『まて』をやめました【完結】

かみい

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番外編1 父はずっと『まて』をしています 

レティ、エドパパとママに纏わるお話です。
ざまぁは私には無理でした。
思ったより長くなりました。番外編7話です。

~◇~◇~◇~


目の前に広がるのは、様々な白い世界。
清廉な光沢の白。
触れると溶けそうな柔らかな白
舐めると甘いのではないかと思えるようなクリームかかった白。

一口に“白”と言っても、多種多様。

「あぁ~、迷ってしまいますわぁ」

困ったように細く白い手を頬に当てているが、その声音は心底困ったものでなく楽しげでもある。

「うふふっ、女性にとっては一生に一度の衣装ですものね。
レティが納得いくまで吟味なさい。」

女性二人の笑い声が室内を明るくさせる。
壁際に控えている王宮侍女も、邪魔にならないがすぐに傍に寄れる絶妙な位置で待機している騎士たちも、貴人女性たちの明るい笑い声に、いつも以上に穏やかな表情でしかし己の職務の顔を貫いている。

「エドワード、貴方はどれがいいかしら?」

幾枚あるのかわからないくらい重ねられた、白い布地。
それらはレティの住まう離宮の居間のセンターテーブルに所狭しと重ねられている。
生地はすべて両腕を広げたくらいの大きさの見本なのだが、その量の多さで頭がくらくらする。
今までは、眺めているだけだったが声を掛けられ仕方なく近くの白地に手を伸ばす。
試しに3枚ほど触れるが、国内外から最高級品ばかりを集められ、薄い厚い、手触りが滑らか織りや刺繍で凹凸があるなどしか感想がない。
どれがいいと言われても、最近、大々的に女性の気持ちがわからない朴念仁だの融通が利かない唐変木だのといわれた俺にわかるはずもない。

「どれと、・・・いわれてもなぁ~」

先程のレティの愉しそうな困り声と違って、俺は真実、困った声がでた。
只の白い布地をみて、何をどうといわれているのやら?
いずれこの布切れたちが、美しく変貌を遂げることは頭では理解できてもその姿を想像することは難しい。
せめてデザイン見本でもあれば別なのだが。聞けば、生地さえ決まればイメージは直ぐにきまりデザインが出来るらしい。

「レティ、この子に聞いても無駄よ。
この布が、どうやってその人に似合うかなんてイメージなんてできないわよ。」

「あらぁ、そんなことわたくしもわかっていますわ。
この子ってば、まったく興味もないんですもの。
こんなことでも真剣に考える子でしたら、わたくしの可愛いディアちゃんとあんなことなっていませんわ。」

白い布を手に取った貴人女性の呆れた声に、朗らかに笑いながら最後には俺を餌に言いたい放題にうふふっと声を出された。
しかし、二人の言うことが事実であるから、言い返すこともできない。

「ああ、ほら、落ち込まないで。
貴女も3年後には、ディアちゃんを迎えるつもりなんでしょ?
ならそのためにと、お勉強なさい。」

微笑を浮かべて言われたことで、適当に手に取っていた生地に強く興味がでた。
可憐で儚げな見た目と、それを裏切る強い意志を持った魅力あふれる愛しい婚約者──────細い糸のようにぎりぎりつながった状態だが、恋焦がれる婚約者だ。
まっさらな純白を身にまとう姿は、どんなに清らかで美しいだろうか・・・
おもいを馳せるに、ツキンと胸に小さく存在感強く痛みが走る。

あの日から時間を作っては、わずかな時間でも会えるように努力をした。
隣国へ旅立つまでわずかな期間だったが、会話をしてお互いを知るところから始めた。しかし、ぎこちなかった会話がスムーズになるころに彼女は笑顔で旅立った。
異国の地への期待を胸に、すがすがしいまでの晴れやかな笑顔を見せて「いってきます」と手を振られた。その輝かしい笑顔を見送ることしかできない俺は、同じように笑顔で手を振りながら心で泣いた。
ジェイクの口の片方をクイっと持ち上げた笑顔には怒りがこみあげた。
今では手紙だけというもどかしいやりとりでしか、クラウディアの現状を知ることができない。
それでも少しづつわかってきた。
お菓子はナッツが入ったものが好き。特にキャラメリゼされたものが大好物。
花は基本的にどれも好きだが、大地に力強く植わっているのが好き。路傍の花であっても、足を止めて見入っていた。
好きな色に特にこだわりはないが、明るい色を好む。

10年間という長い時間、婚約者であったにも拘わらず、これらの情報を知ったのはつい最近。
ぽつりぽつりと交わした会話の中と、現在の手紙のやり取りで知り得た情報。それも最初はうまく聞き出せず、会話で聞けば上司が部下に詰問するかのように、手紙を書けば会議の前の質問書のような書き出しでと今思えば頭を抱えるようなことばかりだ。
それでも、クラウディアからの的確なアドバイスのおかげで、俺も手紙が書きやすくなりクラウディアも楽しみにしていると書かれてきた。

“なんとか”という言葉が頭に着くが、おおむね関係の修復はうまく行っているように思う。顔を合わせられないのがとてももどかしいが、それはそれで思いが募ると言えばそうなのだろう。これは、最近仲良くなった、いや、オトモダチになったハンスのからの助言だ。夜空を見上げて、好きな女性に思いを馳せろとか、街で女性ものの装飾品が目に写ったらそれを身に付けた婚約者を思い浮かべろと言われた。
恐らく、レティの言ったこの白い生地から作られる、人生最良の日のドレスを身に着けたクラウディアを思い浮かべろと言うのだろう。
純白のドレスを身に纏い、俺の隣に並ぶのは少なくとも3年後。
とても魅力的な女性に成長しているであろうクラウディアを想像すると頬の筋肉が緩む気がする。

ふとっ、不快な視線に顔を上げると、ニヤニヤと笑うレティの顔があった。

「なっ、なんだ・・・レティ」

俺の気持ちが筒抜けであることは、察せるがそこはそっとしておいてほしいところだ。
ちょっと前では、俺の気配がないと不安そうにしていたというのに、今ではどうだろう。
愛される自信。
まさしくそれである。
殿下からの向けられる惜しみない真っ直ぐな愛に、美しく前を向き自信に満ち溢れている。
社交の為に表舞台にいるときは、まるで鋭く尖った刃物の様な緊張感で凛として強く見えたが、実際は人見知りを悟られないように何重にも鎧をまとっていたにすぎない。
それが殿下からの愛という、暖かな毛布にくるまれる様に優しく強くしっかり守られ余裕のある凛とした微笑みをうかべるようになった。表情が柔らかくなり、優しげな雰囲気になったと社交界でも専ら其処彼処で好意的に言われている。
不安が一切伝わって来ない、それが今のレティだ。
レティの傍に寄り添う、年齢よりも大人びた煌びやかな男性、ヴィクター殿下を思い浮かべた。

「そうだぞ、このままだとお前の知らぬ間に婚約破棄の手続きをされても知らないからな。
あとそのニヤニヤ顔は、見られたものじゃないそ。国一番の美麗な姉弟と言われているのに、レティと同じ顔でそんな変な顔をするな。
それと、またレティと呼んでいたぞ。弟とはいえレティと呼んでいい男は俺だけだ。いい加減な、直さないとシスコンといわれるぞ。」

思い浮かべたと同時に、聞こえた本人の声が室内に響いたことには驚いた。
声に反射的にソファーから立ち上がり頭を下げる。
思考に更けっていた俺は動作が一歩遅れたらしい。
俺が頭を下げきる前にそれを手で制して、一目散にレティに向かう。
胸に手を当て、中途半端に下げて固まる不格好な俺は何とも格好悪い。
というより、殿下のあまりな言葉に打ちのめされる。
・・・シスコンって。
いや、その前の変な顔とはどういうのだ?クラウディアは俺のきれいな顔が好きで、今はまだ婚約を辛うじて続けていられるんだ。その顔に魅力がなくなれば今よりも、もっとクラウディアをつなぎとめることができなくなる。

「気に入ったものはあったか?」

悩める俺を無視するように、殿下は自然な動作でレティの隣に座りさらには腰に手をまわして密着して座っている。
つい最近まで俺と同じく、不器用にも拗らせた初恋で素直になれなかったというのに・・・
俺はヴィクター殿下と同じようにできる気がしない。
殿下の開き直ったような、このレティを溺愛する様はもう振り切っているとしか言いようがない。
まず、俺に対して『レティ』と愛称でなく『姉上』と呼ぶようにといてきた。これには、なぜか周囲みんなが賛成をして、現在矯正中。口には出す数は減ったが、頭で考えるときまで変えるのは難しい。
クラウディアに『シスコン』と言われる前には、そこもいずれは直すよう努力案件だ。
さらに今までもレティの周りを守る騎士は、女性が主だったが完全に回りから男性騎士を排除した。というより、殿下の側近騎士になっている。もとよりいる護衛騎士と一線を画す為に側近騎士と呼んでいる。殿下の護衛もするが、レティとの連絡係や二人で一緒の公務の際の補助的役割も担っている。まぁ、とにかく殿下のいないところで他の男と一緒にいることを嫌がった、狭量な男の画策だ。
箱入りお嬢様で、いままで男の薄汚い嫉妬など知りもしなかったレティが気付いているか知らないが、怒られて殿下も俺のように『まて』をされてみればいいんだ。

「ヴィクター様・・・それが、これだけあると迷ってしまいまして。」

先程、漏らした台詞と同じようなのに甘えて聞こえるのは、相手が殿下だからだろう。
・・・やっぱり、幸せそうなレティが悲しむのは見たくない。殿下が怒られるのは、どうでもいいがレティがそれを後々気にして悲しむ姿が想像できる。
こうして心許して甘えるレティが悲しむことがないように、殿下には程々にしてもらおう。
以前のレティならば、年上ということや聖女という立場、さらに相手は王族という余計なことを考えてしまい、思うことはあってもそれを声や態度に出すことはなかった。
だがそれがお互いの誤解を生んでいたと言うことに気が付いた二人は、最初はぎこちないところが多かったが殿下の努力が実り、レティも素直に感情を殿下の前で表すことができるようになった。
とても仲良くなったのは良い事。
良い事なのだが・・・

「レティ、君のためなら納得ができるまで世界中から最高の生地をあつめてみせるさ。」

うっとりするような微笑を浮かべて、レティの髪を一房手に取り口に当てる。
そのしぐさも、世間が思う王子様の様だ。クラウディアにしてみたい・・・できたら口づけをしたいが、そこまで行くのはハードルが高いが髪にならば・・・がんばれば・・・できる、か?
将来の為に、レティと殿下のやり取りを参考にさせてもらおう。
二人に目をやると、レティは恥ずかしそうにしながらも嬉しそうだ。
クラウディアもあのように嬉しそうにしてもらえるだろうか・・・

しかし、殿下の言っていることはとても頼もしくカッコイイはずなのだが・・・
何かが違う。
今でも迷いと言っているのだ、さらに選ぶ数が多くなば、また迷うことになるのだからこれは違うだろう。

「まあ、これ以上増えてしまいますと、もっと悩んで結婚式にドレスが間に合いませんわ。」

レティもそれをわかっている。真面目な姉なのだ。甘やかすつもりで言っている殿下の真意は、分かっているがそれが現実になれば恐ろしい。
殿下は冗談のつもりかもしれないが、なまんじ現実になりそうなことだった。
この布の山から、一枚を選ばないとレティのドレスは作れない。ドレスのデザインは、王室伝統に則ったパターンがあるらしく、生地さえ選べはすぐに取り掛かれるらしい。
王族の結婚式は国家行事なのだから、他国から賓客が招かれる。
次期国王になるヴィクター殿下と我が国の聖女の結婚式。
国の威信にかけても、見劣るようなことがあってはならない。
だからこそ、国中だけでなく友好国からも最高級のウェディングドレスに適した絹を集めた。
集めたのだが、時期がちょうど聖女の花が咲いたときと重なり、国中から我先にと献上されてきた絹地。通常の王家の結婚に集まる数の何十倍と集まってきた。
聖女の浄化の力が国中隅々にいきわたり、辺境において魔獣の脅威に常に晒されていた民たちの喜びはひとしおだった。その感謝にと、辺境の地に伝わる特殊な魔よけの模様を織り込んだ希少な絹まで送られてきた。伝承でしか伝わっていない。それはとても珍しく、国の歴史を研究している者たちからしたら涎ものだという。
そんなウェディングドレス用に布を集めていると聞いた、国内外の多くから集められた布地。
その数は約100反といっているが実際はちがうらしい。正確な数は記録としては残されているがレティの手元に届くのその中でも厳選された絹だけ。
気に入ったものを選べるようにと、どこからの献上品かは伏せられている。どの領地どの国から誰からなのかと気にしてしまうだろうという配慮からだ。
先ほどの希少な辺境の絹も、レティの好みかどうかが一番重要ということだ。
実際にレティは、色々と気にする性格だ。
気にしすぎて、動けなくなったり先回りして空回ったりすることがある。
レティの周りにいる、聖女付きの女官がそれらをうまくフォローしているので、身近なもの以外が知ることはないが・・・

「大丈夫だよ、あとは私たちの衣装さえ用意できれば、準備はほぼ終わったと言ってもいいくらいだ。
王宮の侍従や女官も、文官や武官たちまでもが一丸となって準備してくれている。
あとは、レティの美しさを最大限に引き出すだけ。
このままでも、清廉として女神のように美しいのに・・・、はあ、どこまで美しくなるんだろう。」

レティをうっとりと見つめる殿下に、至近距離からの熱い眼差しに恥ずかしく真っ赤になるレティ。
二人だけの甘い空間に、家族としてはいたたまれない。
砂糖を飲まされるは、このことをいうのと最近になって知った。
レティは、それをわかっているのか首まで赤くして小さく「他の目が・・・」と言っているが、きっと殿下には聞こえていないだろう。
やれやれと、生ぬるい視線を向けると無しに、ぼんやりながめていると扉がノックされた。

殿下が来ているときに、一体誰が?と、思っていると対応にでた侍女から陛下夫妻と宰相閣下の訪問を告げた。


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