ま、まさかの異世界転生…!?

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1章:異世界、始動

新たな生活へ

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 ミカンたちがゴーストと悪戦苦闘している頃、ユキヤとコウはなおもスライムに包囲されていた。

 スライムを斬り払っても足元や茂みから、影のように次々と青い塊が湧き上がる。

「はぁ…際限なく湧いてくんな…」

 ユキヤが苛立ち混じりに息を吐いた、その瞬間__

「ユキヤ!!後ろ!!」

 コウの叫びに、ユキヤが振り返る間もない。

「……っ!」

 跳びかかるスライムを剣で受け流し、斬り払う。

 粘液が飛び散り、地面に霜が広がる。

「はぁ…いくらなんでも多すぎんだろ…」

 数を減らした実感が全くない。本当に“湧く”という表現がぴったりだ。

 そんな中、コウが大剣を握り直し、ぼそっと呟く。

「……いっちょやってみっか」

「何をだよ」

 コウはニヤッと笑い、指で後ろを示す。

「離れてな」

「お、おう」

 ユキヤは即座に距離を取る。コウが深く息を吸い、足を開き、大剣を構え直した。

「……はあっ!!!」

 気合と共に大剣が地面へ突き刺さる。

 ゴッ――ッ!!

 重い音と同時に、周囲の空気が一瞬で変わった。

 空気が沈み込む。
 地面が軋む。
 木々の葉が下へ引きずられる。

 そして__

「……っ!!」

 コウが剣に全体重をかけた瞬間。

 ズドォォォォォンッ!!!

 地面が震え、重力の奔流が爆発するように広がった。

 スライムたちは悲鳴もなく地面へ叩きつけられ、潰れ、弾け、粘液となって消えていく。

 わずか数秒であれほどいたスライムが、一掃された。

「おお!すげぇな」

 ユキヤは目を見開いたまま声を漏らす。

 コウは肩で息をしながら、大剣を地面から引き抜きつつ言った。

「特殊属性ってやつ。めちゃくちゃ体力使ったけど……これでスライムいなくなったんちゃう?」

「ぽいな。ミカンたちは……」

 ユキヤが言い終える前だった。どこからともなく冷たい風がひゅうっと吹き抜ける。

 ただの風じゃない。

 __嫌な気配。

 ユキヤの心臓が、ドクン、と跳ねた。

「……キサラギさん。行こう」

「おう!」

 二人は迷うことなく駆け出した。木々の隙間から、緊迫した空気が伝わってくる。

 視界に入ってきたのは__

 うずくまって肩を震わせるソウ。額に汗を浮かべ、霊気に体力を吸われている。

 そして、その前で杖を構え、必死に距離を取っているミカン。

「ソウ!!」

 コウが真っ先に駆け寄り、ソウの肩を支える。

 ユキヤはミカンの側へ向かう。

「……幽霊……?」

 目の前に浮かぶ黒い影。半透明で、輪郭が定まらない“何か”。

 ミカンは振り向きざまに叫ぶ。

「ゆ、ユキヤ!!こいつ全然攻撃当たんなくて…!」

「当たらない…?」

 ユキヤは剣を握り直し、素早く踏み込んだ。

「っらぁ!!」

 斬りかかった瞬間ゴーストの姿はパッと煙のように消え、別の場所からゆっくり現れた。

 刃が届かない。

「……そういう事か…」

 ミカンの指先が震える。

「どうする…このままじゃ……!」

「……!」

 ユキヤの背筋を冷たいものが走った。

「ミカン!!前!!」

「へ?」

 黒い影が低い姿勢から突進してきていた。

(くっ……! この距離じゃ……間に合えっ__!!)

 その瞬間__

 世界が青く染まった。

 風の音が止む。落ち葉が空中で止まり、木漏れ日の揺れすら消えた。

 ──時が、止まった。

「……っ!?な、なんだ……!? 動かない……?」

 目の前のゴーストでさえ、ミカンに手を伸ばしたまま完全に静止している。

 ユキヤの身体だけが、ゆっくり動けた。

「……時属性……そういうことか…」

 胸の奥が熱くなり、ニヤリと口元が緩む。

 剣を構えるとギラリと青く光る。

「すばしっこいお前でも……止まってたら……!」

 剣を横薙ぎに振る。時間の中で唯一動く青い軌跡が、ゴーストの核を正確に捉えた。斬った感触が、手に伝わる。

 そして、時間が__動き出す。

 ズッ……!

 ゴーストは斬られたままの姿勢で静止し、次の瞬間、煙のように崩れ消えた。

「……よし……!」

 ミカンがユキヤに駆け寄る。

「い、今の……何……?」

「あぁ……時属性の力?なんか時間止まってたみたいで」

「マジで!?え、チートやん」

「なんか色んなことに応用できそうだよな…」

 ミカンはジト目になりため息をつく。

「ダメだよ女湯覗いたら」

「んな事しねぇよ!!」

 張りつめていた空気が一気に緩み、4人はようやく息を吐いた。

 ミカンは杖をネックレスに戻し、ソウの方へ視線を向ける。

「そういやソウさんは…」

 コウがすぐそばでソウを支えながら答える。

「あぁ無事やで」

「それは良かった」

 ユキヤが胸を撫で下ろす。ほんの数分前までの焦りが、安堵となってじわっと押し寄せてくる。

 その隣で、ソウが小さく呻いた。

「むり……死ぬ……」

 生きてはいる。だが顔は真っ青だ。

 ミカンは眉をひそめ、苦笑する。

「……満身創痍みたいだけど」

「いつものことだろ」

 ユキヤが軽く肩をすくめて返す。

「それもそっか」

「おい…」

 ソウがツッコミを入れようとするが、呼吸だけでいっぱいいっぱいで喋る元気すらない。

 コウはそんなソウの背中を軽く支えながら言う。

「ソウもしんどそうやし、帰ろうぜ」

「そうだな」

 ユキヤが剣を収め、森の奥を一度だけ警戒してから振り返る。

 ミカンは元気にくるりと前を向き、声を弾ませる。

「帰って報酬受け取ろー!」

 4人の足取りは、来た時よりもずっと力強く森の出口へ向かっていった。



***



 森を抜け、街へ戻る道はやけに明るく見えた。さっきまで命の危険を感じていたのが嘘みたいに、鳥の声も風の音も穏やかで…胸の奥に残っていた緊張が、すこしずつ解けていく。

「報酬受け取ったら何買おっか」

 私が伸びをしながら言うと、真っ先に反応したのはユキヤだった。

「とりあえず生活必需品を……」

 いつも通り現実的で、頼りになる答え。

「酒やろ酒!!!」

 そのすぐ後ろで、キサラギさんが元気いっぱいに叫ぶ。

「そんなもん後回しに決まってるでしょ…」

 ソウさんがすぐツッコミを入れる。声は疲れてるのに、口調はしっかりしてる。

「えー」

 キサラギさんが不満そうに唇を尖らせる。

 そのやり取りを見ながら、私はふっと笑ってしまった。なんだろ……この感じ。

(……今日はほんと、大変だったな)

 魔物との戦い。ソウさんが倒れかけて、私も危うくやられそうだった。

(死にかけたし……)

 でも、こうして歩いている。それだけで十分だった。

「まずは服とか消耗品とかをだな……」

 ユキヤがいつものようにため息をつき、現実的な提案を再度する。

「えーつまらん。高いステーキとか買おうぜ」

 キサラギさんがすぐに茶化して

「いらない」

 ソウさんが即切り捨てる。

「えー」

 三人とも、さっきまで魔物と戦ってたとは思えないほど元気だ。

(……いくらユキヤたちといえど、誰かと一緒に生活するなんて)

 一緒にご飯を食べて、同じ屋根の下で眠って……そんなの、今までの私の人生じゃ絶対ありえなかっただろう。

(……まぁ、でも…)

「ミカン~!!ミカンはステーキ食いたいよな?」

 キサラギさんが振り返ってくる。

「味方を作ろうとすな」

「そうだよ。ミカンのことになったらユキヤ甘いんだから、まじやめて」

 ソウさんのツッコミに、ユキヤが「はぁ!?」と盛大に反応している。

 本当に賑やかで……なんか、あたたくて。

「えー私はどちらかと言うとケーキの方が……」

 (本当は騒がしいのは嫌いなくせに…でもこういうのも)

 自然と笑みがこぼれた。

(案外……悪くないかもね)

 歩幅を合わせながら、私たちはギルドへ戻っていく。道の先は、ほんの少しだけ明るく見えた。

 __そして、この何気ない光景こそが、私の想いに繋がるなんて、この時の私は、まだ知らなかった。
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