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銀次とアンコ Part1

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そしてリビングに戻った恵はサッサと掃除を終わらせて、

朝の7時を過ぎた頃に美味しい朝食を作って彰を起こしに行った後、

このマンションに来て初めての朝食タイムを迎えたが

*****

広いダイニングルームのテーブル席に座った彰はニコニコしながら

「今日の朝食は最高に美味おいしいよ恵さん、
だって実は俺ね?この甘い卵焼きとホッケが大好物だから
これからは朝起きるのが楽しみになりそうだよ、フフフッ……」

こうして朝から上機嫌だったので、

なんだか嬉しい恵は今夜も彰に喜んでもらいたいから

「褒めてくれてありがとう!
じゃあ今夜は美味しいすき焼きを作って彰さんの帰りを待ってますね」

「いいねぇすき焼き!
このマンションですき焼きなんて初めての経験だよ恵さん。
じゃあ今夜は早く帰宅が出来る様に、たくさん仕事を頑張らなきゃね?」

と早くも新婚夫婦の様なラブラブの朝食を済ませた後で

さらにウキウキしながら洗濯をしてお布団を干して、

めっちゃ広い部屋の床をアルコールスプレーとフローリングワイパーでピッカピカに掃除して、

(さてとー、これで今日の家事は全部済ませたから
そろそろ私も出かける準備をしようかな?
昨日彰さんに買ってもらった可愛いワンピを着てみたいし~)

な~んて事を思いながらピンクの部屋に向かった恵は人生初の高級な服に身を包み

そして書斎の部屋で事務仕事をしていた彰が部屋から出てきた後すぐに、

二人で一緒にマンションを出る事にしたけれど……

*****

今から恵が向かうバス停は

龍崎プレジデントヒルズから徒歩30秒ぐらいの場所にあるから

「じゃあ今から仕事に行って来るけど
今日は夜の7時頃に帰ってくる予定だから
恵さんはリビングのパソコンでアニメを見てゆったりと過ごして、
美味しいすき焼きの準備をしながら俺の帰りを待っててくださいね?」

「はい、わかりました!じゃあ今日も心を鬼にして、
近所のボッタクリ的な高級スーパーですき焼きの材料を買いに~……!
…て言うかバスが来たからもう行かなきゃ!じゃあ行ってらっしゃい彰さん」


こうして絶妙なタイミングで現れたバスに乗った恵はこの後、

夢が丘公園の前でバスを降りて青空荘へと足早に向かい……

そして何度見てもホラーテイスト満載の青空荘にトットと帰り、

今日も元気に玄関先で死んでいたアオダイショウを華麗にスルーしながら部屋の中へと入った後で、


「遅くなってごめんねお婆ちゃん!
今から広くて綺麗なマンションにお引越しをしようね!」

と開口一番、大好きなお婆ちゃんに挨拶をしながら

仏壇ワールドの小さな家をレッドレトリバーの鞄に押し込んで

ついでに部屋の荷物も鞄の中に次々と放り込んだ後すぐに、

すっかり道順を覚えた夢が丘公園のバス停に向かって再び歩いていたけれど……


(やっぱ荷物を入れすぎちゃったかなぁ、鞄が物凄く重いよ~!)

と心の中で悲鳴をあげる恵が持った2つのバッグには

大量の缶詰とゲーム機とパソコン等の重い荷物がメッチャたくさん入っているから

これは流石に少し疲れたアホの恵は、しばしの休憩を取る為に

夢が丘公園の手前に置かれた自販機で冷えたスポドリを一本買って、

そしてそのままの勢いで小さなベンチに直行した後、ベンチに座ってゴクゴクとスポドリを飲んでいたら

次の瞬間、なんと、いきなり唐突に!

*****

『その話マジかよ銀次の兄貴~!
じゃあ何何?涼宮会長は今も生きているって事なんスか?』

『あぁそうだぜアンコ、まだ会長はピンピンしてるぜ?
なぜなら殺し屋の花沢ゴンザレスが何を血迷ったのか、
Clubベルサイユのトイレの便器で顎をぶつけて警察に逮捕されたからな?』

とキナ臭い会話で盛り上がっている二匹の猫を見つけたので

(えっ?Clubベルサイユのトイレで命を狙われた涼宮会長って事はつまり
大工の棟梁会で会長をやっている諏訪部ボイスのイケメンスカウトの事だよね?)

とは言えない恵は勿論、

花壇の中で話をしている猫達に気付いていないフリをして、

スマホを片手にスポドリを飲みながら、小さな彼らの会話に聞き耳を立てていたのに


『じゃあゴンザレスはこのまま刑務所に直行する訳だから
暫く娑婆しゃばには出れねぇ筈だし…って事は例のルビーは一体どうなるんスか?
確か近い内にゴンザレスがレバノンでさばく予定になっていましたよね?』

『あぁ、アレの件なら全然大丈夫だ、なぜならアレは今な?
アレを盗んだ張本人である優香が例の山荘に隠しているから、
とりあえずルビーの件はまだ何も心配しなくていいんだよアンコ、
だがそんな事よりも、やっぱり彰の信者は怖いよなぁ……
だってイン ザ ミラーの歌詞を深読みしただけで、アッサリと120億のルビーを盗んじまったんだからな』

て感じの前代未聞な爆弾発言のオンパレードだったから!


(イン ザ ミラー?なるほど確かにイン ザ ミラーだよ!
だって昨日の彰さんは絶対に鏡を見なかったじゃん!
やっぱ私の勘は間違ってなかったんだ…でも歌詞の深読みって何?
そしてユウカってドコの誰?まさかClubベルサイユの優香さん…じゃないよね?)

と早くも一人で確信に迫り始めていたけれど、


『うんうん、俺もおんなじ事を思いましたよ銀次の兄貴、
やっぱメンヘラ女は怖いですよね~、だって憧れの彰に近付きたい一心いっしんで、
剛力の若に抱かれてベルサイユのナンバーワンまで登り詰めた癖にさぁ、
いまだに彰の物ならタバコの吸い殻やら割り箸やらを拾い集めて喜んで……
しかも拾ったゴミを彰専用マンションに全部運んで毎晩そのゴミをベロベロと舐める為に
もう何年も優香はゴミだらけのシケモク屋敷に通い続けているんですからね~…
マジで気色悪ぃッスよ、あの女』

とまぁこの様に……

もうドコから突っ込んだら良いのかサッパリわからない状態なので


(はあぁあ~??
Clubベルサイユのナンバーワンが彰さんの隠れ信者で……
しかも彰さんのシケモクと割り箸を集めて毎晩それを舐めてるの?
…って言うかこの猫達の話が真実だとすれば、ルビーを盗んだ犯人も優香さんになる訳だから、
Clubベルサイユのナンバーワンは超~ヤバい人って事じゃん!)

と密かに呟く恵は勿論、バスを一本見送って

そしてこの後も、花壇に潜む猫の会話に聞き耳を立てながら、

少し温くなったスポドリをわざとゆっくり飲んでいたが

この猫達のトンデモナイ話はココからが本番である事を全く気付いていなかった。
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