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第八話 何度でもあなたと
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卒業後、私たちはほどなくして結婚した。アルベルト様はヒルント家に婿入りし、今では立派な後継ぎとして、家業に携わっている。
商会は相変わらず西へ東へと手を広げ、どの土地でも繁盛を見せていた。私は帳簿や契約書を整え、時には現地との交渉にも同行しながら、彼の隣でその歩みを支え続けている。
そんなある日、遠い東の国で――私たちは、見覚えのあり過ぎる穀物と調味料に出会った。
「……フェリシア」
「……はい」
袋の中を覗き込んだまま、二人してしばし沈黙する。次の瞬間、ほとんど同時に顔を上げた。
「これ、米じゃないかい」
「米ですね」
「しかも――」
「味噌、です」
確認するように囁き合ったあと、堪えきれずに噴き出してしまった。周囲の人間が不思議そうな顔をするのも構わず、私たちは声を潜めて、けれど目を輝かせた。
「前世の……」
「前世の、アレだな」
言葉にしただけで、胸の奥が熱くなる。この世界には存在しないと思っていた、あの味。あの記憶。それを、今こうして、隣にいる同じ“前世持ち”と共有している。
「……持ち帰ろう」
「絶対にです」
「おにぎり、食べたいな」
「お味噌汁も作りましょうね」
そう言って笑い合った時、ああ、私たちは本当に、同じ人生を二度歩いているのだと実感した。
それから先の年月は、穏やかに積み重なっていった。
商会はさらに大きくなり、国を越え、海を越えた。それでも私たちは、変わらず同じ食卓を囲んでいた。
愛するアルベルト様や、愛する子供たちと過ごす何気ない時間は、いつの間にか、かけがえのない宝物になっていった。
季節が巡り、髪に白が混じる頃になっても、私たちはずっと隣で過ごした。
歩幅はゆっくりになり、遠くへ出かけることが難しくなっても、子供達や孫達に囲まれ、笑いは絶えず、日々は幸せに満ちていた。
その日も、窓から差し込む柔らかな陽射しの中で、二人は静かに過ごしていた。
少し違うのは、私がベッドに横になり、アルベルト様がその傍らの椅子に座っているということだろうか。
アルベルト様は、私の手を包むように握りしめていた。
その指先にこもる力が、私よりも彼のほうが、ずっと名残惜しんでいることを教えてくれる。
「……充実した人生でしたね」
ふと、そんな言葉がこぼれる。
「うむ。二度目だというのに、ずいぶん贅沢な人生だった」
冗談めかした声に、思わず小さく笑う。
包まれた手には昔よりもシワがふえているのが感じられたが、その指先に触れる温もりはずっと昔から、変わることはなかった。
「ねえ」
「どうしたんだい」
「また……来世で会えたら、いいですね」
ほんの願いのように告げると、隣から穏やかな気配が伝わってくる。
アルベルト様は、私の手を離さぬまま、少し震えた声で呟いた。
「ああ。絶対だ」
「じゃあ、私は曲がり角でパンをくわえて走ってますね」
「ちゃんと『遅刻遅刻~』って言うのだぞ」
二人で笑い合いながら、穏やかな空気は静かに流れていく。
そして――ふいに、しん、と世界が静まった。
「あなたのこと、とても愛していますよ」
「僕もだよ。愛しい人」
気がつけば、部屋はとても静かだった。
周りの音も、景色も、すべてが遠ざかっていく。
けれど、不思議と寂しさはなかった。
胸の奥には、温かなものが確かに残っている。
きっとまた、どこかで。
同じ魂で、同じように。
***
「やばい、遅刻する!!」
パンをくわえた女子高生――こと、私は、朝の通学路を全力で駆け抜けていた。
歯磨きセットはちゃんとカバンに入っているから、一限目が始まる前に磨けばいい。……たぶん、大丈夫。
そう自分に言い聞かせながら、勢いよく角を曲がった、その瞬間。
「わっ!!」
誰かと、ぶつかった。鈍い衝撃と同時に、口に咥えていたパンが宙を舞い、無情にも地面へ落ちる。
「いたたた……」
尻もちをついたまま腰をさすり、私は慌てて顔を上げた。
「ご、ごめんなさい! お怪我はありませんか!?」
視界に入ったのは、近くの“お金持ちが通う”と噂の私立校の制服。
そこに立っていたのは、その制服を着た男子高校生だった。
どこか見覚えのある整った顔。
糸目。
そして、少し伸ばされた漆黒の髪。
「……某通信教育教材で見たやつだ……」
思わず漏れたその一言に、彼は一瞬だけ目を見開いた。そして次の瞬間、堪えきれないというように、じわじわと笑みが広がっていく。嬉しさを隠しきれない、少し潤んだ瞳で。
「『遅刻遅刻~』って言うのは、忘れていたのかい?」
その声を聞くと、心臓が、長い眠りから叩き起こされたかのように、胸の奥で激しく鐘を打った。
気づけば、私たちは互いの存在を確かめるように、自然と手を取り合っていた。
初めて触れたはずの手なのに、驚くほどしっくりと馴染む。
「ねえ、僕たち……多分、たくさん話したいことがあると思うんだけど」
真剣な眼差しでそう言われて、私は思わず息を飲む。
「私も、まったく同じことを思っています」
「正直に言うとね」
彼は少しだけ困ったように笑って続ける。
「今、僕は猛烈に……これから取るべき行動について迷っている」
「……私も、まったく同じことを思っています」
重なる言葉に、彼は小さく目を見開き、それから嬉しそうに目を細めた。
「……今日は、何時まで?」
「……十六時です」
一瞬だけ考えるように視線を逸らしてから、彼は決意したようにうなずいた。
「よし。じゃあ、十六時に君の学校の正門に迎えに行く。絶対、来てくれるか?」
「当たり前です。……絶対に、来てくださいね」
「ああ。約束だ」
名残惜しさを噛みしめるように、私たちはゆっくりと手を離した。
振り返りたい気持ちを必死に抑えて、私は自分の学校へと駆け出す。手のひらに残るぬくもりが、これが夢じゃないと、何度も教えてくれた。
それから十六時まで、私は驚くほど集中して授業を受けた。いつもと様子の違う私に、周りの友人たちは目を丸くしていたが、「勉強に目覚めた!」と、とりあえず誤魔化しておく。
教室からは正門は見えない。本当に、アルベルト様――いや、現世での名前は何だろう――彼は、約束通り来てくれているだろうか。心臓が早鐘のように打ち、手のひらが少し汗ばんでいる。ホームルームが終わると、私は下駄箱へと駆け降りた。
背中を丸めながらローファーを履き替える。あぁ、つい最近変えたばかりの綺麗なローファーで良かった。小さなことでも、今の私には安心材料だ。前髪を整え、制服を軽くはたき、深呼吸をひとつ――でも、胸の鼓動は落ち着くどころか、ますます早まるばかりだった。
校舎の外に出ると、正門の向こうに彼の姿が目に入った。遠くからでも分かる、何十年も隣で見た、あの凛とした立ち姿。私の胸は一気に跳ね上がり、呼吸が詰まりそうになる。
その瞬間、さっきまで整えていた前髪も、制服の乱れも、全く気にならなかった。心の中の高鳴りに身を任せ、私は彼に向かって駆け出す。
駆け寄ってきた私を視界に入れた彼は、心底嬉しそうに微笑んだ。その笑顔に、胸の奥がぎゅっと締めつけられる。
近づいた私たちは、まるでずっとそうしていたかのように自然に手を取り合う。指先が触れた瞬間、言葉にできない感情が体中に広がった。
「……どこで話しましょうか」
今すぐにでも色々と話したい気持ちを抑え、そっと尋ねる。
「そうだね……駅前のクレープ屋でテイクアウトして、公園でゆっくり喋ろう」
彼の穏やかな笑顔に、自然と頷く。胸の高鳴りを押さえつつ、手を握り返す。
繋いだ手から伝わってくる体温は、記憶の中にある彼よりもずっと近く、確かなものだった。アスファルトの上を響く二人の足音。すれ違う自転車や、夕暮れの街灯。彼の隣で見る景色は、やっぱり美しい。全てが特別なもののように感じられた。
私たちは公園のベンチに腰を下ろし、ぽつりぽつりと話し始めた。
「あの時の、学園の中庭の奥で話したことを思い出すな」
「ふふ、同じことを思ってました。はっきりと覚えてますよ」
彼は小さく笑って、クレープを一口頬張る。
「チョコレート、やっぱり好きなんですね」
「君はやっぱりフルーツが好きなんだね。以前との共通点を見つけると、なんだかすごく嬉しくなるよ」
少し間を置いて、私は手元のクレープを握りしめながら呟く。
「口調、変わったんですね」
「さすがにこの世界であの口調だったら浮くからね。君が僕だと気づいてくれるか不安だったけど、気づいてくれて良かった」
「関西弁でも、九州弁でもないですね」
「あはは!よく覚えてたね」
笑い合いながらクレープを頬張る。柔らかな甘さが口の中に広がり、二人の沈黙も心地好く感じられる。
「やっぱり、君がこうやって隣に居ると一番落ち着くな」
「多くの時間を過ごしましたからね」
静かな公園のベンチで、クレープの紙を丁寧にたたみながら、私たちは小さな幸せを噛みしめる。夕暮れの風が、木々を揺らし、遠くで子どもたちの笑い声が聞こえていた。
「ねえ、これからも……ずっと一緒に、こうしていられますか?」
「もちろん。またずっと、一緒に。会いたいときに、いつでも会おう」
その言葉は約束というより、ずっと前から決まっていた事実のようだった。
「……記憶は、全部あるんですか?」
「何一つ忘れてないよ。君は?」
「私も。全部、覚えています」
少し間が空いて、彼はふっと口元を緩めた。
「君のその敬語は、癖なの?」
「い、いえ……つい……」
「じゃあさ」
彼はそう言って、指先で私の手を軽くつつく。
「今世では、敬語なしにしよう」
「……努力、します」
「そこも含めて君らしいけどね」
からかうような声なのに、どこまでも優しい。私は小さく息を吐いて、肩の力を抜いた。
「じゃあ……改めて」
「うん?」
「自己紹介、しよっか。まだお互いの名前も知らないよ私たち」
「あはは!本当だ。じゃあ改めて、僕の名前は――――」
夕暮れのオレンジが藍色に溶ける中、私たちは並んで歩く。これからも、未来も、時間も――すべてを一緒に過ごせるのだと、私は確信していた。
商会は相変わらず西へ東へと手を広げ、どの土地でも繁盛を見せていた。私は帳簿や契約書を整え、時には現地との交渉にも同行しながら、彼の隣でその歩みを支え続けている。
そんなある日、遠い東の国で――私たちは、見覚えのあり過ぎる穀物と調味料に出会った。
「……フェリシア」
「……はい」
袋の中を覗き込んだまま、二人してしばし沈黙する。次の瞬間、ほとんど同時に顔を上げた。
「これ、米じゃないかい」
「米ですね」
「しかも――」
「味噌、です」
確認するように囁き合ったあと、堪えきれずに噴き出してしまった。周囲の人間が不思議そうな顔をするのも構わず、私たちは声を潜めて、けれど目を輝かせた。
「前世の……」
「前世の、アレだな」
言葉にしただけで、胸の奥が熱くなる。この世界には存在しないと思っていた、あの味。あの記憶。それを、今こうして、隣にいる同じ“前世持ち”と共有している。
「……持ち帰ろう」
「絶対にです」
「おにぎり、食べたいな」
「お味噌汁も作りましょうね」
そう言って笑い合った時、ああ、私たちは本当に、同じ人生を二度歩いているのだと実感した。
それから先の年月は、穏やかに積み重なっていった。
商会はさらに大きくなり、国を越え、海を越えた。それでも私たちは、変わらず同じ食卓を囲んでいた。
愛するアルベルト様や、愛する子供たちと過ごす何気ない時間は、いつの間にか、かけがえのない宝物になっていった。
季節が巡り、髪に白が混じる頃になっても、私たちはずっと隣で過ごした。
歩幅はゆっくりになり、遠くへ出かけることが難しくなっても、子供達や孫達に囲まれ、笑いは絶えず、日々は幸せに満ちていた。
その日も、窓から差し込む柔らかな陽射しの中で、二人は静かに過ごしていた。
少し違うのは、私がベッドに横になり、アルベルト様がその傍らの椅子に座っているということだろうか。
アルベルト様は、私の手を包むように握りしめていた。
その指先にこもる力が、私よりも彼のほうが、ずっと名残惜しんでいることを教えてくれる。
「……充実した人生でしたね」
ふと、そんな言葉がこぼれる。
「うむ。二度目だというのに、ずいぶん贅沢な人生だった」
冗談めかした声に、思わず小さく笑う。
包まれた手には昔よりもシワがふえているのが感じられたが、その指先に触れる温もりはずっと昔から、変わることはなかった。
「ねえ」
「どうしたんだい」
「また……来世で会えたら、いいですね」
ほんの願いのように告げると、隣から穏やかな気配が伝わってくる。
アルベルト様は、私の手を離さぬまま、少し震えた声で呟いた。
「ああ。絶対だ」
「じゃあ、私は曲がり角でパンをくわえて走ってますね」
「ちゃんと『遅刻遅刻~』って言うのだぞ」
二人で笑い合いながら、穏やかな空気は静かに流れていく。
そして――ふいに、しん、と世界が静まった。
「あなたのこと、とても愛していますよ」
「僕もだよ。愛しい人」
気がつけば、部屋はとても静かだった。
周りの音も、景色も、すべてが遠ざかっていく。
けれど、不思議と寂しさはなかった。
胸の奥には、温かなものが確かに残っている。
きっとまた、どこかで。
同じ魂で、同じように。
***
「やばい、遅刻する!!」
パンをくわえた女子高生――こと、私は、朝の通学路を全力で駆け抜けていた。
歯磨きセットはちゃんとカバンに入っているから、一限目が始まる前に磨けばいい。……たぶん、大丈夫。
そう自分に言い聞かせながら、勢いよく角を曲がった、その瞬間。
「わっ!!」
誰かと、ぶつかった。鈍い衝撃と同時に、口に咥えていたパンが宙を舞い、無情にも地面へ落ちる。
「いたたた……」
尻もちをついたまま腰をさすり、私は慌てて顔を上げた。
「ご、ごめんなさい! お怪我はありませんか!?」
視界に入ったのは、近くの“お金持ちが通う”と噂の私立校の制服。
そこに立っていたのは、その制服を着た男子高校生だった。
どこか見覚えのある整った顔。
糸目。
そして、少し伸ばされた漆黒の髪。
「……某通信教育教材で見たやつだ……」
思わず漏れたその一言に、彼は一瞬だけ目を見開いた。そして次の瞬間、堪えきれないというように、じわじわと笑みが広がっていく。嬉しさを隠しきれない、少し潤んだ瞳で。
「『遅刻遅刻~』って言うのは、忘れていたのかい?」
その声を聞くと、心臓が、長い眠りから叩き起こされたかのように、胸の奥で激しく鐘を打った。
気づけば、私たちは互いの存在を確かめるように、自然と手を取り合っていた。
初めて触れたはずの手なのに、驚くほどしっくりと馴染む。
「ねえ、僕たち……多分、たくさん話したいことがあると思うんだけど」
真剣な眼差しでそう言われて、私は思わず息を飲む。
「私も、まったく同じことを思っています」
「正直に言うとね」
彼は少しだけ困ったように笑って続ける。
「今、僕は猛烈に……これから取るべき行動について迷っている」
「……私も、まったく同じことを思っています」
重なる言葉に、彼は小さく目を見開き、それから嬉しそうに目を細めた。
「……今日は、何時まで?」
「……十六時です」
一瞬だけ考えるように視線を逸らしてから、彼は決意したようにうなずいた。
「よし。じゃあ、十六時に君の学校の正門に迎えに行く。絶対、来てくれるか?」
「当たり前です。……絶対に、来てくださいね」
「ああ。約束だ」
名残惜しさを噛みしめるように、私たちはゆっくりと手を離した。
振り返りたい気持ちを必死に抑えて、私は自分の学校へと駆け出す。手のひらに残るぬくもりが、これが夢じゃないと、何度も教えてくれた。
それから十六時まで、私は驚くほど集中して授業を受けた。いつもと様子の違う私に、周りの友人たちは目を丸くしていたが、「勉強に目覚めた!」と、とりあえず誤魔化しておく。
教室からは正門は見えない。本当に、アルベルト様――いや、現世での名前は何だろう――彼は、約束通り来てくれているだろうか。心臓が早鐘のように打ち、手のひらが少し汗ばんでいる。ホームルームが終わると、私は下駄箱へと駆け降りた。
背中を丸めながらローファーを履き替える。あぁ、つい最近変えたばかりの綺麗なローファーで良かった。小さなことでも、今の私には安心材料だ。前髪を整え、制服を軽くはたき、深呼吸をひとつ――でも、胸の鼓動は落ち着くどころか、ますます早まるばかりだった。
校舎の外に出ると、正門の向こうに彼の姿が目に入った。遠くからでも分かる、何十年も隣で見た、あの凛とした立ち姿。私の胸は一気に跳ね上がり、呼吸が詰まりそうになる。
その瞬間、さっきまで整えていた前髪も、制服の乱れも、全く気にならなかった。心の中の高鳴りに身を任せ、私は彼に向かって駆け出す。
駆け寄ってきた私を視界に入れた彼は、心底嬉しそうに微笑んだ。その笑顔に、胸の奥がぎゅっと締めつけられる。
近づいた私たちは、まるでずっとそうしていたかのように自然に手を取り合う。指先が触れた瞬間、言葉にできない感情が体中に広がった。
「……どこで話しましょうか」
今すぐにでも色々と話したい気持ちを抑え、そっと尋ねる。
「そうだね……駅前のクレープ屋でテイクアウトして、公園でゆっくり喋ろう」
彼の穏やかな笑顔に、自然と頷く。胸の高鳴りを押さえつつ、手を握り返す。
繋いだ手から伝わってくる体温は、記憶の中にある彼よりもずっと近く、確かなものだった。アスファルトの上を響く二人の足音。すれ違う自転車や、夕暮れの街灯。彼の隣で見る景色は、やっぱり美しい。全てが特別なもののように感じられた。
私たちは公園のベンチに腰を下ろし、ぽつりぽつりと話し始めた。
「あの時の、学園の中庭の奥で話したことを思い出すな」
「ふふ、同じことを思ってました。はっきりと覚えてますよ」
彼は小さく笑って、クレープを一口頬張る。
「チョコレート、やっぱり好きなんですね」
「君はやっぱりフルーツが好きなんだね。以前との共通点を見つけると、なんだかすごく嬉しくなるよ」
少し間を置いて、私は手元のクレープを握りしめながら呟く。
「口調、変わったんですね」
「さすがにこの世界であの口調だったら浮くからね。君が僕だと気づいてくれるか不安だったけど、気づいてくれて良かった」
「関西弁でも、九州弁でもないですね」
「あはは!よく覚えてたね」
笑い合いながらクレープを頬張る。柔らかな甘さが口の中に広がり、二人の沈黙も心地好く感じられる。
「やっぱり、君がこうやって隣に居ると一番落ち着くな」
「多くの時間を過ごしましたからね」
静かな公園のベンチで、クレープの紙を丁寧にたたみながら、私たちは小さな幸せを噛みしめる。夕暮れの風が、木々を揺らし、遠くで子どもたちの笑い声が聞こえていた。
「ねえ、これからも……ずっと一緒に、こうしていられますか?」
「もちろん。またずっと、一緒に。会いたいときに、いつでも会おう」
その言葉は約束というより、ずっと前から決まっていた事実のようだった。
「……記憶は、全部あるんですか?」
「何一つ忘れてないよ。君は?」
「私も。全部、覚えています」
少し間が空いて、彼はふっと口元を緩めた。
「君のその敬語は、癖なの?」
「い、いえ……つい……」
「じゃあさ」
彼はそう言って、指先で私の手を軽くつつく。
「今世では、敬語なしにしよう」
「……努力、します」
「そこも含めて君らしいけどね」
からかうような声なのに、どこまでも優しい。私は小さく息を吐いて、肩の力を抜いた。
「じゃあ……改めて」
「うん?」
「自己紹介、しよっか。まだお互いの名前も知らないよ私たち」
「あはは!本当だ。じゃあ改めて、僕の名前は――――」
夕暮れのオレンジが藍色に溶ける中、私たちは並んで歩く。これからも、未来も、時間も――すべてを一緒に過ごせるのだと、私は確信していた。
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