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彰編 Sunset Romance

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そして一夜いちやが開けて翌日の午後、

今日は早めに仕事を終えた彰はこの後、

昨日電話で翔と話した女の面接をする為に

『歓楽街の外れ』では結構有名な待ち合わせスポットの

☆オープンカフェSunset Romance☆に向かっていたのだが……

いつもは歓楽街の一等地で面接をしている彰が何故今回は、

少し治安が悪い街外れにワザワザやってきたのかは

とても単純な事が理由だから、ここで少し説明しておこう。

*****

実は今回、ノリノリの翔に持ち掛けられた案件は

お水の業界ではよくある女性スタッフのトレードなのだが

今からおこなう面接は、早瀬観光がこの街に出店をしているスナックのベテランホステスと

Clubベルサイユの不人気キャストをトレードする為の話し合いだから、

毎月200万の売り上げを誇る早瀬のホステスを獲得する為に、

今回は全ての条件を翔の都合に合わせたと言う事なのだ。

しかし何故、公私共に毎日忙しい彰が突然Clubベルサイユの新しいオーナーになったのか……

実はそれも至極単純な事が理由なので、ちゃんと説明をしておこう。

*****

円行寺彰は去年の夏にClubベルサイユの権利を買っているが

その理由は店の経営を璃音に勧められた訳ではなくて……

ただ単に、サイドビジネスとしての金儲けをする為に~でもなくて

実はなんと、手軽な女を探す為だけに……


(さてと、そろそろ待ち合わせの店が見えてきたけど、
翔がオススメしてくる女はどれも尻軽のいい女ばかりだからな。
…て事で今回のマリアって女を俺が今から気に入れば……
カフェでの面接が終わった後は、早速今夜にでもベッドの上で、
金を持ってる男性客を悦ばせる為の実技試験をしてやるよ、フフフッ…)

て感じの悪趣味な、

国宝級イケメンの男にしか許されない女遊びをしたいから

だから わざわざナイトクラブの経営権を買ったのだ。

…と言うのが一応まぁ表向きの理由だけど、

それは照れを隠す為の単なる言い訳であり、

本当の理由は誰にも言えない夢があるからだ。

じゃあその夢とはいったい何か、

それは勿論、ここだけの話だが……


(なぁ璃音……

もしも俺がClubベルサイユの権利を買えば

いつか俺にも青い鳥を見つける事が出来るだろうか

あの日の夜に、お前が玲とあの店で、

映画みたいに運命的な再会をした様に……

俺もいつの日か…運命の女とあの店で……)


そう……

これが誰にも言えない円行寺彰の本音だったから

これから先も、きっと一生

秘めた心を誰にも見せる事はないであろう

隠れロマンティストの彰は今、昨日の夜にテレビで見た

リアルな実写版シンデレラの女に出逢える事を夢に見ながら

待ち合わせ場所のオープンカフェを目指して颯爽と歩いていたのに、

クリムゾンカラーの真っ赤な夕陽がキラキラと輝く夕暮れの歓楽街で

両目の視力が1・5もある彰がその目で見た者は……!


(……んんん?なんだあれは!怪獣か?
まさかあの店のオープンカフェのド真ん中で
翔と一緒に座ってるケバい中高年の女がマリアなのか?
おいおい翔!だからお前はあんなにノリノリだったのか!
だが流石にそのジョークはマリアに対して失礼だから、笑わないぞ俺は!)

と心の中で落胆している彰に向かってニコニコと手を振る45歳の怪獣だったから


(つまりこれは……
日頃のおこないが悪すぎたと言う事なのか?
だがまぁいいさ、今日は今から完全にオフだからな?
じゃあこの面接が終わったら、今夜は朝まで『あの』マンションで
若いセフレの女をキャンキャン鳴かしてみる事にするかー、フフフッ……)

こうしてサッサと今夜の計画を立てながら

なるべく穏便に怪獣の面接を済ませた彰はこの後すぐに

逃げる様な足取りでオープンカフェを後にして

そして早速、若いセフレの女を電話で呼び出そうと思いながら

近くのベンチに向かって夕暮れの街を歩いていたのに

この直後……チャリーン!!

と近くで金属の音が鳴り響いたので、思わず彰はあたりを見渡してみたけれど

次の瞬間、彰は一歩も動く事が出来なかった……。

なぜなら彰は今まさに、とある一人の女に視線を奪われていたからだ。
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