花喰いの安珠

紺Peki獅子

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愛しい貴女へ

過去編 安珠、岐阜に至る。 1

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ーーーーーーーーーー


『自分の命よりも大切な誰かを、アンタも見つけなさい。』

ーーーそうすれば、世界が変わるから。


とは、母親の教えだ。

 必ず見つけられるとも限らない、見つけたところで、世界が変わることで、幸せになれるとも限らない。

 今思えば、馬鹿馬鹿しい言葉である。
 

。。。


 それは十年前の春のこと。
 私を「化け物」と呼びつつも可愛がってくれた母親は、しかし突然、大道芸人の若い男と愛に奔り、ついに私を捨てた。
 山に捨てられた私は、

「川の近くには人が集まる。知らない場所で迷子になったら、川を探して、川の流れを追い掛けるのよ」

という昔聞いた母親の教えにならい、(当時は知る由も無いが、)いずれ長良川に行き着く流れに沿って歩き始めた。

 山には沢山花が咲いていて、飢えに苦しむことはなかった。花を食べる人間を、鹿が不思議そうに見ていたのを覚えている。大きな鹿で、立派な角が付いていた。
 春になったとはいえ、樹木が日差しを遮り、風は肌を突き刺す。
 夜はただただ寒く寂しく、木の根元に蹲って眠った。昼間は捨てられた理由を考えて、ぼんやりと歩き続けた。

ーーー私が"花喰い" だからか。"化け物" だからか。それとも他に理由があったの……?

 愛してくれなかった母親を恨んだ。愛されなかった自分に呆れた。
 ポッと出の男に母親を盗られたことが、ただただ許せなかった。

 齢七つの子供はのろのろと、春の土の匂いの中を歩き続けた。




。。。



 ふと、足を止める。

 いつの間に人里に降りてきたのだろうか、目の前には桜色の絨毯が広がっている。驚いて辺りを見回すと、川の向こう岸に大きな山があった。(金華山だ。)
 金色の光に暖められた風がざぁ、と吹き抜け、誘われるように沢山の桜が舞い散る。
 幼い子どもの目に、それは美しく、そして、映った。

 
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