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彰編 初めての緊張

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そして突然、チャリーンと鳴り響いた金属音の後で

まるでマンガみたいにコロコロと転がる500円硬貨を追いかけて

とある一人の小さな女がコチラに向かってダッシュで走ってきたのだが

この女の顔をよく見てみると……!

*****

(なっ!?なんだよ、あの可愛い女は!
まるで美少女アニメのヒロインそのものじゃねぇか!)

と思う位にメチャメチャ可愛い女だったから

この時点で彰は一歩も動く事が出来なくなっていたのに

なんと この女は彰の存在には目もくれず

ただひたすら溝を転がる500円だけを見ていたので

案の定、この後すぐに女は真っ正面から彰の胸にぶつかってきたが

肝心の彰は全く動けないままの状態で、

この女から目を離す事が出来なくなっていたから


(じゃあつまり あの500円は、この女が落とした金なのか?
いや そんな事よりも、この子はどこをどう見ても明らかなスッピンなのに……
どうしてこんなに可愛い顔なんだ?しかもチビの癖に胸はDカップとか反則だろ?)

と早くも密かに胸のサイズを測定しながら、

食い入る様に小さな女を見つめていたけれど

そんな彰とは正反対の元気な女はこの勢いで

元オブシディアンのリードボーカルである彰に向かってアッサリと


「お怪我はありませんか?ありませんね?じゃあ失礼します!」

て感じの呆気あっけない態度で怪我はないかと話しかけてきたので

いつもの彰ならば必ずここでニコッと微笑みながら

女を落とす為の口説き文句を連発している所だが……

なぜかこの時の彰はなんと!

(なっ!どうして声が出ないんだ?)

と心の中で呟く事しか出来ない不思議な状態に陥っていたから

28年間の人生で初めてこんな事が起きた彰は自分自身にビックリしていたが

そんな事よりも今日の今日まで、

誰に対しても饒舌な彰がいきなり緊張して話せなくなるなんて

まさに前代未聞の出来事だったから……


(なんだよこれは…いったい何が起きたと言うんだ?
まさか この俺が、実写版シンデレラの間抜け王子みたいに
たった2秒であの小さな女に堕ちたと言うのか?
いやいや、あり得ないだろ?この俺を誰だと思っているんだ?)

こうして更にグダグダになりながらも

とにかく今すぐ間抜け王子を返上する為に、


(ねぇシンデレラ…こう見えても俺はオブシディアンの彰だから、
きみの様に可愛い女をコロッと堕とす事はあってもね?
誰かにコロッと堕とされるなんて事は絶対に有り得ない男なんだよ。
だからきみには悪いけど…俺は必ずお前を堕とすから覚悟してね?フフフッ…)

な~んてトンデモナイ独り言を心の中で呟きながら

目の前の小さな女をサファイアホテルのベッドの中へと連れ込む決意をしたのだが

このあと急いでシンデレラを追いかけ始めた彰の視線に映った者は小さい女ではなくて、


「まぁ彰さん!偶然ですわねぇ……
お買い物にでもいらしたの?私の電話に出てくれたら
黒岩交通のリムジンでお迎えに上がっていたのに残念ですわ~」

と意味不明な言葉を嬉しそうな声で喚く、

身長175センチの黒岩高子だったから!一瞬ひるんだ彰は思わず脳内で、

(マジかよこの女……
わざわざ歓楽街の端くれまで俺の後を付けてきたのか?
これはもう末期症状だから、こうなった以上は高子が見ている目の前で
黒岩交通の会長に電話を掛けて警察案件をチラつかせてみるか。
そもそもこの女がやっている事は完全な威力業務妨害だからな)


と今後の対策を考えながらも

とにかくウザい高子を無視して小さな女の元へと急いだが……

次の瞬間、彰の腕を掴んだ高子は沢山の通行人が見ている前で


「ねぇ待ってよ彰さん!どうして電話に出てくれないの?」

待ちなさいよもう!て感じの大きな声でキーキー騒ぎだしたので


(おいおいマジかよこの女……
こんなに目立つ街の中で大騒ぎをされたら流石に困るから、
じゃあそうだなぁ…あそこのベンチに一旦この女を座らせようか)

こうして彰は取り敢えず高子を落ち着かせる為に、

小さな女の近くで見つけたベンチに向かって歩いていたのに

なんとこの後、彰は偶然ハッキリと!


(……ん?あの男は佐竹組のサラ金ヤクザだよな?
つうかバンブーファイナンスは去年の秋に、剛力組の傘下に落ちたから
とりあえず佐竹組はもう存在しないけど、じゃああの男は剛力組のチンピラか?
まぁそんな事はこの際どうでもいいが…とにかくあの男がさっき盗んだ鞄は小さな女の鞄だから
これで俺は正々堂々と、あの子に声を掛けてもいいって事だよな?フフフッ……)

て感じの まさに絶妙なタイミングで、

実写版シンデレラの鞄が盗まれる決定的瞬間を目撃したから

このあと彰は一刻も早くシンデレラの元に行く為に

高子が見ている目の前で、黒岩交通の本社に電話を掛けようとしたけれど

次の瞬間またまた運が良い事に、

Prrrrr!Prrrrr!

いきなり高子のスマホから大きな着信音が鳴り響き、

そしてなんとも嬉しい事に


「もしもしパパ?待って違うの!
あのお金を引き出したのは私だけど訳があるのよ!
だから絶対にネコババじゃないわ!ねぇお願い!私の話を聞いてよパパー!」

と甲高い声で突然なにやら

金銭がらみの言い訳をあーだこーだと喚きながら彰の元を去ったので


(なるほどねぇ、つまりこの女は会社の金を使い込んで
怖い怖い会長のパパに怒られたって事か……フフフッ)

こうしてやっとしつこい高子から解放された彰はこの後、

もちろん急いで小さな女の元へと向かったが、

鞄を盗まれた哀れなシンデレラは彰が見ている目の前で


「お忙しいところをすみません。
あそこのベンチに置いてあった鞄を持っていった人を知りませんか?」

「ごめんなさい、今ちょっと急いでるので」

「ねぇねぇアンタさぁ、さっきから一人で何をやってんの?」

て感じで街を歩く人達に冷たくされてションボリと下を向いていたので

そろそろ本気でをこの女を落とす為に動いた彰は遂にこの後……

「なにかお困りですか?可愛いお嬢さん」と優しい態度で女に向かって声を掛けた。
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