ま、まさかの異世界転生…!?

🍊

文字の大きさ
11 / 13
1章:異世界、始動

新たな生活へ

しおりを挟む
 ミカンたちがゴーストと悪戦苦闘している頃、ユキヤとコウはなおもスライムに包囲されていた。

 スライムを斬り払っても足元や茂みから、影のように次々と青い塊が湧き上がる。

「はぁ…際限なく湧いてくんな…」

 ユキヤが苛立ち混じりに息を吐いた、その瞬間__

「ユキヤ!!後ろ!!」

 コウの叫びに、ユキヤが振り返る間もない。

「……っ!」

 跳びかかるスライムを剣で受け流し、斬り払う。

 粘液が飛び散り、地面に霜が広がる。

「はぁ…いくらなんでも多すぎんだろ…」

 数を減らした実感が全くない。本当に“湧く”という表現がぴったりだ。

 そんな中、コウが大剣を握り直し、ぼそっと呟く。

「……いっちょやってみっか」

「何をだよ」

 コウはニヤッと笑い、指で後ろを示す。

「離れてな」

「お、おう」

 ユキヤは即座に距離を取る。コウが深く息を吸い、足を開き、大剣を構え直した。

「……はあっ!!!」

 気合と共に大剣が地面へ突き刺さる。

 ゴッ――ッ!!

 重い音と同時に、周囲の空気が一瞬で変わった。

 空気が沈み込む。
 地面が軋む。
 木々の葉が下へ引きずられる。

 そして__

「……っ!!」

 コウが剣に全体重をかけた瞬間。

 ズドォォォォォンッ!!!

 地面が震え、重力の奔流が爆発するように広がった。

 スライムたちは悲鳴もなく地面へ叩きつけられ、潰れ、弾け、粘液となって消えていく。

 わずか数秒であれほどいたスライムが、一掃された。

「おお!すげぇな」

 ユキヤは目を見開いたまま声を漏らす。

 コウは肩で息をしながら、大剣を地面から引き抜きつつ言った。

「特殊属性ってやつ。めちゃくちゃ体力使ったけど……これで一掃できたんちゃう?」

「ぽいな。ミカンたちは……」

 ユキヤが言い終える前だった。どこからともなく冷たい風がひゅうっと吹き抜ける。

 ただの風じゃない。

 __嫌な気配。

 ユキヤの心臓が、ドクン、と跳ねた。

「……キサラギさん。行こう」

「おう!」

 二人は迷うことなく駆け出した。木々の隙間から、緊迫した空気が伝わってくる。

 視界に入ってきたのは__

 うずくまって肩を震わせるソウ。額に汗を浮かべ、霊気に体力を吸われている。

 そして、その前で杖を構え、必死に距離を取っているミカン。

「ソウ!!」

 コウが真っ先に駆け寄り、ソウの肩を支える。

 ユキヤはミカンのそばへ向かう。

「……幽霊……?」

 目の前に浮かぶ黒い影。半透明で、輪郭が定まらない“何か”。

 ミカンは振り向きざまに叫ぶ。

「ゆ、ユキヤ!!こいつ全然攻撃当たんなくて…!」

「当たらない…?」

 ユキヤは剣を握り直し、素早く踏み込んだ。

「っらぁ!!」

 斬りかかった瞬間ゴーストの姿はパッと煙のように消え、別の場所からゆっくり現れた。

 刃が届かない。

「……そういう事か…」

 ミカンの指先が震える。

「どうする…このままじゃ……!」

「……!」

 ユキヤの背筋を冷たいものが走った。

「ミカン!!前!!」

「へ?」

 黒い影が低い姿勢から突進してきていた。

(くっ……! この距離じゃ……間に合えっ__!!)

 その瞬間__

 世界が青く染まった。

 風の音が止む。落ち葉が空中で止まり、木漏れ日の揺れすら消えた。

 ──時が、止まった。

「……っ!?な、なんだ……!? 動かない……?」

 目の前のゴーストでさえ、ミカンに手を伸ばしたまま完全に静止している。

 ユキヤの身体だけが、ゆっくり動けた。

「……時属性……そういうことか…」

 胸の奥が熱くなり、ニヤリと口元が緩む。

 剣を構えるとギラリと青く光る。

「すばしっこいお前でも……止まってたら……!」

 剣を横薙ぎに振る。時間の中で唯一動く青い軌跡が、ゴーストの核を正確に捉えた。斬った感触が、手に伝わる。

 そして、時間が__動き出す。

 ズッ……!

 ゴーストは斬られたままの姿勢で静止し、次の瞬間、煙のように崩れ消えた。

「……よし……!」

 ミカンがユキヤに駆け寄る。

「い、今の……何……?」

「あぁ……時属性の力?なんか時間止まってたみたいで」

「マジで!?え、チートやん」

「なんか色んなことに応用できそうだよな…」

 ミカンはジト目になりため息をつく。

「ダメだよ女湯覗いたら」

「んな事しねぇよ!!」

 張りつめていた空気が一気に緩み、4人はようやく息を吐いた。

 ミカンは杖をネックレスに戻し、ソウの方へ視線を向ける。

「そういやソウさんは…」

 コウがすぐそばでソウを支えながら答える。

「あぁ無事やで」

「それは良かった」

 ユキヤが胸を撫で下ろす。ほんの数分前までの焦りが、安堵となってじわっと押し寄せてくる。

 その隣で、ソウが小さく呻いた。

「むり……死ぬ……」

 生きてはいる。だが顔は真っ青だ。

 ミカンは眉をひそめ、苦笑する。

「……満身創痍みたいだけど」

「いつものことだろ」

 ユキヤが軽く肩をすくめて返す。

「それもそっか」

「おい…」

 ソウがツッコミを入れようとするが、呼吸だけでいっぱいいっぱいで喋る元気すらない。

 コウはそんなソウの背中を軽く支えながら言う。

「ソウもしんどそうやし、帰ろうぜ」

「そうだな」

 ユキヤが剣を収め、森の奥を一度だけ警戒してから振り返る。

 ミカンは元気にくるりと前を向き、声を弾ませる。

「帰って報酬受け取ろー!」

 4人の足取りは、来た時よりもずっと力強く森の出口へ向かっていった。



***



 森を抜け、街へ戻る道はやけに明るく見えた。さっきまで命の危険を感じていたのが嘘みたいに、鳥の声も風の音も穏やかで…胸の奥に残っていた緊張が、すこしずつ解けていく。

「報酬受け取ったら何買おっか」

 私が伸びをしながら言うと、真っ先に反応したのはユキヤだった。

「とりあえず生活必需品を……」

 いつも通り現実的で、頼りになる答え。

「酒やろ酒!!!」

 そのすぐ後ろで、キサラギさんが元気いっぱいに叫ぶ。

「そんなもん後回しに決まってるでしょ…」

 ソウさんがすぐツッコミを入れる。声は疲れてるのに、口調はしっかりしてる。

「えー」

 キサラギさんが不満そうに唇を尖らせる。

 そのやり取りを見ながら、私はふっと笑ってしまった。なんだろ……この感じ。

(……今日はほんと、大変だったな)

 魔物との戦い。ソウさんが倒れかけて、私も危うくやられそうだった。

(死にかけたし……)

 でも、こうして歩いている。それだけで十分だった。

「まずは服とか消耗品とかをだな……」

 ユキヤがいつものようにため息をつき、現実的な提案を再度する。

「えー、つまらんって。高いステーキとか食いたいんやけど。」

 キサラギさんがすぐに茶化して、

「いらない」

 ソウさんが即切り捨てる。

「えー」

 三人とも、さっきまで魔物と戦ってたとは思えないほど元気だ。

(……いくらユキヤたちといえど、誰かと一緒に生活するなんて)

 一緒にご飯を食べて、同じ屋根の下で眠って……そんなの、今までの私の人生じゃ絶対ありえなかっただろう。

(……まぁ、でも…)

「ミカン~!!ミカンもステーキ食いたいやろ?なぁ?」

 キサラギさんが振り返ってくる。

「味方を作ろうとすな」

「そうだよ。ミカンのことになったらユキヤ甘いんだから、まじやめて」

 ソウさんのツッコミに、ユキヤが「はぁ!?」と盛大に反応している。

 本当に賑やかで……なんか、あたたかくて。

「えー私はどちらかと言うとケーキの方が……」

 (本当は騒がしいのは嫌いなくせに…でもこういうのも)

 自然と笑みがこぼれた。

(案外……悪くないかもね)

 歩幅を合わせながら、私たちはギルドへ戻っていく。道の先は、ほんの少しだけ明るく見えた。

 __そして、この何気ない光景こそが、私の想いに繋がるなんて、、この時の私は、まだ知らなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜

シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。 起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。 その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。 絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。 役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

神様の手違いで、おまけの転生?!お詫びにチートと無口な騎士団長もらっちゃいました?!

カヨワイさつき
恋愛
最初は、日本人で受験の日に何かにぶつかり死亡。次は、何かの討伐中に、死亡。次に目覚めたら、見知らぬ聖女のそばに、ポツンとおまけの召喚?あまりにも、不細工な為にその場から追い出されてしまった。 前世の記憶はあるものの、どれをとっても短命、不幸な出来事ばかりだった。 全てはドジで少し変なナルシストの神様の手違いだっ。おまけの転生?お詫びにチートと無口で不器用な騎士団長もらっちゃいました。今度こそ、幸せになるかもしれません?!

神様の忘れ物

mizuno sei
ファンタジー
 仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。  わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。

ペット(老猫)と異世界転生

童貞騎士
ファンタジー
老いた飼猫と暮らす独りの会社員が神の手違いで…なんて事はなく災害に巻き込まれてこの世を去る。そして天界で神様と会い、世知辛い神様事情を聞かされて、なんとなく飼猫と共に異世界転生。使命もなく、ノルマの無い異世界転生に平凡を望む彼はほのぼののんびりと異世界を飼猫と共に楽しんでいく。なお、ペットの猫が龍とタメ張れる程のバケモノになっていることは知らない模様。

【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~

きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。 前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。

前世で薬漬けだったおっさん、エルフに転生して自由を得る

がい
ファンタジー
ある日突然世界的に流行した病気。 その治療薬『メシア』の副作用により薬漬けになってしまった森野宏人(35)は、療養として母方の祖父の家で暮らしいた。 爺ちゃんと山に狩りの手伝いに行く事が楽しみになった宏人だったが、田舎のコミュニティは狭く、宏人の良くない噂が広まってしまった。 爺ちゃんとの狩りに行けなくなった宏人は、勢いでピルケースに入っているメシアを全て口に放り込み、そのまま意識を失ってしまう。 『私の名前は女神メシア。貴方には二つ選択肢がございます。』 人として輪廻の輪に戻るか、別の世界に行くか悩む宏人だったが、女神様にエルフになれると言われ、新たな人生、いや、エルフ生を楽しむ事を決める宏人。 『せっかくエルフになれたんだ!自由に冒険や旅を楽しむぞ!』 諸事情により不定期更新になります。 完結まで頑張る!

処理中です...