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第十三話 最終話
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それから半年――
秋の光が柔らかく差し込む教会で、リリーナは純白のドレスに身を包み、胸元には赤とピンクのチューリップ、白いラナンキュラスのブーケを抱えて立っていた。カイルは少し照れくさそうにしながらも、リリーナを見つめて微笑む。胸元には、ブーケと同じ花をあしらった小さなブートニアが揺れていた。
秋の結婚式では手に入りにくい花だったが、カイルとの思い出の花――初めて彼からもらったピンクのチューリップと白いラナンキュラス――を、この晴れの日にどうしても手にしたくて、温室で特別に手配してもらったのだ。
あのときの温かい気持ちが、こうして形を変え、リリーナの手の中で輝いていることに、彼女は静かに幸せを感じていた。
リリーナの両親と妹アイリス、カイルの両親と兄夫妻、親交のある家やヘレヴィアやヘレヴィアの兄を含む親しい友人たちが見守る中、牧師の声が静かに響く。
「リリーナ。あなたは、これから先のどんな時も、カイルを愛し、支え、共に生きることを誓いますか?」
リリーナは息を整え、ゆっくりと微笑みながら答えた。
「……はい、誓います」
牧師は静かにうなずき、続けてカイルへと視線を向ける。
「カイル。あなたは、これから先のどんな時も、リリーナを愛し、守り、共に歩むことを誓いますか?」
カイルはまっすぐにリリーナを見つめ、力強く答える。
「はい、誓います」
牧師は静かに目を閉じ、二人に手をかざす。
「……精霊たちの祝福が、あなたたちの道に寄り添いますように。」
次の瞬間、どこからともなく優しい風が吹いた。教会の中で風など起こるはずもなく、誰もが不思議そうに辺りを見回す。
すると、リリーナとカイルの頭上から、ひらひらと黄色の小さな花びらが舞い落ちてきた。ステンドグラスから差し込む光を浴び、花びらは黄金色に輝く。
「これは……もしかして、春の精霊の祝福……」
牧師も思わず、驚いたように呟いた。
春の精霊が、リリーナとカイルの結婚を祝福するかのように、福寿草の花びらを舞わせたのだ。
教会内を漂う季節外れの福寿草の花びらは幻想的だった。その息を呑むほどの美しさに、リリーナとカイル、招待客たちも言葉を失い、ただその光景を見つめ続けた。
リリーナのブーケの中には、一輪の福寿草だけが残った。やがて花びらは静かに舞いを終える。
「結婚式で、稀に精霊の祝福を受ける方がいると聞いたことはありますが、実際に目にするのは初めてです…!」
牧師は少し興奮したようにそう告げた。
カイルとリリーナはそっとブーケの中の福寿草を覗き込み、目を合わせて微笑みあった。周りの招待客たちは、教会で目にした幻想的な光景にまだ興奮が冷めやらず、ざわざわと小さな声を交わしている。
教会の扉が開かれると、秋の光が柔らかく差し込み、外の空気が二人を優しく迎えた。招待客たちは手に持った花びらをそっと振り、祝福の声をかける。
「幸せになってね!」
「おめでとう、リリーナ、カイル!」
「ずっと仲良くね!」
「よかったですわぁ……!」
ヘレヴィアは涙をうるませ、手を胸にあてて、喜びで声を震わせていた。あまりの感動に肩まで震わせる妹を、そばにいた兄――クレドは、苦笑しながらそっと背中を撫でてやる。
「ヴィア、深呼吸だ。嬉しいのは分かるけど、泣きすぎだよ」
その喜びと感動が入り混じった姿に、リリーナとカイルの胸も自然と暖かくなる。温かな声に包まれ、二人の顔には笑みがこぼれた。
二人はそのまま歩き出した。花びらが舞い、秋の光にきらめく道を、幸せに満ちた二人がゆっくりと進む。周囲の祝福の声も、二人の笑顔をさらに輝かせていた。
夢のような結婚式から数日後――
あのエメラルド色のノートが光ることは、もうなかった。ただ、一枚の栞がそっと挟まれている。それは結婚式で春の精霊から贈られた福寿草の押し花で作られたものだった。
リリーナはその栞を手に取り、指先でそっと撫でる。淡い黄色の花びらの感触が、あの日の幸福と温かい祝福の記憶をそっと呼び起こす。
そこにあるのは、別世界のカイルへの感謝の気持ちと、彼の幸福を願う気持ち――そして、今目の前にいるカイルと共に歩む、未来への前向きな想いだった。
リリーナは微笑み、栞をそっと胸に抱きしめる。
小さな福寿草は、確かに希望の象徴として、彼女の心を満たしていた。
――そして、あなたにも、精霊の祝福が届きますように。
***
パタン、とカイルはエメラルド色のノートを閉じた。
静かに呼吸を整え、横に置かれたオレンジとミントのフルーツティーを口に運ぶ。ふわりと香る甘く爽やかな香りが、かつてリリーナとのやり取りをそっと思い出させる。
(リリーナは、もう大丈夫なのだろう)
そう心に思いながら、カイルは彼女に思いを馳せる。もう会うことはできないけれど、彼女の言葉と、思い出と共に生きていく覚悟ができたのだ。
よし、と気合いを入れた瞬間、目の前に一輪の福寿草が、ゆっくりと舞い降りてきた。
「——春の、精霊……」
カイルはふと、かつてリリーナと一緒に行った春祭りのことを思い出しながら、福寿草をそっと手に取った。
「うん、僕はもう、大丈夫だよ……」
小さな福寿草の温もりを感じながら、カイルは静かに目を閉じる。
深呼吸を一つ、そして目を開けると、再び前を向き、未来へ歩いていく覚悟が胸にゆっくりと満ちてきた。
――そして、君にも、精霊の祝福が届きますように。
秋の光が柔らかく差し込む教会で、リリーナは純白のドレスに身を包み、胸元には赤とピンクのチューリップ、白いラナンキュラスのブーケを抱えて立っていた。カイルは少し照れくさそうにしながらも、リリーナを見つめて微笑む。胸元には、ブーケと同じ花をあしらった小さなブートニアが揺れていた。
秋の結婚式では手に入りにくい花だったが、カイルとの思い出の花――初めて彼からもらったピンクのチューリップと白いラナンキュラス――を、この晴れの日にどうしても手にしたくて、温室で特別に手配してもらったのだ。
あのときの温かい気持ちが、こうして形を変え、リリーナの手の中で輝いていることに、彼女は静かに幸せを感じていた。
リリーナの両親と妹アイリス、カイルの両親と兄夫妻、親交のある家やヘレヴィアやヘレヴィアの兄を含む親しい友人たちが見守る中、牧師の声が静かに響く。
「リリーナ。あなたは、これから先のどんな時も、カイルを愛し、支え、共に生きることを誓いますか?」
リリーナは息を整え、ゆっくりと微笑みながら答えた。
「……はい、誓います」
牧師は静かにうなずき、続けてカイルへと視線を向ける。
「カイル。あなたは、これから先のどんな時も、リリーナを愛し、守り、共に歩むことを誓いますか?」
カイルはまっすぐにリリーナを見つめ、力強く答える。
「はい、誓います」
牧師は静かに目を閉じ、二人に手をかざす。
「……精霊たちの祝福が、あなたたちの道に寄り添いますように。」
次の瞬間、どこからともなく優しい風が吹いた。教会の中で風など起こるはずもなく、誰もが不思議そうに辺りを見回す。
すると、リリーナとカイルの頭上から、ひらひらと黄色の小さな花びらが舞い落ちてきた。ステンドグラスから差し込む光を浴び、花びらは黄金色に輝く。
「これは……もしかして、春の精霊の祝福……」
牧師も思わず、驚いたように呟いた。
春の精霊が、リリーナとカイルの結婚を祝福するかのように、福寿草の花びらを舞わせたのだ。
教会内を漂う季節外れの福寿草の花びらは幻想的だった。その息を呑むほどの美しさに、リリーナとカイル、招待客たちも言葉を失い、ただその光景を見つめ続けた。
リリーナのブーケの中には、一輪の福寿草だけが残った。やがて花びらは静かに舞いを終える。
「結婚式で、稀に精霊の祝福を受ける方がいると聞いたことはありますが、実際に目にするのは初めてです…!」
牧師は少し興奮したようにそう告げた。
カイルとリリーナはそっとブーケの中の福寿草を覗き込み、目を合わせて微笑みあった。周りの招待客たちは、教会で目にした幻想的な光景にまだ興奮が冷めやらず、ざわざわと小さな声を交わしている。
教会の扉が開かれると、秋の光が柔らかく差し込み、外の空気が二人を優しく迎えた。招待客たちは手に持った花びらをそっと振り、祝福の声をかける。
「幸せになってね!」
「おめでとう、リリーナ、カイル!」
「ずっと仲良くね!」
「よかったですわぁ……!」
ヘレヴィアは涙をうるませ、手を胸にあてて、喜びで声を震わせていた。あまりの感動に肩まで震わせる妹を、そばにいた兄――クレドは、苦笑しながらそっと背中を撫でてやる。
「ヴィア、深呼吸だ。嬉しいのは分かるけど、泣きすぎだよ」
その喜びと感動が入り混じった姿に、リリーナとカイルの胸も自然と暖かくなる。温かな声に包まれ、二人の顔には笑みがこぼれた。
二人はそのまま歩き出した。花びらが舞い、秋の光にきらめく道を、幸せに満ちた二人がゆっくりと進む。周囲の祝福の声も、二人の笑顔をさらに輝かせていた。
夢のような結婚式から数日後――
あのエメラルド色のノートが光ることは、もうなかった。ただ、一枚の栞がそっと挟まれている。それは結婚式で春の精霊から贈られた福寿草の押し花で作られたものだった。
リリーナはその栞を手に取り、指先でそっと撫でる。淡い黄色の花びらの感触が、あの日の幸福と温かい祝福の記憶をそっと呼び起こす。
そこにあるのは、別世界のカイルへの感謝の気持ちと、彼の幸福を願う気持ち――そして、今目の前にいるカイルと共に歩む、未来への前向きな想いだった。
リリーナは微笑み、栞をそっと胸に抱きしめる。
小さな福寿草は、確かに希望の象徴として、彼女の心を満たしていた。
――そして、あなたにも、精霊の祝福が届きますように。
***
パタン、とカイルはエメラルド色のノートを閉じた。
静かに呼吸を整え、横に置かれたオレンジとミントのフルーツティーを口に運ぶ。ふわりと香る甘く爽やかな香りが、かつてリリーナとのやり取りをそっと思い出させる。
(リリーナは、もう大丈夫なのだろう)
そう心に思いながら、カイルは彼女に思いを馳せる。もう会うことはできないけれど、彼女の言葉と、思い出と共に生きていく覚悟ができたのだ。
よし、と気合いを入れた瞬間、目の前に一輪の福寿草が、ゆっくりと舞い降りてきた。
「——春の、精霊……」
カイルはふと、かつてリリーナと一緒に行った春祭りのことを思い出しながら、福寿草をそっと手に取った。
「うん、僕はもう、大丈夫だよ……」
小さな福寿草の温もりを感じながら、カイルは静かに目を閉じる。
深呼吸を一つ、そして目を開けると、再び前を向き、未来へ歩いていく覚悟が胸にゆっくりと満ちてきた。
――そして、君にも、精霊の祝福が届きますように。
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