ま、まさかの異世界転生…!?

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1章:異世界、始動

君が眠る森で

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 街道を進むにつれ、視界の先に石造りの城壁がはっきりしてきた。門の周囲には、街に入ろうとする旅人がちらほら見える。

「おー……やっと街っぽいの出てきたやん」

 コウは背中の大剣を軽く持ち直しながら歩く。森の湿気から解放され、風に人の気配が混じり始めている。

 ──そのとき。

 ガアァァァァッ!!

 獣の唸り声が街道の先から響いた。

「お?」

 少し走ると、兵士ひとりが魔物に押し倒されかけていた。2倍以上の体格のある、猛々しい中型ウルフであった。

「ちょっ……誰かッ!!」
「クソッ……どけ……ッ!」

 兵士は槍で必死に抵抗しているが、明らかに押されている。

 コウは一瞬だけ眉を上げた。

「……しゃーないなぁ…」

 そう言うと、大剣の柄をぐっと握りしめ、一気に距離を詰める。

 ウルフが兵士に噛みつこうと大きく口を開いた瞬間。

「邪魔すんで!!」

 ドンッ!!

 重い金属が獣の体を弾いたような鈍い音。コウの大剣がウルフの脇腹を思い切り殴り飛ばしていた。

「ガギャッ!?」

 魔物が地面を転がっていく。兵士は目を丸くしながら、尻餅をつく。

「大丈夫っすか~?」

「お、お前……な、なんて腕力だ……!」

 コウは軽く肩をすくめた。

「はは、ど~も」

 そう言って手を差し伸べる。兵士は少し戸惑いながらも掴んで立ち上がった。

 しかし──転がったウルフはまだ倒れていなかった。

 ガルルルルッ……!!

 怒りの唸り声とともに、再び飛びかかってくる。

「まだ生きとったんか…」

 コウは冷静に大剣を構えた。

「はっ…俺はガーディアンやぞ?こういう時にいっちゃん輝くに決まってるやん。」

 ウルフが真っ直ぐ飛びかかる──

 コウはその勢いを利用し、半身を返しながら剣の腹で受け止めた。

 そして、体重ごと叩きつけるように一撃。

「じゃ、おやすみ」

 魔物は地面を転がり、動かなくなった。

 兵士は口を開けたまま動けない。

「……つ、強……」

「まぁ、守護者ですから」

 コウは笑いながら大剣を背に戻す。

「街入りたいんやけど……このまま行ってええすか?」

「も、もちろんだ!!今の腕前なら問題ないどころか……歓迎されるレベルだ!」

「そらどーも」

 兵士は深々と礼をして、門の方を指した。

「君のような者であれば、堂々と入ってくれて構わない」

「サンキュー。じゃ、お邪魔しまーす」

 軽く手を振って、コウは街門へ歩いていった。

 門をくぐる直前、ふと振り返る。

「…やっぱ、アイツらおらんと寂しい…んかもな。」

 そう小さく呟き、コウは賑やかな街の中へと姿を消した。

 ──同じ頃。



 森の中を歩き始めてどれくらい経っただろう。同じような木々が続き、街どころか森を抜けることすらできていない。

「やっと道っぽいの見つけれたとはいえ…結構時間たったな」

 ユキヤが落ち葉を踏みながら呟く。

「もう日、沈んできてるよ」

 ミカンが空を見上げると、木々の隙間から見える空はすっかり赤みを帯びていた。

「夜の森かぁ…野宿した方がいいなこれは」

 ユキヤの現実的な声に、ミカンは肩を落とす。

「え~…やだァ…けど仕方ないか…」

 ミカンは文句を言いつつも、落ちている太めの枝を拾っていく。

「お、これ、いいじゃん」

「おー、それ使って簡易的な屋根でも作るか」

 ふたりで枝を組み合わせ、木の根元を利用して小さな屋根を作っていく。森の中とはいえ、ちょっとした工夫だけで雨風はしのげる形になった。

「とりあえず火起こさなきゃな……」

 ユキヤが枝を集めながら言うと、ミカンはニヤッと自信満々の笑みを浮かべた。

「フッフッフ……この、魔法使いミカン様に任せなさい!!」

「いや、まだ一回も魔法使ってないだろ…大丈夫か…?」

「ダイジョーブ!」

 ミカンは胸を張り、杖を構える。先端に魔力が集まり、パチパチと薄い火花が散る。

「いっくよー……えいっ!」

 ボッ。

 小さな火玉が飛び、集めた枝にちょうどよく着火した。

「おおっ、やるじゃん」

「だから言ったでしょ~?この天才ミカン様にお任せあれ!」

 焚き火が暖かく揺れ、夜の森に小さな光が生まれる。火が安定してくると、ユキヤはふっと息をつき、焚き火の前に腰を下ろした。

「さーて…流石に2人とも寝るのは危ないよな」

「じゃあ私、見張ってよっか?」

「いや、お前は絶対寝落ちするね」

「しーまーせーんーー!!」

「うるせえ。俺が見張っとくから寝てろ」

「え~…でも……」

 ミカンが下唇を尖らせると、ユキヤは少しだけ真剣な声で言った。

「魔物が現れなかったとしても、変なヤツとか来たらどーすんだよ」

「え~…こんな森に?」

「はぁ…そんなんでも一応女なんだから、自覚を持ってだな…」

「おい、“そんなんでも”って何?」

「お前は"そんなん"の女だね」

 2人は軽口を叩き合い、後にミカンが軽くため息をつく。

「はぁ…。ま、ありがと」

「……おう。おやすみ」

「ん」

 焚き火の明かりが2人の影をゆらりと揺らし、異世界で迎える最初の夜は、思ったよりも静かで暖かかった。




 焚き火の光が落ち着いた揺れ方を始めた頃、ミカンはマントにくるまって、すっかり寝息を立てていた。

「…たく、いつもは警戒心高いのに…」

 ユキヤは苦笑しつつ、彼女の寝顔に目を落とした。

 ミカンは、起きている時と違って静かで、無防備で……どこか安心しきっているような表情をしていた。

(……ちょっと複雑)

 安心されているのは嬉しい。信頼されているのもわかる。でも同時に、男としては意識されていないんだろうな…と胸の奥が少しだけざらつく。

「……ふ、かわいい、な」

 口に出たのは文句でもため息でもなく、どうしようもなく漏れた柔らかい声だった。

 その直後だった。

──ガサッ。

 闇の奥で枝が踏まれた音がする。ユキヤは瞬時に顔を上げ、剣に手を伸ばした。

「……はぁ、来たか」

 木々の隙間から赤い目がこちらを睨む。小型の獣型の魔物。焚き火の光に照らされて、牙が嫌な光り方をしていた。

「……うるせえな。ミカン起きるだろ」

 低く呟き、ユキヤは立ち上がる。剣を抜く音が静かな森に響く。

 魔物が飛びかかる。

 一瞬、目にも止まらぬ速さで剣を横薙ぎに振ると──

鈍い手応えとともに魔物は地面に転がり、そのまま動かなくなった。

 ユキヤは剣についた血を振り落としながら、焚き火のそばへ戻っていく。

 ミカンは変わらず、幸せそうに寝息を立てていた。

「…ほんとお前は、俺がついてないと…」

 誰にも聞こえない声でそう呟き、ユキヤは再び見張りの位置へと座り直した。




 東の空がうっすらと白み始め、森の影が少しずつ薄くなっていく。焚き火はほとんど燃え尽き、最後の赤い残り火だけがかすかに光っていた。

 ミカンが丸くくるまっていたマントの中で、もぞ……と動く。

「ん……朝……?」

 寝ぼけ眼で上半身を起こすと、木の根元に座っていたユキヤがこちらを見た。

「おー、はよ。早いな。」

 ミカンは目をこすりながら欠伸をひとつ。

「ん…おはよ~……まぁ……新聞配達のバイトしてましたから……」

 ぼそぼそ話しながらまだ眠そう。

 ふと気づいたように首を傾げる。

「てか、ずっと起きてたの?」

 ユキヤは肩をすくめた。

「そりゃまあ」

「……寝ればよかったのに」

「お前が無防備すぎんの。寝てられるわけねぇよ」

「えへへ…」

 ミカンは照れたように視線を逸らし、軽く伸びをしながら立ち上がった。

「街に行く前にちょっと寝てく?」

「いや、いいよ。さっさと街行こうぜ」

「んー……あ、これ、ありがとう」

 ミカンがマント──ユキヤが夜にかけてくれたもの──を彼に返す。

 ユキヤは受け取りながら、少し視線を緩めた。

「おう」

 その短い返事には、昨夜守りきった安心と、彼女の無事を確かめる安堵が少し混ざっていた。

 柔らかい朝の光が2人の影を伸ばしながら、森の中の新しい一日が静かに始まっていく。

    
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