【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』

ブヒ太郎

文字の大きさ
2 / 91

第1話:②

陽が落ちた街の喧騒が、酒場の窓から漏れ聞こえてくる。ギルドに帰還し、ドラゴンの魔核を提出したグレイのパーティは、無事Sランクに昇格した。その夜、彼らは酒場の一角を借り切って、祝杯をあげていた。

「三人の栄光を祝してっ!」

グレイが、高々とグラスを掲げる。ライアスとシーナも、それに続いて乾杯した。

「だから、4人だって言ってんでしょうが、俺が抜けてる俺が」

ゼロスは、自分のグラスをテーブルに置きながら、わざとらしい声で不満を口にする。三人の表情が、再び微妙なものになる。

「あ、あんた本当に空気読めないわね…」

シーナが、呆れたように呟く。その言葉に、ゼロスはさらに声を荒げた。

「空気ぃー?読んでるでしょうがぁ。空気読めと言えば、そもそも報酬額が少なくないか?一般荷物持ちにちょっと上乗せした程度じゃないですかぁぁぁぁ」

ゼロスの言葉に、グレイは静かにグラスをテーブルに置く。その表情は、先ほどの高揚感とは一転して、冷ややかなものだった。

「…そのことなんだがな、ゼロス」

グレイの言葉に、ゼロスの顔から笑顔が消える。

「なんだ、グレイ」

酒場の喧騒が、遠いBGMのように聞こえていた。これから告げられる言葉が、ゼロスの人生を大きく変えることを、この時の彼はまだ知らなかった。

酒場の喧騒が、急に遠くの音になったように感じられた。グラスをテーブルに置いたグレイの目が、ゼロスを射抜くように見つめている。その眼差しは、冷たく、感情が欠けていた。

「お前にはこのPTから出ていってもらうことにした」

その言葉は、まるで氷の刃のように、ゼロスの心を貫いた。ゼロスの顔から、へらへらとした笑みが完全に消える。

「…なんですと?」

ゼロスは、信じられないというように、問い返した。グレイの隣で、ライアスが口を開く。

「…BランクPTまでは良かった。別に荷物持ちが居ても自然だったしな」

その言葉に、シーナが冷たい声で同意する。

「そうね」

グレイは、腕を組み、ゼロスを蔑むように見下ろした。

「だが、Aランクにあがってからは、正直荷物持ちは不要だった。ダンジョンに何週間も潜るっていうなら、話は別だが、今の俺たちなら3日もあれば高ランクダンジョンも踏破可能だからだ」

グレイの言葉に、ゼロスは反論する。

「その3日分の食料も俺が全部持ってるでしょうがっ!」

ライアスは、その言葉に眉をひそめた。

「…つけあがるなよゼロス」

(お…ライアスが口を挟むとは珍しいな)

ライアスは、いつもグレイの影に隠れているような存在だった。その彼が、わざわざ口を挟んできたことに、ゼロスは僅かな動揺を覚える。

「確かに過去の俺たちなら、その荷物を持っていれば戦力が下がったかもしれない。だが今の俺にとっては、たかが3日分の食料をもったところで、なんの弊害も生まれないということだ」

ライアスは、冷徹な論理でゼロスの存在価値を否定する。ゼロスは、その言葉に、怒りを覚えた。

「持ったこともないのによく言うぜ!スプーンより重いものを持ったことがないお嬢様みたいな発言すんなよ!」

ゼロスの言葉に、ライアスの顔が険しくなる。

「…ダメか…やはり話にならんな」

シーナが、鼻で笑う。

「そうね…こいつに期待した私たちがバカだったわ」

シーナの言葉に、ゼロスの怒りは頂点に達した。

「おい、シーナ。お前が普段愛用してる魔素ポーション、持ち歩いてるのは誰だよ」

シーナは、その言葉に一瞬だけ表情を曇らせたが、すぐに冷笑を浮かべる。

「貴方ね。でも、それも今後はそれも不要よ、精々3回分程度あれば十分」

「…毎回10回は補給してるやつが良く言うなオイ」

ゼロスの皮肉に、グレイが口を開く。

「もうやめろ、ゼロス」

グレイの静かな声に、ゼロスは反発する。

「なんだよ?俺が文句言うのがそんなに気に食わないってのか?」

「そういう問題じゃない。別に口喧嘩したいわけじゃないんだ。これはゼロス。お前の価値についての話だ」

グレイの言葉に、ゼロスの肩から力が抜けていく。

「…俺がお前らと一緒にダンジョン踏破したのいくつのランクからだったよ」

「最下級…Eランクからだったな」

グレイの言葉に、ゼロスは虚しく問い返す。

「その長い付き合いの俺を追い出そうと?」

グレイは、表情を変えずに頷いた。

「…そうだ。理由はもう十分わかってるだろう。お前はもう足手まといなんだ。俺たちはもうSランクだ。戦闘能力が大してないお前を連れ歩く理由もない」

ゼロスは、最後の抵抗を試みるように問いかける。

「今回の大楯とかの類は、誰が持つんだよ」

グレイは、その質問に少しだけ苛立ちを滲ませた。

「…あれは一種の保険だ。アレがなくても勝てた」

(…もう何を話しても無駄か)

ゼロスは、悟ったように、ため息をついた。彼の心は、絶望と怒り、そして虚しさで満たされていた。

「わかったわかった…出ていってやるよ…元気で」

グレイは、その言葉に満足そうに頷く。

「わかればいい」

ゼロスは、最後に一つのことを確かめるように尋ねた。

「一応聞くが、退職金みたいなやつは?」

その言葉に、ライアスが嘲笑うように答える。

「あるわけないだろ」

シーナも、それに続く。

「図々しいわね」

グレイは、ゼロスを軽蔑の眼差しで見つめ、言い放った。

「今まで上位ランクPTに居れたこと自体が退職金みたいなものだ。意味わからんこといってないで、早く俺たちの前から消えてくれ。俺がキレる前に」

ゼロスは、グレイたちの言葉に反論する気力も失っていた。彼は、ただ静かに立ち上がり、酒場の出口へと向かう。

「はぁ…わかったよ、じゃぁな」

その背中は、どこまでも寂しげだった。

冷たい夜風が、ゼロスの頬を撫でる。酒場を後にしたゼロスは、重い足取りでギルドへと向かっていた。明日の朝、冒険者としての日銭を稼ぐため、新しい仕事を探す必要があった。

(ぐっは…あの3バカ…マジで俺を追い出しやがって………ハァ…なんだかんだ上手くやってると思ってたんだがな…)

彼の心は、怒りや悲しみよりも、深い虚無感に支配されていた。今までのふざけた態度は、彼なりのコミュニケーションの取り方であり、長年苦楽を共にしてきた仲間との軽いやりとりだと思っていたのだ。そのすべてが、たった一言で否定されてしまった。

(とりあえず、仕事見つけないとな…)

ゼロスは、頭を切り替える。自分一人でも、最下級のEランクダンジョンくらいならなんとかなるだろう。しかし、冒険者ギルドは4人PTでの活動を推奨しており、昇格試験も4人PTで行うのが一般的だ。

(なんとか早めにPT組んで、ランク上げしないと生活費が足らなくなる…)

ギルドの建物の手前にあるベンチに、一人の女性が座っているのが目に入った。時刻は既に19時を回り、夜道も危険な時間だ。

(こんな時間に一人で?)

ゼロスは、心配になり、その女性に声をかけた。

「どうされました?こんなところで。早めに宿に戻らないといくら街中でも危ないですよ」

女性は、顔を上げてゼロスを見つめた。その瞳は、不安げに揺れていた。

「貴方は、お一人ですか?」

女性の言葉に、ゼロスは一瞬、背筋が寒くなる。

「…後ろに何かいる。みたいなホラーなこと言わないで」

ゼロスの冗談に、女性は慌てて首を振った。

「す、すいません。変なこと言って。私…こないだ入ったDランクPTからも除外させられちゃって…」

その言葉に、ゼロスは驚きと同時に、親近感を覚えた。

「…なるほど、キミもPTを探してると…」

「ま、まさか貴方もPTをお探しで!?」

女性は、希望の光を見つけたかのように、ゼロスをじっと見つめる。ゼロスは、思わず苦笑いを浮かべた。

「そ、そーなるんですかね…すいませんね、お力添えできそうになくて…」

(俺は荷物持ちだったんだ。何の役にも立たない。そんな俺と一緒に組んだって、またキミまで追い出されちゃうぞ…)

ゼロスがその場を立ち去ろうとした、その時だった。女性が、ゼロスの袖を掴む。

「私とPTを組んでくれませんか?」

女性の瞳には、ゼロスへの純粋な期待が満ちていた。それは、何よりもゼロスが欲しかった、誰かに必要とされる、という感情だった。その言葉が、絶望の淵に立っていたゼロスに、一筋の希望の光を差し込んだ。

(第一話/了)
感想 1

あなたにおすすめの小説

攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】

水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】 【一次選考通過作品】 ---  とある剣と魔法の世界で、  ある男女の間に赤ん坊が生まれた。  名をアスフィ・シーネット。  才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。  だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。  攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。 彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。  --------- もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります! #ヒラ俺 この度ついに完結しました。 1年以上書き続けた作品です。 途中迷走してました……。 今までありがとうございました! --- 追記:2025/09/20 再編、あるいは続編を書くか迷ってます。 もし気になる方は、 コメント頂けるとするかもしれないです。

えっ、能力なしでパーティ追放された俺が全属性魔法使い!? ~最強のオールラウンダー目指して謙虚に頑張ります~

たかたちひろ【令嬢節約ごはん23日発売】
ファンタジー
コミカライズ10/19(水)開始! 2024/2/21小説本編完結! 旧題:えっ能力なしでパーティー追放された俺が全属性能力者!? 最強のオールラウンダーに成り上がりますが、本人は至って謙虚です ※ 書籍化に伴い、一部範囲のみの公開に切り替えられています。 ※ 書籍化に伴う変更点については、近況ボードを確認ください。 生まれつき、一人一人に魔法属性が付与され、一定の年齢になると使うことができるようになる世界。  伝説の冒険者の息子、タイラー・ソリス(17歳)は、なぜか無属性。 勤勉で真面目な彼はなぜか報われておらず、魔法を使用することができなかった。  代わりに、父親から教わった戦術や、体術を駆使して、パーティーの中でも重要な役割を担っていたが…………。 リーダーからは無能だと疎まれ、パーティーを追放されてしまう。  ダンジョンの中、モンスターを前にして見捨てられたタイラー。ピンチに陥る中で、その血に流れる伝説の冒険者の能力がついに覚醒する。  タイラーは、全属性の魔法をつかいこなせる最強のオールラウンダーだったのだ! その能力のあまりの高さから、あらわれるのが、人より少し遅いだけだった。  タイラーは、その圧倒的な力で、危機を回避。  そこから敵を次々になぎ倒し、最強の冒険者への道を、駆け足で登り出す。  なにせ、初の強モンスターを倒した時点では、まだレベル1だったのだ。 レベルが上がれば最強無双することは約束されていた。 いつか彼は血をも超えていくーー。  さらには、天下一の美女たちに、これでもかと愛されまくることになり、モフモフにゃんにゃんの桃色デイズ。  一方、タイラーを追放したパーティーメンバーはというと。 彼を失ったことにより、チームは瓦解。元々大した力もないのに、タイラーのおかげで過大評価されていたパーティーリーダーは、どんどんと落ちぶれていく。 コメントやお気に入りなど、大変励みになっています。お気軽にお寄せくださいませ! ・12/27〜29 HOTランキング 2位 記録、維持 ・12/28 ハイファンランキング 3位

隠して忘れていたギフト『ステータスカスタム』で能力を魔改造 〜自由自在にカスタマイズしたら有り得ないほど最強になった俺〜

桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
ファンタジー
 能力(スキル)を隠して、その事を忘れていた帝国出身の錬金術師スローンは、無能扱いで大手ギルド『クレセントムーン』を追放された。追放後、隠していた能力を思い出しスキルを習得すると『ステータスカスタム』が発現する。これは、自身や相手のステータスを魔改造【カスタム】できる最強の能力だった。  スローンは、偶然出会った『大聖女フィラ』と共にステータスをいじりまくって最強のステータスを手に入れる。その後、超高難易度のクエストを難なくクリア、無双しまくっていく。その噂が広がると元ギルドから戻って来いと頭を下げられるが、もう遅い。  真の仲間と共にスローンは、各地で暴れ回る。究極のスローライフを手に入れる為に。

辺境追放された「植物魔導師」の領地開拓 ~枯れ果てた死の大地は、俺の魔力で聖域(楽園)へと変貌する~

リーフレット
ファンタジー
​「植物魔法? ああ、農作業にしか使えないあの地味な魔法か」 ​帝国騎士団の専属魔導師だったアルトは、無能な二世皇太子レオンによって、一方的に追放を言い渡された。 アルトがどれほど魔導植物を駆使し、帝国の食糧難を裏から支えていたかを知らぬまま、彼は「戦闘に役立たない役立たず」という烙印を押されたのだ。 ​帝国を出て行き着いた先は、魔物が跋扈し、草一本生えないと言われる最果ての荒野。 死を待つだけの地。しかし、アルトは絶望するどころか、晴れやかな顔で笑っていた。 ​「やっと、気兼ねなく『植物』を愛でられる。……よし、ここを世界一の庭(楽園)にしよう」

レベル1の時から育ててきたパーティメンバーに裏切られて捨てられたが、俺はソロの方が本気出せるので問題はない

あつ犬
ファンタジー
王国最強のパーティメンバーを鍛え上げた、アサシンのアルマ・アルザラットはある日追放され、貯蓄もすべて奪われてしまう。 そんな折り、とある剣士の少女に助けを請われる。「パーティメンバーを助けてくれ」! 彼の人生が、動き出す。

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

神様に与えられたのは≪ゴミ≫スキル。家の恥だと勘当されたけど、ゴミなら何でも再生出来て自由に使えて……ゴミ扱いされてた古代兵器に懐かれました

向原 行人
ファンタジー
 僕、カーティスは由緒正しき賢者の家系に生まれたんだけど、十六歳のスキル授与の儀で授かったスキルは、まさかのゴミスキルだった。  実の父から家の恥だと言われて勘当され、行く当ても無く、着いた先はゴミだらけの古代遺跡。  そこで打ち捨てられていたゴミが話し掛けてきて、自分は古代兵器で、助けて欲しいと言ってきた。  なるほど。僕が得たのはゴミと意思疎通が出来るスキルなんだ……って、嬉しくないっ!  そんな事を思いながらも、話し込んでしまったし、連れて行ってあげる事に。  だけど、僕はただゴミに協力しているだけなのに、どこかの国の騎士に襲われたり、変な魔法使いに絡まれたり、僕を家から追い出した父や弟が現れたり。  どうして皆、ゴミが欲しいの!? ……って、あれ? いつの間にかゴミスキルが成長して、ゴミの修理が出来る様になっていた。  一先ず、いつも一緒に居るゴミを修理してあげたら、見知らぬ銀髪美少女が居て……って、どういう事!? え、こっちが本当の姿なの!? ……とりあえず服を着てっ!  僕を命の恩人だって言うのはさておき、ご奉仕するっていうのはどういう事……え!? ちょっと待って! それくらい自分で出来るからっ!  それから、銀髪美少女の元仲間だという古代兵器と呼ばれる美少女たちに狙われ、返り討ちにして、可哀想だから修理してあげたら……僕についてくるって!?  待って! 僕に奉仕する順番でケンカするとか、訳が分かんないよっ! ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

魔力ゼロで出来損ないと追放された俺、前世の物理学知識を魔法代わりに使ったら、天才ドワーフや魔王に懐かれて最強になっていた

黒崎隼人
ファンタジー
「お前は我が家の恥だ」――。 名門貴族の三男アレンは、魔力を持たずに生まれたというだけで家族に虐げられ、18歳の誕生日にすべてを奪われ追放された。 絶望の中、彼が死の淵で思い出したのは、物理学者として生きた前世の記憶。そして覚醒したのは、魔法とは全く異なる、世界の理そのものを操る力――【概念置換(コンセプト・シフト)】。 運動エネルギーの法則【E = 1/2mv²】で、小石は音速の弾丸と化す。 熱力学第二法則で、敵軍は絶対零度の世界に沈む。 そして、相対性理論【E = mc²】は、神をも打ち砕く一撃となる。 これは、魔力ゼロの少年が、科学という名の「本当の魔法」で理不尽な運命を覆し、心優しき仲間たちと共に、偽りの正義に支配された世界の真実を解き明かす物語。 「君の信じる常識は、本当に正しいのか?」 知的好奇心が、あなたの胸を熱くする。新時代のサイエンス・ファンタジーが、今、幕を開ける。