫金され、更に中央には一粒の大きな紫の宝石アメジスト。
更にさらに!アメジストを取り囲むように小さな黒と青の宝石がちりばめられていた。
土台の彫金の透かし模様は、レースのリボンの様でかわいらしく。輝く宝石は上質で品のよい光を放っていた。

ゴテゴテしていないシンプル且つ好みなかわいらしく自分の好み似合っているアクセサリー。
ジェイクが選んでくれるものよりも、好みかもしれない。


─────だって、憧れのがふんだんに使われた髪飾りなんだもの・・・










◇◆

読んでくださりありがとうございます。
本編終話まで本日中にアップします。
かなりの乱高下の激しいストーリーになっていますがよろしくお願いいたします。

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