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来訪と堕天使
レシピ
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スイムを仲間に加えた俺とメイは森の出口を目指して歩いているのだが……。
「グオオ!」
行く先々で魔物と遭遇しているのだ。
ちなみに、今雄叫びを上げたのは豚の顔を持つ人型の魔物、オークである。
手には槍を持っており、それを構えて、俺たちを見てきている。
その際、メイを見た時に鼻息が荒くなったのは気のせいだろうか。
「グオオオオオオ!」
「豚肉を、いただき、ます!」
オークは槍を構えて突撃を開始し、メイは笑顔を浮かべながら走り出す。
お互いの距離が詰まった瞬間、オークは突きを放ち、槍の刃がメイに迫る。
メイの右腕は一瞬で変化し、人の手から硬い装甲を持つ茶色の腕へと変化し、それを盾の様に構えると、槍がそれに直撃する。
バキャッ! と何かが……いや、槍が折れる音が響き渡る。
オークがその状況に驚愕し、身動きが一瞬止まる。
メイはそこを逃すはずもなく、その手に備わっている鋭い爪をまっすぐ構え、突きとして放つ。
それにより、オークの体は貫かれ、目を見開きながらも、その太い腕でメイを殴ろうとするも、次は左腕がカマキリの様な腕に変化し、振るってきた腕を切断する。
そして、とどめと言わんばかりにメイが飛び上がり、オークの首に噛みつく。
「グオオォォォォォ!?」
「このまま、焼く!」
焼けるニオイと同時にメイの口から炎が溢れ出す。
炎に焼かれるダメージと噛みつかれ続けることによるダメージで苦しみ始めるオーク。
メイを引き剥がそうと掴むが、力はメイの方が上なのか、引き剥がせないでいる。
そうこうしている内にオークの全身は体の中から炎が出てきた様に燃え始める。
オークが火を消そうと暴れ出したと同時にメイは離れる。
「グオオオオオ!?」
軽く……いや、完全に火達磨状態のオークさんは苦しみながら倒れ、ピクリとも動かなくなる。
それを見たメイは息を大きく吸い込むと、次の瞬間、口から水を勢いよく噴き出した。
わぁ、水鉄砲だ……。
それが火達磨のオークに当たり、消化を完了すると、中から出てきたのはこんがり焼けた豚……もとい、オークである。
「おいしく、焼けた、よ。あ、心臓」
「!」
メイは笑顔で俺に言った後、オークに近づき、手を再びカマキリの様な刃の手に変えると、腹から切り開き始め、心臓を探し始める。
スイムも俺から降りるとメイとこんがり焼けたオークの元へ行き始める。
え……っていうか、待って。
こんがり焼けたよって、まさか食べろってことですか?
「ま、まさか……」
「あった、心臓」
そういって、メイは大きな口を開くと、オークの心臓を一口で食べてしまう。
しばらく噛んでから飲み込むもんだから、想像しただけでも少し気持ち悪い……。
「!」
「ん? 食べたい、の? 少し、待って」
メイは腕の刃をうまいこと利用して、オークの肉をスイムサイズに切り取り、スイムの近くに置く。
スイムは嬉しそうに飛び跳ねてから、オークの肉を取り込み、消化を開始し始める。
「何でも食えるんだな、スイムって」
一緒に行動している間に草や石なども取り込んでいたので、雑食……というよりは、何でも食べて溶かすと言った感じか。
ただの悪食じゃねぇかな、それって。
そう思っていると、俺の前に切り分けられた肉が刃に突き刺さった状態で差し出される。
見てみると、メイが自分の腕の刃で突きさして、それを渡してきているのだ。
「め、メイ? コレって」
「オークの、肉。豚肉、と変わらない、って、人間、言って、た」
この世界の人間は魔物さえ食うのかァァァァ!
いや、たまにそういう話もあるやつはあったけど、こっちの世界もそうなのかぁ!?
俺、今オークの肉を突き付けられてるゥゥゥ!?
「い、いや。オークの肉に挑戦するのはまだ早いっていうか、魔物はちょっと……」
「早く、食べる。食事、すれば、魔力、も、回復、する」
「で、でも……」
「食べる!」
いやぁぁぁぁ、押し付けないでェェェ!
どうしても食べさせたい様で、オークの肉を無理矢理口に入れようとしてくる。
っていうか、痛い!
顔に刃先が当たって痛い! 顔に刺さってるって!
更にメイの尻尾の蛇までこっちを向いて、威嚇してきている始末だよ!
「食べる!」
「わ、わかった! 食うから! 食うから突きつけないで! 刃先が当たって痛い! 後、その蛇をこっちに向けないで! 今にも噛みついてきそうなんだけど!?」
「なら、口、開ける。食べ、させて、あげる」
「え? いや、自分で……わかった! わかったから、蛇の尻尾を近づけないで! それ毒蛇だろ、絶対!?」
断ろうとしたのだが、次は毒蛇を目前まで持ってこられたのだから、焦る。
だって、キメラの持つ蛇の尻尾って、大体毒蛇だよな。
ただの蛇だと、殺傷力低そうだし……いや、でかいから関係ないか、本来の姿なら。
さて、オークの肉を食べなければならないという問題ができてしまったのだが……。
「食べる」
刃に突き刺さった肉を突き出してくるメイ。
食べさせてあげることにでも憧れてたんですかね、この子は。
えぇい、ままよ!
俺は意を決して口を開き、オークの肉に噛みつき、刃から肉を引き抜くと恐る恐る噛み始める。
「うぐっ……? ん? あ、うまい」
「でしょ?」
メイが俺の反応を見て、嬉しそうに笑顔を浮かべる。
魔物の肉だからと恐れていたが、食べてみたら、味は豚肉と変わらない。
まぁ、元がオークだからというのもあるか。
ただ、塩とか胡椒とか言った味付けが欲しいかな……。
【レシピが追加されました】
「……ん?」
今、頭にヘルプさんの声が聞こえた様な気がしたんですが。
しかも、聞き間違えでなければ、レシピが追加されましたと言わなかったか?
オークの肉を食っただけで? 少し何かしらを考えただけで?
『魔物へのお菓子』はどういった能力かよくわかってないし、オークの肉からお菓子でも作れる情報が手に入ったのか?
とりあえず、確認してみなければ、何もわからない。
「レシピオープン」
期待を胸にいざ、オープン!
レシピ一覧
オーク肉のステーキ 材料:オーク肉、塩、胡椒
「ほほぉ、なるほど。オーク肉のステーキとな? 確かに今さっきオークの肉を食ったし、塩や胡椒が欲しいと考えた。これが出てくるのなら納得だが、一つ言いたい。スイーツじゃねぇだろ、コレェェェェェェェ!」
追加されましたっていうから、どんなのか期待してたら、普通にステーキじゃん!
コレを『次元倉庫』に入れて、後は俺の魔力を流し込めば完成ってか!?
普通に焼いても、作れるよ! コレくらい!
レシピっていうほどのもんじゃないよね!
「お菓子じゃないじゃん! コレ、ただの肉料理……いや、待てよ? コレを与える相手は魔物だ。つまり、魔物にとっては肉だろうと、なんだろうとお菓子と変わりない? いや、そもそも主食とお菓子の概念なんて、ないんじゃないか?」
もし、俺の予想が正しければ、この『魔物へのお菓子』……魔物へのご飯を作るスキルなのでは?
俺の魔力を流し込むと、勝手に作れるというほどだ。
懐き度を上げるにしても、甘い味が苦手な魔物だっているはずだ。
そうなった時、お菓子だけじゃ、確かに無理だ。
こういう風なのが好きだという魔物もいるかもしれない。
そう思うと、きび団子だけでよくうまく行ったな……。
【きび団子、魔力だけで作れるため、どの魔物に与えても、懐き度は必ず上がる。その代わり、他よりは低い】
本当にこういう時は来てくれるよね、ヘルプさん。
もうヘルプさんは俺の頭の中で常にスタンバってくれてるのかな、疑問に感じた時用に。
まぁ、そうしてくれる方が助かるからいいんだけど。
「とりあえず、レシピが増えたのは良いことだ。焼けたオーク肉でもいいのかわからないが、一部を保存して……」
俺がオークの方へと視線を向けると、既に肉は全てなくなっており、骨を食べ始めているメイとスイムが目に入る。
Oh……食べるの早すぎませんかね、貴方ら。
しかも、スイムは溶かしているのに対して、メイはバリボリとスナックでも食べているのかと疑いたくなるほど、噛み砕いて食べている。
強靭な顎と歯ですね。
というよりも、メイの胃袋って、どうなっているのだろうか。
きび団子を上げて満足したのかと思っていたが、しばらく歩いたら、オークを食べ始める始末。
もしかして、燃費が凄い悪いとか……ないよね?
『魂喰い』のデメリットです、とかないよね?
【ユニークスキルに基本デメリットはない】
基本なんだな……。
あるやつにはあるということか……なるほどね。
だが、『魂喰い』にはデメリットはないらしいな。
「それにしても、森の出口は一体どこなのやら」
しばらく歩き回ってみても、出口らしい場所は見えてこない。
それにお腹も空いてきてしまった。
オークの肉を食ったと言っても、たった一切れだ。
それだけで腹が満たされることはまずない。
やばい……腹が減ってきた。
一切れ食べたのがよくなかった。
空腹なところに一口入れてしまえば、更に空腹が刺激されてしまうだけなのに。
どうにかできないか……!
「そうだ、きび団子でも食べれば」
【魔力で作ったため、作った本人が食べれば、魔力に戻る】
「……このヘルプさんは俺の心を挫く趣味でもあるのかな」
【事実を記しているだけである】
「会話できてきてない? このヘルプさん」
絶対、俺の心を挫きに来てるよ、コレ。
だが、俺自身には『魔物へのお菓子』を食べても、意味がないということはわかった。
嬉しいことなのだが、今の状況で言われても、悲しいだけだ。
早く人がいる場所へと出たいものだ。
「おいしい? スイム」
「!」
メイの問いに答える様に嬉しそうに跳ねるスイム。
二人は骨をどんどん食っていっているし、絶対満腹だよね。
少し待つことにして、ポケットに手を入れて、スマホを取り出す。
あ……何気に取り出したけど、コレ次元倉庫に入っていたのね。
まぁ、元々ポケットに入っていたものが収納されていてもおかしくはないか。
スマホを起動させ、音楽を聴こうとヘッドホンのプラグを差し込もうとした時、その手を止める。
「待てよ……? 曲を聴くのは良いとしても、コレ充電がなくなったら……」
曲、聴けなくなるじゃん。
それはちょっと困る……だが、ほっといても、いずれはなくなってしまうだけだし。
どうにかして、充電手段を手に入れなければならない様だ。
俺はため息をつき、なくなる前にと思い、ヘッドホンのプラグを差し込み、曲を流し始めようとした時だ。
「―――!」
「! 声、が、聞こえる!」
メイが何かに反応し、頭にウサギの耳が生えてくる。
食べていた骨さえ投げ捨て、音に集中し始める。
スイムは残りの骨を急いで食べるかの様に次々と溶かしていく。
スイム、お前まで食い意地が張っているのか……。
しばらくメイは目を閉じ、鼻も動かし始め、音とニオイだけに集中していたが、何かに気付き、ゆっくりと目を開き、うさ耳を消すと、笑顔で俺を見てくる。
「問題、ない。魔物、じゃ、ない」
「そうなのか? なら、一体」
「エルフ、が、人間、に、追われてる、だけ。それ、も、人間、は、バンダナ、を、巻いた、奴ら。こっち、に、来てる、けど、隠れれば、問題、は、ない」
「なるほどなぁ。エルフが盗賊に追われてるだけか……って、オイ、ちょっと待て」
今、聞き捨てならぬことが聞こえてきたんですが?
エルフが盗賊に追われているって言いませんでした、この子!?
しかも、こっちに向かってくるということはエルフと出会えるということじゃないか!
ゲーマーとしてはエルフとかの種族はとても興味がある!
決して、容姿端麗だから会いたいとかじゃないから! そういうのじゃないから!
【エルフ……魔力の扱いに長け、長寿の種族。魔法、弓術を得意としており、主に森に住んでいる】
うん、まんま知っていることだよ。
まぁ、説明はありがたいから助かるけどさ。
【尚、容姿端麗なことから奴隷狩りに遭ったり、盗賊に犯されたりするため、人間を毛嫌いしている者が多い】
うん……だと思ったよ。
ファンタジーあるあるだとは思っていたが、うん、聞きたくなかったかな。
「どう、する? ユージ?」
「どうする……ね」
メイはどうやら、俺の判断に任せると言った感じの様だ。
ヘルプさんの説明を見る限り、エルフのほとんどが人間を毛嫌いしているらしい。
このまま助けたとしても、何を言われるかわからない。
最悪、いきなり魔法で攻撃される……なんて可能性もあるかもしれない。
だけど……人として、やっぱり見逃せないよな。
両親によく言われるもんだろ……困っている人を助けられる優しい人になれって。
俺もよく言われたもんだし、良心が痛むっていうのもある。
なら、やることはただ一つしかないよな?
「メイ、スイム。戦闘態勢だ。今から、そのエルフを助けに行く」
「いい、の? 自分、から、危険、に、飛び込む、の?」
「あぁ、困っている人はほっとけないからな。それにお前達が俺を守ってくれるだろ?」
俺が笑顔で聞いてみると、メイは満面の笑みで、スイムは何度も跳ねて見せる。
「勿論、だよ。友達、は、絶対に、守る!」
「!」
「よし、ならやるか。エルフの救出を」
俺の言葉にメイは頷き、スイムは再び飛び跳ねた。
「グオオ!」
行く先々で魔物と遭遇しているのだ。
ちなみに、今雄叫びを上げたのは豚の顔を持つ人型の魔物、オークである。
手には槍を持っており、それを構えて、俺たちを見てきている。
その際、メイを見た時に鼻息が荒くなったのは気のせいだろうか。
「グオオオオオオ!」
「豚肉を、いただき、ます!」
オークは槍を構えて突撃を開始し、メイは笑顔を浮かべながら走り出す。
お互いの距離が詰まった瞬間、オークは突きを放ち、槍の刃がメイに迫る。
メイの右腕は一瞬で変化し、人の手から硬い装甲を持つ茶色の腕へと変化し、それを盾の様に構えると、槍がそれに直撃する。
バキャッ! と何かが……いや、槍が折れる音が響き渡る。
オークがその状況に驚愕し、身動きが一瞬止まる。
メイはそこを逃すはずもなく、その手に備わっている鋭い爪をまっすぐ構え、突きとして放つ。
それにより、オークの体は貫かれ、目を見開きながらも、その太い腕でメイを殴ろうとするも、次は左腕がカマキリの様な腕に変化し、振るってきた腕を切断する。
そして、とどめと言わんばかりにメイが飛び上がり、オークの首に噛みつく。
「グオオォォォォォ!?」
「このまま、焼く!」
焼けるニオイと同時にメイの口から炎が溢れ出す。
炎に焼かれるダメージと噛みつかれ続けることによるダメージで苦しみ始めるオーク。
メイを引き剥がそうと掴むが、力はメイの方が上なのか、引き剥がせないでいる。
そうこうしている内にオークの全身は体の中から炎が出てきた様に燃え始める。
オークが火を消そうと暴れ出したと同時にメイは離れる。
「グオオオオオ!?」
軽く……いや、完全に火達磨状態のオークさんは苦しみながら倒れ、ピクリとも動かなくなる。
それを見たメイは息を大きく吸い込むと、次の瞬間、口から水を勢いよく噴き出した。
わぁ、水鉄砲だ……。
それが火達磨のオークに当たり、消化を完了すると、中から出てきたのはこんがり焼けた豚……もとい、オークである。
「おいしく、焼けた、よ。あ、心臓」
「!」
メイは笑顔で俺に言った後、オークに近づき、手を再びカマキリの様な刃の手に変えると、腹から切り開き始め、心臓を探し始める。
スイムも俺から降りるとメイとこんがり焼けたオークの元へ行き始める。
え……っていうか、待って。
こんがり焼けたよって、まさか食べろってことですか?
「ま、まさか……」
「あった、心臓」
そういって、メイは大きな口を開くと、オークの心臓を一口で食べてしまう。
しばらく噛んでから飲み込むもんだから、想像しただけでも少し気持ち悪い……。
「!」
「ん? 食べたい、の? 少し、待って」
メイは腕の刃をうまいこと利用して、オークの肉をスイムサイズに切り取り、スイムの近くに置く。
スイムは嬉しそうに飛び跳ねてから、オークの肉を取り込み、消化を開始し始める。
「何でも食えるんだな、スイムって」
一緒に行動している間に草や石なども取り込んでいたので、雑食……というよりは、何でも食べて溶かすと言った感じか。
ただの悪食じゃねぇかな、それって。
そう思っていると、俺の前に切り分けられた肉が刃に突き刺さった状態で差し出される。
見てみると、メイが自分の腕の刃で突きさして、それを渡してきているのだ。
「め、メイ? コレって」
「オークの、肉。豚肉、と変わらない、って、人間、言って、た」
この世界の人間は魔物さえ食うのかァァァァ!
いや、たまにそういう話もあるやつはあったけど、こっちの世界もそうなのかぁ!?
俺、今オークの肉を突き付けられてるゥゥゥ!?
「い、いや。オークの肉に挑戦するのはまだ早いっていうか、魔物はちょっと……」
「早く、食べる。食事、すれば、魔力、も、回復、する」
「で、でも……」
「食べる!」
いやぁぁぁぁ、押し付けないでェェェ!
どうしても食べさせたい様で、オークの肉を無理矢理口に入れようとしてくる。
っていうか、痛い!
顔に刃先が当たって痛い! 顔に刺さってるって!
更にメイの尻尾の蛇までこっちを向いて、威嚇してきている始末だよ!
「食べる!」
「わ、わかった! 食うから! 食うから突きつけないで! 刃先が当たって痛い! 後、その蛇をこっちに向けないで! 今にも噛みついてきそうなんだけど!?」
「なら、口、開ける。食べ、させて、あげる」
「え? いや、自分で……わかった! わかったから、蛇の尻尾を近づけないで! それ毒蛇だろ、絶対!?」
断ろうとしたのだが、次は毒蛇を目前まで持ってこられたのだから、焦る。
だって、キメラの持つ蛇の尻尾って、大体毒蛇だよな。
ただの蛇だと、殺傷力低そうだし……いや、でかいから関係ないか、本来の姿なら。
さて、オークの肉を食べなければならないという問題ができてしまったのだが……。
「食べる」
刃に突き刺さった肉を突き出してくるメイ。
食べさせてあげることにでも憧れてたんですかね、この子は。
えぇい、ままよ!
俺は意を決して口を開き、オークの肉に噛みつき、刃から肉を引き抜くと恐る恐る噛み始める。
「うぐっ……? ん? あ、うまい」
「でしょ?」
メイが俺の反応を見て、嬉しそうに笑顔を浮かべる。
魔物の肉だからと恐れていたが、食べてみたら、味は豚肉と変わらない。
まぁ、元がオークだからというのもあるか。
ただ、塩とか胡椒とか言った味付けが欲しいかな……。
【レシピが追加されました】
「……ん?」
今、頭にヘルプさんの声が聞こえた様な気がしたんですが。
しかも、聞き間違えでなければ、レシピが追加されましたと言わなかったか?
オークの肉を食っただけで? 少し何かしらを考えただけで?
『魔物へのお菓子』はどういった能力かよくわかってないし、オークの肉からお菓子でも作れる情報が手に入ったのか?
とりあえず、確認してみなければ、何もわからない。
「レシピオープン」
期待を胸にいざ、オープン!
レシピ一覧
オーク肉のステーキ 材料:オーク肉、塩、胡椒
「ほほぉ、なるほど。オーク肉のステーキとな? 確かに今さっきオークの肉を食ったし、塩や胡椒が欲しいと考えた。これが出てくるのなら納得だが、一つ言いたい。スイーツじゃねぇだろ、コレェェェェェェェ!」
追加されましたっていうから、どんなのか期待してたら、普通にステーキじゃん!
コレを『次元倉庫』に入れて、後は俺の魔力を流し込めば完成ってか!?
普通に焼いても、作れるよ! コレくらい!
レシピっていうほどのもんじゃないよね!
「お菓子じゃないじゃん! コレ、ただの肉料理……いや、待てよ? コレを与える相手は魔物だ。つまり、魔物にとっては肉だろうと、なんだろうとお菓子と変わりない? いや、そもそも主食とお菓子の概念なんて、ないんじゃないか?」
もし、俺の予想が正しければ、この『魔物へのお菓子』……魔物へのご飯を作るスキルなのでは?
俺の魔力を流し込むと、勝手に作れるというほどだ。
懐き度を上げるにしても、甘い味が苦手な魔物だっているはずだ。
そうなった時、お菓子だけじゃ、確かに無理だ。
こういう風なのが好きだという魔物もいるかもしれない。
そう思うと、きび団子だけでよくうまく行ったな……。
【きび団子、魔力だけで作れるため、どの魔物に与えても、懐き度は必ず上がる。その代わり、他よりは低い】
本当にこういう時は来てくれるよね、ヘルプさん。
もうヘルプさんは俺の頭の中で常にスタンバってくれてるのかな、疑問に感じた時用に。
まぁ、そうしてくれる方が助かるからいいんだけど。
「とりあえず、レシピが増えたのは良いことだ。焼けたオーク肉でもいいのかわからないが、一部を保存して……」
俺がオークの方へと視線を向けると、既に肉は全てなくなっており、骨を食べ始めているメイとスイムが目に入る。
Oh……食べるの早すぎませんかね、貴方ら。
しかも、スイムは溶かしているのに対して、メイはバリボリとスナックでも食べているのかと疑いたくなるほど、噛み砕いて食べている。
強靭な顎と歯ですね。
というよりも、メイの胃袋って、どうなっているのだろうか。
きび団子を上げて満足したのかと思っていたが、しばらく歩いたら、オークを食べ始める始末。
もしかして、燃費が凄い悪いとか……ないよね?
『魂喰い』のデメリットです、とかないよね?
【ユニークスキルに基本デメリットはない】
基本なんだな……。
あるやつにはあるということか……なるほどね。
だが、『魂喰い』にはデメリットはないらしいな。
「それにしても、森の出口は一体どこなのやら」
しばらく歩き回ってみても、出口らしい場所は見えてこない。
それにお腹も空いてきてしまった。
オークの肉を食ったと言っても、たった一切れだ。
それだけで腹が満たされることはまずない。
やばい……腹が減ってきた。
一切れ食べたのがよくなかった。
空腹なところに一口入れてしまえば、更に空腹が刺激されてしまうだけなのに。
どうにかできないか……!
「そうだ、きび団子でも食べれば」
【魔力で作ったため、作った本人が食べれば、魔力に戻る】
「……このヘルプさんは俺の心を挫く趣味でもあるのかな」
【事実を記しているだけである】
「会話できてきてない? このヘルプさん」
絶対、俺の心を挫きに来てるよ、コレ。
だが、俺自身には『魔物へのお菓子』を食べても、意味がないということはわかった。
嬉しいことなのだが、今の状況で言われても、悲しいだけだ。
早く人がいる場所へと出たいものだ。
「おいしい? スイム」
「!」
メイの問いに答える様に嬉しそうに跳ねるスイム。
二人は骨をどんどん食っていっているし、絶対満腹だよね。
少し待つことにして、ポケットに手を入れて、スマホを取り出す。
あ……何気に取り出したけど、コレ次元倉庫に入っていたのね。
まぁ、元々ポケットに入っていたものが収納されていてもおかしくはないか。
スマホを起動させ、音楽を聴こうとヘッドホンのプラグを差し込もうとした時、その手を止める。
「待てよ……? 曲を聴くのは良いとしても、コレ充電がなくなったら……」
曲、聴けなくなるじゃん。
それはちょっと困る……だが、ほっといても、いずれはなくなってしまうだけだし。
どうにかして、充電手段を手に入れなければならない様だ。
俺はため息をつき、なくなる前にと思い、ヘッドホンのプラグを差し込み、曲を流し始めようとした時だ。
「―――!」
「! 声、が、聞こえる!」
メイが何かに反応し、頭にウサギの耳が生えてくる。
食べていた骨さえ投げ捨て、音に集中し始める。
スイムは残りの骨を急いで食べるかの様に次々と溶かしていく。
スイム、お前まで食い意地が張っているのか……。
しばらくメイは目を閉じ、鼻も動かし始め、音とニオイだけに集中していたが、何かに気付き、ゆっくりと目を開き、うさ耳を消すと、笑顔で俺を見てくる。
「問題、ない。魔物、じゃ、ない」
「そうなのか? なら、一体」
「エルフ、が、人間、に、追われてる、だけ。それ、も、人間、は、バンダナ、を、巻いた、奴ら。こっち、に、来てる、けど、隠れれば、問題、は、ない」
「なるほどなぁ。エルフが盗賊に追われてるだけか……って、オイ、ちょっと待て」
今、聞き捨てならぬことが聞こえてきたんですが?
エルフが盗賊に追われているって言いませんでした、この子!?
しかも、こっちに向かってくるということはエルフと出会えるということじゃないか!
ゲーマーとしてはエルフとかの種族はとても興味がある!
決して、容姿端麗だから会いたいとかじゃないから! そういうのじゃないから!
【エルフ……魔力の扱いに長け、長寿の種族。魔法、弓術を得意としており、主に森に住んでいる】
うん、まんま知っていることだよ。
まぁ、説明はありがたいから助かるけどさ。
【尚、容姿端麗なことから奴隷狩りに遭ったり、盗賊に犯されたりするため、人間を毛嫌いしている者が多い】
うん……だと思ったよ。
ファンタジーあるあるだとは思っていたが、うん、聞きたくなかったかな。
「どう、する? ユージ?」
「どうする……ね」
メイはどうやら、俺の判断に任せると言った感じの様だ。
ヘルプさんの説明を見る限り、エルフのほとんどが人間を毛嫌いしているらしい。
このまま助けたとしても、何を言われるかわからない。
最悪、いきなり魔法で攻撃される……なんて可能性もあるかもしれない。
だけど……人として、やっぱり見逃せないよな。
両親によく言われるもんだろ……困っている人を助けられる優しい人になれって。
俺もよく言われたもんだし、良心が痛むっていうのもある。
なら、やることはただ一つしかないよな?
「メイ、スイム。戦闘態勢だ。今から、そのエルフを助けに行く」
「いい、の? 自分、から、危険、に、飛び込む、の?」
「あぁ、困っている人はほっとけないからな。それにお前達が俺を守ってくれるだろ?」
俺が笑顔で聞いてみると、メイは満面の笑みで、スイムは何度も跳ねて見せる。
「勿論、だよ。友達、は、絶対に、守る!」
「!」
「よし、ならやるか。エルフの救出を」
俺の言葉にメイは頷き、スイムは再び飛び跳ねた。
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