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愛しい貴女へ
憂鬱な"役割"と面倒な従姉妹
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暑い………。日が昇ってから一刻ほどだけれど、ぎらぎらとお天道様が照りつけてくる。山に囲まれたこの場所は、蝉の声が容赦なく聞こえてくる。みんみんみんみんみんみん。…煩いけれど、彼らもお相手を見つける為、子孫繁栄の為、必死なんよね。
私は、"私にしか出来ない役割"を切望しているのにも関わらず、突然出てきた"私の役割" に気が重くなっていた。というより、その"役割"に対する周りの反応が「当たり前」なのが気に入らないし悲しかった。そして私が、結局は構って欲しいだけの阿呆な女なのだと再認識する。
お父は私の婚約の話をする時、目を合わせる素振りもしなかった。子どもの頃は目を合わせて惜しみなく「お前はおれの宝や。」と言ってくれていたのに。ここ数年、言ってくれなくなっていたのに。先日、太く力強い腕を組み、父親の顔をしたふりをして、村長の威厳をもって、私に命令してきた。
「杏花、ええか、これがお前の役割や。村のためや。おれはお前を愛しとる。おれの宝を街にやるのは心苦しいけど仕方ないやろ?村を守ることこそ、お前の"役割"なんや。」
あの瞬間、私は悟った。ああ、お父は、私のことを少しも愛していないんや、って。私が、どれだけ愛されることを望んでいるのかを分かっていて、私が、昔から"役割"という言葉に異様に執着しているのを分かっていてなお、そう言ったお父はきっと、私より私を分かってる。飴と鞭を上手く使って、私を思い通りに転がす。あれはお父やなくて、村長やった。
。。。
背中程まである髪を、真っ白な布に纏めて押し込める。一番日に当たる脳天を隠し、髪が首に纏わり付くのを防いでくれるので、ただの布やのに凄いな、と感心する。
「何言っとるの。それが布の役割やん。杏花ってたまに変やよね。」
二つ年下の従姉妹の美里ちゃんが笑う。また、"当たり前" 。
「だけど美里ちゃんにも私にも出来んことを布は出来るんやよ?それだけでも凄いことやろ?出来ることが当たり前やと思わんといて。」
「………… 。」
……あ、しまった。ちょっと言い方強すぎた?美里ちゃん、怒ると声高くなって頭痛がするし面倒なんよね。
この後、夏野菜を街に納めるついでに、銀石屋さんの息子さんと顔合わせがある。
それだけでも気が重いのに、美里ちゃんの相手をしてたら精神的に無理や。どのくらい無理かと言うと、茄子くらい無理。あのツルツルした表面と濃紫には、どうしても怯む。得体の知れん何かが出てきそうで。卵みたいに何か生まれてきそうやから。
それと同じで、美里ちゃんも何を考えとるのかわからない。楽しく話してると思ったら、いきなり怒り出したりするし。何が出てくるのか、予想も出来ないから。
「…あたしだって、杏花のためやったら杏花の脳天守ったるで。」
「え?」
「あ、あたしだって、杏花が望むなら……布になったる!」
何言っとんの、美里ちゃん。
いや赤い顔しとるけど、理由が分からん。照れ……てる?うーん、だけど何処に照れる要素があったのか。というかそれよりも、気になることが一つ。
「美里ちゃん、人間は、布にはなれんのやよ?」
「……………………… 。」 沈黙。
数秒して、ぼぼぼぼっと音を立てるように更に真っ赤になると、
「そ、そんなん当たり前に知っとるわっ、杏花のあほーっ!!」
と叫びながら、走って逃げていった。
なんなん、あの子。
「ほんと、美里ちゃんは茄子みたいや……。何が出てくるか全く分からん。」
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